▼▲
ほんの少しだけ温めて



ふいに、目が覚めた。

夕御飯を食べて部屋へ戻った後、急に眠たくなって、ついそのまま寝てしまったのだったか。

弱風に設定してはいたが、クーラーの掛かった部屋で何も着ないまま転た寝したのはまずかった。

起きた途端、身体の冷えを感じて寒い…。

というか、最早、寒さから目が覚めて起きてしまった感がバリバリである。

しかも、今日の服装は膝下まである丈ではあったものの、ワンピースという格好だった。

完全に風に晒していた足先と二の腕から先が冷たく冷えてしまっている。

部屋も、弱風とはいえ、暫く点けっ放していた為か、すっかり涼しくなっていた。

涼しく過ごしやすい快適な温度になっていた事もあって、つい心地好さにうとうとと眠ってしまったのだろうが、自分でもこれははっきり解る。

完全にやらかした…。

全身冷え凍ってしまって、ふるりと身を震わせる。

一先ず、部屋は冷え切っているので、クーラーの電源を切った。

そのまま、布団にくるまって温まっても良かったが、何だかそれだと物足りない気がして、そろりと部屋を抜け出した。

時刻は、夜中の二時だ。

外はきっと真っ暗だろう。

こんな時間まで起きていないだろうなぁ、とは思いつつも、小さな希望を抱いて、彼が居るであろう彼の部屋へと向かう。

すると、うっすらと僅かな隙間の開いたドアから光が漏れている事に気付く。

おや、珍しい。

予想を反して、彼はまだ寝ていなかったらしい。

ちょっとだけの期待を寄せて、そのうっすら開けられた隙間を広げ、顔を覗かせた。


『…こんな夜分遅くにすみませ〜ん…っ。』
「ん…?あれ…っ、どうしたの?こんな時間に僕の処に来るなんて、珍しいね…?」


ドアに背を向けて部屋の机に向かい合っていた光忠が、椅子に座ったまま椅子ごとくるりと振り向く。

音楽を聴いていたのか、頭にはヘッドフォンが付いていて、私が話しかけたからか、それを外し首元へと掛ける。


『いやね…御飯食べた後、部屋に戻って寛いでたら、いつの間にか寝ちゃってて…。クーラー掛けてたのに、何も着ないままで寝ちゃったから、寒くなっちゃって。それで、光忠がもしまだ起きてるようなら、温めてもらおっかなぁ〜って来たんだにゃ。』
「嗚呼…そういう事か。それで、ね…。全く、可愛いお願いをしてくれるのはとても嬉しいけれど、女の子がクーラーの掛かった部屋で何も着ないで寝るのは駄目だよ…?身体冷やしちゃあ、風邪引いちゃうだろう?君は、時々おっちょこちょいだからね、気を付けなきゃ駄目だよ。」
『うん…解ってる。ごめんなさい。自分でもやらかしたなってのは自覚してるから…。ところで、光忠はこんな時間まで何してたの…?』
「僕…?僕は、偶々今日はちょっと眠気がなかなか来なくて、何だか眠れそうになかったから、少しだけ音楽でも聴いていようかなって思って、寝るのに良さそうな静かめの音楽を聴いていたんだ。」
『ふぅん、そっかぁ…。』


成る程、彼も眠れずに起きていたようだ。

まぁ、私の場合は逆で、さっきまで寝ていたのだけど。


『部屋、入っても良い…?』
「どうぞ。明かり、薄暗くしててごめんね。足元、大丈夫…?」
『うん、これくらいの明るさなら、普通に見えるから大丈夫。』


ドアの縁に立ったまま話していれば、彼に「入っておいで」と手招きされた。

許可を得たので、彼の部屋へと入り、ぽてぽてと彼の元まで歩く。

彼の元へ近寄れば、直ぐ様するりと持っていかれた手。

緩くぎゅっと握ってきた手は、大きくて温かく、ごつごつしていた。


「本当だ…すっかり冷え切っちゃってるね。指先も腕も、ひんやりと冷たくなっちゃってる…。」
『うん…。逆に冷え過ぎて寒いから、温めて欲しいなって。』
「良いよ。ぎゅってすれば良いかな…?」
『ん…。お願いします…。』


小首を傾げて、ちょっとだけあざといかな…と思いつつも、おねだりしてみる。

すると、彼は快く受け入れてくれて、私からのオーダーを受けてくれた。

私が緩く両腕を差し出すようにすれば、彼は優しく腕を広げ、私を緩く抱き寄せた。

そして、オーダー通りにぎゅっと抱き締めてくれて、何だか心がほんわかした気がした。


「ふふ…っ、あったかい…?」
『うん…。凄く、あったかい…。』
「それは良かった…っ。ねぇ、もっとぎゅってしてあげたいから、僕の膝の上、座ってもらっても良いかい…?」
『光忠の膝の上に乗るの…?』
「そう。その方が、もっと君と密着出来て、温めてあげられるかなって思うから。」
『別に、私はこのままでも構わないけど…?』
「このままの体勢だと、寄り掛かっちゃってるみたいな状態の君は、辛いでしょ?」
『そんなに辛くはないけどなぁ…。』
「僕が君の事をもっとぎゅってしたいの…!僕からもお願いしちゃ、駄目かな…?」


今度は反対に、私が彼からのおねだりを受ける。

私の我が儘を聞いてくれたようなものだから、今度は逆に聞いてあげた方が良いよね…。

彼のおねだりに頷いて、あまり体重を掛けないよう、そっと腰を乗っけてみる。

すると、瞬間、彼が強い力で私の身を引き、半強制的に彼へと全体重を掛ける事になった。

彼の膝上でぐるりと向きを変えられながら、彼に抱き締められる。

後ろ向きで座った筈が、今は横抱き状態で座らされている。


『ぁ…、あの、光忠…?これ、重くないかな…?』
「全然、これくらい平気だよ…?寧ろ、まだ軽いくらいだよ。それより、ほら…僕の上に乗っかってた方がぎゅって抱き締めやすいし、温めやすいだろう?」


椅子に座ったままの彼の膝上に座った私は、彼より少しだけ視界が高い。

普段は見上げる側の彼をこうして見下ろす側になるなんて、何だか不思議な気分だ。

彼の頭の旋毛が見えて、ちょっと面白い。


「どう…?少しは温かくなった…?」
『うん…あったかい。』
「そっか…。僕の方も、こうして居れば、君の匂いを近くに感じれて落ち着くよ…。」


ぎゅうっと抱き締めてくれる彼が、やわりと胸元に顔を埋める。

大きく胸が上下しているところを見て、深呼吸しているのだろう。

彼の気持ちも落ち着けるよう、優しく頭を抱き込むようにして撫でる。

すれば、彼は擽ったそうに声を上げて笑った。


『…擽ったい?』
「ちょっとだけ…っ。でも、それ気持ちが良いし、凄く落ち着くから好き…。」
『じゃあ、もうちょっとだけ撫でてあげるね。』
「ありがとう…。」


埋めた顔をぐりぐりと押し付ける光忠。

珍しく甘えたげな空気と純粋な擽ったさに、今度は私が反対に笑い声を上げた。


「あ、ごめん…っ、擽ったかった…?」
『ぁ、ふふ…っ、ちょっとだけね…っ。大丈夫。』
「良かった…。あれ、でも、これじゃ何だか反対になってるよね…?」
『良いよ、別に。私は、もう大分温まってきたから。』


さわさわと彼の髪をすきながら撫でていく。

心地良いのか、気持ち良さそうに目を細めた彼は、目を伏せる。


「…柔らかくて気持ちが良いね…。それに、良い匂いがする。」
『そりゃ、柔らかいだろうね〜…だって、そこ胸だもの。』
「ふふふ…っ、何だか可笑しいね。本当なら、僕が君を抱き締めて温めてあげなきゃいけないのに…いつの間にか、逆になっちゃってるや。」
『私はこのままでも別に良いけど…?私も抱き締められてる訳なんだし。』
「そう…?なら、もうちょっとだけ、このままで居させてもらっても良いかな…。」


再び、柔くぐりぐりと押し付けてきた光忠。

お互いがお互いに、ぽかぽかと優しい気持ちになる感覚だ。


『うん…良いよ。このまま、暫くぎゅってしてよう…?』
「うん…。眠たくなってきたら、そのまま君を運んで、一緒に寝てもらっても良いかい…?」
『オーケー、喜んで一緒に寝てあげよう…っ。』
「ありがとう…大好きだよ。」
『私も…光忠の事、大好きだよ。』


そうして、暫くぎゅっと抱き合って、お互いの体温を感じ合った。

それから少し経ち、眠たくなった光忠に抱えられて、同じベッドに一緒になって横になり眠った。

その日の夜は、凄く素敵な夢を見れた気がした。


執筆日:2018.07.10