鍛刀強化キャンペーン期間中にて、鍛刀に成功した一振りの刀。
我が本丸では、二振り目の長船刀であり、待ちに待った長船仲間の刀である。
(審神者業を始めて歴が浅いので、大して待っていないのかもしれないが)。
まぁ、何であれ、巷では小豆難民が数多居る程のあまり手に入りやすくはない刀が来たのだ。
漸く同じ刀派が出来た長船派の祖である光忠の為にも、盛大に歓迎せねばなるまい。
早速、宴が開かれ、ドンチャン騒ぎとなった。
新しく来た刀に喜び、しかも、お料理も得意な台所刀が増えた事に、それはもう痛く歓迎された小豆(主に歌仙より)。
甘いスイーツも作れるとあって、子供な短刀達の心を鷲掴みにした小豆は、皆に囲まれ、輪の中心となっていた。
長船派としても、この本丸の太刀としても先輩である光忠とも意気投合し、早速明日のおやつ作りの話をしている二人。
ちと気が早過ぎやしないかとも思いはしたが、まぁ、本人達が楽しそうなら良いかと寛容に主である彼女も笑って皆の様子を眺めた。
小豆が来て早々のその夜。
一番最後に風呂に入ろうとして、身に纏う物全てを脱ぎ、生まれたままの姿を晒して、いざ風呂へ向かった璃子。
浴室へ入った瞬間、事件は発生。
無言のまま、すぐさま全裸の状態で浴室から出てきた璃子。
バタバタと慌てて出てきた彼女に、近くを通りかかった光忠が気付いた。
「どうしたの?主…。お風呂に行ってたんじゃ、って、ッ…!!?ちょ…っ!主、何て格好してるの!?今すぐ何か着てぇっ!!」
通りすがりに何か喚かれるも、急いでいる彼女は総無視。
彼の騒ぎ声を聞き付けた小豆が、ひょっこりと顔を覗かせる。
「うん…?どうしたんだ?なにかあったのか…?」
『あ…っ!あつき!丁度良かった…っ、其処のハエ叩き取って!!』
「えっ?ハエたたき…?なににつかうんだい…って、あ、あるじ…っ!?その、さすがに、そのかっこうはまずいのでは…っ!」
彼が咄嗟に手で顔を塞ぎ、咄嗟に顔を背けたのは当然の反応であった。
『ヤツが出たんだ!あのブツは絶対にヤツだ…っ!!茶色っぽくも黒光りするアイツは…間違いない。速攻仕留めてやる…っ!!見付けたら即処刑!駆逐!!絶対に逃がすか…っ、必ずこの手で完全に息の根を止めてやる…!』
「え…っ?きみは、なにとたたかうんだ…?」
「僕達にとっても天敵(主に厨組にとって)で、この世で誰もが嫌う、あの虫とだよ…。恐らくね。」
おぞましい物でも想像したかのように身を震わせる光忠。
その顔は、一瞬前と違って青ざめている。
殺虫剤とハエ叩きをそれぞれ手に持った彼女は、無防備な全裸のまま勇ましく戦場へ乗り込んでいく。
閉められた浴室の扉の向こうで、スプレーが噴射されまくる音と一緒に彼女の女あるまじき台詞が聞こえてきた。
暫くして、静かになり、開かれる浴室の扉。
『ヤツは倒したから、皆安心せい。』
再び全裸で現れた璃子の手には、先程使用した殺虫剤が。
もう片方の手には、モザイクがけられたヤツの死体が乗っかったハエ叩きがあった。
『すまんが、誰か要らないチラシか何か持ってきてくれない?コイツ包んで捨てるから。あ、安心して?ゴミ箱に捨てても、コイツ、完全にご臨終してるから。ちゃんと仕留めたよ〜。』
「あるじがゆうかんでいさましいのはわかったから…はだかのままでてはいけないのだぞ…。あるじはじょせいなのだし、かぜをひいてしまうだろう?」
『ん?別に心配しなくて良いよ。すぐ風呂入るから。そん為に服脱いでたんだし。』
「かといって、何で何も着ないで出てきたの…!」
『え?ヤツを逃がさないよう、手っ取り早く倒す為だよ。服着たりなんて暇あったら逃げちゃうって。』
「だからといって、なにもはおらないのはかんしんしないぞ…?せめて、タオルはまくべきだ。」
呆れつつも、自身の上着を掛けてやり、彼女の身を隠す小豆なのであった。
『全く…っ、何も身に付けてない、無防備なノーガード状態の時に限って最悪な事態になるとは…っ。もう、今の私、防御力ゼロだよ?勘弁して欲しいよね…!』
そう言って、ぷんすこ怒りながら風呂場へと戻っていく璃子。
上着を肩から掛けただけの格好では、一人風呂場までの道を歩かせるのもマズイ。
顔を覆い隠しつつ視線を逸らしながらも、風呂場までの付き添いを申し出た小豆は、彼女の背に手を宛がいながら進む。
「きみは、ほんとうにいさましいおんなのこなのだな…。」
『女らしさの欠片も無いって…?ははは…っ、そりゃすまなんだな!お淑やかな女性じゃなくてさ。』
「いや、まぁ…きみのげんどうから、なんとなくよそうはしていたけれどね?でも、ここまでりっぱなひとだとはおもわなかったよ。おとこにもまけないおとこぎだね。」
『あっはっはっは…っ。お褒め頂き光栄だな…!まぁ、褒め言葉だったかどうか解んないけど。』
ある種、緊急事態だったとはいえ、皆に真っ裸を晒してしまった彼女は、あっけらかんとして、からからと笑いながら言葉を交わしていた。
そんな様子に、女性として些か危機感が足りないのではないかと感じた小豆は、内心額を押さえた。
(こどもたちから、あるていどどんなじんぶつかはきいていたけれど、まさかここまでとはね…。)
本来なら、呆れて物も言えなくなるのだが、来たばかりで心優しい子供達の味方は、優しく諭すのだった。
「とにかく、こんどまたおなじようなことがあっても、つぎからはなにかみにつけてからでてくるか、ちかくにいるものをよぶこと。はだかのままでてきて、それがこどもたちのめにふれては、こどもたちのじょうそうきょういくてきにもよくない。いいね…?わかったら、ちゃんと“はい”とへんじをするのだぞ?はい、おへんじは…?」
『え…あ、はい。すみませんでした…。あと、あつきは来たばっかしだったのに、早々お目汚すようなモン見せてごめんな?』
「ああ、まぁ、それはよいのだが…。いや、よくはないのだが…っ。どうこたえたらよいものかな…?」
『そんな真剣に考える事でもないと思うけど…。幻滅だけはしないでもらえたら嬉しいかな?って程度だし。あ、色々と軽かったらごめんね。何か、既に色んな物捨ててきちゃってるから、女子力的なものも一緒に捨ててきちゃってるんだよね〜。主が、こんなに残念な女でごめんよ。スタイル的なものも含めてガッカリしたろ…?』
「きみは…なにかごかいをしていないかい?」
『え…?』
「きみは、わたしのことをすこしあまくみているのではないか?わたしは、けっしてきみのことをかるいじょせいだなんておもってもいないし、ざんねんなあるじだともおもっていない。」
風呂場まで辿り着いた先で、何やら真剣な顔をして彼女と向き合う彼。
まだ状況の変化に付いていけていない璃子は、ポカン顔だ。
そっ、と彼女の肩に手を置き、顔を近付けて、少し声音を低くして言った。
「まだこのほんまるにきたばかりのわたしがいうのは、しょうしょうたちばのすぎることだとおもうのだが…あえていわせてもらおう。きみは、いささかききかんというものがなさすぎるのではないか…?げんに、きみはなにもきぬままありのままをさらしてでてきた。だが、ここがどんなばしょか、わすれたわけではないよな?刀剣男士、つまりはおとこばかりがつどうばしょだ。そんなばしょで、ゆいいつのじょせいであるきみがはだかなんてさらしたら、どうなるとおもう…?こういうことにもなりかねない、ということだぞ。」
そう言って、トン…ッ、と彼女を脱衣場の壁際へ押し遣り、逃げ道を塞ぐように両手を付く。
急な展開に吃驚した璃子は、瞠目して息を飲む。
そんな彼女へ更に追い打ちをかけるように、顔を寄せ、耳元へ語りかける。
「どうだ…?むぼうびなままでは、ていこうしたとしてもすぐにあいてにつかまってしまうぞ?いまは、わたしのうわぎをきているからかくれているが…これがさきほどまでのじょうたいなら、どうなる?きみは、わたしのこうそくからぬけでられるか…?」
『ッ……!!』
耳元で囁かれる聞き慣れぬ低音に、ゾクリと粟立つ背中。
無意識に肩が疎み、目をぎゅっと瞑る。
「…まぁ、そういうことがあるから、こんどからはきをつけるのだぞ?わかったかい…?」
『………へ?あ、あぁ…何だ、冗談だったのか。吃驚した…っ。』
「じょうだんではないぞ?すくなくとも、わたしはきみをすいているものだ。そんなきみが、むぼうびなすがたのままであるいているというのは、だまっていられないな…?」
『へ…っ?』
まさかの発言に、今度こそ本気で驚く璃子。
肩の力が緩んだせいで、掛けていた上着が肩からずり落ちる。
寸でで掴み止めた小豆が、しっかり身体を覆うよう、襟から詰めて着せる。
「さっきはいきなりでこわがらせてしまったかもしれないが、よいきょうくんとなっただろう…?これからは、きをつけてほしいんだぞ、あるじ。」
『はぁ………。』
「わかったな…?」
『ひぇっ!は、はいぃ…っ!!』
「うんうん、よいへんじだ。」
打って変わってニッコリと微笑んだ彼は、身を離し、距離を取る。
「それでは、わたしはこれで…。へんにながくしゃべりすぎて、すっかりおそくなってしまったかな?わたしのせいで、おふろへはいるのがおそくなってすまない。もし、からだをひやしてかぜをひいてしまったら…それはわたしのせきにんだ。こわがらせるようなこともして、わるかったな。」
『あ、いや…あつきは、私を思って言ってくれた事なんだし…これからは、もう少し考えてから行動する事にするよ。注意してくれて、ありがとう。』
「うん、わかってもらえたならいいんだ。そのうわぎは、わたしがここをでていくまできていてくれ。かえすのは、あすのあさでかまわないから。では、おさきにやすませてもらうよ。おやすみ、あるじ。しっかりあたたまってからねるんだぞ…?」
『お、おぅ…。おやすみ、あつき。』
呆然とした様子の彼女に見送られ、脱衣場を後にする小豆。
彼は、部屋までの帰り道、彼女との会話でふと思った事を考えていた。
(そういえば…あるじは、わたしのことをよぶとき、“あずき”ではなく“あつき”とよんでいたなぁ…。)
何処か懐かしく思える呼び名に、ついほっこりと口許を緩めてしまう彼は、至極嬉しそうだ。
(わたしといっしょに謙信公のもとにいた謙信は、げんきにしているだろうか…。)
彼が思い浮かべるは、まだこの本丸には実装されていない短刀の刀剣男士の事だった。
(はやくあいたいものだな…。あったら、おかしをいっぱいつくって、おもいきりあまやかしてやるんだぞ…!)
まだ見ぬ小さな彼と主の事を思って、穏やかな表情になる小豆。
(はやく謙信にあるじをあわせてみたいなぁ…。そうしたら、いっしょにおかしをつくったりして、たくさんおもいでをつくるんだぞ。)
まだ先の生活を夢見て、小豆は笑う。
翌日、彼女と顔を合わせた時、若干ぎこちなかったのは言うまでもない。
執筆日:2018.09.01