画策した心算が甘かった


付き合い始めて何れくらい経ったか忘れたが、そう期間が経たない内に私の不摂生に乱れた生活習慣を見兼ねて強引に且つ半強制的に同棲するようになって早数ヶ月が経った。

暦は神無月、十月の終わり頃、下旬を指していた。

つまりは、もうすぐハロウィンである。

大人も子供も関係無くはしゃげる楽しい季節限定のイベント事に、無性にワクワクと胸を踊らせていた。

其れはもう…自分の歳も忘れて、童に返ったが如く。

端から見たら、「何でそんなテンション高いんだ此奴?」と変な目で見られるくらいには内心変なテンションに陥っていたと思う。

其れは、ハロウィンの日が近付くに連れて、日に増す毎に増していった。

その様に気付いた、私をこの家に半強制的にも強引に同棲させた家主の男が呟いた。


「…何でお前そんなにテンション高いんだよ。」
『えっへへ〜、其れはですねぇ…もうすぐハロウィンだからですよぅっ!』
「は…?ハロウィン?」
『そうですよぅ…っ!秋と言ったら、やっぱりハロウィンですよねぇ〜っ!!季節限定的イベント…故に何とも言えない魅力がたっぷり詰まった行事って感じが、好奇心を擽って堪んねっすよねぇ〜!』
「あー…そういや、もうそんな時季だっけか?…つか、ハロウィン如きでんなはしゃぐとか…餓鬼かよ。」
『ふふん…っ、何とでも仰るが良いよ。元より、私には大人としての品性に欠ける程ちょっと餓鬼くさいところがあるって事は自覚済みだからな。最早、開き直っちまってるんだぜ…っ!』
「いや、開き直んなよ。大人としての尊厳も捨てんな。」


何とも微妙な顔で微妙な突っ込みを頂いたが、今更自分を変えるという気も無いので、私は今のままの自分で我が道を突っ走ると威張った。

そうやってドヤったりするところが子供っぽいんだって事は、既に諦めている。

其れは彼も同じようで、控えめに呆れた溜め息を吐いた後、此方を見つめてきた。


「…んで?そのハロウィンが何だって…?」
『ふっふっふ…よく分かっておいでじゃないっすか。流石は私の将来の旦那様、基まささんですねぇ〜?』
「そりゃお前の事ずっと見てりゃ、大体何考えてんのかどうかって事ぐらい分かるようになるわ…。で?何を企んでるんすかね、オタクは。」
『へっへへぇ〜、よくぞ訊いてくれました…!真っ先にそう訊いてくれたまささんには、誉あげちゃうね!』
「勿体振りは良いから…さっさと教えろ。」


少し気持ち悪いぐらいにテンション振り切って巫山戯てたら、平時のテンションでそうご指摘されてしまった。

いまいちノリが悪いようで、乗ってんのか乗ってないのか分からない空気だった。

どっちかはっきりしませい。

取り敢えず、あんま調子こいて彼の機嫌を損ねさせるのも面倒なので、通常運転のテンションに戻して本題を話す事にした。


『来週になったらハロウィンでしょ…?だから、せっかくなら何か二人で楽しめる事がしたいなぁ〜って思ったんだけど…駄目かな?』
「ハロウィンで二人楽しめる事、つって…具体的には何すんだよ?」
『えっと、ちょっとした仮装パーティー的なものをちょちょいと…?』
「仮装っつーと、要はコスプレしたい、って事かよ…。」
『うん…っ!その通りなのです!いやぁ〜、あっさり大正解なのだねぇ〜。』
「つってもなぁ、コスプレすんのには金かかんだろ…。其れに、衣装とかどう揃えるつもりだよ?」
『うん。だからね、低コストでも済む仮装パーティーにしようかなって思っててね。そりゃ、何時かはどっかで盛大にキャラに扮したコスプレパーティーなるもんもしたいけど…今回は置いといて。今回開催するは、名付けて、“地味ハロウィン”なるものなのだよ…っ!』
「“地味ハロウィン”……?」
『そっ。ここ近年で巷で流行ってるものらしくてね。お金をかけずに低コストで楽しもうって感じのテイストで企画されてるものなんだって。だから、仮装は仮装でも日常に溢れた感じのものでオーケー。下手したら、“そんなん言われなきゃ気付かないよレベルに細か過ぎて伝わらない選手権”な仮装も可な訳。例えで挙げるなら…草臥れた感じのスーツ着て、“日々毎日残業という名のブラック案件に揉まれながら生きてるサラのリーマンです”って感じでもイケるらしいよ。其れを如実に再現する為に、疲れた身のまま仕事帰りに参加するってな流れを作ってる人も居るらしいね。いやはや、日本人は何ともユニークで面白い事を考え出すよね〜っ。』
「いや、お前の挙げた例えも例えだが…その前に言われた台詞のチョイスも色々と突っ込みどころあってどうしたら良いか困る…っ。何だよ、“細か過ぎて伝わらない選手権”って…意味分からんわ。」
『まぁ、そんなこんなで、そんな感じに低コストでハロウィンを満喫しましょ、って言いたかったんだな!…伝わったかにゃ?』
「嗚呼、うん、まぁ…大体は分かったわ……。要するに、俺とお前二人だけでその“地味ハロウィン”ってのをしたい訳だな…?」
『Yes,it's of course!!Indeed,my darling are very nice…!(イエス、その通りよ!!流石は私の旦那様ね、素敵だわ…!)』
「誰がダーリンだよ…ッ!!つか、無駄に発音良いな!?」
『偶々、私のよく知る英語だったからね!(ドヤッ!)』


呆れつつも、まぁ承諾はしてくれたので…来るべき日のハロウィンの日に、同棲中のこの部屋で小さな二人だけの地味ハロウィンを開催する事と決定した。

パーティーと言っても、遣る事は普段と然して変わらず、仕事から帰ってきたら二人で御飯を食べつつワイワイ楽しんだりするだけ。

唯一ちょっとだけ違うのは、その日の夕食は外で買ってきたオードブルとお酒を飲んで食べるといった事と、ちょっぴり何時もとは違う服を着たりしてる事ぐらいだった。

二人共互いに仕事で忙しくしているので、其れも考慮しての事だ。

いやはや、忙しくてもイベント事は楽しもうと地味ハロウィンなるものを考案してくれた人には大変感謝なのである。

足向けて寝れないね。

画して、私は彼と地味ハロウィンを行えるよう計画し、見事その予定を押さえた訳だが…。

私にはまだ密かに企んでいる事があった。

其れは…彼へと悪戯を仕掛ける事である。

ハロウィンといった季節の行事などには、あまり関心を示さない彼の事だ。

きっとハロウィンではお約束事な物でも、興味も無ければ用意したりなどしてこないだろう。

彼の趣向は把握している。

其れを熟知した上で、私はしめしめと画策していた。

“来るべき日、まんまと約束事に引っ掛かるであろう彼に悪戯してやる!”大作戦を…。

ハロウィンの前日となる日、私は彼と別れて仕事へ行く道すがら、心の奥でニマニマと厭らしくほくそ笑んだ。

さぁ、明日が楽しみだなぁ…!


―そして、やって来た某日、ハロウィン当日。

その日も勿論平日であった為、仕事がある私達はそれぞれに職場へと向かっていった。

楽しみに弾む気持ちを抑えながらも、平常通りに仕事をこなした私は、きちんと定時に仕事を終える事が出来た。

私はウキウキしながら、ちょっとばかし浮かれた気分と軽い足取りで彼の家へと帰る。

必要な荷物は既に揃えてあり、今肩から提げているバッグの中にある。

準備は万端、いざ愛しき彼の元へと急いだ。


『たっだいまぁ〜!…って、あれ。もう帰ってたの?早いね。』
「おう…帰ったか。おかえり。今日は俺も定時で上がらせてもらったから、先帰ってたんだ。飯、店に取りに行く予定もあったからな…。」
『嗚呼、成程。其れでか…。いや、確かに何時も私よりは帰り早かったよなと思ったけど、今日は何時にも増して早いから珍しいなぁ〜って思ったんだ。』
「…まぁ、偶にはな。ついでに報告すっと、明日休みにしてもらった。だから、週末の土日もゆっくり二人一緒に過ごせるぞ。」
『本当…っ?やったぁ〜!スケジュールの関係で、ここ最近あんまし二人でゆっくりとか出来てなかったから嬉しいなぁ〜…っ!実は私も、今日が楽しみ過ぎて色々はしゃいで疲れちゃうかもなって思って、明日休み取ってたんだ。何だ、二人考える事は一緒かぁ〜!あはは…っ!』


まさか二人同じ事を考えていたとは思わず、二人して小さく吹き出してしまった。

小さな事で笑い合った後は、お待ちかねの地味ハロウィンの始まりだ。


『そんじゃ、私…早速ですが、一旦お着替えしてきますんで。また後程お会いしましょう…!今の仕事用の化粧も落としてきたいんで!』
「へーへー、どうぞお好きなように…。俺も、着替えてから飯温めたり何なりと準備しとくからよ。」
『おぉっ!宜しく頼んますね…っ!!』


興奮を抑え切れない表情でそう告げて、脱衣処の方へと引っ込んでいく。

先ずはメイク落としからだ。

今顔に乗っかっている崩れかけた仕事用メイクを一度綺麗に落とし切ってから、用意していた衣服に着替え、改めて仮装にちなんだ化粧を施す予定だ。

じゃばじゃばと顔を洗って、服を脱ぎ、また別の服を着て、メイクをし直す。

女は何かと準備に時間がかかって申し訳ないが、楽しみにしていたイベント事という事もあったので、気合いを入れてなる早で済ませていった。

そうして出来上がった地味だけども仮装に、満足げに鼻息を漏らした。


『よし…っ、準備はオッケー完璧だ…!』


身形を整えて、いざ扉の向こうへ。


『ハッピーハロウィーン…ッ!!地味ハロウィンと言えども、持てる女子力投下してばっちり決めてやったぜ!ついでに、ハロウィンお約束のtrick or treatだ…っ!!悪戯されたくなきゃ菓子を寄越しなァ!!』
「そらよ、ご所望の品物だ。受け取りな。」
『んぶむ…ッ!!……………え。あれ…、おかs、………んえ?』


ノリノリのテンションで部屋へと乗り込んでいったら、開口一番に何やら顔面へと投げられて、私は其れをストレートに受け止めてしまって勢いを止めた。

イテテ…何たって顔なんかに向かって投げたんだよ。

せっかく頑張って新たにし直したメイクが落ちたらどうしてくれるんだ。

そう思いつつ、顔面で受け取った物を手元でキャッチして見遣る。

すると、彼から投げられた代物というのは、私の好きなお菓子(其れもパーティーパックタイプでの物)だった。

何でお菓子が……というか、其れ以前に何で投げて寄越した。

しかも、仮にも乙女の顔面に向かって。

おまけに、お菓子と言われてパーティーパック用のお菓子をそのまま寄越すとか雑か、面倒くさがり屋か…!

私は色んな感情を震わせて彼の方を見た。


「“何で菓子なんか持ってたんですか?”って顔してんな…?」
『其れ以前に、何でテメェ人の顔に向かって投げたんだよ…っ!地味に痛ぇじゃねーか!!何か恨みでもあんのかよ、こんにゃろう…ッ!!』
「あ?別に恨みなんざねぇけど…強いて言うんなら、出てくんのが遅ェ。」
『こちとら、なる早で頑張って用意してコレなんだよ!!悪かったな遅くなっちまって!どーもサーセンっしたぁッ!!つか、文句あんなら口で言えや、口でぇッッッ!!あと、菓子投げんのも丸ごとパーティーパックのまま投げるとか、雑か…ッ!?せめて、個包装の一個か二個とかにせぇやッッッ!!』
「おーおー、そらすんませんっしたァー…っ。で…?何で菓子用意してたのか、ってのは聞かねぇの…?」
『謝罪も軽いなぁ、オイ…ッ。……まぁ、色々と悔しいけど、気になるししょうがねぇから聞いてやんよ…。』


余裕綽々の澄まし顔で片付けられてちょっと癪に障ったけど、色々と気になったから渋々頷いてやった。

そしたら、彼は自信満々気にこう言ってきた。


「お前の事だからなァ。どうせ、イベント事に興味の無い俺は菓子なんざ用意してねぇって踏んで、悪戯仕掛ける心算つもりでいたんだろうが…甘かったな。流石のハロウィンくらい、どういうお決まりのお約束事があるかって事くらい俺も知ってるっつの。まだ学生だった頃なんかに、連れの仲間に誘われるまま仲間の家行って、それこそハロウィンパーティーだー、なんつって騒いだ事もあるくらいだからな?」
『な…っ、なn、だとぉ………ッ!?は、初耳だぞ、この野郎…!!あ、後でで良いから、その話kwsk聞かせませい……っ!』
「ちなみに、仮装紛いの事もその時やった。」
『はぁんっっっ!?な、何やてぇ…ッ!!?』
「まー、そういうのもあって…幾ら興味薄いってな俺でも知ってたっつー訳だ。残念だったな…?せっかく楽しみにしてた俺への悪戯する計画が失敗しちまって。…お前は詰めが甘ェんだよ。俺を出し抜こうとすんなら、もうちっと頭働かせるこったな…!」


思いっ切りのドヤ顔かまされて、流石の私でもむちゃくちゃイラッと来たわ。

おのれ、馬鹿にしおって…。

此奴が瞬発力も反射能力も高くなければ、今頃此処でストレートパンチでも一発お見舞いしてやってたところなんだが…現実は哀しきかな。

実際んな事しようものなら、殴りかけた手を掴まれてあらぬ方向へとひん曲げられる未来しか見えてこなかったから、早々に諦めた。

ものすっげぇ悔しかったけども…!

そうして不貞腐れ、ぶすくれたままそっぽを向いていると、くつくつと面白そうに喉の奥で笑う彼が近付いてきた。


「そうぶすくれんなって…。俺が許せる範囲の悪戯なら、後で気の済むまでさせてやっから。ついでに、お前の好きな物も食後のデザートに買ってきてやったからよ。其れで機嫌直せ…な?」
『……むむむぅ…っ、私を物で釣ろうとは甘いのですよ…っ。私は其処まで子供じゃないのです、馬鹿にすんなですよ。』
「なら、今日はもう止めにしちまうか…?」
『そ…っ、其れは嫌なのですよぅ…!』
「んじゃ、機嫌直して此方向くんだな?」
『ぅぐふ……っ、まささんには敵いませぬ…非常に悔しいです………!』


少々…否、かなりまだ不満だったが、ずっと彼を無視し続ける事も好いてしまっているせい故辛くて出来ないので、完敗して逸らしていた視線を彼の方へと向ける。

ゔゔ…っ、此れが惚れた弱みというヤツですか…!

く…ッ、負けた…!!

内心、物凄く悔しがりながら彼の方へと頭を向けたら、瞬間。

一瞬にして視界と唇を彼に持っていかれました。

な、何という早業…ッ、じゃない。

鼓動が一瞬にして暴れ出してどうしようもないと、困り顔で困惑しながら顔を真っ赤に染めていれば、シタリ顔で彼が呟く。


「よぉーやく此方見たな?バァーカ。」
『ッ〜……!!』


至近距離でニヤリと不敵に口角を吊り上げ笑んだ彼に、私はこの人には一生かかっても勝てないわ、と思った。

何時だって、彼の方が私の方よりも何枚と上手なのだ。

勝てる訳がない。

私はまた悔しがりながらも、素直に敗けを認めて降参した。


『……さっき自分から言ったんだから、後でちゃんと悪戯させてよね。あと…さっきの、学生の頃にやったっていうハロウィンパーティーの話もね。』
「へーへー、わぁーってるよ。後でちゃんと話してやっから、今は機嫌直せな?」


ふぐぐ…っ、キス一回でこうも落とされるとは情けないと思いつつも、彼に勝てない事にはしょうがないと思って今日の日を楽しむ事に気分を切り替えた。

其処で漸く彼の方をまともに見て、或る事に気付く。


『あれ……まささん、地味な仮装は?さっき着替えるって言ってたよね…?』
「あ…?着替えてんじゃねーか。コレ、地味な仮装。」
『いや、其れ…何時もの仕事着じゃん。今朝家出ていく時着てたのと一緒じゃん。』
「今朝着てたのは汚れたから、流石に綺麗な方着たわ。つか、さっきまでは普通の服着てたろ?」
『今日の事で興奮してテンションMAXだったし、まささんに悪戯する気満々で頭いっぱいだったからよく見てなかったや…。地味仮装に着替えんので帰って即脱衣処に引っ込んだしね。』
「この野郎…ッ。人がせっかく付き合ってやってるっつーのに、んな事吐くたぁどーいう了見だ、ぁ゙あ゙ん?」
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!私が悪かった、気付かなかった私が悪かった…!あんまりにも普段の格好と変わんなかったから、つい勘違った!!ごめんなさいって…!だから、青筋浮かべないでメンチ切らないで怖い…っ!!』
「……ッチ、しょうがねぇから許しといてやるよ…。」


思わぬところで彼の怒りを買いかけて焦り、必死で謝り通した。

すると、すぐに許しを得る事が出来たのでホッと息を吐く。

そうして胸を撫で下ろしていると、彼のジッと見てくる視線に気付いて首を傾げた。


『…うん?まささん、私に何か…?』
「…そういうお前は何の格好の心算だよ。」
『え?私…?私はねぇ、まささんと違ってちゃあんとコンセプ考えて仮装してきたんだよ!見よ、この格好を…!普段とは違うパリピな感じを…っ!!』
「……何処がどう違うって言うんだ…?」
『もぉ〜、まささんってそういうトコあるよなぁ〜…。仕方ないから説明するけど。普段と違う点は、パリピな女の子に扮する為、服は何時もより派手めで大胆に露出!メイクも仕事用とは違って、明るめはっきりとメリハリ付けてキラキラと!ついでに、何時もは面倒くさがってあまり弄らない髪の毛もアップにして、小さく編み込みなんか入れて結ってみたよっ!どうよ、この気合いの入れ違い…っ。この短時間でよくぞ此処まで頑張ったなと誉め讃えるが良いよ…!』


盛大に威張りくさってふんぞり返る私をまじまじと見つめてくる彼の視線が地味に痛い。

そんなに普段と違わない…?

私、普段はもっと地味で大人しめな格好しかしてないと思うんだけど…。

あんまりにもまじまじと見てくるもんだから、段々と不安になってきて、一度自分の格好を見下ろしてみた。

今着ているのは、パリピな女子をイメージして、普段は露出しない肩や足元を思いっ切り出した薄手のオフショルダーなワンピースタイプのセーターだ。

ボーダー柄の、ちょっと丈が短いけど可愛くてハロウィンの仮装用にと挑戦する心意気で買った服である。

下はカラーのストッキング。

流石の羞恥心で、剥き出しの裸足なまま居るのは堪えられないと穿いた物であるが…別段可笑しなところは何もない筈だ。

至って普通のパリピっぽい女子イメージな、上下共カラフルにハロウィンカラーで揃えたコーデだ。

…ちょっとスカートの丈が短過ぎるかも、とは着てみて思ったけど。

無言でジィーッと上から下まで見てきていた彼が、漸く私が向ける視線へと合わせてきて口を開く。


「……確かに、何時もの格好とはだいぶ違うみてぇだな。」
『でしょ…?一応、此れでも一般的仮装には入らないレベルの物だから、地味仮装レベルだよ…!だって、端から見たら、ちょっとお洒落してる感じの女子にしか見えないもん!どうだ、凄いでしょう…っ!!』
「…あぁ、凄ェ凄ェ。」
『ふっふ〜ん、短時間ながらも私頑張ったぜ…!まささんと二人でやる地味ハロウィンだもの、地味ながらも手は抜かなかったからね〜…っ!』
「……おう。其れはよぉく分かった。」


そう言った彼が、私の腰を引き寄せてきたかと思うと、徐に開いた胸元の布を引っ張って中を覗き込んできた。

私は驚いて、慌てて服の中を覗こうとした彼の顔をぺちりと叩いて塞いだ。


『ちょあ…っ!?な、ななななんっ、何してんのいきなり…ッ!?い、いいいきなり胸元の布引っ張るとか、何してんの!!?』
「…いや、今にも下着見えそうだったから、引っ張りゃ見えるかなァ〜、と…。」
『だからって本当に引っ張って覗き込む奴があるかぁ…ッッッ!?幾ら何でもそりゃ無しだぞ、まささんや…ッ!!』
「だってよぉ……俺から見たら、据え膳食わぬだぜ?丈も短くてこんなに脚出しちまってるしよ…。まるで触ってください、と言わんばかりだろ。」
『んな……ッ!?』
「はぁ〜………っ。…お前、俺の事本当甘く見てるみてぇだな…?普段俺がどんだけ我慢してんのか知らねぇだろ?お前が普段何気なくしてる仕草だけでも、俺はそういう方向に考えちまうってのに…。其処にこうも無防備晒け出されちまってりゃあなァ、……もう手ェ出す以外ねぇだろ?馬鹿が。」
『ひぇ……………ッ。』


そう耳元で低く囁かれては、細やかな抵抗など壁無しだった。


「始めから言っとくけど…俺は菓子なんざ要らねぇからな。」
『え…………ッ、』


短いスカート丈の裾から、するり、と薄い布越しに熱い掌が太腿を這ってきて、ゾクリと腰が震える。

情事を思わせる触れ方に、淡く期待してしまう内側が疼いてテンパる。

さっきまであんなに散々騒いでいたのが嘘みたいに萎んで、今はただ羞恥に打ち震えるだけになっていた。

あまりの出来事に軽く腰が抜けそうになっているところへ、トドメを刺すかのように太く硬い彼の脚が間に差し込まれて秘部を刺激するようにグッと押し当てられる。

そして、再び耳元で言うのだ。


「…テメェさえ居りゃ、其れだけで俺には十分事足りるんでな。」


ぺろり、おまけとばかりに露出した首筋を舐められ、甘噛みされた。

其れだけで、彼に弱い私はあっという間に陥落してしまうのだった。

彼に凭れ掛かり、支えられるようにして立っている状態の私は、悔しげに彼を下から睨み付けた。


「…だから、柧眞は甘ェって言ったろ?」


くつくつと喉の奥で笑ってそう言った彼は、勝ち気で余裕げにほくそ笑むのである。

そのまま、私は彼に抱えられ、彼の布団の元まで運ばれる事となるのだった。

その後の流れは言わずもがな…皆様のご想像にお任せする事に致しましょう。


―何やかんやと済ませて、何時もの普段着な部屋着へと着替えた後、遅くなってしまった夕食を摂りながら、ふと思った事を口にした。


『そういや気になってたんだけど…まささんがしてた地味仮装のコンセプって、結局何だったの?』
「あ…?……どっかの作業場で仕事してる作業員…。」
『まんまじゃん…!!普段と何ら変わり映えしないじゃん、其れ…っ!?』
「地味なもんは地味だろ…?」
『…そりゃ、地味だけど…一般的仮装からはかけ離れた仮装レベルですけども…。もうちょい何か捻っても良かったんじゃないの?』
「地味だったら、何でも良いじゃねーか別に…。今回のイベントのテーマにはちゃんと沿ってたんだからさァ。」
『…んー、其れは確かにそうだから…まぁ良しとしますかね。…あ、さっき私に好き放題やらかしたんだから、後でちゃんと私からの悪戯受けてよね?あと、話の件もお忘れなく〜。』
「へーへー、わぁーってますよ。」
『仕返しに、まささんが絶対恥ずかしがってやらない事とかポーズ取らせて写真に撮ってやるんだから。』
「…言った筈だけどよ、やるにしても俺が許す範囲の事だからな?」
『大丈夫、其処だけはきちんとしてるから。安心して。猫耳付けるくらいなら、そんな恥ずかしくもないでしょ?此れ、まささんの許容範囲内、言質は既に取ってあるもんね〜んっ!』
「テッメェ…!後で覚えてろォ…ッ!?」


立場逆転で再び調子こいた後、またもや彼に組み敷かれ朝方まで抱き倒されるとは思いもしなかったのであった。


『…ぅ゙ぐぉ゙あ゙……ッ、メチャクソ腰痛ェ゙エ゙エ゙エ゙………ッッッ!!おまけにクッソダミ声やん……ッ、喉イッタ腰つっら…。立つ云々前に動けへんわ、コレ………ッ。全身筋肉痛になってるんすけど…どういう事?本当、今日休み取ってなかったら地獄だったんだけど……?ったく、加減くらい考えろや馬鹿ァ………ッッッ!』
「……煽ったお前が悪い。」


涙目で泣き言を漏らす私を他所に、スッキリした澄まし顔で暢気に煙草を吹かす彼に、初めて殺意を覚える程苛付いた朝だった。


執筆日:2019.10.24
参考元:「同棲してる2人の日常」(719224)