プレゼントは俺だった


気付けば、年の瀬も迫る季節となっていて、例外無く今年もあの時季がやって来た。

現世で言うクリスマスという、そとつくにからやって来て馴染んだ、別名聖夜なる文化の日が…。

この時季には、決まってある一定の行動と定番とされる行事が行われるらしい。

その内の一つとされるその壱が、まず部屋などへの飾り付けだ。

電飾やらツリーやらで色とりどりに飾り付け、クリスマスに合わせた雰囲気を味わうんだと。

季節の雅事に口煩い歌仙も、現代らしい風情を見せる此れには納得の感想を漏らしていた。

ついでに、昨年は審神者となって半年しか経っていなかったせいで本丸資金やら何やら諸々含めて余裕が無くて用意出来なかったからと、今年こそは一年の内でも一大イベントの一つであるクリスマスを楽しんでもらいたいと全力で精を出していた主は、そう息巻いていた。

だが、その余裕があるにも関わらずに例年の如く“ツリー擬き”にされた御手杵の奴には、ぶっちゃけ同情の念と不憫だなという感想を抱いたが…その反面、周りの奴と同じくシュールだとか、面白い、単純にウケるという思いもあった。

なんで、特にフォローを入れてやる事もせずに静観するに留めた。
(口では愚痴を漏らしつつも、何気に彼奴自身も楽しんでいる様子だったのもある。)


「なぁ…コレ、今年もやる必要あるのかぁ?」
『あるよ〜。去年、意外にも結構な高評価を頂けたからね。皆楽しみにしてるみたいだし…!ぎね自身には申し訳ないが、今年も引き続き宜しく頼むよ!』
「うえ〜…マジかぁ。アンタに頼まれちまった以上は仕方ないから引き受けるけどさ…、皆、俺が槍だって事忘れてやいないよな…?」
「ごちゃごちゃ抜かしてねぇで、さっさと粟田口部屋に行って来い。」
「もぉ〜、他人事だと思ってさ…?何時かアンタも同じか似たような目に遭えば分かるぞ、俺の複雑な気持ちが…。いっそ、今すぐにでもそんな目に遭ってしまえば良いんだ。そしたら、そんな他人事みたいに思えなくなるぜ?どうか、正国も今後俺と同じような目に遭いますように…!」
「おい、変な事願ってんじゃねーぞ。シバくぞ。」
「ひぇ…っ、触らぬ神に祟り無し…って事で、正国に一発食らう前に退散退散…!」
「…ったく、くだらねぇ事抜かしてる暇あったらさっさと動けっての…。」
『まぁまぁ、仲が宜しき事は良い事じゃない…?今後も同室な者同士仲良くしてあげてね。』


何かと愚痴を漏らしてなかなか指定位置へと向かおうとせず愚図る御手杵へ、俺が発破を掛けるよう凄んでみせれば、漸く重い腰を上げて部屋から出て行く姿勢を見せた奴。

その事に呆れの溜め息を吐いていると、何とも的外れなズレた感想を返してきた主。

今の何処を見てそんな風に思ったのか…主の思考回路は時に不思議だった。

聖夜における楽しみの一つとしてその弐に、子供達へのプレゼント…つまりは贈り物を用意するという事があった。

此れはおもに短刀達へのもんだと思ってたが、別に年齢や性別に関わらず贈り物を贈り合ったりするものでもあると言い切るように教え聞かせた主は、それぞれの好きに欲しい物を聞き出し各々準備していた。

まさか本丸に居る奴等全員分のを用意する気じゃねぇだろうな、と思って問い質してみれば、案の定。


『うん、そうだけど…?』


と軽く返ってきた。

ウチに居るの、今何人居ると思ってんだか…。

主曰く、


『そんな買えないって程の高価な物を用意する訳じゃないよ〜。精々、各々が日常的に使う物とかで欲しい物用意するだけだって…!』


そうは言えども、ウチには既に七十振りを超える数の刀剣達が住まわっていた。

本丸全員分の数を用意するなんざ、気が触れたとしか思えない事だった。

其れに付け加え、何れだけの資金が飛ぶ事になると思っているのかも問うと。


『大丈夫…!其処ら辺は、博多君や長谷部等経理の黒田組に任せてあるから!!きっちり予算も組んでもらって計画立ててあるから、資金面での心配は御無用でっせ…!!』


と無駄にキリッとしたキメ顔で返された。

まぁ…彼奴等が予算組んでやってるなら問題は無ェか。

近侍を務める傍ら、クリスマス当日への準備を進める主の手伝いをしている最中、ふと思った。

今の主は、本丸に居る奴等の事は考えていても、己自身の事は勘定に入れていない形で事を進めているんじゃねぇのか、という事に。

もうクリスマス本番は明日という、今更ながらに気付いた俺も俺だが、主も主だと一瞬妙な苛付きが胸中に落とされた。

その感覚に頭をもたげながらも、気になった事はすぐに訊くかと思い至った思考で俺は主に問うた。


「ところでさ…此処まで用意しときながら、アンタは手前の分は全く考えちゃいないよなァ。」
『え…?』
「欲しい物…アンタは無いのかよ?」
『えぇ〜…私の分は別に気にしなくて良いよ〜。この企画は私がしたくてやってるだけだし…。何なら、去年は出来なかったからって体でやってるんだし。要は自己満足でやってる事なんだから、この際自分の分は後回しでも良いの…!…うーん、まぁこの回答じゃ納得しなさそうだから、強いて補足で答えるとしたらぁ…皆が喜んでくれる笑顔や反応を拝めるだけで、審神者は嬉しいかな!』
「…そうは言っときながらも、内心本当は欲しい物、あんじゃねーの…?」
『うぇえ…?やたら食い下がってくるな、たぬさん…っ。そんなに俺の欲しい物気になるの?』


動揺して、つい素が出て一人称が変わる主。

んなに動揺する必要あんのか、この問いに…。

全く以て意味が分からない反応だった。


「気になるから訊いてんだろ?其れに、俺達には用意されてて、本丸の大将であるアンタには無いんじゃあ話になんねぇだろ。其れとも何か…?俺には言えねぇって事なのかよ。」
『えっ!?いや、そういう訳じゃあなくてだな…っ。えと、何って言うのかな…改まって口にするような物でもない、というかぁ〜、何というか……。』
「…何だよ、煮え切らねぇ返事だな…。欲しい物くらい、はっきり言っちまえば良いだろうがよ?」
『うえぇ………っ、寧ろ逆な事柄なんじゃないかと思うんだが…?欲望に忠実過ぎる望みも大概だと思うんだけど…どうなのかな、コレ…。』


変に悩み勿体振るように頑なに言おうとしない主に業を煮やして、俺は距離を詰めて言い淀む主の肩を掴んで再度告げた。


「めんっどくせぇなあ…!早く言えって言ってんだろ、オラァ!!」
『ひぇ…っ!?言います言います!!そんなに凄まないでよ、怖いよ!?あと近いよっっっ!!』
「だったら最初からさっさと口にしとけっての…。」
『そんな勝手なぁ…。』


敢えて凄んで問い詰めれば、漸く口を割る気になったのか、作業の手を止めて此方を見遣る主。

心なしか、その視線に緊張染みたもんが混じってる気がしたが…何でなのかが分からなかった。

もう一年と半年程主とは本丸で一緒に居るが、未だに女心だとか言うもんを理解すんには及ばなかった。

つーか、仮の器として人の身を得て生活するだけで精一杯だったところに、んな知らねぇ感情や事を挟まれてもな…すぐに理解しろってのが土台無理な話だろ。

顕現してまだ一年と半年だぞ。

人間で言ったら、まだ赤子同然の扱いだ。

…っと、いつの間にか余計な事まで考えちまってたか。

漸く手前の欲しい物を口にする気になった主を前にして、俺は内心余計な事を考えようとする思考を振り払った。

改めて、主と向き合い、主の望みが口にされるのを待った。


『…前以て言っとくけど、大したもんじゃないからね…?そりゃあ、値段で言ったら、それなりの額だし高額な代物にはなるんだろうけど…。』
「アンタがどんな物欲しがろうと、別に文句なんて言ったりしねぇから…言えって。」
『わ、分かったって…!ちゃんと言うから急かすな…。一応確認しとくけど、大したもんじゃないからって笑わないでよね?本当に笑うなよ?』
「良いから早く言え。」
『アッハイ、スミマセン。言イマス言イマス…ッ。』


此処に来てもまだ言い淀もうとする主を急かし、先を促す。

すると、先程までの反応とは打って変わって軽い調子で口にしてきた。


『俺が今欲しい物っつったらさ…ぶっちゃけお前なのよ。』
「は?」
『俺が今欲しいなって思ってる物は、お前な訳。此れでお分かり…?』
「…は?」
『うん。だから、俺の欲しい物、お前自身。…おk?』
「……いや、意味が分かんねェ。」
『え…。いや、だから、今言った通りの意味だって。俺が欲しい物は、同田貫正国…つまりお前自身なの。』
「…はぁあああ?????……ますます分かんねぇんだけど…。」
『え、マジで…?此処まではっきり言っといて?逆にそっちの思考回路が理解出来ねぇんだけど、どういう作りしてんの?』
「おうおう、今度は喧嘩売ろうってのか?ぁ゙ア゙…?良いぜ、何時だって買ってやんよ。オラどっからでも掛かってきてみやがれ!キェア…ッ!!」
「いや何で其処でそうなるんだよ可笑しいだろ!?ツンギレかよテメェ、マジふざけんな!!主に謝れゴル゙ァ゙ッッッ!!」
『ちょっ…!?安定君落ち着いて!?餅ついてぇ…ッ!!』
「うん、そう言う主も落ち着いてねぇー?そんでもって、いきなり飛びかかっていった安定も落ち着けって。主めちゃくちゃ混乱してるから。」
「あ、ごめん。ついイラッときちゃってオラオラしちゃった。驚かせちゃってごめんね、主…?」
「…いきなり横合いから乱入してきてマジで殴られる寸前まで迫られた俺には何の謝罪も無しかよ…。」
「はぁ?何で今ので僕がお前に謝んなきゃいけないの?ボケた事言ってんじゃねーぞ、クソが。ガチでタコ殴りにされたいの?え、マゾなの?キッモ…。」
「安定、安定…言葉の応酬、ちょっとストップ。主ドン引きして怯えちゃってるから。」
「あ、またやっちゃった。ごめんごめん…!田貫のクズ野郎があんまりにも調子こいた事抜かすから、思わず本気出しちゃった〜!大丈夫、主には何の不満も抱いてないから安心してよ…っ!」
『ぇ……っ。それって…とどのつまり、何かしらの不満抱いちゃったら私にもそうやって来るって事だよね…?ひぇ…っっっ。』
「シ…ッ、アンタも今は余計な事言わねぇ方が身の為だぜ…!」
『ムググ…ッ。』


突然乱入してきた大和守に殴りかかられそうになったところを、加州の一声のお陰で寸でで事無きを得た俺。

急展開過ぎて何が何やらさっぱりだ。

一先ず、一時的に場が落ち着きを取り戻した事で、加州が事の顛末を話し始めた。


「あーっと…取り敢えず、まず真っ先に謝るけど…二人の話盗み聞きするような真似しちゃってごめんね?実はさ…俺達も田貫と同様に主の欲しい物知りたくて、それとなぁ〜くリサーチしようかと思ってこっそり部屋の外張ってたんだ。」
『嗚呼…其れでアレだったのね…。にしても、凄い勢いでいきなり出てきたからめちゃくそビビったわ。』
「うん、其れについてはマジでごめん…っ。いや、途中までは、会話聞いてて“田貫ナイス…ッ!!”とかって思ってたんだけど…彼処で田貫が変にキレたりするからさぁ…。」
「思わず、“はあ!?違ェーだろ…ッ!!其処は喜んで嬉しがるか、照れて赤くなって狼狽えたとこ見せる場面だろ!?何キレてんの彼奴!?マジで有り得ないんだけど!!ちょっと僕行ってくるから止めんなよ…ッ!!”…って頭に血が昇って、さっきみたいな流れになっちゃってね〜!本当マジで殺っちゃおうかな?ってなくらい苛付いたんだけど、何か申し開きしたい事とか言い残したい事はあるかよ。」
「安定、安定…、ステイ。」
「わん。」
『……う、うん…まぁ、俺の為に怒ってくれたんだな、…って事は分かったよ。俺の為を思ってクリスマスプレゼントを用意してくれようとしてくれてた事も含めて感謝するね。有難う、二人共。…でも、しょうもない事で私闘or喧嘩する事は止めてね?其れで怪我でもしちゃったら大変だし、仲裁すんのも一苦労するから…。』
「はーい。」
「ごめんなさーい…。」
『うん、分かれば宜しい。』


主に宥められ大人しくなる大和守達に、ホッと安堵の息を吐いた。

練度上は肩を並べる間柄だが、大和守はキレると半端ないと和泉守から聞いてたからな…本体持ち出されずに済んで良かったぜ。

そうこう心配していた事が去ったと思っていたら、徐に主がぽつりと事を口にした。


『あと…此れは後付けみたいになって申し訳ないんだけど、俺は別にたぬさんからの良い反応を求めてた訳じゃないからね?其処んとこ、誤解無きようよろすく。』
「え?違うの…?」
「え!?とうとう思い切って田貫に告白って展開だったんじゃないの…っ!?」
『告白て…っ。何でそういう思考になったのかが私は謎だわ…。ただ素直に端的に自分の欲しい物告げただけよ?』
「はぁ…っ!?じゃ、じゃあ、さっきまで変に勿体振って言い淀んでたのは何だったんだよ…!」
『え……だって、既に自分の刀として側に居るのに、改めて口にするのもどうなのかなぁ〜って思ったから…?たぬさんは既にもう俺の刀だし、常として側に置いときたいってくらいベタ惚れしてる程好きな刀だから近侍に据えてるんだし、別に敢えて口にしなくとも何となく伝わってるかなぁ…って感じだったから、すぐに言わなかったんだよ。たぬさんには、此れからも変わらず俺の愛刀として側に居て欲しいと思ってるからね。何時も頼りにしてるよ、俺の実戦刀さん。』
「ッな…!?」


そんな回答が返ってくるなんざ、誰が思ったよ…。

主がどういう意味を含んで今の言葉を口にしてきたのかを漸く理解して、俺は忽ち頭を沸騰させる勢いで顔を熱くさせ、仰け反った。

尚も変わらず嬉しそうに笑みを浮かべる主の目が、その内心を此れでもかと語っていて、正直面と向かっては見れなくなっちまったのである。

端からやに下がったにやついた笑みを浮かべて此方を見遣る奴等の視線が居た堪れない。


「ひゅーひゅー。お熱いご様子御馳走様でしたぁ〜っ。」
「どうぞ末永くお幸せにぃ〜!…さっ、僕達はお邪魔だから退散しよっか。ついでに、“主へのプレゼントは田貫”って事で皆に伝えておこっか。」
「そうね〜。今晩は“田貫は可愛いリボン首に巻いて主とお寝んね”、って伝えとかなきゃね。」
「おいコラ待てェ!!誤解を生むような事抜かしてんじゃねーぞ!?俺はんな事絶対ェしねぇからなァッッッ!!」
「燭台切さんや鶴丸さんの力借りればワンチャンイケるかな…?」
「あの人等なら、たぶんノリノリで協力してると思うよ。きっとめちゃくちゃ可愛くデコってくれると思う(笑)。」
「じゃあ、善は急げだね…っ!!行くよ、清光!!」
「クソ…ッ!待ちやがれェーッッッ!!」
「追い付けるもんなら追い付いてみなよぉー!」
「まっ、機動の遅いお前じゃ無理だろうけど…っ!(笑)」
「言ってくれるじゃねーか…ッ、そっちがその気ならこっちも本気出してやら゙ぁ゙!キィエアアアッッッ!!」
「うお!?マジかよッ、彼奴…!!顔ヤッバ!?」
「最早鬼の形相じゃん…っ!!どうすんのさコレェ!?アレ、僕達取っ捕まったら即処刑コースじゃない!?」
「その前に逃げ切れば勝ちでしょォオオオーッ!!」


結局、二人に追い付く寸前に廊下を爆走して追いかけてた件で歌仙に捕まり、くどくどと説教を受ける羽目になった。

そんで、おまけに彼奴等が言ってた通りの展開となり、寝ようと部屋に戻ろうとしていたところを鶴丸の奴に捕まって、何か色々と弄くり遊ばれた挙げ句そのまま主の就寝部屋へと放り込まれる事になるのだった。


『あらまぁ、随分と可愛らしいたぬきさんがいらっしゃった事…っ。』
「…クッソォ…ッ、彼奴等マジで許さねェ………ッッッ!」
『ついでに、めちゃくちゃおこでいらっしゃいましたか。まぁ…ドンマイ?…にしても、普段の戦装束の襟巻きを大きくリボン巻きして来るとは随分愛らしいじゃない…?私は其れアリだと思うなぁ〜。』
「ふ・ざ・け・る・な…ッッッ!!こんな格好…っ、今回限りだ……!!」
『あ、すぐには外さないで居てくれるんですね?』
「…鶴丸の奴に、このままの状態で主とツーショット写真を撮るまでは外すなって言われてる…っ。」
「ついでにそいつのオプションとして、今夜一晩は主と二人っきりで過ごしてもらう予定だぜ…っ!!」
「はあ…ッ!?聞いてねェーぞ、んな話…ッッッ!!」
「今言ったからな、当然さ。ほらほら、陸奥守から拝借してきたカメラで撮ってやるから、もっと主に寄ってくれ…っ。おまけとしちゃあなんだが、如何にも“今夜は主の為に”って感じにイカしたポーズを取ってくれると映えるぞ…!」
「んなやるかバァアアカッッッ!!」
『あっはっはっは…っ、煽るのも程々にしとけよ鶴さん…?でないと、部屋ぶっ壊される勢いで暴れ回られそうだから…。あと俺寝れなくなる。』


結論…飛んだクリスマスで終えるのだった。

以下は、翌日の後日談な御手杵との会話である。


「なぁ、アンタ。昨日あの後早速俺が願った通りの目に遭ってたらしいって聞いたんだが、どうだった…?やっぱり複雑な気分になっただろぉ〜!」
「…おぅ、そうだなァ…?テメェに殺意抱くくらいにゃ複雑怪奇な気分に陥ったぜ?あんがとよ。ついでにそのお返しに一発、いや其れ以上に食らわしてやりてぇからいっちょ表出ろや。」
「うえ………っ?」


直後、奴の断末魔の叫び声は本丸中の奴等全員に響き渡ったのだと言う…。


執筆日:2019.12.25
参考元:「幸せにしてあげて」(524738)