水無月の花嫁に込められた意味、
幸せな花嫁になる為の祝福を。


「ねぇ、主…結婚しよう」
「は?い、いきなりどうした?」


仕事の合間に情報収集がてら審神者新聞なるものを端末で見ていたら、部屋へとやって来るなりいきなり突然変な事を言い出した清光に思考が固まる。

しかし、やたら真面目な顔付きで何かの雑誌を手に持った清光は、そんな私に構わず話を進めてきた。


「主…今は何月だと思う?」
「え?六月…旧暦で言うと水無月ですけど…其れが何か?」
「そう、六月。主が審神者就任二周年を迎えた月であり、ジューンブライドと言われる月でもある訳」
「うん…まぁ、そうね。そうでもあるね。…で?」
「だからさ、主…結婚しよう?」
「うん、誰と?」
「田貫と」
「いや、何で?話が急展開過ぎねぇ??」
「だって…もう二年だよ?主が審神者になって彼奴が来たのが一ヶ月以内だったって事は、ほぼ最初から連れ添ってきたって事じゃん。って事はさぁ、もう二年も一緒に生活してるって事でしょ?其れってもう付き合ってるも同然じゃん」
「いやいや…其れだと初期組こと古参組は皆そうなっちゃうからね?つか、確かに本丸で一緒に生活してきてはいるけども、そういう意味というよりは、どちらかというと家族みたいな感じになるんじゃ…っ」
「何言ってんの!主が審神者一周年迎える前から彼奴とデキてた事、俺知ってるかんねっ!!つまり、彼奴とは初めからくっ付くべき運命だったって事…!!となれば、もう此処は結婚するしかないじゃん…っっっ!!」
「えええぇー……っ、む、無理矢理過ぎんか?その理論…。というか、俺はどっから突っ込めば良いの、この状況…っ」


飛んでもな理論を立ててぶっちゃけてきた清光に、終始この場の空気に付いていけてない頭が混乱する。

取り敢えず、どうしてそうなったんだ。

私は一先ず興奮した様子の清光を落ち着かせる為に、「どうどう…っ」と返したついでに座布団とお茶を勧めた。

元々は私のだけど、まだ一口も口を付けてなかったヤツだからセーフだ。

勧めたお茶をがぶ飲みして一息落ち着くと、清光は改めて話をし始めた。


「…ふぅ、ごめん。お茶ありがと。ちょっと落ち着いた…」
「うん…っ、其れは良かったよ…。流石の俺も、部屋に来ていきなりぶっ飛んだ話持ち掛けられて吃驚したし。取り敢えず、どうしてそんな話になったのかを改めて聞いても良いかね…?」
「うん…。実はさ、さっきまで安定や乱達とこのブライド雑誌見ながら話してたんだけどさ…話してる途中で俺、思っちゃったんだよね。“せっかくなら、記念すべき六月という今月に結婚しちゃったら?”って…」
「…うん、何がせっかくなのかが分かんないんだけどなぁ〜」
「其れは、今月が六月で世間ではジューンブライドと言われてる月だからでしょ。おまけに、主が就任二周年を迎えたって記念すべき月でもある訳ね。ジューンブライドってさ、結婚するにはピッタリな月なんでしょ?幸せを願って挙げる結婚式なんて素敵じゃん。其れで、乱達とそういう話になってカタログ持ってきたって訳」
「成程ね〜、そういう事かぁ……っつって、何が成程になるんだ今の。何処も納得出来てねぇぞ、俺?」


改めて聞いたは良かったけど、結局意味は分からなかった。

だから何でそんな話になったんだよって。


「もう一緒に居て二年だよ…?懇ろな関係なら、結婚しても良い頃じゃん。ってな訳で、此れ見て主に似合う可愛いドレス決めちゃお!」
「いや、何が“ってな訳で”になるんじゃーい…っ!!何も解決しとらんのじゃド阿呆ォッッッ!!」
「だって二年だよ…っ!?普通に結婚してても良い頃じゃん!!」
「其れなら先輩審神者の方々はどうなるんだよ…!!ゲーム開始から始めた審神者様方とかになったら五年だぞ…っ!!ポケット開始からでも最低四年だわ!!俺なんてまだたったの二年だぞ!?足元にも及ばんわァッ!!」
「四年も五年も一緒に居たら、もう付き合ってるレベルとか超して結婚してるも同然だからァ…ッ!!其れから言うと、今の主は同棲止まりのレベルなの!!だから早く彼奴とくっ付く為にも結婚するの!!ちゃっちゃと段階進めてゴールインすんの!!分かったぁッッッ!?」
「な…っ、なん、だと………っ!?お、俺はもうたぬさんと同棲していた……?え、えぇ…っ??」
「え…ちょっと、何があったんだいこの空気…?凄い空気の中入ってきちゃったんだけど…。僕、出直してきた方が良いかな?」


無茶苦茶な話の展開と清光の捲し立てる勢いに飲まれ、動揺したあまりに思わず話に流されかけていると、偶然部屋を訪ねてきたみっちゃんが引き気味な様子で漏らした。

其れに気付いた清光が、入口で突っ立っていたみっちゃんを引き込んで事の顛末を伝える。

黙って相槌を打ちながら話を全て聞き終わると、「ふむ」と顎に手を持ってって一つ頷く。


「うん…加州君の言い分に、僕は賛成かな」
「でしょお!?」
「嘘だろ…マジかよ、みっちゃん…?」
「うん。だって、僕から見ても君達焦れったいんだもの。何処からどう見てもデキちゃってる仲だし。寧ろ、何でまだ正式にくっ付いてないのかが疑問なくらいだよ。良い加減、次のステップに行っても良いんじゃないかなぁ?君だって其れなりに良い年頃だろう?君自身も、この間世間話してた際に言ってたじゃないか。結婚適齢期になってるって」
「ん゙ぐぅ…っ、いや…まぁ、そうなんだけどもさぁ………っ」
「だったら、何を迷う必要があるの。この際思い切っちゃった方が、今後の為にも良いんじゃないかなぁ?」
「良いよ、燭台切…!その調子でもっと言ってやって!攻めちゃって〜!」


自分達に味方が加勢したとあってより乗り気の清光に煽りを受けて、そこまで熱の入ってなかったみっちゃんにも熱が入り出す。

何でよ、みっちゃん…お前はこっちの味方だと思ってたのに。


「ほら、考えてもごらんよ。君達は、今其れなりに良い感じのトコにまで進んでる。もし此れ以上進むなら、次の段階へ進む為にもやっぱりちゃんとした形で彼と結ばれてた方が進むのも進みやすくなるんじゃないかな…?例えば、床事情とかさ。君達まだ済ませてないんだろう?」
「…何だろう…今“まだ”という部分を強調されて言われた気がすんのは俺の気のせいかな?つか、かなり踏み込んだ話ぶっ込んできたね…!」
「え、マジなの?主達ってまだだったんだ…。てっきりもう良い感じに其れなりのトコまで進んでんのかとばかりに思ってたのに…」
「彼、意外と紳士というか…そういうところは真面目に考えるひとだからね〜。たぶんだけども、ちゃんと主の事を考えての事だと思うよ?」
「そっか。あー見えて、彼奴も色々考えてんのなぁ…ちょっと見直しちゃったかも。…にしても、彼奴見た目的に結構がっついてそうだと思ってたんだけど、意外とセーブしてんだね?」
「やっぱり、主の身の振り方だとか、主の事を真剣に考えた上での判断なんじゃないかなぁ…?ほら、主って滅茶苦茶ピュアだし、あんまり性急に事を押し進めようとしたら怖がりそうじゃない?」
「あー、確かに」
「僕的には、其れを思ってのセーブなんじゃないかと思ってるんだよね。彼、粗暴そうに見えて案外真面目だから…きっと頑張って我慢してるんだよ。偉いよね」
「田貫ってば良い奴じゃん…。こりゃ、彼奴の為にも早く事を進めてやんないとね。俺達がフォローしてやらないと、ウチの主は変なとこでビビって奥手になっちゃうから!」
「……ねぇ、何か良い感じに勝手に話進めてるけど、俺の意思は無視なの…?」


当人達の片側目の前にしながら無視らないでよ。

そして、話を押し進めないで頼むから。

そうこうジト目で見遣ってたら、何かを思い付いた様子のみっちゃんが拳をポンと手に付けて閃きポーズを取って此方を見てきた。


「そうだ…!せっかくなら、他の人達にも意見を訊いたら良いんじゃないかな?彼と主が正式に結ばれる事に反対か否か、ってアンケート形式で!」
「おっ、其れ良い…!!名付けて、“外堀から埋めてく作戦”ってヤツだね!」
「こういう事は思い立ったが吉日!早速皆に訊いてきちゃおうかっ!」
「Oh…何てこったい。事は収まるどころか、余計に悪化したよ…ジーザス。俺達の意思は無視なの〜…?」


何だか思わぬ方向に事が転び、流されるまま連れられて本丸中の面子に聞き込み調査が行われる結果に…。

いや、別に本気で嫌とかそういうのでもないから、どうしたら良いのか困るんだって。

コレ、どう対応したら良いのよ。

色々いきなりぶっ飛び過ぎてて付いていけないわ…っ。

そう思いつつも、何て反応したら良いかも分かんなくて、流れに流されるまま事に付き合わされる羽目に。

本当、どうしてこうなったんだ。

取り敢えず、そんなこんなで始まった聞き取りアンケート。

題して、『主と田貫君を正式にくっ付け隊』である。

もうどっから突っ込んで良いのか分からなくなってきて、触れる事も面倒になってしまった。


「主と田貫君が正式にくっ付くとしたら、賛成か否か、皆はどう思う?率直な意見を聞かせてね!」


みっちゃんの完璧スマイル付きで始まった聞き取りアンケート。

さて、皆どんな反応を返してくるのやら…。

まず突撃したのは、勝手知ったるやの厨からだった。

其処に居たのは、本日の厨当番…歌仙、堀川、兼さん、まんばである(ちなみにみっちゃんも含まれるが、今は除外される)。

彼等が最初の標的ターゲットとなった。


「おや、なかなか面白い事をしているね?僕は、どちらかと言うと賛成意見かな。だって、見てるだけの此方側があまりにも焦れったくなるからね。良い加減もどかしくなってくるよ。出来る事なら早くくっ付いて欲しいと思うね」
「僕も賛成意見ですね。理由を話すとしたら、今の歌仙さんと同じです。早くくっ付いちゃってください…!何なら、僕がサポート致しますよ?僕は脇差ですから、サポート事はお任せください!恋のお手伝いもお手の物、です…っ!」
「正式にくっ付くねぇ…どちらかと言うと、俺は反対だな!何もそういう事まで俺達周りのもんが口出しする事でもねぇだろ。こういうのは本人達の意思が大切ってもんだ!本人達がまだって考えてんなら、そのままで居させてやっても良いんじゃないか…?こういうのは、あんま必要以上に首を突っ込むもんじゃねえ。本人達が気まずくなっちまったら、其れこそおじゃんだからな。俺達周りの者は、流れに身を任せるが如く見守ってやんのが自然だ。だから、俺は反対だね」
「成程、兼さん流石だね…!」
「うーん…確かにその意見も頷けなくはないけども、“此れ以上見てられない!”というのも事実だから何とも言えないな…。そりゃあ、他人の恋路問題を周りがとやかく言うのは雅に欠けるとも思えるし、周りが囃し立て過ぎるのも如何なものかという意見もあるのは頷ける。でも、僕の性格上、どうしても放っておけなくなるんだよ…。あまりにもどかしい思いになるとね」
「兄弟はどう思う?」
「え…っ、お、俺は……その…どちらでも良いんじゃないかと思う…。こういうのは、本人達の意思次第だろう?和泉守の意見に同調する訳ではないが、あんまり周りが彼是あれこれ言うのもどうかと思う…。まぁ、こんなどっち付かずな写しの意見なんて参考にならないと思うがな…」
「もぉ…っ、君はまたそうやって卑屈になる…っ。良いかい?今、此れは僕達の率直な意見を聞かせてくれという体で意見を募っているんだ。仮に君が本歌であってもなくても関係無いのだよ!そもそも、君は自分の価値がどういうものかを分かっているだろう!国広唯一の傑作と言われた事を誇りに思うのなら、もっと自分に自信を持てば良いじゃないかっ!!」
「ま、まぁまぁ…っ、歌仙さん落ち着いて!今の兄弟の発言は何時もの事なんですから…っ!」
「主達の事も大概だが、彼の卑屈さも良い加減どうにかしたいものだよ…ッ!!」
「おいおい…之定、どーどー…っ」


思わぬ事態の発展に、部隊は一時撤収となった。

大丈夫かな、アレ…放置して。

取り敢えずは彼等の事は一時保留にして、次へと回った。

お次は洗濯場へ突撃。

洗濯場に居たのは、虎徹兄弟と三池組、貞宗兄弟、といった兄弟組の集まりだった。

一番始めに答えたのは、何時でも素直な浦島君である。


「ん〜、そうだなぁ〜…ぶっちゃけ、主さんはもっと攻めに行っても良いと思うんだよね!だって、この間偶々見ちゃったんだぁ、田貫が御手杵に相談してるとこ。ちょこっと聞こえた程度なんだけどさ…どうも主さんと先に進みたいとかどうとかって事を話してたみたいだったよ!だから、俺は賛成かな!」
「ほぉ…彼奴もなかなか苦労してるんだなぁ。俺としては、別にどちらでも構わないという感じだが…まぁ、そうだな。強いて言うならば賛成といったところだろう」
「贋作の意見はどうでも良いが、俺的には賛成かな?理由は、今の浦島が言ったのと似通ったものさ。俺も、彼が何人かに相談している場を見掛けたからね。正式にくっ付いても良いんじゃないか?」
「俺は…あまりそういう事に明るくないから何とも言えないが…二人が決めた事なら、どちらでも構わないんじゃないか?俺は、当人達の意思を尊重する…」
「うん、俺も兄弟と同じ意見だな!俺も兄弟も、本丸に来たのが遅くてまだ日が浅いし、主と同田貫の奴が何処まで行ってるのかとかもあんま知らないしな。取り敢えず、凄ェ仲が良いんだな!って事ぐらいしか分かんねぇから、あんまし意見にならねぇかも。でも、もし二人が結婚するってなら祝福するぜ!」
「僕も、別に気にならないよ。僕はご主人様に忠実な下僕しもべだからね…!ご主人様が幸せを望むのなら、其れを叶えてあげるのが役目さ!嗚呼、でも…もし結婚式にまで進んだ先で僕が突然反対なんて言い出したら、ご主人様は怒るかな?もし怒られるなら、綺麗な花嫁衣装を着た状態のご主人様に蹴られたいな…っ。いや、ソコは踏まれるのもアリか…!純白のドレスに身を包んだ上で、足先まで着飾って素敵なヒールを履いたご主人様に、蔑まれながら踏み付けられたいな……っ!!嗚呼っ、想像しただけでもゾクゾクしてきちゃったよ!花嫁衣装のご主人様に痛め付けられて床に転がされるのも堪らない…っっっ!!」
「はぁ〜い、兄さんは一旦落ち着いてくださいね〜っ。興奮するのも其れくらいにしておきましょうかぁ〜…!」
「毎度ウチの兄貴がごめんな…っ、本当すまねぇ…。まぁ〜、気を取り直して俺の率直な意見を返すと、俺は大賛成だぜ!見るからにお二人さんはお似合いだからな…っ!!寧ろ“何でまだくっ付いてなかったんだ?”って思うくらい自然な距離感で居るしよ!俺達に遠慮なんかしないで、此処はド派手にババァーンッ!!と決めちまえって!」
「僕としても、賛成します。お二人が幸せなら、僕は其れで構いません。お二人がご結婚なされる時は、是非僕も呼んでくださいね!喜んで祝福させて頂きますから…!勿論、幸せのお裾分けについての相談事もお任せくださいね!」


圧倒的光オーラで締め括られた場だった。

若干一名の兄の飛んでも発言が空気に霞む程度には癒されるオーラであった。

お次に向かった場所は、厩。

其処には、本日の馬当番の…村正組、祢々切丸、千代金丸という比較的大きい組の揃った四振りであった。


「おや、何だか面白い事をしていますネ。良いでしょう。是非、ワタシも参加致します。率直に意見を言えば良いのデスネ?なら、答えはYesデス。見た目は全く正反対そうなお二人デスが、実の仲はとってもお似合いの夫婦デス。きっと心から愛し合っているのでしょう、もっと深い関係に進んでも良いんじゃないでしょうか…?そう…例えば、夜は互いに生まれた姿を晒け出すように脱いでしまえば良いのデス。そうすれば、きっと内なる想いも解き放たれる筈…ッ!さぁ、ワタシを見習ってアナタも脱ぎましょう!!」
「お前は脱がんで良い…ッ!!すみません、主…此奴は何時もこんなですが、悪い奴ではないのです。どうか、嫌いにならないでやってください」
「蜻蛉切は心配性デスねぇ…。アナタの意見はどうなんデスか?」
「自分と致しましては…特に反対するような理由は無いかと。見るからにお二人は仲睦まじくされておりますし、もし婚約を結ばれるとあっても、何ら違和感はありませんな。寧ろ、自然な流れかと自分は思います。ただ、急にご準備をされるとなっては、些か大変でしょう。自分の力が必要になった際は、何時でもお呼びください。力になりましょう」
「そうだなぁ〜…どちらかと言うと、俺も賛成意見に近いだろうかぁ?俺は、本丸に来て日が浅いが、二人が仲良くしてるのは分かるしなぁ〜。結婚にーびちすんのも、良いんじゃないかねぇ。だって、俺…初め二人を見た時、あんまり仲良さそうだったから、てっきり夫婦みーとぅんだかなと思ってたくらいだからさぁ〜。ねねちり〜もそうだよなぁ?」
「うむ、確かにそうだな。我も、二人はつがいなばかりと思っていた。…が、実際はまだそうではなかったようだな。我は別に二人が番ろうがいまいが気にはせん。好きにしたら良いと思う」
「というところだなぁ〜。こんな感じで良かったかぁ?役に立てたんなら安心だ〜」


実に率直な意見の集まったメンバーであった。

最後は畑へと突撃である。

本日の畑当番は…ずおばみコンビと古備前組、+長谷部と伽羅ちゃんというコンビだった。


「えっ、あの二人ってまだくっ付いてなかったっけ…?俺、てっきりくっ付いてるもんとばかりに思ってたんだけど…そっか、そういや主はまだ婚約指輪もしてなかったっけ。じゃあ、Yes意見に一票!理由は簡単!早くくっ付いて欲しいから!!」
「俺も特に異論は無い。二人の好きにしたら良いと思う」
「俺は、一応反対派に入れておくとしよう。別に今急いで婚儀を行わなくても良いと思う。主が例え未婚のままであっても、俺は気にしませんよ?年齢が結婚適齢期であったとしても、無理にご結婚をなさらなくても良いじゃありませんか。俺がお側に付いております。…でも、もし主自ら彼奴と結ばれる事をお望みになられるのでしたら、俺は応援致しましょう。俺は主に忠実な臣下ですからね。式場の手配なりご準備に掛かる資金繰り云々についての何から何まで、全て俺にお任せください。主命とあらば、何だってこなしてみせましょう…!」
「…馴れ合うつもりはない。…が、別に良いんじゃないか。アンタ等が結婚したいと思うのならすれば良いし、したくないのならしなければ良い。今時、婚約を結ばずとも寄り添うだけで居る夫婦というのも珍しくはないからな…。好きにしたら良いんじゃないか」
「俺は、そういう事についてはよく分からん…っ!だが、主が思うように成すのが望ましいと思う!!」
「俺も同意見だ。あまり他人が首を突っ込み過ぎるのも良くないしな。俺達はゆっくり見守っているぐらいが丁度良い。まぁ、成るようになるさ。好きにしたら良い」


何とも好感触な意見ばかりだった。

その後も数振りに話を聞いて回ったが、基本的にはやはり賛成派が多数で。

軽く本丸の半数近くの意見を募ってみたところで一度集計してみる事となり、部屋へと戻った。

すると、やはりではあるが、賛成派の圧倒的勝利という感じの結果と相成るのであった。

マジかよ…皆、そんなに私とたぬさんを完全なる形でくっ付けたい訳?

改めて結果を目の当たりにして驚いた。

終始私も付いて回らされながら聞いてたけど…まさか此処まで浸透(?)してるとは思ってなくて、居た堪れなくなった。

どうしよう、私ってばそんなに優柔不断というか、躊躇ってるように見えてたの?

マジかよ、嘘かよ。

恥ずかしさで軽く死ねるんだが。

穴があったらば入りたい…否、埋まっときたい。

今からでも、鶴さんの掘った落とし穴探しに出掛けようかな…。

そして、ついでに落ちて埋まっとこうかな。

色んな意味で居た堪れなくなり、顔を覆い隠して俯いていると、集めた結果に大満足な様子の二人がこう言ってきた。


「ほらね?皆、主が幸せになる事を望んでるんだよ。だから、此処は素直になっちゃおう?」
「そうだよ、あーるじ…!もう観念しちゃいなって。包囲網は確実に出来上がっちゃってるぜ?此れ以上は逃さないよ〜、ってね…!素直になっちゃいなよ」
「ゔゔぅ……っ、な、何て素晴らしい程の包囲網なんだ…!審神者的には、出来ればこの力を他で活かして欲しいと思うな……っ!」
「諦めなって。主はもう彼奴とデキてる。なら、後はもう先に進む他無いよ」


羞恥で半泣きになっているところを、横から二人に肩ポンされた。

うぅ…っ、連携力が憎い。

あまりの完全なる包囲網に、心はすっかり其方側へと傾いていたのであった。

そうして、流れに流されまくっていたら、とうとう話の当人であるもう片側が部屋へとやって来る。


「なぁ、何か俺と主の関係について色々と聞いて回ってるって聞いたんだが…」
「丁度良かった!田貫君も、此れどうかな?実際に本人達に訊いてみるのもアリだよね!」
「よし、田貫、率直に答えて…っ!」
「そん前に、何で主の奴涙目になってんのか訊いても良いか…?」
「あ…ごめん、コレは本当何でも無いんです…っ。ちょっとあまりの居た堪れなさと恥ずかしさに堪え切れなくなっちまっただけですんで…あの、本当気にしないでね」


若干本気で涙腺緩んできそうになってたのを無理矢理押し止めて笑って誤魔化した。

思わず、ぐすりと小さく鼻を啜ってしまったけれども、たぶん大丈夫だ。

しかしながら、色々と聡いたぬさんは私の目の端に浮かぶ泪を拭い取ってからこう言った。


「…別に、俺はアンタが望むなら正式に結ばれても良いと思ってるぜ。其れだけ長くアンタの側に就いてるんだしな。アンタが、“俺が良い”と言うのなら、俺は其れで構わねぇよ。俺は、アンタの刀に選ばれただけでも満足してるからな。…まっ、その先も望む事を許されるんなら、そりゃ有難く受けさせて貰うぜ?何せ、俺はアンタに惚れてる身なんでね。出来る事なら、番いたいと思うさ。その相手が“俺で良い”と思えるならな…?」


もうハメ殺しも良いとこだと思ったわ。

完全なる殺し文句じゃねェーかよ。

此れで落ちなかったら、難攻不落の鉄壁野郎だわ。

そう思っちゃうくらいには瞬殺で陥落してしまう台詞であった。


「…其れで?主の返事はどうなのよ…?」


ニヤついた顔の清光が追随して問うてくる。

答えはもう決まっていた。


「………此処まで言われたら、もう流れに身を任せるしかないっすよね…ッ」
「よっしゃあ!!言質取ったりーっ!!」


横で嬉しそうにガッツポーズを決めた清光。

実に嬉しそうである。


「うん…昔、学校で教わった…“間違いでも結婚申し込まれたら、間違ってても良い!うんって頷いてOKしちゃいなさい!”…って。“じゃないと行き遅れちゃうわよ!”って……たぶん、こういう事だよね?俺、まだ二十五にも満たってないけど、結婚すんにはもう丁度良い時期に入ってるし。リアルの友達も、今度結婚するって言ってたしなぁ…。既に結婚して子供居る同級メンバーも少なくないし…此れが自然な流れってヤツなんです?俺、恋愛沙汰には疎いからよく分かんないや。まぁ、この際成るようになるか…っ!」
「おっ、漸く前向き発言出てきたねぇ〜!その意気だよ、主…っ!!」
「其れにしても、今時凄ェ事教える先生も居るもんだなァ…」


経てして、彼との婚姻の儀…またの名を結納を行う事になったのだった。

取り敢えずは、結婚式の準備に式場の手配や資金繰りは黒田組が行うと名乗りが上がり、その他諸々は粟田口派が取り仕切ると乗り気で名乗りを上げた。


「式場の手配なら、俺にお任せを。最上級の場所を、主に」
「長谷部がぶっ飛んだとこ押さえんごと、俺がしっかり見張っとくけん安心しんしゃい。資金繰りについたっち、俺達にどーん!と任しぇとけ…っ!そこそこ良か感じん値で良かとこ探しとくけん!!出来る限り安価で且つ良かとこ探しなら得意ばい…っ!!」
「全体の指揮を取る監督のお役目ならば、この鳴狐にお任せあれ…っ!きっと素晴らしく良い式になるよう努めてみせますぞ!!」
「…任せて」
「衣装選びなら、ボク達におっまかせぇ〜!!飛びっきり可愛いのを選んであげるね!」
「衣装選びは良いのですが…主君は何方の様相をお選びになるのでしょうか?希望次第で変わってくるので、その点までしっかりきちんと決めなくてはなりませんね…!」
「せっかくだから、この際どっちも着たら良いんじゃないか?お色直しで衣装を着替えるのは、定番だろう?」
「そうだね!大将なら、洋装ドレス和装着物もどっちも似合うと思うよ…っ!」
「着物を選ぶのなら、俺に任せてくれ。目利きなら得意だ。どうせ晴れ着を着るんなら、一から仕立ててみるってのはどうかな?きっと素晴らしい式になると思うし、一生の思い出になるんじゃないかな?」
「蜂須賀さん、ナイスです…!」
「取り敢えず、白無垢は外せないと僕は思います…っ!主君の白無垢姿、是非見てみたいです!!」
「其れなら、田貫さんも紋付き袴が良いですね…!きっとパリッと格好良く決まる筈です!」
「主殿は、どうお考えですかな?」
「え…っ?お、俺は…別にどっちでも……。極力あんまお金掛けないで出来たら、其れで良いかなって…」
「おいおい、主…せっかくの披露宴なんだぜ?此処はどーんっとド派手に決めなきゃ意味ねぇじゃねーかぁ!こういう時こそパァーッと使っちまわねぇでどうすんだよ?変なとこでケチんのは良くないぜ!」
「人生に一回切りの結婚式なんだからさぁ、此処は我が儘言って両方着ちまおうぜ…っ!大丈夫、主さんは綺麗なんだから、どっちも似合うって!なっ、蛍?」
「うん。どっちもイケると思うよ。せっかくなんだから、どっちも着ちゃえ着ちゃえ!」
「え、えぇ〜……っ?ど、どっちもっすかぁ…??」
「結婚式をするなら、お花が必要だよね。何れくらい用意したら良いのかな…?」
「あ、確かにそうですよね…!御祝いにお花は欠かせません!」
「所謂、ブーケトスってヤツに使われる為の花も必要だよね!」
「其れに、参加者はどうするんだ…?其れも含めて考えた方が良いんじゃないか?」
「其れもそうだよねぇ…。挙式するなら、記念撮影とかもするんじゃないかい?」
「おおっ、にっかりしょうえい事思い付いたにゃあ!カメラなら、わしに任せい!!むふふふ…っ、こういう時ん為に一眼レフっちゅーんを買うてたちや…っ!!ようよう本来の意味で役立つ日が来てくれてまっこと嬉しい!!」
「何時ぞや帳簿を付けていた時に、何に使ったか分からない金額があったアレはお前のせいか…っ!勝手に本丸の資金を使うんじゃない!!」
「カメラ買うくらいえいやかぁ〜!本丸の記録として撮るんやきぃ〜っ!!」


気付けば、アレやコレやと意見する声があちこちから飛び交い、賑やかな場となっていた。

何だかんだ言いつつ、結局自分も乗せられてその輪の中心に居たのである。

皆に囲まれて、少し気の早い祝いの言葉を貰いながら笑っていると、少し離れた処で様子を見守っていた彼に、お爺ちゃんが近寄って囁いた。


「漸く納まるところに納まったか。良い良い…。おぬしも随分と気を揉んでいたのが報われたのではないか?良かったなぁ、正国よ」
「爺さんか…。確かに、アンタには色々と世話になったからなァ。一応、礼は言っとくぜ。ありがとサンクス」
「俺からも御祝いの言葉送っとくなぁ〜!結婚おめでとさん!」
「お前もかよ…っ。つか、結婚おめでとうには気が早ェっての…まだ俺達結納済ませてねぇんだから」
「でも、もう婚約した内には入るだろ?だから、おめでとさんで良いの!」
「ふむ、ならばご祝儀という物が要るものよな…?はて、幾ら包むのが相場だったか…」
「爺さん、気が早過ぎるって…っ」
「しかし、子が式を挙げるとなって喜ばぬ親はおるまい…?ぬしも我が子等の内よ。素直に祝福されるのを受け取っておれ。…して、幾ら欲しい?必要なだけ包んでおいてやろう」
「いや、だから待ってくれって…!三日月の爺さんだけでも面倒なのに、その上を行くアンタにまで来られたら手に負えねぇっての…ッ!!」


何とも賑やかで愉しげな祝福ムードに包まれる本丸であった。


執筆日:2020.06.29
加筆修正日:2020.09.05

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