その答えはきっと


其れは、とある真夜中での出来事だった。

眠っていた途中でふと目が覚めて、その後も寝ようと試みたがやたら目が冴えてしまって、仕方なく水分でも取りに厨にでも行こうかと起きて母屋の廊下を歩いている時だ。

厠帰りらしき長義ちょぎ君と鉢合ってしまった拍子に、盛大に驚かれてしまったのであった。


「うわあ…っ!?な、何なんだ一体!!」
「あ、こんばんは長義君。変に驚かせちゃって御免ね…、」
「時間遡行軍ではないようだが、まさか新手の敵か!?其れか、妖の類いではないだろうね…っ!?どっから入ってきたのかは知らないけど、この本丸には結界が張ってあった筈!そう簡単に余所者は迂闊に入れないようになっているのに…っ、警備はどうなってるんだクソッ!!今、手元に本体は持っていないんだぞ!?こういう場合の対処法はどうすれば良いかなんて一言も聞いてないぞ政府…ッ!!」
「…あのー、めちゃくちゃ焦ってるとこ悪いけども…君が相手してるの、俺だよ?君の主、この本丸の審神者……って言ったところで聞いてないな、この子…。動揺のあまりめちゃくちゃ混乱に陥ってるわ。どうしようかね、この状況…?夜中だから、あんま騒いで欲しくないのだけど…混乱してるせいで話通じないから落ち着かせる事も出来ないや。はぁ…厄介な事になっちったなァ…」


おまけに、真っ暗なせいでお化けか妖かと勘違いされてしまったようだ。

真っ暗な中、長い髪を下ろしたままであったのにも原因があるだろう。

あと、寝起き且つ寝癖で顔の前にその長い髪がカーテンのように掛かってしまっていたのも悪かったのだろう。

刀を持っていない代わりにめちゃくちゃ警戒されて、動揺のあまりかまともに会話も通じない状況となってしまっていた。

さて、困った。

彼はこの本丸に配属されたばかりで日が浅い。

夜中の深夜帯という事もあり、何とか宥めすかせて落ち着かせたいが、話を聞いてもらえない状態では手の打ち様が無いし…参ったな。

せめて、まんばちゃん辺りでも気が付いて来てくれたらこの場が改善、且つ収まりそうなのだが…どうしたものか。

そうこう思っていたら、運良く騒ぎを聞き付けて起きてきたらしいまんばちゃんが長義君の後ろからやって来てくれた。

ホ…ッ、助かった。


「おい、夜中にうるさいぞ。一体何を騒いでるんだ…って、本歌じゃないか。こんな夜中にどうしたんだ?」
「“どうしたんだ”じゃないよ偽物君…っ!んな呑気で悠長な事言ってる場合か!!今すぐ俺の本体を持ってきてくれ!!敵が侵入してきてるんだ…っ!!」
「はぁ?敵…?アンタ何を言って…って、誰に向かってそんな事を言ってるのかと思えば、主じゃないか。」
「は?主…?この化け物染みた姿の奴がか…?」
「おい、失礼だぞ本歌…。仮にも女の身の主に化け物呼ばわりは無いだろう…。其奴は、紛れもなく俺達の主だ。寝起きで長い髪が乱れて飛んでもなく恐ろしい、所謂貞子みたいな姿に見えちゃあいるがな。まぁ、この姿を初めて見たのならそんな風に驚いてもしょうがないだろう。俺達も初めの内は似たような反応だったしな。…で、主の方はどうしたんだ?また眠れずに起きてきて水でも飲もうと厨に向かっていたところか?」
「うん…正解だよ、まんばちゃん。君が来てくれて助かったよ…。まさか長義君に此処まで驚かれるとは思ってなくてね…一応、話しかけてみてはいたんだけど、見事に無視られちゃったからどうしようもなくて。困ってた時に君が来てくれたから安心したよ〜」


まんばちゃんの言葉に返事を返したら、その声で漸く気が付いたらしい長義君が此方に向き直る。

長義君の吃驚顔って珍しいな…貴重な機会と思ってちょこっと拝んどこ。

そう思ってたら、長義君が妙に神妙染みた声を出して問うてきたから、つい小さく吹き出してしまった。

御免、悪気は無いんだ。

許しておくれ。


「え…その声は主……――という事は、君は本当に主だったのか…?」
「(ぷふ…っ。)――うん、そうだよー。周り真っ暗だったし、顔も髪で完全に見えなかったから吃驚したんだよね?驚かせちゃって御免ね〜。俺、髪長いから、寝起きは何時もこうなるんだよ…」
「ほ、本当に俺の主で合ってるんだろうね…?偽物君諸共俺を騙そうとか、そういう話ではないんだよね?」
「おい、其れはどういう意味だ?本歌。俺は正気だぞ?」
「うるさいよ偽物君。俺は今彼女に話しかけてるんだ。ちょっと黙っててくれないか?」
「疑り深いなぁ〜、長義君は…。ほら、こうしたら暗くても俺の顔だって分かるでしょ?」


そう言って、私は自分の顔の前に垂れ下がる長い髪をカーテンを開ける如く分けてみせた。

そしたら、その見せ方に凄く微妙な顔をしてみせた彼が微妙な反応を返してきた。


「…うん、わざわざ分かりやすいように見せてくれたのは有難いが、その見せ方は些か如何どうかと思うよ?主…」
「え?そうかな…」
「ほら、嘘じゃなかっただろう?本歌」
「君も一々うるさいな…っ!仕方ないだろう!ただの人間よりも夜目が利くとは言え、視界が悪い真夜中に真っ暗闇の中からヌボォ…ッと何かがやって来てたら、誰だって驚くんだから…ッ!!偽物君だって一度驚いた経験があるなら同じようなものだろう!?」
「どーどー、長義君…っ。驚かせちゃった俺が悪かったから…っ、一旦落ち着こう。なっ?ほら、今真夜中の時間だから、あんま騒ぐと他の子が起きてきちゃうよ…?」
「ぐ…ッ!そもそもが君がそんな格好してなければ此処まで驚く事も無かったんだけどね…!」
「その件についてはマジですまんて…っ。謝るから、どうか腹の虫を収めておくんなましぃ〜……っ」


未だ憤り気の落ち着く様子を見せない彼に戸惑い、わたわたとしながらも必死に声をかけて宥めかけていると…。

騒ぎを聞き付けてか、元より起きていたのかは分からないが、しっかりとした足取りと声音で此方へとやって来たたぬさん。

真夜中の深夜帯という時間なせいか、ちょっとだけ不機嫌そうに眉を寄せて迷惑そうな顔付きであった。


「誰だよ、こんな夜更けに騒ぐたァ…何がどうしたってんだ、ぁ゙あ゙?」
「あ、たぬさん…。もしかして騒がしくて起こしちゃった…?だったら御免ね」
「うぉ…っ、誰かと思えば主かよ…っ。……あ゙ー、っつーと、もしかしなくてもしかしない状況か?此れは…」
「う、うん…っ。例の如く、また意図無く一名脅かしちゃったみたいでね…。本っ当御免ね、俺の髪が長いせい&寝起き酷くて…」
「いや、まぁ…もう慣れたし、一回ビビったら後はそんなにビビらねぇしな。…つか、その見方止めろ」
「すまん、ついな」


たぬさんにも微妙な顔をされて指摘されたので、素直にスッと止め、代わりに前に下りていた髪を上に掻き上げて後ろに流す事にした。

うん、こっちの方が断然怖くないだろうし、視界も利くから良いや。


「で…?今回の被害者は長義の奴か?」
「嗚呼。どうやら、この主の姿を見るのは初めてだったみたいでな。化け物か何かと勘違いをしてビビっていたところに、偶々厠に起きた俺が騒ぎを聞き付けた…という事だったらしい」
「な…ッ!勘違いしないでくれないかな、偽物君…!俺は確かに驚きはしたが、別にビビった訳ではないからなッ!?」
「どーでも良いが、もうちっと声のボリューム落とせねぇのか…?アンタ等の声、大き過ぎて道場近くまで響いてたぞ。夜中はただでさえ静かで音が響くんだ。ちったぁ考えて物喋れ、新刃」
「ッ…、す、すまない……っ、俺もつい気が動転してしまっていてね。思わず夜中に騒いでしまった事については謝罪しよう。――が、この偽物君が言った事の全てが事実ではないので、その点にだけは訂正を入れさせてくれ。断じて俺はこの主の姿にビビった訳ではない。其処だけは履き違えないでくれたまえよ?」
「わぁーったから…おら、用が済んだならそれぞれ部屋戻って寝ろ。主、アンタもだ。水飲むなり何なりさっさと用済ませて部屋戻れ。んで寝ろ」
「お、おぅ…っ。最初からそのつもりだったんすけど、思わぬアクシデントのせいで厨に行くに行けなくなっちまってたのでね…。お陰様で余計に目が冴えちゃったわ。…たぶん、このままじゃあ寝付けそうにないから、水飲んで部屋戻ったら明日やる用の書類でも少し片してようかな…?」


たぬさんが介入した事により事態は収束し、それぞれに別れてその場を去る。

だが、たぬさんだけは私に付き添うように付いてきて、一緒に厨までやって来た。

その道中に、先程の会話の最中思っていた疑問をぶつけてみた。


「ねぇ、もしかしてたぬさんって今までずっと起きてたの…?」
「あー、まぁな…。別に眠れねぇって事でもねぇんだが、何となく起きてたついでに警備がてら夜の番してただけだ」
「ふんふん、成程ね。其れで道場の方に居たって訳か。てっきりたぬさんの事だから、寝ずに鍛練でも励んでたのかと思ったよ」
「…アンタの方はどうなんだよ?」
「ん?俺?俺はー…何かふと目が覚めて、変に目が冴えて眠れそうになかったから、ちょっと水分でも取って来ようかなぁ〜って起きてきただけさね。他は何も無いから安心して良いよ」
「そうか…」


その後はお互い無言で静かに廊下を進み、目的だった厨へと到着する。

取り敢えず、白湯を飲もうとポットの中の残量を確認して、まだ一、二杯飲む余裕は十分にありそうだったので、自分と一応彼の分の湯呑みを用意してお湯を注ぐ。

注いだ一つを彼に手渡し、そのままテーブル端に凭れ掛かったまま少し冷めた其れをグビリ、と傾ける。

彼も私に倣い、渡した湯呑みに口を付け、中身を口に含む。

ホッと息を吐いたところで、私から静かな静寂を破って言った。


「そんなに俺の寝起きの姿って怖いのかなぁ…?確かに、今髪伸ばしっ放しで放置してるから其れなりにめちゃくちゃ長いし、寝起きは寝相と寝癖も相俟って酷い状況にあるのは自覚してるけども…そんなビビる程お化けっぽく見える?」
「まぁ…真っ暗ん中いきなり目の前に現れたらビビるレベルではあるな。パッと見、貞子って奴と大差ねぇぜ?今のアンタ」
「マジか…。でも、貞子ってもうちょい髪長くない?俺はまだ胸元レベルだけど、貞子は確かもっと長くて腰より下のレベルじゃなかったっけ。あと、ビジュアルもっとおどろおどろしくて、服だって真っ白のワンピース着てるんじゃなかったっけか?俺、今着てるのただのパジャマだよ」
「アンタ、やたら詳しいが…リアルで貞子の実物でも見た事あんのかよ?」
「いんにゃ?んな訳ないじゃん。俺、リアルホラーは苦手だもん。貞子はホラー界じゃ有名な作品だからね、何度も映画とかでリメイク作品化してんのよ。俺はただその宣伝CMTVテレビで見て知ってただけ。実際に観に行ったとかではないよ。ホラゲー実況とかは見ても、そういうガチな物は見ないようにしてるから。だって、海外の洋画物はただの吃驚系で心臓に悪いだけだけど、日本のホラーはガチで怖いし、じわじわと精神抉ってくるからね。そんなん見るとか無理、怖過ぎて絶対夜眠れなくなるし、下手したら夢にまで見そうで嫌だ。だから、リアルホラーは無理」


私がそう返したところで、一度会話は途切れ、また深夜の静かな静寂が戻ってくる。

今度其れを破ったのは彼の方だった。


「そんなに気になるようなら、髪結ってから寝たら良いんじゃねーのか…?一つに束ねてたら、そんな風に乱れる事もねぇだろ」
「あー…確かに其れも有りなんだろうけど、逆に寝づらくないかなぁ?何か結ったゴムの部分が当たって寝づらそうなんだけど…」
「気になりそうなら、後ろで下の方で緩めに結えば良いんでねーの…?あと、結い紐も柔らかい素材の物にすっとかさァ」
「あーねぇ…なるなる。ゴムはシュシュにすれば感触柔いし、寝てる時当たってもそんなに気にならないかな?…ふむ、今は髪ぐしゃぐしゃのまんまだから、一旦櫛で梳いて軽く整えた後に緩めに結ってみるか」
「どうせ俺もまだ暫く一時は起きてっし、暇で遣る事無ェから俺が結ってやるよ」


彼からの意外な申し出に、私は素直に驚きを見せて反応を返した。


「え…っ、良いよ、わざわざ其処までしてもらわなくても。髪結うくらい、たぬさんの手を煩わせる程の事でもないから」
「どうせアンタも起きて眠くなるまで仕事すんなら一緒だろ…?ついでに、アンタが無茶しねぇように見張っといてやるよ」
「おぅふ…っ、そういう事かいな…。まぁ、たぬさんの好きにしてくれたら良いけどさ」


水分も取り終わり、使った湯呑みも片して厨の明かりを落としてから部屋へと戻る。

離れに戻るまで、再び二人の間に沈黙が降りたが、嫌ではなかった。

寧ろ、真夜中な時間帯を思えば、静かにしている方が正解であったのである。

自室に辿り着き、髪留めを仕舞った小箱から一つのシュシュを取り出し、鏡台の前に座って後ろを振り向く。


「ハイ、何時も使ってるシュシュと櫛のブラシ。髪結う前に此れで梳いてからにしてね。一応訊くけど、シュシュの使い方は分かるよね…?普通のゴムと同じ使い方だよ」
「おう…其れくらい分かってるっての。アンタが使ってんの何時も見てっから」
「そっか。じゃあ、俺は前向いてるから、宜しく頼むね」


そう言って大人しく鏡台の方へ向き直り、目を伏せて自分の膝上に置いた手元を見つめた。

鏡越しに目を合わせるのも何となく気まずいかな、って思っての配慮だ。

しかし、まぁ彼の事だから、あまり気にしなかったのかもしれないが。

大人しく後ろを任せて目を伏せていると、静かに髪を梳き始めた彼がぐしゃぐしゃの寝癖だらけの髪に触れ、元在ったように整え始める。

ある程度整ったら、手に持った髪留めで緩く下の方で結い始める。

シュシュで一つに結うだけの簡単な作業はあっという間に終わり、寸分と掛からずに彼から声をかけられた。

其処で伏せていた視線を上げて鏡を見遣る。

すると、綺麗に整え結われた髪と何時もの仏頂面をした彼の顔が一緒に映り込んでいた。

其れに加えて、鏡越しに彼が短く「どうだ?」と問うてくる。

私は素直に満足のいく出来だと頷いて振り向き、彼へ直接面と向かって礼を述べた。


「有難う、たぬさん。何でかたぬさんが結ってくれた時の方が自分で結った時よりも綺麗で羨ましいなぁ」
「別に、こんなん誰が結ったって同じだろ…?気のせいだ、気のせい」
「そうかなぁ…?ま、良いか。取り敢えず、髪結ってくれてありがとね」
「おう…。明日からはそうやって結って寝ろよ。髪長いままで短くしねぇんだったら、面倒くさくても纏めとくか何かしとかねぇと、また今日みたいに誰かしらがビビって騒ぎになるかもしれねェーからな」
「うん。明日の晩からはそうするよ。今切っちゃったら、此れから寒い季節になるのに逆に寒くなっちゃうからね。切るのは、たぶん冬が過ぎてからかな…?まだ未定だから分かんないけど」


綺麗に結われた髪にさわり、と触れながら呟く。

其れに彼は何も言わずにただ見つめてくるだけだった。

その晩は、その後も暫く私の部屋で二人で過ごし、一つ仕事を片し終わるぐらいで彼からのお咎めの声がかかり、流石にそろそろ寝る事に。

寝る頃になったら彼とは部屋を別れて床に就く。


―次の日の晩は、前田君が就寝の準備を手伝ってくれて、髪を結うのも彼が進んでやってくれた。

昨日の晩と同じく鏡台の前に大人しく腰を据え、彼に背を任す。

此方は此方で兄弟の乱ちゃんで慣れているのか、手慣れた様子で結い上げてくれた。

綺麗に結われたその様に、私はまた満足気に頷いて言葉を返す。


「有難う、前田君。流石は前田君、慣れた手付きだね」
「はい、何時も五虎退や秋田の髪を梳いたりしていますから。偶に、乱兄さんに頼まれたりもしますから、其れででしょう。平野の髪も、実は僕が整えているんですよ?代わりに、僕の髪を平野が整えてくれるので、毎日綺麗に整ってるんです…!」
「ふふふ…っ、だから何時も綺麗な髪してたんだね。じゃあ、明日は平野に髪結い頼んでみようかな?」
「きっと平野も喜ぶと思いますので、是非声をかけてやってください…!…其れにしても、何故急に髪を結んで寝るようになされたんですか?乱兄さんは何時もの事なので納得出来ますが…主君は何故唐突に?」


至極最もな問いかけに、私は小さく微笑みながら訳を話した。


「実はね…昨日の晩、ふと目が覚めた後、妙に眠れなくて、ちょっと水分でも取りに行こうかな〜って寝起き姿のまま厨に行っちゃって…その途中で、厠帰りらしい長義君と鉢合わせちゃってね〜。んで、例の如く驚かせちゃって…ちょっとした騒ぎになっちゃいました。まんばちゃんが聞き付けて来てくれたから何とか話通じるようになったし、話してたらたぬさんも来て騒ぎを収めてくれてね〜。其れで、こう毎度毎度誰か脅かすようだと面倒だからって助言されてさ。昨日の晩から髪結って寝るようにしたの」
「成程。だから、今朝方、山姥切さんと長義さんがいがみ合ってらっしゃったんですね。仲は悪くないんでしょうが、もう少し長義さんの方も歩み寄れたら少しは改善すると思うんですが…っ。まぁ、此れは当人達の問題ですし、僕達外野は静かに見守る事と致しましょう。あまりこういう事に他人が首を突っ込んでも逆に事が拗れるだけだと、来たばかりである鶯丸様も仰られていましたしね」
「そうだねぇ〜。今暫くは様子見としとこうか。でも、きっと、その内何だかんだ言いつつも二人は仲良くなるよ。此れだけは間違いなく確信出来るね…っ!まぁ、時間は掛かると思うけどもね。ゆっくりでも良いから、お互いに歩み寄れたら良いと思う…。はっちーと曽祢さんの時みたいにさ?ま、二人もまだまだな関係ではあるけども、間に浦島君が居るから、あっちはまぁほたっといても何とかなるでしょ」
「そうですね。我々は静かに温かく見守っておきましょう…!――ところで…、髪を結うようアドバイスくださったのは何方だったんですか?」
「ん?たぬさんだよ?貞子みたいで怖いから止めろって直球で言われちゃった。ははっ、実は皆の反応が面白くてやらかしてたとこもあるから、ちょっとだけ残念…!かと言って、不可抗力に驚かせちゃってたのがほとんどだったから、流石に申し訳なくてね。今髪切っちゃうのも季節的に寒かったからさ。其れで…?」
「…成程、そういう事でしたか。同田貫さんからのアドバイスなら、納得の話ですね!」
「うん…?」


何故かたぬさんからのアドバイスだと教えると、妙に納得した様子で頷いた前田君だった。

不思議だなぁ…。

ちなみに、後から聞いた話だが…長義君がやけに驚いていた理由に、その日の昼間、にっかりさんから怪談話あるあるで貞子の話を聞かされていたから…、との事らしかった。

何とまぁ間が悪いというか、或る意味タイムリーな時に起きた出来事過ぎて申し訳なく思ったのと同時に、改めて謝罪するのだった。


執筆日:2020.09.05

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