幸せの温もり


年末の大掃除で、本丸中を綺麗にしていった。

普段の掃除ではやらない窓磨きといった事までとことんやった。

一年前と比べてまた刀数も増えた事だし、奮発して増築した事もあり、ひとえに大掃除と言えど其れは其れは大変な作業であった。

まず人数が多ければ掃除する部屋数も倍になる。

まぁ、各自個刃達の部屋は各々で協力して片付けてくれれば済む。

イベント事と同時進行となる事も踏まえて手が空いている者達から早めに取り掛かってもらい、他の細かい点についてのみ年末近くになって皆で纏めて掃除していく形を取ったお陰か、今年最終日の大晦日までには大方の掃除を終えて本丸中ピカピカになっていた。

成程、此れはなかなかに壮観である。

最後の窓磨きと軽い床掃除で汚れた手を綺麗に洗ってきて部屋部屋を見渡しながら思う。


「そっち終わったか」
「おぉ、たぬさん。此処んとこ忙しくて部屋に籠りっ切りだったから、何だか久し振りだね。離れの私の部屋なら、今さっき終わったところだよ」
「じゃあ、この後歌仙達に伝えとくわ」
「うん、有難う。歌仙達も年末は正月の仕込みとかで忙しいもんね。カンストしてから随分経つ分、めっきり戦闘には出してあげれてないのが申し訳ないけど、そういった日常面での方で大変お世話になりっ放しで本当頭上がんないっすねぇ〜…。私の運営が拙いばかりに、なかなか極修行出してあげれなくて御免ね、皆…っ。年明けか、今やってる連隊戦が終わる前には一人出せる様準備しとくから待ってて…!」
「アンタも忙しい中色々調整してて大変だなァ…」
「今回の連隊戦はかなり遅れが生じてる分、年明けたら凄ェ巻き返し図んなきゃいけないからね…!おまけに新春鍛刀キャンペも始まるから脳内てんてこ舞いだよ…っ!!新刀剣男士まだ誰か把握してないけど、取り敢えずGET目指して頑張るぞ!!勿論連隊戦も同時進行で!十文字君欲しいもん!!お陰で審神者既に色々消耗してるけど頑張るんだもん…っ!!脳死周回の鬼周回だって余裕で決めてやらぁ!!周回組はお団子とお弁当セットで最後まで頼む頑張ってくださいお願いしますぅ〜…っっっ!!」
「…取り敢えず、アンタが現段階で滅茶苦茶疲れてんだなって事は分かった。から、一遍落ち着け…」
「ふぐぅ…っ、冬の厳しい寒さも相俟って辛いよぉ…!けど有難う!今のささやかな労いだけでも審神者励まされたよ!此れで今日年末最終日も乗り切れそう…っ!!」
「そりゃ良うござんしたなァ」


通りすがりに逢ったのは、何だか久し振りに見る彼の顔だった。

最近はレベル調整も相俟ってなかなか編成に組めないからか、周回組と違って直接面と向かって顔を合わせるのは久し振りな事である。

そう考えると、まこと我が本丸も刀数が増えたなぁとしみじみ思う。

此れから迎えるであろう新刃君達も含めたら、優に九十振りは超えるだろう。

そりゃ皆それぞれと顔を合わせる機会も減ってきて当然というもの。

ここ数日間、年末年始の連隊戦の件に付きっきりで部屋に籠り切りだったせいも大いにあるなと思う他所で、そういえば今何れだけノルマこなせてたんだっけと頭が計算をし始める。

疲れた頭を更に働かせようとする私を察してか、此れ以上無駄に疲労させまいと思考を中断させるべく、ぽんっ、と彼の大きな手が私の頭の上に乗せられた。

そのお陰もあって、数字で頭いっぱいになっていた脳内はパッと思考していた諸々を霧散させて空っぽになる。

そして、漸く彼と向き合う様に視線を合わせた。


「アンタに今必要なのは休息だろ…?其れなのにより頭働かせようとしてどうすんだ。脳味噌だって少しは休ませねぇと頭狂っちまうぞォ」
「あはは…っ、御免ね。つい、周回に遅れが出てるの気になっちゃって……」
「気になんのは分かるけどよ、其れでアンタが参ってちゃ元も子もねェーぞ」


再度、ぽんぽんっ、と頭の上の温かな手が私の頭を軽く叩いて促す。

うん、ちょっとは思考も休めないと頭パンクしちゃうよね。

お言葉に甘えて掃除を終えたついでに小休憩を挟む事にした。


「丁度今時分に、小豆達が八ツ時用にってぜんざい用意してんだ。もう何振り何人か既に部屋に集まってて暖取りながら食ってる。俺達も食いに行こうぜ」
「わあっ、丁度作業してて冷え凍ってたからあったかい物食べたかったんだよね!ついでに頭使いまくって疲れたから、甘い物摂取しようかとも思ってたんで助かる…っ!」
「どうせ、仕事の方も一旦区切り付けたんだろ?なら、アンタも一緒に厨行って貰いに行こうぜ。豆の粒が苦手な奴等の為に濾してお汁粉も用意してくれてるらしいからさァ」
「おぉ〜っ、皆の気遣いが有難過ぎて身に沁みるわぁ〜…っ」


私と違って温かな温度をした彼に手を取られて縁側の道を進む。

然り気無く手を引く為に繋がれた手をポケットへと突っ込んで一緒に温めてくれるのが地味に嬉しい。

そんな嬉しさを滲ませて私は小さく笑みを漏らした。


「んふふ…っ、たぬさんの手あったかい…!」
「反対にアンタの手は随分と冷てぇな」
「だって、しょうがないじゃん…っ。ついさっきまで窓磨きとか床拭き掃除とかしてて、手ぇ洗う為に冷たい水触ってきたばっかなんだから」
「だからこうしてあっためてやってんだろ…?寒がりのアンタが少しでも寒くなくなれる様に」


何ともストレートな告白だと思った。

お陰で、恋人らしい事に未だ慣れない顔に熱が集中してきて赤らんでくるのが分かった。

今、鏡見たら絶対真っ赤な顔した自分とご対面になる事間違いなしだから見ないでおこう。

どうせ、この後擦れ違う子や部屋に集まる皆に見られるのだから。

今の内に冬の冷気で冷ましておこぉーっと。

彼のポケットの内で握り込まれた手をそっと握り返すついでに、寒がる振りをして首を竦め彼に引っ付いた。

すぐに「歩きづれぇ」との文句が飛んできたけども、其れも彼の口だけの方便だったのだろう。

文句を言った割りには歩くスピードを落として空いたもう片方の手で私の身を引き寄せて抱くから、彼も彼なりに顔を合わせる暇も無かった数日間を寂しく思ってくれたのかな。

都合の良い勝手な解釈だけれども、そう思う事にして、今はこの小さな幸せを噛み締める事にした。

そうして二人仲良く一緒に厨へと行って、それぞれぜんざいとお汁粉を受け取って部屋へと向かい、躰温まる甘い甘味に舌鼓を打つのだった。

寒さ厳しくても、彼と一緒なら何時でもすぐに身も心もあったかくなれるのだから、まこと不思議である。


執筆日:2021.01.16

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