誰そ彼時に見る夢
何処か虚ろとした意識であったように思う。
夢に居たのか、
その時の私は、何故か東西槍の二人に両の手を繋がれているような感触があって。ふと意識が他所に逸れた際に彼等の手から離れ、何言かを注意するような声を飛ばす号さんの声も無視して、フラフラと何処かへと歩いていこうとした。たぶん、何かに気を惹かれたか、誰かに呼ばれたような気がしたのだと思う。すると、途端に焦った風な切羽詰まった声で呼び止めてきたぎねが、慌てて離れた私の手を掴んできて言うのだ。
「駄目だろ〜俺達の手を放しちゃ……っ。アンタ、何処かフラフラとしてて危なっかしいし、此処は人通りも多い処なんだからさ。はぐれて
そう言われて不思議に思いながらも、彼の手をぎゅっと握り返してやれば、私の反応に満足したのか、笑みを浮かべた彼は繋いだ手をしっかりと握って引いていった。
よく分からないけども、何処か賑やかで沢山の人が行き交う大通り的な場所で迷子になりかけでもしたのかな……?――と思ったところで、ふと目が覚めた。
不思議な夢(?)だった。
度々、何かよく分からない夢を見ては、ぎねが出てきて何やら正しい方向へ導かれているような気のする感じのものを見る。何でなのだろう。何とも不思議でしかない夢の内容に、私は目が覚めてからも暫く夢見心地でうつらうつらとしながら首を傾げた。本当にアレは何だったのだろう?
よく分からないまま寝惚け眼を擦っていると。誰かに何事かを頼まれ呼びに来たのだろう、先程まで夢で逢っていた彼が部屋を訪ねに来た。
「おーい、主〜っ。歌仙の奴が飯出来たから呼びに来いってさぁー。仕事、キリの良いとこまで終わってんなら、早く行こうぜ? 他の奴等待たせちまうのも悪いし。何より、アンタも腹減っただろ?」
「うん……。あっ、ねぇぎね……! さっき私の夢に出て来なかった?」
「……うん? 何の話だ……?」
突然の話に、二人して首を傾げてキョトンとする構図が出来てしまった。何とも間の抜けたシュールな光景である。一先ず、その場は“何でもない”と適当に誤魔化し、机の上を片して夕餉を食べに部屋を出て行く事にした。
其処になって漸く気付いたが、どうやら自分は仕事をしている最中の途中で、夕暮れ時の涼やかな空気に絆されてうっかりそのまま寝転けてしまっていたようだ。その際に、先程の夢を見たらしいと今更ながらに現状を思い出した。よくよく考えずとも、そういえばそうだったと思い至って、食事の後またもう一度部屋へ戻って遣りかけの仕事を片付けなければならないと内心溜め息を
そうこう考えつつ、夕餉に出された物全てを腹に収めた後、食器を下げに行った先で彼に呼び止められた。
「なぁなぁ、さっきの話って結局どういう意味だったんだ? 食事中ずっと考えてはみたけど、よく分かんなくてさ……。どうしても気になっちまったから、いっその事本人に聞いた方が早いと思って聞きに来た」
食事中ずっと頭を悩ますような発言をしてしまった事については、本当に申し訳ないと思った。彼の指摘もご
手っ取り早く彼の疑念を晴らすべく、厨から出た足でそのまま自室へと呼び、謎を呼ぶ発言に至った
改めて話せば、初めて聞く内容の話に彼は驚いたように目を小さく丸めた。
「どうして俺や日本号がアンタの夢ん中に出て来たのかまでは分かんないけどさ……たぶん、アンタを脅かそうとする何かから助けてやろうっていう意識が働いたからじゃないかぁ? ほら、俺達槍ってのはさ、戦じゃ真っ先に敵に突っ込んでいくものだろう? だから、俺達の外敵排除への強い意識が、無意識下でアンタを守ろうとしたんじゃないかなぁ。そうじゃないと説明が付かないっつーか……まぁ、俺の臆測でしかないんだけども」
「うん。でも、その筋で合ってるのかも……。有難う、ぎね。此れで胸の内にあった蟠りが解けてスッキリしたよ」
「そっか。アンタにとって、俺に話した事がプラスに働いたんなら良かったよ。次もまた同じような夢を見た時は言ってくれよ? 俺、一緒に考えるからさ!」
「うんっ。改めて有難うね、ぎね。んじゃ、私は、さっさと残りの仕事片付けちゃわなきゃなんないから、仕事に戻るね。うっかり夕方の涼しさに微睡んで転た寝しちゃったせいで、まだ今日のノルマ分こなし終わってなかったんだよね……へへへっ」
「ん、分かった。それじゃあ、何か用があったら呼んでくれよ。俺、まだ暫くは起きてるし。夜食が必要なら、歌仙や燭台切達に伝えとくからさ。仕事、頑張れよーっ」
「あははっ、有難う! うっかりまた寝ちゃわないよう頑張る……!」
そう言葉を返して彼とは別れ、今日の残り分のノルマと向き合う事にした。残っていると言っても、大した量ではない為、普通に集中して頑張れば、日付が変わる前には片付け切る事が可能だろう。一応、寝落ちる前にやれるだけはやってしまっていたらしい自分を褒めて、改めて気合いを入れ直し、机へと向かう。
――一方、彼はというと、審神者部屋から出て少し歩いたくらいの然程離れてはいない場所から、密かに私の事を眺めていたのだった。
「…………気を付けろよ、主」
そして、不穏とも取れる言葉をポツリ、独り言ちるようにして呟いた彼は、ただただジィーッと静かに見つめたまま、暫く無言でその場に佇むのであった。
加筆修正日:2023.07.19