#12:ブラックアウト



週末には、彼女からの連絡があって、組織の収集こと初・顔合わせ。

本来なら休みで行く必要の無い大学に、彼等の警戒の為出掛けたり、仕方がないから一コマ分の時間を食堂で過ごしたり(せっかくだから、昼食も其処で済ませた)。

その分、疲れているのに、早起きをする羽目になったりと…。

散々な土日を過ごした梨トだった。

お陰で、心身共にゆっくり休む事が出来ず、疲れ果てていた。

更に重なった不運は、週明けの月曜日が一限目からの講義であった事だ。

しかも、三限目まで空きが無く、昼過ぎまでびっちり詰まっているというスケジュール。

「泣いて良いか…?」と心の底から零したくなったのが、つい数時間前の事…。

今になって、そんな講義の選択の仕方をした自分を呪った。

組織からの接触を極力避けようと、今後の事を色々考え込んだりして、夜もまともに眠れておらず、ふらふらとした足取りで大学の帰り道を歩いていた。

通りすがりの通行人が、彼女をチラリと見遣った矢先で驚愕の表情を浮かべる。


(うわぁ〜…そんなに酷いかな、私の顔……。確かに、すんごい寝不足ではあるものの…そんなドン引きされる程、酷い状態なのかな…?マジかぁ〜…じゃあ、今知り合いに逢ったら相当やばくね…?)


そんなくだらない事をまともに働かない思考で考えていると、梨トは、小さな公園の目の前へ差し掛かった。

公園からは、幼い子供達の遊ぶ賑やかな声が聞こえてくる。

その声に、「子供は元気だねぇ…。」とまるで年寄りみたいな感想を漏らし、乾いた笑みを浮かべる。

公園で賑やかに遊んでいるのは、小学校低学年くらいの子供達。

男の子達の中に女の子も混じって、仲良くサッカーをやっている様子であった。

わいわいと楽しげに声を上げる子供達の元気っぷりに、何だか懐かしいなと感じて、歩みを落とし眺める梨ト。

思えば、自分もあれくらい幼い頃はよく遊んだものだ。

同年代の男の子達に負けず劣らず無邪気に走り回って、やんちゃをしていた想い出がある。

あの頃の歳は、体力は無限大にあったのだろうかと思う程、今の自分の体力の無さを痛感する。

もう歳だな…、とまだ若い大学生でありながら思う梨トなのであった。

サッカーをして遊ぶ小さな男の子が、今、争っていた男の子からボールを奪い取った。

同じチームの男の子だろう、顔にそばかすのある少年が、歓喜の声を上げてゴールの方へと駆けていく。

先程、ボールを奪った男の子の先を見てみると、先回りして待っている同チームと思しき茶髪の女の子が、片手を上げてパスを促していた。


―皆、活発だなぁ〜…。


のんびりとした様子で、子供達の動きを目で追っていると。

ライバルチームの子だろうか。

一緒にサッカーをしているメンバーの中で、最も体格の良い男の子が彼の元にスライディングを構し、ボールを奪い返した。

どうやら、この子と競り合っているみたいである。

梨トは、帰宅途中であった事も忘れ、悠然と眺めていたのだが…。

少し眺めた程度でその場を離れていたら、後に起こるような事にはならなかったのだろう。

その出来事というのが、これから約二秒後に起こる事なのである。

ボールを奪われた小さな男の子が、再び彼から奪い取って、その場からロングシュート…!

―と、なるかと思いきや。

足を蹴り上げた際に、先程の少年から体当たりをされ、ゴールへ飛ぶ筈のボールは軌道を外れ…。

何故か、自身の目前へと迫るボール。

…え?

ボーッと突っ立って眺めていた梨トは、勿論、避け切る事など出来ず…。


「わ…っ!?お姉さん、避けてぇっっっ!!」
「危ない…ッ!!」
『ぇえ…っ!?』


子供達からの避難勧告も虚しく、真正面から思い切り顔面へボールを食らった。


『ぅ゙ぶ…っっっ!!』


盛大な呻き声を上げ…、ボールを受けた勢いのまま、派手な音を立ててぶっ倒れる。

ただでさえ貧血気味だったところに、ボールがぶち当たった衝撃で頭を揺さぶられ、ぐらりと傾いだ視界。

おまけに、後ろへ倒れた所為でコンクリートに頭を強打した梨ト。

意識を飛ばすには、十分過ぎる程条件を揃えていたのだった。


「お姉さぁーんっっっ!!」


遠くから慌てて駆け寄ってくる子供達の声を聞きながら、思考をブラックアウトさせた。


―私、公園の外に居たのになァ…。


「どんだけ飛ぶんだよ、サッカーボール…。」という愚痴も発する事無く、空虚へと消えていった。


執筆日:2016.06.13
加筆修正日:2019.11.28

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