#18:廻り出す歯車


「それじゃ、また明日ぁ〜っ!」
『おー、また明日ぁーっ。』


一緒に帰っていた同じ大学に通う友人と別れ、自身の家が在る方向へと歩き出す。

今日は、比較的楽な授業ばかりだったので、気楽に受ける事が出来た梨ト。

ご機嫌な様子で帰り道を歩いていると、前方から賑やかな声が聞こえてきて、其方へ目を向けた。

すれば、其処には見知った顔の人達が居るではないか。

先日、知り合ったばかりの子供達である。

初めて目にした時と同様な様子で、仲良く笑い声を上げているようだった。

先日お世話になった礼もあったので、気兼ねなく此方から声をかけに行き話しかけた。


『…こんにちはっ。君達も学校帰りかな?』
「あ、この前の…っ!」
「あの時のお姉さんだぁっ!」
「もう大丈夫なのかよ?」
『うんっ。あの後、ちゃんと病院に行って検査をしたら、ただの脳震盪だから心配ないって言われたよ。』


子供達は元気が良いもので、声をかければ気持ちの良い返事が返ってきた。

その様子に微笑みつつ、前以って言いたかった言葉を述べた。


『この前は心配かけてごめんね…?君達の適切な処置のお陰で、大した怪我にならずに済んだよ。有難う。』
「ううん…っ。あれは、昴さんも居たから早く対処が出来たんだ…。僕達だけの力じゃないよ。」
『それでも、お世話になった事には変わりないから、一言御礼を言いたかったの。本当にありがとね。』
「いいえ…!梨トさんが元気になられたのなら、良かったです!」


ボールをぶつけた本人であるコナン君は未だ申し訳なさそうな表情であったが、「もう気にしないで良い。」との旨を伝えるとホッと息を吐いていた。


「そういえば、今日は寝不足じゃないのね。」
『へ…?』
「そうだ!この間の姉ちゃん、スッゲー隈だったもんな!!」
「ええ、凄く酷い隈でしたね。何か、悩み事でもあるんですか…?」
『え?えぇ…?』


唐突に振られた話題に混乱していると、元気いっぱいの女の子である歩美ちゃんがにっこりと笑って話しかけてきた。


「悩み事があるなら、歩美達聞いてあげるよ!」
『えっ?悩み事…?』
「そうだよ!俺達、その為に居るんだぜ?」
「ですね!誰かが困っていたり、悩んでいたら相談に乗る…。正しく僕達の出番です…!!」
「だって、私達…、」


一度言葉を切ったかと思えば、何やら三人集まり…。


「「「少年探偵団だから(ですから)!!」」」


…と、決めポーズを決められ、宣言された。


『…しょ…少年探偵団…?』
「お前ェ等なぁ…梨トさん、固まっちまったじゃねーか。」
「だって、この間は言いそびれちゃってたんだもん…。」
『…えっと…その少年探偵団って、具体的には何をやってるの…?“探偵”って付くぐらいだから、探偵らしい事もするのかな?』


コナン君が呆れた顔で言うと、ちょっぴりしょんぼりしてしまった歩美ちゃんがポツリと呟いた。

半笑い状態で何とか思考を繋ぎ止めた梨ト。

懸命に話しかけてくる彼等を傷付けないよう、当たり障りの無い言葉を選んで喋った。


「僕達少年探偵団は、何か悩み事を抱えている人や困った人が居たら相談に乗ったりしているんです…!」
「探偵らしく、謎解きだってやるぞ!」
『へぇ…。』
「実際に、事件の調査やその事件で生まれた謎なども関わってきたんですよ?」
『ぇえ…っ!?それって危なくなぁい?』
「うん。だから、本当に危ない時は警察に頼むし、大人の人を呼ぶよ。」


大した度胸の持ち主達だ。

リアルに起きた事件等にまで関わっているなんて…。


「ちなみに、殺人事件の謎だって解いた事あるんですよ?」
『はぁ!?殺人事件も…!?』


思わぬ台詞を聞き、驚きを隠せなかった梨トは盛大に狼狽える。


『…どんだけ危ない橋渡ってきてんだよ君達……。』
「私や江戸川君が、前以って注意したり止めてはいるんだけどね。」
「コイツ等、全く聞かねぇんだから…。」
『あははは…っ、お疲れ様です………。』


まさかの事実に、乾いた笑みしか浮かばない。


「ですから、何か気になる事や相談したい事がありましたら、遠慮なく僕達を頼ってください!!」
「俺達の連絡先教えるからよ!」
『あ、あぁ…有難う。その時が来れば、頼らせてもらうね?』
「うん!!…あ、恋のお悩み相談だって受け付けてるからね!梨トさんが恋愛で困ってたら、私、どんなお話だって聞いてあげる…っ!!」
『う、うん…っ、有難う…。でも、たぶん、そっち系の悩みは一生かかっても無いと思うから安心して…?』
「え…梨トさんって、まだ恋人いらっしゃらないんですか…?」
『うん、居ないけど…。そういうの興味無いし、作る気無いから。』
「あら、意外ね。」
「なぁんだ、彼氏無しかよ〜。」


何故か、いつの間にか個人の恋愛事情な話になり、落胆される彼女。

解せぬ…。


『…あ、そろそろ私帰らなきゃ…っ。先日、弟に叱られちゃったからね。』


前回の件があるので、今日もあまり遅くならない内に…と、適当に話を切り上げようとすると。


「あっ!ねぇ、梨トさん…っ!」
『ん…?なぁに?』
「僕達、これから博士の家に寄るんだけど…梨トさんも一緒に来ない?」
『え……?』


唐突な申し出に、梨トはぱちくりと瞬きをする。

呼び止めてきたコナン君は、変わらず言葉を続けた。


「博士…この間、梨トさんを家に送り届けた後もずっと心配してたから。元気になった梨トさんの顔見たら、安心すると思うんだ!」
『あぁ…そうだったの。それは、何だか申し訳なかったな…。』
「それに、今日は昴さんがクッキーを焼いて持ってきてくれる事になってるんだ!昴さんの作る料理はとても美味しいから、良かったら梨トさんも一緒に来ない…?」
『え゙……っ。』


彼の男の名が出た途端、明らかに動揺し、戸惑いの顔を見せた梨ト。

その瞬間を見逃さなかった彼は、一瞬だけ目を鋭くさせる。

次の瞬間には、元の子供らしい表情に戻っていたが、一瞬でも彼の本性を垣間見た彼女は警戒し、注視した。


『……せっかくの嬉しいお誘いに申し訳ないんだけど…今日はこの後予定が入ってるから、遠慮させてもらうよ。』
「そっかぁ〜…残念。昴さんの手作りクッキー、凄く美味しいのに…。」
『ごめんね?また今度の機会にご一緒させてもらうね。』
「うん、分かった。昴さんにも、そう伝えとくね。じゃあ、またね!梨トさん…っ!」
『うん…それじゃあね。皆も気を付けて。』


平然を装って背を向けた梨トは、周囲に目を配らせながら再び帰路を歩き始める。

何事も無かったように去っていく彼女であったが…その背には、とある少年の視線が突き刺さっていた。


執筆日:2016.07.03
加筆修正日:2019.11.30