#23:胡散臭い笑顔と言葉
ベルモットとの食事を終えて、一度化粧直しをしてから、目的の合流地点へと向かった。
今回共に任務を行う、もう一人のメンバーと合流する為だ。
彼女の運転する車に乗り込み、梨トは前回乗った時同様に緊張した面持ちで窓の外を眺めた。
―もう一人のメンバー…、ねぇ…。
探偵気取りだとか言うが、本当なのだろうか?
探偵とかやっているなら、ぶっちゃけ自分の知らないところで色々と調べられそうで厄介だな…。
出来れば、あまり関わりたくない相手なんだが…任務上、コンビを組まされる事もあるだろうから、拒否権無しだ。
任務さっさと終わらせて帰りたいなぁ〜…。
乗り込んでからずっと無言で居たのを心配したのか、彼女から励ましの声がかけられた。
「…貴女、大丈夫?前回同様に強張った顔してるけど…。そんなに気を張らなくても、簡単な任務だから安心しなさい。」
『…危険な事ばかりするような輩とこれから逢うのに、安心なんて出来ますか。』
「あぁ…そっちなの。大丈夫よ。彼、自分が不利になるような事は絶対しないし…。私達にあまり積極的に関わろうとはしないから。あの人、基本単独行動が多いし。」
『それでも、直接逢わなきゃいけない時点で私は嫌なんですけど。』
「それは、コンビ組ませたボスに言ってくれる…?私は担当外よ。」
『言える訳無いじゃないですか。死ねって言ってるようなものですよ?』
「あら、それはごめんなさいね。」
少しだけ胸の内を吐露したお陰で落ち着きを取り戻した梨ト。
合流地点に着くまでの間、窓枠に肘を置き、頬杖を付いて流れ行く夜の景色を眺めたのだった。
―薄暗闇の中、何処か開けた空き地のような場所に車は停車した。
出るように促されたので、仕方無しに外へ出ると、其処は広い路上駐車場であった事が分かった。
という事は、長時間此処に駐車する訳ではなく、すぐに出る予定なのだろう。
どう考えても、敢えて車通りの殆ど無さそうな場所を選んでいるのを見て、「ははは…っ。」と乾いた笑みが漏れた。
程なくして、向かいの方角から白い車がやって来た。
手入れを怠っていないのか、随分と綺麗な車体だった。
「―お待たせしてしまって、すみません。少し待たせてしまいましたか?」
「いいえ、時間通りよ。」
「それは良かった。女性を待たせるのは、マナー違反ですからね。」
停車した白い車から降りてきたこの男が、今回、彼女等と共に任務を行うメンバーである。
薄い色素の髪に、色黒の肌。
自信家なのか、顔には自信満々というような笑みが浮かべられている。
服装は、目立たない色の紺のジャケットにズボン。
足元は革靴らしく、黒く光りを反射していた。
パッと見、お洒落には気を遣う男なのだという事が分かる。
外見からして、年齢は若い方だろう。
童顔に垂れ目なのが、余計に拍車をかけているように見える。
「先日は、会合に欠席してしまって、どうもすみません。当日、探偵の仕事の方で依頼人(クライアント)から依頼を受けてしまい、それがどうしても外せなくて…。彼女が、先日言っていた例の新入りの方ですか?」
「ええ、そうよ。」
「これはこれは…また随分と可愛らしい方を入れたものですね。聞いていたよりも、ずっとお若いようだ…。」
逢って早々、失礼にも相手をガン見(観察)していると、視線に気付いたのか、此方に視線を向けた男。
彼女の背に隠れるように一歩身を引いて話を聞いていたら、その距離を埋めるように近付いてきた。
「初めまして。貴女が、先日入ったばかりだというキティですね…?僕の名前は、“バーボン”。これが、あの方より与えられしコードネームです。今夜は、任務をご一緒出来て光栄です。お手柔らかにお願いしますね?」
『……………。』
「あれ…?初めて顔を会わせたから、緊張してるんですかね?」
「…まだ学生の身だから、しょうがないんじゃない?彼女、現役大学生だから。」
「あぁ、シャイなんですね…?ふふ…っ、本当に可愛らしい方だ。」
『………胡散臭…っ。』
「「え?」」
思い切り眉間に皺を寄せた彼女は、そう口にした。
ボソ…ッ、と呟かれた言葉は、かなり辛辣なもので…。
漸く言葉を発したと思ったらそんな言葉が出てきたせいで、二人共声を揃えて驚きを表した。
「……キティ?どうしたの、急に…。」
『あぁ…すみません。あまりにも胡散臭い笑みを向けられたので、つい条件反射的に…。』
「……可愛らしい顔して、結構毒を吐くんですね…。まぁ、構いませんが…。」
彼女が遠慮無く思っている事を言うと、少なからずショックを受けたのか、バーボンは顔を引き攣らせながら苦笑した。
初対面でいきなりそんな事を言われれば、落ち込まない筈が無いだろう。
しかし、梨トからしてみれば、あまりにも貼り付けたような胡散臭い笑みに加え、歯が浮くような台詞をサラリと言われれば、引いてしまうのも無理はなかったのである。
まぁ、最も組織の人間がその程度の事でへこたれる事は無く、気を取り直して話題を変えた。
「それにしても…。何故、こんなにも若い彼女を組織の一員として招き入れたんでしょうね…?」
「それはボスに訊いてくれる…?私に訊いたって仕方無いでしょう。それより…、早く取り引き場所に行きましょう?」
「…それもそうですね。此処で立ち話もなんです。僕の車に乗ってからお話ししましょう。いつも通り、僕の車で移動するって事で良いんですよね…?」
「ええ。お願いするわ。」
「畏まりました。では、今ドアを開けるので、此方に。どちらが助手席に座りますか?」
「いつも通り、私よ。彼女は後部座席の方に座らせて頂戴?」
「分かりました。では、ベルモットからお先にどうぞ。」
紳士にも、ドアを開けて相手を先に乗せるバーボン。
成る程、なかなかの対応っぷりだ。
このイケメンっぷりなら、世の女性は放っとかないだろう。
なんて事を考えて見ていると、流れるような動作で後部座席のドアを開けた彼。
「さぁ、お次はキティの番です。此方へどうぞ。」
『………。』
「…?どうしたんですか、キティ?」
『…それ、意識してやってます?』
「はい…?」
『…いえ、無意識なら良いんです。変な事訊いてすみません。』
「はぁ…。」
訳が分からないといった顔をした彼を放置して、促された通りに後部座席へ乗り込んだ梨ト。
運転席に乗り込んだ彼はエンジンを掛け、車を発進させる。
そうして、一行は取り引きが行われるという場所へと向かったのであった。
加筆修正日:2019.12.04