#02:記憶
あれは、大学の帰り道だっただろうか…。
―或る時、突然、通りすがりの外国人に話しかけられたのだ。
その人は、とても美しく美人で、滑らかに波打つ金の髪を持った女性だった。
彼女は、緩やかに走らせていた黒いバイクを停めて、肩越しに私の方を振り返り、こう言ったのだ。
「―
一瞬、誰に対して話しかけてきたのかが分からず、私は一度足を止めて周囲を見遣った。
すると、その場には私以外の人間は居らず、それと同時に、どうやら話しかけられていたのは私だったのだと遅れて理解した。
念の為の確認の為に、私は首を傾げつつも自分を指差し、「私か…?」とジェスチャーを返して見せる。
「
そしたら、フェイスカバーを外しながら、何とも流暢な英語で返されてしまった。
しかし、自身の知り合いにこんな美人で外国人の知り合いなど、居ただろうか…?
記憶を遡ってみて考えてみるも、彼女のようにべらぼうな美人な知り合いなど逢った記憶が無かった。
というか、一度擦れ違ったら確実に振り返り見る程の美人に逢う事自体、そうそう無かった筈だ。
では、彼女は一体誰なのだろうか?
私はあからさまに首を傾げ、頭を捻った。
(はて…知らぬ間に、何か喧嘩を売るような事でも仕出かしただろうか…?)
否、そんな事をした覚えは無いし、そもそも彼女が自身のすぐ側を通り過ぎた時も、何やらバイクが通ったな…という事を認識しただけで、それ以外は何も起こっていないし起こしていない。
不躾にもガン見するように視線を投げかけた、という訳でもない。
では、私なんぞな平凡且つ地味な女子大生に、一体何の用なのだろうか?
ぶっちゃけ告白するなら、そんなに英語は喋れないのだが…。
発音なんて、完全日本人的だし。
ネイティブな英語で流暢に喋られたら、確実に私は困惑すると思う。
そんな些末な事を、その刹那の一瞬の内に考えた。
その時、表面上…顔に出ていたのか。
笑みを含んだ口調で彼女が言葉をかけてきた。
「…ふふふっ、心配しなくて良いわよ。私、日本語も喋れるから。」
『あ、そうだったんですか…。(変に心配して損した…っ。)』
その時、初めてその場で私は声を発した。
自身への呟きだった為か、つい通常より低い声が出てしまったが…大丈夫だっただろうか。
相手は外国人のようだし、何処で失礼な態度に受け取られてしまうか分からないので、変に力が入って緊張してしまう。
「ちょっと訊きたい事があるのだけど…お時間良いかしら?」
『はい…、構いませんが。』
「そう。有難う。」
ヘルメット越しにではあるが、彼女は容姿が美人なだけではなく、声にも艶があると分かって驚いた。
これが俗に言う、“セクシーボイス”というヤツか…。
ふむ、何とも色っぽさを匂わせる声だ。
…と、またどうでも良さそうな事を考え出す自分。
どうでも良いが…初対面の人間に対して、この思考はかなり失礼ではなかろうか?
マジで頭可笑しくないか?私。
斜め上な方向にも程があるぞ、自分よ…。
と、また考え込んでいると。
女性がとうとう被っていたヘルメットを取り、軽く頭を振って、ヘルメットに覆われて分からなかった顔の全貌を明らかにした。
なんと、息を呑む程の美人さんではないか。
何たってこんな美女が私に話しかけてきたのだろうか。
十中八九、道を尋ねる為だとか、そんなところだろうか。
…なんて思ったのが、激しく見当違いだった訳で。
「貴女、“ギムレット”っていう男…知らない?」
まさかの内容の問いが彼女の口から飛び出してくるのだった。
加筆修正日:2019.10.18