眠気勝って寄りけり。


任務を終えた後、そのまま俺の部屋を訪れた彼女を気軽に誘えば、「夕飯も一緒に、ご相伴に与る。」と言った。


『縢君に負けず劣らず、コウちゃんの手料理も美味しいねぇ〜…。』
「褒めたって何も出ないぞ?」
『別に、そういうつもりで言ったんじゃないよ。』


小さくむくれてそっぽを向く未有。

照れ隠しでやっている仕草なのを知っているから、密かに微笑んで、酒を口にした。

晩飯を共にした後、ゆったりとした時間を過ごしていたら、疲れで眠たくなった彼女がぼんやりとしだした。


「未有……?眠いのか…?」
『…ん〜……?』


「あぁ、こりゃダメな奴だな。」と判断して、俺は、今にも寝落ちそうな彼女に言った。


「おい、未有。寝落ちる前に風呂済ましとけ。」


欠伸を構し、目を擦る未有を風呂場へ連れていく。

何とか風呂を済ませた彼女が風呂場から出てきたら、手早く髪を乾かしてやり、うとうとと舟を漕ぎ出したところを起こし、せめてもと歯磨きをさせる。

そこまでくると、眠気はもう限界なのか。

未有は、殆ど目を瞑らせた状態でフラフラと寝室へ向かった。

其処は、俺の部屋だが…部屋を移動させる手間を掛けさせるのは今の彼女に酷だろう。

仕方無く、「最後の頑張りだ。」と上の服だけでも着せるべく、寝間着代わりに自分のTシャツを着せた。

人間、眠くなり過ぎると、こんなにも活動能力が低下するものなのか…。

何とか服を着せると、下はサイズが合わないから、もうそのまま我慢してもらうしかない。

が、そもそも彼女は今、眠気が勝ってそれどころじゃないようだ。

既にうつらうつらと頭を揺らし、身体も傾いできている。

静かに溜め息を吐くと、彼女を抱え、ベッドへ寝かせる。

その頃には既に、未有は夢心地で、俺の名を寝言混じりにか細く呼んだ。


『……こ、ぅちゃ………。』
「ん…?何だ、まだ何かあるのか…?」


そう、優しく声をかければ。


『手、握る…。』


―と、子供のような希望を望んできた。

片手で彼女の手を握ってやり、もう片方の空いた手で眠りの淵を漂う彼女の頭を撫でる。

すると、気持ち良さげに顔を綻ばさせた未有は、今度こそ完全に眠りに就いた。

俺は暫くその寝顔を眺めてから、自身も寝る支度をする為、頭を数回ポンポンッと触れ、側を離れる。

シャワーを浴び終えて寝室へ戻れば、ぐっすり寝付いている彼女の姿が目に入った。

此処、公安局に入り立ての頃は、それはそれは借りてきた猫のように警戒心剥き出しであった。

しかし、今やどうか。

こんなにも丸くなり、いつしか自分の恋人なる立ち位置にまでなっているではないか。

だが、別に悪い気はしない。

寧ろ、心地好い存在だ。

髪を乾かせば、彼女の隣へと身を滑り込ませる。

すれば、温もりが側に寄ってきた気配を感じてか、擦り寄ってくる未有。

全く、愛らしいもんだな…。

温かい気持ちに包まれながら、彼女を胸に抱き、直に自分も眠りに就くのだった。


執筆日:2016.12.16
加筆修正日:2019.03.31

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