
#03-シビュラの神託
先程の場所から、少し歩いたぐらいの距離だろうか。
近くで、パトカーらしきサイレンの音が鳴っているのが聞こえた。
内心、これから起こるであろう事に凄くワクワクしているが、現実そう甘くはない。
程なくして、少し離れた場所にパトカーが荒い動きで停まった。
身近で聞いたブレーキ音は酷いものである。
そして、乱暴に停められた車から、勢い良く飛び出してきた男。
「おい、佐々山…ッ!勝手に行動をするな…ッ!!」
「んな悠長な事、言ってられっかよ…っ。」
「人の話を聞け…ッ!!」
降りてきて早々、もう一人として現れた男に怒鳴られている男は、勿論知っている。
何せ、此処は、この世界は…未有が好きで好きで堪らなかった、あのアニメ「PSYCHO-PASS」の世界なのだから…。
完全に覚醒した頭は、理解した事柄でパニック状態に陥っていた。
「早く指示下さいよ…っ、監視官殿。」
「少し待て…っ。俺達だけでの行動は出来ない。まだギノ達が来てないだろう…?それに、対象が何処に潜んでいるかも分かってないんだ。」
「…それなら、もう見付けちまったぜ…?」
「は…?何を言ってるんだ、お前…っ。今着いたばかりだぞ?」
「監視官殿、…よぉく周りを見てみて下さいよ。どう考えても、人が殆ど居ないとされるこの現場で、一人廃棄区画を彷徨く女が居るかね…?―其処に居る嬢ちゃん、ちょーっと訊きたい事あんだけど、良いかな?俺達お巡りさんなんだけどさぁ、ちょっと今事件起きかかってて、その原因になりそうな犯人探してんだけど…少しだけ協力してくれねぇ?っつー訳で、死にたくなけりゃ、その場から動くな。止まれ。今すぐ両手を上に上げて大人しくしな。」
「な…っ!?ちょ、おい、何やってるお前!相手は未成年だぞ…ッ!?」
「ピヨ噛先生ェ…っ。んな甘っちょろい事言ってたら、この先やっていけねぇぜ……。」
此方を向いたのは、佐々山執行官。
言うが否や、腰から拳銃ならぬドミネーターを素早く引き抜き、立ち尽くす未有へと向け牽制した。
彼女はというと、特に逆らう理由など無いので、言われた通り大人しく動きを止めた。
ついでに、銃を向けられた時のお約束、両手を挙げて降参の意思を見せた。
慣れぬ場の緊張感に、冷や汗が流れる。
「よぉしよし…。こんな所に立ち入るとは、悪い子だねぇ。…それにしても、まだ学生か…?エリアストレスが上昇したっつー連絡受けたから来てみたものの、まだ餓鬼じゃねぇか。どうせ女が相手なら、もっとナイスバディな姉ちゃんが良かったなぁ…。まぁ、雨で服ずぶ濡れで色っぽいだけマシか。」
「…佐々山……ッ、」
「―遅くなってスマンなぁ、コウ。」
「…!とっつぁん、ギノも来たか…っ。」
「狡噛、対象の状況は…?」
「あ、あぁ…っ、それに関しては、今のところ特に動きは無い。丁度、佐々山が足止めしていたところだ。」
「…思った以上に早いな…。もう対象を見付けたのか?」
「いや、それが……っ。」
次々とやって来て姿を見せた、「PSYCHO-PASS」のキャラ達。
ニヤケないよう眺めつつも、自身の置かれた危機的状況に徐々に焦りを感じ始めた未有。
そんな彼女の心情など露知らず…。
公安局の人間達は、それぞれの獲物を未有へと向けて、シビュラシステムを起動させる。
真っ先に反応したのは、やはり佐々山であった。
「ッ…!?どうなってんだ、コイツ…っ!!」
「どうした、佐々山?」
「宜野座監視官!ドミネーターがスキャンエラーを起こしてる…!!」
「何だと…っ!?奴の周囲には、スキャンを阻む障害物は無いぞ…!故障じゃないのか?」
「ギノせんせー…、こいつぁヤバいぜ……ッ。」
「…どういう事だ?」
何だかよく分からないが、彼女のサイコパスを測定して、皆困惑しているようだ。
佐々山のドミネーターが、電子的声で非情にも無慈悲な通告を下した。
《犯罪係数540。執行対象です。執行モード、リーサル・エリミネーター。慎重に照準を定め、対象を排除してください。》
皆がその判断結果を驚愕の目で見つめ返した。
「…随分とまぁ、大物なこって…。」
「可笑しいだろう…っ!何故、そんな数値が出る!?原因は不明だが、たった今、スキャンエラーを起こしていたばかりなんだぞ…っ!!」
「んな事言っても、シビュラの女神様はそう言ったんだから仕方ねぇだろ…?俺が判断した訳じゃねーよ。」
「ドミネーターの故障なんじゃないのか?」
「だったら、自分の目で見て確かめてみろよ。」
狡噛の言葉に、佐々山は顎先でドミネーターを向ける先を指し示した。
彼は半信半疑ながらも、彼の言う通りに、照準を彼女へと向け直した。
すると、ドミネーターは驚きの通達を告げるのである。
《犯罪係数856。対象の脅威判定が更新されました。執行モード、デストロイ・デコンポーザー。対象を完全排除し…。》
残酷な数値を下したドミネーターは、その姿を、対象を分子破壊するという、恐ろしく禍々しい人殺し銃へと変えていく。
衝撃の事実とシビュラの女神様による突然の通達に、驚くばかりの公安局の一行は、ただただ困惑し、告げられた数値とその様を凝視した。
しかし、時は待ってくれず、人殺し銃は刻一刻とその身に力を溜め込み、分子分解ビームを放とうと待機する。
このまま射手共に相手に動きが無ければ、デコンポーザーは対象へと自動的に撃ち込まれるだろう。
(―嗚呼…、何だ。この世界においても、私はそういった存在なのか……。)
粒子分解ビームに撃たれれば、文字通り、その場で自身という存在は跡形も無く一瞬で消えるのだ。
何となくは予想が付いていた出来事に、無意識に未有は自嘲気味な笑みを浮かべる。
あと数秒もすれば、彼女の存在はこの世から消えてしまうだろう。
解り切った事に、何処か諦めを混ぜた心持ちで不安げに胸元で握り締めていた拳を解き、腕をだらりと下げた。
そして、真っ直ぐとドミネーターの先を見据えた。
混乱の極みに立たされた狡噛は狼狽え、ドミネーターを震える手で握り締めていると、此方を真っ直ぐに見据える彼女と目が合った。
瞬間、狡噛は目を見開いて、動きを止める。
(どうして、そんな哀しそうに笑う…?何故、この状況下で笑うんだ…?)
動揺した彼は、思考停止したように対象を見つめたまま、その場から一歩も動けなくなった。
それ故に、人殺し銃は今にも彼女へと撃ち込まれようとしていた。
「この馬鹿ッ!!何やってる監視官…ッ!?今すぐ銃口を降ろすか、他所へ向けろ…ッッッ!!」
瞬間、佐々山が唐突にそう叫んだ。
しかし、硬直していた彼には、その言葉に対する伝達が遅れた。
急に動きを見せた佐々山が、突然、狡噛へと飛び掛かる。
そして、乱暴にその手にあった銃を蹴り飛ばしたのだった。
加筆修正日:2019.03.26
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