長い春を終わらせる為に、「二度と離れられない覚悟を決めろ。」


食堂に奴を呼び寄せておいて、まんまと油断して何時も通りの調子でやって来たところを奇襲するが如く集まった皆でいきなり一斉にクラッカーを打ち鳴らした。

そして、お祝いの言葉を告げると共にテーブルの下に隠しておいたパイを持ち出し、其れを奴の顔面目掛けてぶん投げた。

当然、此れには奴の無限が阻む事承知の上で仕込んだ事だ。

要は自己満足である。


「うわぁ〜っ、いきなり大きな音鳴るから吃驚したわぁ〜。一、二年集まってるから何企んでんのかと思ったら、わざわざ僕の誕生日お祝いする為に集まってたのね?いやぁ〜っ、可愛い生徒達にこうして祝ってもらえるだなんて嬉しいなー!教師やってて良かったね!!」
『言い出しっぺは虎杖だけど、企画したのは私だよ…!吃驚させようと思って嘘の情報伝えて来てもらった訳だけど、どうよ!?入ってきて早々クラッカー打ち鳴らされてビビったか!!』
「うん、ちょびっとだけね。けど、パイ投げてくるとは流石に思ってなかったわ〜っ。まぁ、当たる訳無いんだけど(笑)。コレ、考えたの悠仁?」
「いや、俺じゃなくて狗尾さんだよ。しかも、やる前に五条先生無限あって触れないから投げてもたぶん手前に当たって落ちるだけ、もしくは先生の事だから避けて壁に当たるのがオチじゃない…?って言ったんだけど、狗尾さん構わずに投げるんだもんなぁ〜。つか、投げる時の掛け声やばくね?何よ、“そぉいッッッ!!”て。何処のお祭り野郎よ。」
『若干、常日頃の鬱憤晴らしも含まれてたので、此処は狙いを定めて怨念も込めてね…っ!』
「いや、コレ誕生日祝う為の会ですけど!?」
「ンフフッ、如何にも莎草らしいね…!」
「五条先生の事だから端から避けるかと思ってたんですけど…まさか正面から受けるとは、ちょっと意外でした。」
「まぁ、せっかく僕の為に用意してくれたんだろうからね、そこはサービスってヤツよ!」
『サービスついでに思っくそ食らってくれてりゃ面白かったのに〜っ。』
「はははっ、ソイツは残念でしたぁ〜!其れにしても、よく覚えてたねぇそのネタ…!去年だっけ?“何時かどっかでパイ投げしたい”って言ってたの。マジでリアルにやるとは思わなかったわぁ〜!」
『良いじゃん、こういう機会にしか出来ないんだから…!どうしても一度やってみたかったんだよ〜っ!』
「僕相手に?」
『うん。』
「やっぱお前と居て飽きないわ…!毎日が面白くてウケる!」


ベシャッと床に落ちたパイの残骸を丁寧に片付けた後に、本日本命の五条悟お誕生日会を開催する。

勿論の事ながらケーキは完備、他にも甘いお菓子の盛り合わせやティーセットなども取り揃えていた。

悟の為に用意した物故に、並べられた何れもがお高く値の張る美味しい物ばかりである。

ちなみに、夕食の時間帯も加味して食堂に頼み込んでオードブルも用意してもらっている。

ピザのみは出前の配達になるが。

テーブルの上に並べられた其れ等の輝きに食べ盛りの高校生達は目をキラキラと輝かせて今か今かと期待していた。


「ねぇねぇ!コレ、もう食べて良いの!?」
『んじゃま、一応おめでとうは言ったし、食べちゃいますか…っ!皆お腹空かせてるだろうしね!では、皆で頂きますしましょう〜!!』
「いっただっきまぁ〜す!!うわ、うんま…っ!!」
「あっ、その生ハムピザは私のだかんな!!」
「ん…っ、このハンバーグ美味いな。」
「しゃけ…!」
「パンダ、其処のオムレツ取って。」
「はいよ〜。たーんと腹一杯食え食え〜。」
「…ねぇ、コレ僕が主役の誕生日会なんだよね?」
『食欲旺盛な高校生達相手じゃ仕方ないよ。諦めてアンタも好きな物から取って食べてきな。早く食べないと無くなるよ?』
「ん…じゃあケーキから、」
『ケーキは最後。』
「ちぇっ。」
『まずは主食に飯類から食べなさい。ほら、私が取り分けてやっから…何が良い?』
「じゃあ、ピザが良い。マルゲリータのヤツと照り焼きのヤツね。」
『ハイ、どうぞ。』
「わぁ〜い、ありがと〜っ。」
『皆、ジュースは好きに取ってってね〜!』


各々で好きな物を皿に取り分けながらぱくぱくと腹に収めていく。

順当にテーブルの上に並べられていた料理達が皿の上から消えていくと、最後は勿論お楽しみのデザート――ケーキの出番である。

定番の蝋燭に火を付けてバースデーソングを歌うのもやって改めてお祝いした後に、本日の主役に蝋燭の火を吹き消してもらって暗くしていた部屋の電気を点ける。

綺麗にデコレーションされたチョコレートケーキを人数分に切り分けたら、再び賑やかな声が食堂内に響き渡った。

美味しい料理に美味しいデザートも堪能出来て、子供達は大層満足そうな笑みを浮かべていた。

その様子を眺めていた悟も嬉しそうで、何だかんだで多忙極めている皆がこうして一堂に集い笑い合えている光景に喜んでいるのだろう。

主役含めた皆が楽しめているなら、企画して良かったなと内心思いつつ、自分も一緒になって笑った。

食後の後は、お待ちかねのプレゼント渡しタイムである。

生徒達からはサングラス(おふざけパリピ用と普通にお洒落用の二種類)が贈られ、嬉しかったのか、早速纏めて付けて爆笑されていた。

私からも、美味いと巷で噂の行列の出来る予約販売でしか手に入れられない高級菓子の詰め合わせを渡した。

“さっき散々甘い物食べたのに?”と思われるかもしれんが、この男は大層な甘党野郎なので、此れくらい屁でもないどころか喜んで受け取るのだった。


―皆で揃って後片付けを終える頃には気分もそぞろに時間も遅いからと子供達を寮へと帰して解散した。

その後、消灯まで行って最後に出てきた私を待っていたのは…予想通り、本日の主役の五条悟であった。


「お疲れサマンサ〜。今日はわざわざ僕の為に皆を集めてくれてありがとねん。」
『ふふ…っ、勿論主役のアンタに喜んでもらうのが目的だったけど、ついでに子供達も楽しんでもらえたらなぁって思っての企画だったから、成功した様で何よりだわ。』
「莎草の事だからそんなこったろうとは思ってたよ。お陰で皆の良い顔見れて僕も幸せ!言い出しっぺらしい悠仁にも感謝だけど、まずは莎草に一番感謝しなくちゃねぇ〜っ!改めまして、今日は色々有難う、莎草。」
『ん、どういたしまして〜っ。』
「どうせこの後教員寮に戻るだけなら、ちょっとだけ付き合ってもらっちゃっても良い…?」


少しだけ意味深さを滲ませた物言いに、初めからこうなるだろうと分かっていた私は二つ返事で了承した。

そうして、すっかり冬の季節を匂わせる夜風に当たりながら二人並んで外を歩く。

さっきまで居た建物から其れなりに離れた距離に来ると、隣を歩いていた彼が徐に口を開いて問うてきた。


「―ねぇ、自惚れて良いならたぶんだけど…僕へのプレゼント、本当はアレだけじゃないんじゃないの?」


ほとんど確信を持った様な口振りであった。

事実、彼の言う通り、先程までは生徒達が居る手前だったから“表向きの方のプレゼント”を渡したのだ。

だが、今はさっきまでとは違って二人きり。

何も遠慮する事は無いと言いたいのだろう。

その証拠に、不意に先を行って立ち止まった彼がくるりと振り返り、目隠し越しに此方を見つめてきた。


「ねぇ、どうなのさ?」
『…やっぱりバレちってたか。』
「莎草は分かりやす過ぎるからねぇ〜っ。僕には全てお見通しだよん!…で?本命のプレゼントは何かなぁ〜?勿体振らずに早く教えて頂戴よぅ…!」
『ハイハイ…そう急かさなくとも渡してあげるわよ。』
「わぁ〜い、やったぁ〜!莎草から僕への特別なプレゼントだぁ〜…っ!」


ドキドキワクワクという雰囲気がばっちり見てとれる空気で待つ彼に、用意していた本当のプレゼントを懐から出して突き付ける。

その様子に、一瞬虚を突かれたみたいに彼がキョトンとした。

次いで、無言で突き付ける私に、彼の視線が手元の物へと集中する。

思っていたよりも小さく小振りなサイズに驚いたのか、彼は首を傾げて再び口を開いた。


「……え、何コレ。意外とちっさくて驚いたんだけど。え、待って、マジで何なのコレ?」
『まぁ、この見せ方じゃ夜の真っ暗さもあって視界悪いからよく見えないだろうね。おまけに今、月も雲で翳っちゃってるし。でも、分かりやすく見える様にしたらどうかな…?』
「え…?どういう事?」


手の内に握り込む様にしていたのを掌の上に乗っける様に持ち直して小さな箱の蓋を開けて見せてやれば、丁度のタイミングで月明かりが私達を照らした。


『―此れで以て、二度と離れられない覚悟を決めろ、悟。』


月明かりに照らされた物は、シンプルなデザインをした二対のシルバーリング…――この日の為に私が用意した婚約指輪だった。

思わず、驚きのあまりに口をポカーン…ッと開いたままするりと目隠しを下ろした彼がその綺麗な双眸を見開かせた状態で此方を見遣る。


「………え、嘘…本物マジ物かコレ?…え……?ていうか、コレって…え、え、えぇええ…っ??」
『直接口で言わなきゃ分かんないか?』
「え、や、分かる分かる…!分かるけど…っ!……………お前本気?」
『私は最初からこっちが大本命モノホンのプレゼントのつもりでしたけど、何か…?』


平然とした顔でそう勝ち気に宣ってやれば、彼は恥ずかしげに顔を覆い隠して空を仰ぐ様に仰け反った。

ついでに、「たぶんさっき貰った(表向き建前)のとは別のプレゼントくれるんだろうなぁ〜って思ってはいたけど、まさかのプロポーズな展開になるとか思わないからぁ〜。というか思う訳もないからぁ〜…っ!」という盛大な呟きも漏らしていた。

大きな見た目に反して中身は意外と純粋というか、あからさまに照れちゃって可愛い。

すっかり赤らんでしまっているらしい頬は、薄暗い夜闇の中でもはっきりと分かった。


「……いやまぁ…確かにお前の事好きだし、そういう願望なくはなかったけどね…?コレ、マジなヤツだよね…?茶化しちゃ不味い系だよね?っつーか、本当はこういうの僕から言わなきゃダメなヤツじゃん、うわはっず、うわぁーうわーどうしよう…っ。」


譫言の様に言葉を零す悟に、私は真面目半分笑いを堪えながら様子を見守った。


「取り敢えずさぁ……一言物申しても良い?」
『茶化しとかでなければ許す。』
「莎草ったらマジで格好良過ぎない……?文句無しの口説き方、っつーか落とし方なんだけど??いっそ男の僕が負けて悔しいくらいなんですけど!?」
『で、返事はどうなのよ。』


最終的には煮え切らない反応にやきもきして急かす様に問えば、彼がせめぎ合う色んな感情を堪えた表情で応えを口にした。


「ッ〜〜〜…!そりゃもうOKって返すしかないじゃん、この馬鹿ァ!!好きィ…ッ!!」


乙女的反応で返ってきた了承の意図に私は漸く顔を綻ばせて微笑むのだった。

この時点でお互いに取る立場・反応が逆過ぎてワロスなのは今更なのである。


AFTERWORD

執筆日:2020.12.07
Title by:溺れる覚悟

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