あざとい征服


任務も無し、面倒な座学も無しの休日に女子寮の自室でのんびり寛いでいると、唐突な訪問でやって来た虎杖…ではなく宿儺が口を開いたかと思えば開口一番に宣ってきた。


「なぁ、其処な娘よ。」
『なぁにー、宿儺さぁーん?』
「暇だ。ついでにあと何か口寂しい。接吻させろ。」
『いや、何でよ。色々と突っ込みたい事この上ない台詞過ぎてどう処理して良いか分かんないんだけど、取り敢えず言えるとしたら唐突過ぎんでしょ。あと、その躰虎杖のだからね?ちょっとは躰借りてる身として宿主本人の意思尊重してやるとか、気遣ったりしてあげなよ。』
「何故わざわざ俺が小僧の件で気遣ったりなどしてやらねばならんのだ。端から知った事ではないな。」
『虎杖の扱いが酷過ぎる…不憫極まりないな。』


相変わらずの傍若無人振りを見せる呪いの王・宿儺に呆れの態度を隠さず、また憚らず溜め息を吐けるのは、唯一彼より寵愛を受ける者であるが故の事。

勿論、己自身も彼の事を好き慕っている変わり者の身なので、そうやって求められるのに悪い気はしない。

だが前提として、彼の躰が虎杖のものである事を忘れてはならない。

一応、躰の持ち主である本人の意思は尊重してあげるべきだと私は思っている。

何せ、彼も青春真っ盛りな男子高校生だ。

好きな相手くらいは選ばせてあげたいだろう。

しかし、そんな健全たる良心で言った事などどうでも良いと宣う悪の根源はやはり気にも留めなかった。


「良いから接吻させろ。交わるのでも構わんぞ?この身に受肉してからというもの、未だどの女も抱いてはおらぬからなぁ。そろそろ誰かしら抱きたいところであったのだ。さて、今の世の女はどう啼くか見物だな。」
『いや、まだ接吻するとも抱かれるとも返事してないけど?』
「お前は俺の事が好きなのだろう?ならば拒む必要は無いではないか。其れなのに何故拒む…?俺に求められて嬉しくはないのか?」
『いやまぁ、嬉しくないのかって言ったらそりゃ嬉しいけどもね…宿儺本人の意思の前に、其れ虎杖の躰だから。一応大事な友達だし、仲間だし、同級生だし…まぁそんなこんなあるから無下な扱いはしたくないよ。人として嫌われたくないしね。…慣れちゃいるけど。』
「どう聞いても全て建前にしか聞こえんな…本当のところはどう思っているのか、素直に吐くが良い。今なら何もせず聞いてやるぞ?今の俺はそこそこ機嫌が良い方だからな。」
『正しく此れぞ俺様ぞ、って感じに満ち溢れた上から目線な返しをどうも有難うございます。だが接吻する事も交わる事もお断りさせて頂きます。…御免ね?』
「…何が不満だと言うのだ。」


彼の思うままにならぬからか、少しだけ不貞腐れ気味に眉根を寄せた顔が此方を睨む。

虎杖の顔に紋が刻まれただけのその顔が胡乱気に見つめてくるも、私は大して気にも留めぬ形で素っ気なく言葉を返した。


『強いて言うなら、今そういう気分じゃないってとこかな?』
「分からぬな。昔の時代の女ならば、男が女に抱きたいと申せば喜んでその身を差し出したものだが…。どうすればその気になる?」
『意地でもその気にさせたいのね、今の宿儺さんは…どんだけ欲に飢えてんのよ。セックスレス過ぎてそうなってんの?…つって、千年以上も躰無しで眠ってたんだから、そうなっても仕方ないのか…?うん?』
「俺を無視するとは良い度胸だな…。」
『御免て。かといってセックスは断固拒否するからね。私まだ未成年だし。一応まだうら若き乙女こと高校生の身なんで、本格的な事はせめて高校卒業してからにしてくださいね〜。』
「真面目だな、お前は…そんなもの気にせずとも、好きなら好きで好きに求めるが良かろうに。その方が如何にも人間らしい生き方であろう…?貪欲に欲しい物を欲しいがままに欲し、手にする。…お前もいい加減欲に素直に生きろ、莎草。」
『むぅ…っ、名前呼べばその気になると思って…。』


私が素っ気ない態度を取っていたのを逆手に取った策であった。

漸く此方を見向きした私に満足気にした彼は、「ケヒッ!」と独特な笑みを零しながら私の頬へと黒き爪をした手を伸ばしてくる。


「小僧との約束があるからな…お前も含めた人間には手を出さん。何も傷付けもせん。代わりに、接吻の一つくらいは許されても良かろう…?」
『…虎杖の意思無視しちゃダメでしょ。』
「言っておくが、俺がお前に口付ける件に関しては小僧も満更ではないぞ…?少なからず小僧の方もお前に気があるからな。そういう意味では、お前もなかなかに罪な女だぞ、莎草よ。」
『へぇ、全くそんな自覚無かったな…。でも、其れ本当の話なんだよね?宿儺がキスしたいが為に適当言ってる訳じゃないんだよね?』
「何故、小僧如きの事で嘘を吐かねばならん…。莎草が小僧を気にしてなかなかその気にならぬからバラしただけの事。小僧の気はしらぬがな。何やら隠したがっていた様だが。」


其れは其れでどうかと思うのだが…この傍若無人極まれりな人に向かって言っても仕方のない事であるか。

哀れ、虎杖…。

君からの気持ちは純粋に嬉しかったから貰っておくね。

そうこうしていたら、ベッドに腰掛けていた私の腰を抱いてきた宿儺から顎を掬われて顔を近付けられた。

キスする数秒前かよ。

こういった事に関しては手が早いから困ったものである。


『ちょっと…、私キスするのもセックスするのも嫌だって言ったよね?』
「この期に及んでまだ拒むか。いい加減欲に素直になれ、莎草。」
『いや、だから其れは宿儺の都合でしょ…!私は今キスしたくないし、そういう気分でもない!第一その躰虎杖のだし、幾ら虎杖も私の事好いてくれてるからって言っても簡単に許可出来る訳な…っ、』
「もう言い訳は聞き飽きた。故に、此れ以上は何を言われたとても聞かん。」
『横暴過ぎるだろ!?っ、ンん…ッ!』


掬い上げられていた顎をぐっと掴まれたかと思えば、刹那、無理矢理強引にも私の唇を奪ってきたこの男。

抵抗しようにも、彼の力が強過ぎて儘ならず、結局は彼の好き勝手に唇を貪られる羽目になった。

私はその無理矢理にされた口付けのせいで痛む口端に涙目になって睨み付けた。

その態度が返って彼の愉悦と性欲を煽ったのか、より口付けは激しさを増し、私の呼吸を奪っていった。

酸欠のせいか頭が朦朧として、腰も抜けて自力で姿勢を保っていられなくなった頃になって漸く解放され、彼の腕の中に凭れ掛かる様にしてようようと姿勢を保った。


「ふむ、拒んでいた割りにはあっさりと陥落したな。」


彼が虎杖の顔で自身の唇を舐め上げながら零す。

その顔を私は下から憎たらしげに睨み上げながら言った。


『…唇の端乾燥で切れてからなかなか治んなくて困ってた、且つそんな最中にキスなんてされりゃ痛くて堪んないから嫌だって断ってたのに……っ。』
「何だ、そんな理由で拒んでいたのか…?つまらん。だがまぁ、今のお前の表情はなかなかにそそるものだったぞ?莎草の苦痛に歪む顔も実に良い。このまま強姦しても良いくらいだな。」
『何一つ良くねぇよ、馬鹿…っ!クッソ、人が痛がってたのを悦った顔で愉しそうに眺めやがってぇ!』
「俺は呪いだからな。人間共の苦しみ悶え転がり回る様は見ていて面白い。…だが、かといって今のでお前に心底本気で嫌われるのも癪だ。」


興奮の中に愉悦の感情を入り混じらせた表情で笑っていたかと思うと、不意にその表情を全て削ぎ落とした様にすん…っ、と無表情になったかと思えば、唇に触れてきた彼の指先が荒れて裂けた口端をなぞった。

其れに僅かな痛みがピリリッと走って小さく顔を歪める。

しかし、次の瞬間には何の痛みも感じなくなってぱちりと瞬きを繰り返す。

見遣ると、彼が憮然とした口調で返してきたのだった。


「此れなら文句はあるまい…?」
『え…もしかして、わざわざ反転術式使ってまで治してくれたの?』
「でなければ、接吻の一つも儘ならんからな。此れ以上の待遇は無いぞ。喜んで俺にその身を差し出すが良い。」
『…ふへへっ、有難う宿儺。やっぱり私は宿儺が好きだな…!』
「そうだろうな。此れでもう構う必要は無くなったのだから、存分に口付けても良いな…?今更止めても聞かぬが。」


そう言ってそのまま後ろに引き倒したところで再び強引に私の唇を奪った彼は、舌を絡めて私の咥内を好きに蹂躙した。

困っていた唇の荒れを治してくれたのだから、此れくらいはまぁ許してやっても良いかと思った単純思考な私は、内心で虎杖に申し訳なく思いながらも彼から与えられる大人なキスに酔いしれるのだった。


AFTERWORD

執筆日:2020.12.12
Title by:パニエ

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