揃いのマフラーを巻いた首は君との温もりで温かい


授業を終えた放課後、何故か俺の部屋に遊びに来ていた虎杖の奴がふとテーブルの上に置いてあったマグカップに視線を投げて言った。


「あれ…?このマグカップ、確か同じデザインしたヤツで色違いのが狗尾の部屋でも見かけたなぁ〜。偶然か?」
「…いや、ソイツはただの偶然とかじゃねぇよ。」
「えーっと…その話、俺聞いても良い系?」
「別に隠す事でもねぇから良いよ。そのマグカップが狗尾のと同じデザインで色違いなの、去年彼奴が誕プレでくれたヤツだからだし。」
「へぇ〜、お揃いとか仲良いじゃんね!伏黒の部屋って物少ないし、何か物大事にしそうなイメージだからぴったりじゃん!…あ、そういや明日は伏黒の誕生日だけど、何か欲しい物とかある?無ければ適当に俺チョイスの物贈るけど。」
「わざわざ無理に誕プレ用意してくれなくても良いっての…今更自分の誕生日くらいではしゃぐ程ガキでもねぇし。気持ちだけで十分だ。」
「え〜っ?でも、せっかくなら大々的に皆で集まって祝いたいじゃん?何か無いの?無いなら無いで、取り敢えずケーキ用意すっけどさ。ちなみに手作りケーキ、しかも俺お手製のスペシャルケーキな…!」
「普通本人にバラすか…?そういうの、基本は本人には内緒でサプライズで用意したりする物じゃねぇのかよ。」
「ん〜…伏黒に内緒で用意しようとしても、何か途中でバレそうな気がしてなんなかったからさぁ。いっその事、直球で希望訊くなり何なりしとこっかなぁ〜って。だから、明日当日楽しみにしといてよ!盛大にお祝いする準備しとくからさ!」


そんな事を言い残して部屋を出て行った奴の背を見送って、数秒間、俺は先程虎杖が言った言葉をリフレインさせていた。


―“伏黒の部屋って物少ないし、何か物大事にしそうなイメージだからぴったりじゃん!”


去年全く似た様な事を言われた事を思い出した。


―“伏黒はさ、持ち物全部大事にしそうなイメージだったから其れにしたの。日常的に使う物なら便利だし、使う度に今日の事思い出してくれるかなって思って。あと、伏黒の部屋、物少なくてちょっと寂しい雰囲気というか、あまりに殺風景過ぎるのもアレかな?って思って私からの勝手な気遣い…!此れは余談だけども…実は、このマグカップ、デザイン可愛くてなかなかに気に入っちゃったから、色違いのお揃い自分用に買っちゃったんだよね。へへへ…っ、ちょっと照れくさいけど、大事に使ってね!私も大事に使うから!”


あの日、あの時の事は、今でも鮮明に思い出せる。

彼奴が自分の事の様に嬉しそうに俺の誕生日を祝ってくれた事だとか、非道く照れくさそうに笑った彼奴の如何にもな可愛らしい笑顔だとか、色々。

この部屋で生活する中、マグカップの存在が目に入る度、思い出している。

そして、気付けばいつの間にか笑みを浮かべてしまっていたりだとか、どんなに心荒れている時でも穏やかな気持ちになる事だとか。

全部が全部、彼奴が願った通りの思惑に嵌められている気がしてちょっと悔しくなるけども、意外や意外にも案外悪い気はしなくて内心心穏やかじゃなかったりする。

俺は、彼奴の事をどういう風に見てるんだか、未だ時折分からなくなる事がある。

たぶんきっと嫌いではないとは断言出来る。

でも、女として、異性の対象として好きなのかは微妙なところだった。

人として、仲間として、級友としては好きだ。

其れははっきり言える。

だが、まだ男女の好きか嫌いかで問われたらウンともスンとも言えない様な気がした。

仮に今、誰かに問われたとしたら、何も答えられないと思う。

其れ程にまで、彼奴の存在は俺の生活の中に溶け込んでいた。

大事にしたい…其れは昔から変わらない。

彼奴と初めて出逢った日からずっと、守りたい奴のカテゴリーに入ってる部類の人間だ。

この先も絶対に失くしたくないと思う。

其れは前よりも強くなってる感情だった。

呪術師は何時死ぬか分からない。

だから、なるべく後悔を残して死なない様にしたかった。

守れる命は守りたい。

其れが今の俺の率直な気持ちだった。

その中には、狗尾だけじゃなく、虎杖や釘崎達の事も含まれてるけど、やっぱり最も一番に守り通したいのは狗尾だった。

…曖昧なのは分かってる。

でも、取り敢えず今は其れで良いと思った。

マグカップの取っ手を掴んで、中に入っていた珈琲を飲む。

入れてから少し時間が経っていたのもあるが、外の気温が寒いせいか、冷めるのが早くてすっかりぬるくなっていた。

気にせず其れを啜りながら、手元の読みかけの本に視線を落とす。

明日は今日より冷え込むらしいと、明日のスケジュールを確認するついでに見た天気予報を思い浮かべ、外出する時はなるべく温かい装いで出掛けようと思考する。

もうすぐ学校は冬休みとなって授業は休みとなるが、呪術師としての仕事は季節関係無く舞い込んでくるので、休暇と言えども正確にはそうは言い切れないなと思う。

まぁ、今の季節は比較的緩やかで多忙期程呪霊も湧かないから楽だ。

今年は色々な事が有り過ぎて毎日がてんやわんやだったからな。

少しはのんびりゆっくりと過ごせる時間が出来て有難かった。

今の内に疲れの溜まった躰を休めておこう。

数日後にゃクリスマスだし、かと言ってどっかに出掛けに行く訳でも無いけど、どっかの誰かさんが“せっかくだから皆でどっかに遊びに行こうぜ!”とか言い出しそうだからすぐに出れるくらいの準備はしてやらない事もない。

そう思った節に、ふとまた狗尾の顔が浮かんだ。

彼奴は明日どうする気なんだろうか。

十中八九、去年と同じく何かしらを贈り付けてくるんだろうが。

そしたら、また俺の生活の中に彼奴から贈られた物が増えるのだろうか。

其れは何だか擽ったい気もしたが、決して悪い気はしないと思えたのだから不思議だ。

きっとまた去年と似た様な台詞を告げて渡してくるのだろう。

奇しくも同様な反応を返す俺に、気恥ずかしそうに頬を染めながらも大層嬉しそうに微笑みながら。

取り敢えず、今から少しだけ心の準備をしておこうと思った。

去年みたく無様に狼狽え格好悪い様は見せない様に。


―野薔薇を部屋に呼んで明日の伏黒誕生日会の予定を確認ついでに、今度の休み何処に出掛けるかの相談も込みでアレコレと話していた時だった。


「ねぇ、莎草ー。アンタ、何時もこのマグカップ使ってるけど、何か思い入れでもあんの?他にも可愛いマグカップあるけど、大抵そのシンプルな柄のマグカップ選ぶし、其れで飲む時やたら大事そうに眺めてる事あるし…何で?」
『んふふ…っ、私ってばそんなに大事そうにして見てた?』
「見てた見てた。もしかして無自覚?」
『うん。野薔薇に言われるまで全然気が付かなかった。』
「まぁ、アンタ自分の事に疎そうっていうか、事実あんまり頓着してないもんねぇ〜。だから、ファッションセンスも壊滅的で私がチョイスしてあげてんだけど。莎草は元が可愛いんだから、もっと其れを活かした服着なきゃダメよ!勿体無い…!」
『う〜ん…此れでも私色々見て勉強したりとかして頑張ってるんだけどなぁ?』
「根本が狂ってるから矯正しなきゃ無理なのよ。そんなアンタが持ってる物の中で其れだけが一番まともなデザインした代物だったから自然と目に入って気になったのよね。」
『そっかぁ…野薔薇に褒められるって事は、相当なんだなぁ〜此れ。んふふっ、何だか嬉しい…っ!』


野薔薇に褒められたのが嬉しくて、ついお口が緩んで余計な事まで喋ってしまう。


『嬉しいついでに喋っちゃうとね、このマグカップ…実は伏黒とお揃いの奴なんだ!』
「え?何、アンタ等何時から付き合ってたの?」
『へ?まだ付き合うとか以前に伏黒とは何も無いよ…?』
「じゃあ、何でアンタが伏黒とお揃いのマグカップなんて持ってんのよ?包み隠さず白状しなさい、オラ早く。」
『そんな怖い顔で脅してこなくても話すよぅ…っ。おっかないなぁ、野薔薇は。――伏黒と同じデザインのマグカップ持ってる理由はさ、伏黒が持ってるの、去年私が誕生日プレゼントにあげたヤツだからだよ。私のは伏黒と色違いにしたけど…。何かこのデザイン見た時ね、シンプルだけど可愛くて日常的に使うのに凄くぴったりな物だなって思ったの。たぶん、一目惚れって感じかな?其れで、伏黒の誕生日用にも合うけど、何より自分も欲しくなっちゃって一緒に買っちゃったんだ〜!時季が時季だったから、クリスマスシーズンのプレゼント用商品として並べられてた且つ何かペアで売られてた様な記憶だけど…あんまり深く気にしないで買っちゃったから、そういう意図は全く無いよ。』
「……成程、アンタって他人の為に選ぶ物だけはまともなセンス持ってるって事ね。流石のそこまでダメだったら同じ女子としてアウトだったわ。」
『何か今サラッと酷い事言われた気がするなぁ…まぁ野薔薇だから良いけど。』
「其れにしても…アンタにしてはなかなかやるわね。何気無く生活圏に溶け込む代物を贈るだなんて、無意識に選んだとしたら末恐ろしいわよ、莎草。」
『ちょっと、さっきから何か酷い言われ様なんだけど…。流石の私もあんまり言われちゃ傷付くしヘコむよ…?』
「安心しなさい。今のは褒め言葉よ。」
『ならいっかぁ〜。』


単純思考な私は其れだけで今までの野薔薇の発言を水に流して、野薔薇からの率直な意見を仰ごうとスマホの画面に映したカタログサイトの商品を見せる。


『ねぇねぇ野薔薇、明日の伏黒の誕生日祝いに贈る用のプレゼントなんだけどね?今のとこ、日常的に使えそうなマフラーが良いかなって思ってるんだけど…どうかなぁ?』
「今の流れで其れ訊くって、マジでお前等まだ付き合ってないの?嘘でしょ?」
『ねぇ、どうなの?私的にはこのデザインのが伏黒にはぴったりかなって思うんだけど…。』
「ん゙〜…っ、まぁ、確かにこの色合いなら男の彼奴にも似合いそうだし、良いんじゃないの…?デザインもシンプルめであんまり飾らない感じが如何にも彼奴も気に入りそうだし。」
『実は此れもパッと見た瞬間、“あっ、此れ凄く素敵だな。伏黒に似合いそうで良いな。”って思ったヤツだったの。ついでにシンプルめなデザインが気に入っちゃったから、お揃いで自分用に色違いの買おうかなって思ってる。別に伏黒とペアにしたい訳じゃないよ…?純粋に私がこのマフラーを気に入っただけ!ほら、丁度今冬の季節だし、毎日寒いからすぐに使える…!日常的に使えて便利だよね!』


私がそう付け足す様に告げたら、野薔薇は頭を抱えるみたいにして俯いてしまった。

私、今何か不味い事でも言ったかな…?

よく分かんなくて首を傾げていたら、野薔薇が唸る様に低い声で呟いた。


「…アンタ、其れ無自覚で言ってんだったら本気で不味いわよ…っ。虎杖の奴が聞いてもたぶん“ふざけてんのか?”って思われるレベルよ…。」
『えぇ…っ?』
「そのマフラー、明日のどっか空いた時間で買いに行く予定なのよね…?」
『え?あ、うん…そうだけど?』
「其れ、私も一緒に付いてったげるわ。そんで飛びっきりのラッピングしてもらいましょ。ついでに放課後の伏黒誕生日会に合わせてアンタの事全身フルコーデ決めたげるわ。とにかく盛りに盛るわよ、良いわね?ちなみに拒否権は無しでYes以外の返事は聞かないから。」
『あ、相変わらず急だね野薔薇…っ。』
「嗚呼、あと、アンタ明日伏黒にプレゼント渡す時告りなさい。陰で隠れて見守っといてやるから。此れは決定事項よ。」
『何で誕生日プレゼント渡すのに告白しなきゃいけないの私!?普通に渡すだけじゃダメなの!?』
「このまんまじゃ伏黒が可哀想だからよ。あまりにも不憫で見てらんないわ…アピールするだけしといてその気にさせてあとほったらかしとか。彼奴も一応男なのよ、そこら辺もう少し考えてやんなさい。」
『えぇ〜…?何か色々急過ぎて頭追っ付かないし、展開に付いていけないんだけど〜…っ。』
「全っ然急じゃないわよ。アンタが既に布石という布石をばらまいてんだから、後は其れを活かす手段を取るだけよ。」
『えええぇ…っ?余計に訳分かんなくなってきてんだけど…?』


ひたすらに疑問符を頭の上に浮かべて野薔薇の方を見遣っていたら、突然復活したみたく頭を上げた野薔薇にビクッと大袈裟に吃驚してしまった。

ちょっと野薔薇、変に目が血走ってて怖いよ…?


「率直に訊くけど…伏黒の事、好きか嫌いで訊かれたらどう答える?」
『え?そりゃ勿論、好きって答えるよ?』
「じゃあ言い方を変えるわ…彼奴の事、友人として好きか、異性として好きか、はっきり答えなさい。」
『んー、どっちもかな?友人としても好きだし、男の人としての意味でも好きだよ。』
「今ので答えは決まったわ……やっぱりアンタ、明日彼奴に告るべきよ。当たって砕ける精神で一遍ぶち当たってきなさい。絶対確実にゴールイン間違い無しだから。そうよ、アンタ等の運命は既に決まってんのよ。だから後は覚悟を決めるだけ、気をしっかり持ちなさい。莎草は良い女よ、私が保証する。自信を持って彼奴に告ってきなさい。」
『…野薔薇は優しいし気心知れた女友達だからそう言ってくれるんだろうけどさぁ、私からの告白なんてきっと断られちゃうよ。』
「何言ってんのよ、今更…?そんだけ好き好きって気持ち溢れさせといて今更無かった事にすんの?明日という日に告らずして終われば、絶対後悔するわよ?アンタは其れで良いの?」
『…だって、迷惑じゃない…?私の気持ち押し付けるの…。』
「はあ〜…??アンタ、マジで何言ってんの?もしかして彼奴からのアピールに気付いてない訳!?」
『え…御免、何の事?』
「ったく鈍ちんねぇ…ッ!!良ーい!?彼奴もアンタの事好きだから、普段から何気無いとこで好き好きってアピールしてんのよ!!つまり両片想い状態だって事!!あとはどっちかが告れば済む話なのよ!!だからとっとと告ってくっ付いてきなさい鬱陶しいッッッ!!私からは以上…ッ!!あとは一人でゆっくり告白する時の言葉でも考えてなさい!じゃあな!!」


バタンッ!!とドアが壊れるくらいの勢いで閉めて出て行った野薔薇に、私は終始混乱しながら野薔薇が去った後を見つめていた。

伏黒も私の事好きだったなんて知らなかったな…。

もしかしたら野薔薇の勘違いかもしんないけども、でももし本当だったならどうしよう…?

明日、誕生日プレゼント渡すついでに告白しちゃっても良いのかなぁ…?

迷惑…じゃないのなら、ちょっとだけ頑張ってみようかな。

そんな思いを、明日の意気込みと共に野薔薇へSNSでメッセージを送れば、即既読が付いて返事のメッセージが返ってきた。

一応、虎杖にも協力を仰いで全力で応援してやるから頑張れって内容の文が送られてきて、少し擽ったく思った。

何だかんだ言って野薔薇は野薔薇だから、心強い乙女の味方だ。

明日、思い切って想いを伝えてみよう。

当たって砕けたならその時で、また何時もみたいな緩い関係で居られたら其れで満足だ。

伏黒と奇しくもお揃いのマグカップを見つめて、きっと明日上手く行きます様にと祈った。


―誕生日当日の22日、虎杖が言ってた通りに一年全員とついでに担任の五条先生まで集まって盛大に祝われた。

まず、朝教室に入った瞬間にクラッカー打ち鳴らされるし、授業終わって放課後になった瞬間腕引っ張られてデカデカと“伏黒恵Happy Birth Day!!お誕生日おめでとう!!”と書かれた垂れ幕ぶら下げた誕生日会宜しくセッティングされた談話室に連れてかれるし。

まぁ、百歩譲って皆でケーキ食ったのとかそれぞれからプレゼント貰ったのは良しとする。

だが、五条先生からのふざけた内容のプレゼントは今すぐゴミ箱に放り捨てるか燃やしてやろうかと思った。

何が悲しくて男子高校生の俺がミニスカサンタのコスプレ服なんか貰わなきゃいけねぇんだよ。

意味分かんねぇし、ぶっちゃけクソ要らねぇわ。

誰が使うんだよ、こんな物。

持ってても必要性に欠ける代物渡されて困るし、つーか使い道とか無ぇし、どうしろってんだよあのクソ教師。

頭イカれてんじゃねーのか。

渡された直後にそんな気持ちを込めて“素直に要りません”って顔で返したのに、あの人はふざけた苛付く顔でこう宣ったのだ。


「恵も例に漏れず青春謳歌してるみたいだからさ、僕からちょっとした粋なサプライズプレゼントだよ〜!どうせ数日後にはクリスマスだし、丁度良いよね!是非とも彼女出来たらコレ着てもらいな!!あ、何だったら夜のオカズに使ってくれてもい、」
「生徒の前ですよ、そういうのは全力で止めてください教師なら。」
「っちぇ〜。せっかくぴったりだと思ったのになぁ〜っ。」
「いや…流石の今のは俺も不味いと思うよ、先生ぇ…。だって、此処には俺達以外にも女子二人居るんだからさ?時と場合考えた方が良いよ?」
「悠仁がめっちゃまともな事言って僕を諭してくる…!でも、コレ、個人的にはマジでナイスなプレゼントだと思ったのよ!?」
「ちなみにそのミニスカサンタのサイズは…?」
「勿論、此れから恵に告白するだろう恵の未来の彼女のスリーサイズに合わせt、」
「オ゙ゥ゙ル゙ァ゙ッッッ!!」
「おぐふぁっっっ!?…ちょ…っ、野薔薇、金槌で頭は不味いって……!」
「次、余計な事吐いたら、今度は此れを脳天にじゃなく金的に食らわしてやっから覚悟しろ…ッ!!」
「ヒェ…ッ!?野薔薇様怖い誰か助けて…!!」
「自業自得じゃないっすか…?(一瞬想像して玉ヒュンしたけど言わんとこ。)」
「でも、流石の金槌で急所殴られるのは同じ男としてエッグイと思ったのって俺だけ…?そんなんされたら誰だって死ぬじゃん。再起不能になっちゃうってか最早息の根止めるレベルじゃん。つか、五条先生無限あるから当たらないんじゃなかったの…?何で今のわざわざ食らったの?食らう必要性あった?」
『ねぇねぇ、野薔薇…其れは流石の五条先生が可哀想だからやめたげよう?あとついでに気になったから訊くけど、仮に金的やった後の金槌どうするつもりだったの…?そんまま使ったの?』
「勿論隅々まで綺麗に洗い上げた後に消毒施してから使うわよ。当然でしょ?」
『あ、良かった、安心した…!』
「僕、バイ菌みたいな扱いされてる事にも傷付くけど、其れ前提で訊いた莎草も何気に辛辣で毒吐いてて傷付いた…。皆して僕の事どういう扱いしてんの?酷いよ。」


狗尾の発言が一番効いたのか、その後は暫くいじけた先生は大人しくしていて内心ちょっとウケたのは内緒だ。

虎杖からのプレゼントはケーキ+ブレスレットで、釘崎と狗尾二人からは玉犬の新しい首輪と散歩用リードだった。

何か皆してらしいプレゼントって感じで安心した。

今年は同級の女子がもう一人居たからか、二人で仲良く一緒になって俺の為(本当は玉犬の為だろうけど)に選んでくれた事は嬉しかった。

今まで同級の女子は自分一人しか居ないからほんのちょっぴり寂しいな、ってずっと前に言ってたもんな。

其れが漸く今年からは叶って、二人一緒に選ぶのも楽しかったんだろう。

終始楽しそうに笑う狗尾の様子に、今日の主役は俺なのに狗尾が主役の様に喜ばしく思った。

どうかこの先もその笑顔を守れたら良いな…っても同時に思った。

嗚呼、やっぱり狗尾は大事な奴だ。

何処までも大事にしてやりたいし、出来る事なら幸せにしてやりたいとも思う。

俺なんかがそんな思想を抱くには傲慢で欲張り過ぎる気もするけども。

そこまで考えて…ふと、“あれ?此れじゃまるで俺が狗尾の事好きみたいじゃねぇか…?”と気付いた。

確かに、好みのタイプとしてはドンピシャだし、将来彼女にするなら狗尾みたいな奴が良いとかって事を考えなかった訳ではないが…。

思い至った出来事に今更戸惑ってしまって、無意識に考え込む様に口許に手を当て黙り込む。

すると、急に無言になって俯いた俺の空気を察知してか、隣に居た虎杖が横から覗き込んできた。


「あれ…伏黒どうした?大丈夫?何か急に無言になって俯いちゃったけど…もしかして気分悪くなっちゃったとか?其れとも、俺の作ったケーキ、実は口に合わなくて無理して食ったから具合悪くなっちゃったりとか?」
「…いや、ケーキは普通に美味かったからそんなんじゃねぇよ…。」
『じゃあ、やっぱりさっきの五条先生のおふざけが原因で気分が優れなくなっちゃったんだね…?』
「いや、そういう訳でもねぇから誤解すんな…というか何も心配しなくて良いから。ちょっと考え事に耽っちまってただけだから。」
「オラ、テメェさっきの件について今すぐ此奴に謝罪しろや。」
「えっ?嘘でしょ恵?さっきのくらいで精神病んじゃう程お前繊細だったっけ?」
「良いからさっさと謝らんかい、この淫行教師ィッッッ!!」
「あはーっ!!野薔薇ったら超過激☆」
「コロス…ッ!!」
「釘崎、釘崎…目がマジになっちゃってて怖いからストップ、落ち着こう、ねっ?」
「……………。(何か此奴等と居たら色々考えんのも馬鹿らしくなってきたな…。つーか、釘崎の顔マジでやば…っ。女子として終わってねぇか?思うだけで言わねぇけど。言ったら確実に殺されて五条先生の二の舞になる事間違い無しだし。)」


もう何か色々有り過ぎて深く考えんのが阿呆らしく思えてきた。

取り敢えず、誕生日会はこのままお開きという体で貰ったプレゼントを抱えてそそくさと部屋を抜け出し、おさらばした。

アレ以上付き合ってたらキリがねぇし。

そうこう思ってたのは俺だけじゃなかったらしく、後から俺と同様にあの場を抜け出してきた狗尾が追い駆けてきた。


『伏黒…っ!』
「狗尾…っ、お前もあの場抜け出してきたのか?」
『うん。だって、一応伏黒の誕生日お祝いはきちんと出来たしね!あとはあのままお開きって事で良かったんじゃない?』
「だよな。俺としても、もう十分祝ってもらえて満足してるし。後片付けは彼奴等に任せても良いだろ。」
『そうだね〜…っ。――あのさぁ、実はさっきの野薔薇と二人で渡したヤツとは別に私個人から渡したいのがあるんだけど…良い?あ、出来ればこの後伏黒のお部屋にお邪魔して渡そうかなって思ってるんだけど…ダメ、かなぁ?』
「………いや、全然、ダメじゃねぇ…けど……っ。」


さっきのさっきで変に緊張しちまって、つい片言みたいに途切れ途切れで返事を返しちまった。

今のだと誤解されかねないから、言い直した方が良いか?と思って再度口を開きかけたら、先に狗尾の方が口を開いて訂正出来ず終いとなる。


『じゃあ、ちょっとだけ待ってて…!伏黒にバレない様部屋に置いてきたから取ってくる!伏黒は先部屋に戻ってて良いよ…っ!すぐに戻るから!!』
「…お、おぅ…っ、分かった…。」


其れだけ告げてパタパタと先を走って行ってしまった狗尾に、俺は少しだけの期待を胸に部屋へと戻るのだった。

少しして、俺の部屋にやって来た狗尾は、専門ショップの店名らしき物が入った紙袋を手に持っていた。

ついでに、何かさっきとは少し雰囲気の異なる様子に俺はぽつりと呟いた。


「あれ…、さっきと何か雰囲気違くないか…?」
『あ…っ、気付いてくれたの?えへへ…っ、実は今部屋に戻った時に野薔薇がうっすらだけど化粧施してくれたんだぁ〜!似合う…かなぁ?』
「…嗚呼、まぁ、良いんじゃねぇの…?狗尾の雰囲気が崩れない程度の感じでさ。流石は釘崎ってところか。…うん、可愛いと思う。」
『っ…!そ、そうなのかな……?私、自分じゃよく分かんなかったから…伏黒がそう言うなら、きっとそうなんだよね。自信、持っても大丈夫だよね?』
「え、お、おぉ…良いと思う、ぞ?」


何なんだ、この超絶甘酸っぱい空気は…っ。

急な空気の変わり様にテンション付いて行けなくて内心焦るけど、狗尾がこの短時間で更に可愛く変身してきたのには驚いたが純粋に可愛いと思った。

流石釘崎、ナイスだ。

友として粋な計らいをしてくれたと後で感謝を告げるメッセージでも送っておこう。

そんな風に思っていたら、いつの間にか紙袋から取り出された、綺麗にラッピングされた狗尾個人からのプレゼントだと言う物を目の前に差し出されていた。

俺は其れを“有難う”と短く礼を言うと共に受け取った。

次いで、「中身開けてみても良いか?」と問うて、肯定の返事が返ってきたから、遠慮無く開けさせてもらう。

すると、中身はシンプルめなデザインで落ち着いたカラーのマフラーだった。

予測は付いていたが、やはり彼女から贈られたプレゼントは今年も日常的に使える代物である。

丁度今時季寒くてすぐにでも使えそうな使い勝手の良いヤツで、尚且つ今使ってたヤツがだいぶボロになってきてたから助かった。

文句無しのチョイスに、俺は何時しか顔を綻ばせて素直に思った事を口にしていた。


「ありがとな…狗尾。率直に言って嬉しいよ。お前からの誕プレは何時も日常的に使えそうな物ばっかだから有難ぇ。大事に使わせてもらう。」
『えっと…、伏黒に喜んでもらえたなら何よりだよ…っ!』
「ん…早速明日から使わせてもらうわ。丁度ずっと使ってたヤツがボロになってきてたからさ…そろそろ新しい替え買わなきゃなって思ってたところだったんだよ。タイミング良過ぎてマジ助かった。…でも、良かったのか?今年は二つ分貰ったみたいな感じになっちまってるけど…。」
『良いの。マフラーの方は、私からの気持ちだから。伏黒がマフラー買い替えようとしてたのは初めて知ったけど…でも、上手い事タイミングが合って良かったよ。変に無駄にならずに済んだしさ!』
「仮に買い替える予定が無かったとしても、お前からの贈り物なら何だって喜んで受け取ったし、すぐに使える物なら次の日からでも使うつもりで居たから、んな心配しなくて良かったけどな。」
『え……っ、そんなに大事にされるのも、何だか照れくさいな…。けど、伏黒の為になってるなら嬉しいや。えへへ…っ、改めまして、誕生日おめでとう伏黒…!』
「おう…次はお前の誕生日ん時に返すから、楽しみにしてろ。」
『うん…っ!何時も有難う、伏黒!そんな優しい伏黒の事、私大好きだよ…!』


たった今彼女から言われたワードに理解が追い付かなくて、ハタ、と動きを止めて彼女の事を見つめる。

奇しくも同時に彼女も固まって目を見開き、動きを止めた状態で俺の事を見つめ返していた。

数秒間、互いの間を無言の沈黙が降りる。

逸らすに逸らせなくてそのまま見つめたままで居たら、徐々に顔を赤らめ始めた狗尾が漸く時を再開した如く我に返った様で、そっと両手で顔を覆い隠すと下へ俯いて小さく呟いた。


『………御免、伏黒…今私何て言った…?』
「…俺の聞き間違いじゃなければ…俺の事が好きだとかどうとかって言ってたな……。」
『……私の馬鹿ぁ…ッ。今のタイミングで告白するつもり無かったのにぃ…っ、しかも昨日ちゃんと考えてた内容と全く違うし…!嗚呼ぁ〜やらかしてしまったよ、野薔薇ごめぇ〜ん……っ!せっかく色々アドバイスくれたのに、私は其れを一切活かす事無くぶっちゃけちゃったよ、阿呆ぉ〜…ッ。』
「…っつー事は、思ってた事素直に場の流れと勢いでぶっちゃけちまった、って事か……?」
『ゔゔぅ…っ、つまりは、ハイ…その通りです……。いきなりこんなぶっちゃけられても吃驚だろうし、迷惑だったよね…?御免ね、伏黒。悪いけど、今私が言った言葉は全部忘れて何も聞かなかった事に…、』
「出来ねぇよ。」
『…、え…っ?』
「今の聞いて、何も聞かなかった事にしろ、忘れてくれって言われて、“ハイ、分かりました。素直に忘れます。”なんて出来る訳ねぇだろ。あと言っとくがな、今の絶対に忘れてなんかやらねぇから。ずっと忘れずに覚えといてやるし、お前に好きって言われて嬉しくねぇ訳がねぇだろ…っ。勝手に迷惑とか、決め付けんなよ。……俺もお前の事、好きだから…此れでお相子で良いだろ?今更前言撤回とか無しだからな。」
『…………え、……え?』


そう、初めて自分の想いをはっきりと口にした事で自覚した。

やっぱり俺は、狗尾の事が好きだったんだ。

其れと、難しく考えようとするから色々考え込んだけど、好きに理由なんか要らなかったんだ。

何でそんな簡単な事、今まで気付かなかったんだろうな、俺は。

今更になって気付くとか遅ぇし、馬鹿だろ。

今まで考えてた全部どうでも良くなるくらい、俺の心は今清々しく澄み渡っていて、幸せな気分だった。

狗尾も俺の事を好いてくれていた。

最高の誕生日プレゼントな言葉だと思った。

俺の思わぬ返事に再度固まってしまった彼女の身を引き寄せて、腕の中に閉じ込める。

こんなに嬉しくて幸せな気持ちに満たされたのは、史上最大の事かもしれない。

其れくらい俺は嬉しくて内心舞い上がってしまって、衝動的に勝手に抱き寄せた狗尾の身を抱き締めて、目を伏せてスリリ…ッ、と甘える如く頭を擦り寄せた。

その行為に更にガチガチに身を固くした彼女は混乱のあまりに絶句し、真っ赤になって湯気を立ち昇らせていたが、予想以上の初さに此方も気を良くして気付かない振りをし、彼女が何か言葉を発せる様に復活するまで暫くの間はこのままで居てやろうと思うのだった。


―その後、俺達二人がくっ付いた事を他二人に報告してやると、釘崎からは「漸くくっ付いたか馬鹿め…っ。んっとに遅ぇんだよぉ!」と罵られた。

解せん。

虎杖からは普通に「おめでと〜!末長くお幸せにな!!」と祝福された。

お前はやはり根っからの良い奴だ。

そして最後の最後にやっぱりあの人は報告してもいなかったのに何処からか聞き付けて余計な事を言い残していった。


「いやぁ〜っ、僕の思った通り、恵と莎草くっ付いたねぇ!二人が晴れてめでたく恋人カップルになって僕も嬉しいよ〜!やっぱり青春は謳歌出来る内に謳歌しとかなきゃ損だよん…!!」
「…何時から気付いてたんですか?」
「ん?そんなの最初っからだよ。もう見るからにバレッバレだったもん二人共。逆にアレで隠せてると思ってたの?そうだとしたらウケるんだけど…っ!――ところで話変わるけど、数日後はクリスマスだしさぁ〜、やっぱ行っちゃいますか?初デート…!!」
「何でんな事までアンタに言わなきゃなんないんすか。言いませんよ、絶対に。」
「え〜?恵のケチ〜っ。僕との仲だろ〜?あ…っ、もしかしてあのミニスカサンタのコスプレ贈った意図、気付いてくれたの?やだぁ〜っ、恵ったら気付くの遅いんだからん☆」
「クソウザ過ぎて今滅茶苦茶アンタに殺意湧いてんですけど、殺って良いですか?」
「もう、照れちゃって〜…恵ったらカッワイイ!あ、ちなみに言っとくけど、あのミニスカサンタのサイズ、莎草ぴったりに合わせてあるから!是非ともクリスマス当日は楽しんできてね!!」
「は?」
「あれ…もしかしてコレ、全く気付いてなかったパターン?」
『…御愁傷様です、五条先生。骨は拾っておきますね。』
「ぶっ殺す…ッッッ!!」
「ア゙ッーーー!!」


取り敢えず、例のミニスカサンタのコスプレはゴミに燃やして捨てると決めたのだった。

ついでに、五条先生もゴミとして捨ててやろうかと思ったのは言うまでもない。


AFTERWORD

執筆日:2020.12.24

/
BACK / TOP