まるで人間みたいな呪骸の女の子。
初めて最初に見た時は幼女の姿であった。
そして、見ない内に大人の姿となっていて、すっかり自分と釣り合う見た目となっていた。
『呪いに怪我させられたら私の元へお出で。毒素、吸い出してあげるから。そしたら、傷の治りも早くなるし、痕も残らず綺麗に治るよ。』
子供の見た目にしては大人の人みたいに落ち着いた喋り方をする子だと思った。
―立て続けに入れられていた任務を片付けて自宅に帰ると、シャワーを浴びるのも億劫な程疲れていて、背広を脱いで掛けネクタイを外すだけでベッドに倒れ込んで眠った。
そして、ふと何故か夜中に目を覚ました。
目が覚めて、変に首元が擽ったいと気付いたところで、耳元に届いたやらしい水音にハッと意識が覚醒して躰を起こす。
いつの間に自宅まで侵入してきていたのか、いつの間に他人の寝込みを襲っていたのか、問いたい事は山程浮かんだが、取り敢えず一番訊きたい事だけを口にした。
「何してるんですか、貴女は…っ。」
色んな感情すら混ざったその問いかけに、彼女は私の上に跨がったまま平然と受け答えた。
『怪我、したらちゃんと言いなよって昔言ったの忘れたの…?幾ら数年こっちの世界には居なかったからって、酷いよ。』
そう言いながら、自身の唇を彩っていた私の血液の赤を拭い去る様に舌舐めずりをする。
夜の空気も相俟って妖艶としか言い様の無い色っぽさに中てられて、今度は反対に私が彼女の身を組み敷く番だった。
形勢逆転である。
しかし、彼女は何の恐れた様子も無く変わらず余裕綽々の空気を崩さずに微笑んだ。
『あら、今ので欲情させちゃった…?』
「凡そ他人の寝込みを襲っておきながら吐く台詞とは思えませんね。」
『あはっ。まぁ、勝手に君の家に忍び込んであわよくば夜這いしようだなんて考えるのは、私くらいしか居ないでしょうね。』
そう言った彼女が、するり、私の頬へと手を伸ばして再び口を開く。
『…ねぇ、まだ毒素残ってるでしょ?全部吸い出して綺麗にしたげるから、大人しく私に身を委せてよ。』
「…今、この場の主導権を握っているのは私の筈ですが。」
『ふふ…っ、こんな程度で私を抑え込めたと思ったら大間違いだよ、建人君?』
ぐるり、視界が暗転したと思ったら、また彼女が自分の上を支配していた。
再び私の上に跨がった彼女が口許に弧を描かせて笑む。
『大丈夫、痛くはしないよ。君が暴れたりしない限りは、ね。』
そう宣った彼女が再び私の首筋に口付けて、赤い血を啜り始める。
其れに伴って感じる快感に息を詰まらせて唸る。
彼女のこの吸血行為は呪霊から受けた呪いや毒素を吸い出し排除するもの。
だから、害は無いと言えば害は無い。
かといって、無断での住居侵入や寝込みを襲ってきた事に対する件を許した訳では決してない。
例え其れが私の為を思った行為だとしても。
ジュルリ、ジュルリ、血を啜る卑猥な音が己の聴覚を侵す。
堪らずゴクリ、と唾を飲み下したが、別の事へ意識を切り替える事に努めた。
だが、そんな努力も空しく彼女から指摘の声が飛んできた。
『…あれ?もしかして勃っちゃった?何か固いの当たってるよ?』
「言わないでください、恥ずかしいので。」
『別に今更恥ずかしがらなくても良いよぉ。こういうのは生きてる上での生理現象なんだから。我慢しないで出しちゃって?』
「良いです、自分で処理しますから。貴女は早く高専に帰ってください、学長に叱られますよ。」
『そんな遠慮しなくて良いから良いから〜っ。』
「…ちょっと、人の話聞いてますか…ッ、」
『ちゃあんと聞いてるから、大人しく私に身を委せてなよ。』
ジーッと許可無く下げられていくチャック音に流石に焦って、無理矢理半身を起こして彼女に制止をかける。
「申し訳ありませんが、其れ以上は流石の私も怒りますよ…?」
『…建人君が私に対して本気で怒った事って無いよね?』
「仮に過去には無くとも、今本気で怒られるかもしれない原因を作っているのは貴女自身ですからね。」
『コレって立派な強姦に入っちゃうの?』
「相手の了承無く無体を働こうとしているのなら入りますね。あと、その手退けてください。ついでに其処から移動してもらえると有難いです。」
『…本当にシなくて良いの?』
「帰ってからまだシャワーを浴びていなかったので御断りします。」
『女の子みたいな事言うね。』
「ただでさえ汚ない物を汚ないまま咥えられるのは嫌ですから。」
『私は気にしないのに。』
「私が気にします。だから今すぐ退いてください。」
執拗に食い下がる彼女から強引に身を離しベッドから降りると、尚追随する様な言葉が背に飛んできた。
『眠いんじゃないの…?』
「貴女のせいで目が冴えました。そのついでに起きてシャワーでも浴びてきます。その後、何か軽く摘まむつもりですので…希望があれば仰ってください。自分の分を作るついでに貴女の分も作ってあげますから。」
『じゃあ、生ハムとタマゴのポテトサラダに、トーストとカフェオレ…!食べたいな!』
「…分かりました。シャワーを済ませたら作りますから、リビングで大人しくTVでも見て待っててください。すぐ戻りますから。」
『ゆっくりで良いよぉ。建人君疲れてるんだから、ゆっくりのんびり汗流してきな〜。』
その疲れてる人間の処へ押入って来ているのは何処のどいつだと言い募ってやりたかったけれども、止めた。
今の彼女に何を言ったところでまともに取り合ってもらえる事は無いだろう。
ならば、お言葉に甘えて少しゆったりとシャワーを浴びさせてもらうとするか。
そう考えて着替えを持ってベッドルームからシャワールームの方へ移動した。
そして、服を脱ぐ傍らに目に入った鏡の中に映る自分の姿を見て、絶句した。
襟回りに付着した赤と、首筋へ付けられた小さな噛み付き痕が鮮やかに自分の首元を彩っていたからだ。
(クソ…ッ、いつの間に…!)
普段は傷痕さえも残さない筈の彼女が付けた痕に、悔しくもすぐに気付けなかった事に苛立ちを隠せなかった。
何より。
こんな目立つ場所に痕を付けるとは、余程気に入られてしまったらしい事に今更ながら気付いた自分の馬鹿さ加減が情けなくて腹が立った。
取り敢えず、後で軽い説教くらいはしておこうと胸に決めて、残りの服を乱暴に脱ぎ捨てて浴室内へと入った。
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執筆日:2020.12.30