任務から帰って即、家入さんの治療を受けに手当てをしてもらって出てきた彼女を出迎えたところで、口を開いた。
「あんな、死なば諸共みたいな戦い方、止めてください。心臓が幾らあったって持ちませんから…っ」
「すみません…」
「やはり、貴女にはこの仕事は向いていませんよ。いっそ呪術師辞めて普通の仕事に勤めませんか?
「…七海さんの心配してくださるお気持ちは、純粋に嬉しいです…。でも、私、今更普通の社会に戻っても、今まで通りに暮らせる自信、無いです。もうどっぷりこっちの世界に浸っちゃいましたから…。なので…申し訳ありませんが、そのご提案には乗れません。すみません……っ」
「――じゃあ、代わりに私と結婚してください」
「…、は?」
「ぶふっ!!」
背後から聞こえてきた吹き出す笑い声に、振り返らずとも声の主が誰かなんて事は分かってしまって、そのままに問うた。
「…何時から其処に?」
そう問うた声は、意識せぬところで低く出ていってしまった。
これでは、あからさまにこの場に邪魔が入った事を不機嫌に思っているような態度だ。
誤魔化すように、サングラスのブリッジに手を伸ばし、まるであたかもずり落ちてきたのを直すかのように見せかけて押し上げた。
まぁ、そんな事をしたところで、この人には自分が一瞬動揺してしまった事などバレているだろうが。
敢えて平静を装った。
向こうも其れを一々指摘してくる事は無く、事実のみを返してきた。
「うん?たった今だけど?――にしてもおっどろいたぁ〜!あの七海が熱烈にアピールしてるだけでなく、こんな人通りのある道端でプロポーズまでしてるんだもん!大胆且つあっついよねぇ〜っ!!」
「…何の用ですか?今、お取り込みの最中なんですが」
「いや?別に用なんか無いけど。ただ面白そうなもん見付けたから声かけてみただけでぇ〜っす!」
「……用が無いならさっさとどっか行ってください」
「はははっ、怒ってる?ねぇ、邪魔して怒っちゃってる?」
「良いからさっさとどっかに行ってください」
「御免て〜。ちょっと揶揄っただけじゃ〜ん。ちぇ…っ、七海ったら僕の可愛い冗談通じないんだから、つれなぁ〜い」
本当に何の用だったのか。
言うだけ言って去っていった五条さんの背を見送って、あからさまな溜め息を吐き出す。
嗚呼、もう、本当に…彼に付き合っていると碌な事が無い。
気を取り直して、改めて彼女に向き合えば、緊張した面持ちをした彼女と目が合った。
「話を戻しますが…どうしても呪術師を続けるという事でしたら、私と結婚する事を条件で許します」
「……本気で仰ってます?」
「私は何時でも本気ですが。冗談なんかでこんな事言ったりしませんよ。――其れで…返事の方はどうなんです?」
そう彼女の目を真っ直ぐに見て窺えば、彼女はその視線に堪え切れなかったように目を逸らして俯き、恥じらうように顔を赤らめて言った。
「……こんなどうしようもなさそうな女で宜しければ…、不束者ですが、宜しくお願い致します…っ」
「上出来です」
嗚呼、やっと、彼女の言葉を…本心を聞けた。
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執筆日:2021.03.20