新米呪術師と先輩呪術師+αのお話


任務行きの途中だけども、此処のところ寝不足続きで疲れが溜まっていたし、且つ程好く揺れる車内の揺れに抗えずに私は呆気なく沈没した。

送迎中の車は最早ただの揺りかごで、補助監督である伊地知さんの話し声は子守唄だった。

そして、気付いたら道中寝ていて、いつの間にか隣の席には七海さんが座っていて吃驚した。

しかも、何とその七海さんの肩を枕代わりに凭れ掛かっているような状況である。

一気に眠気が吹っ飛び目が覚めた私は、勢い良く彼から離れて謝罪をした。


「す、すすすみません、七海さん…っ!うっかり居眠りなんかしてしまって…!おまけに七海さんの肩に無意識に寄り掛かって寝てしまうだなんて、本当申し訳ありません!!」
「…いえ、大した問題ではないのでお気になさらず」
「そ、そうですか…。……ところで、素朴な疑問なのですが…何故知らぬ間に七海さんがご一緒に同乗してらっしゃるので?」
「伊地知君の方から聞いてませんでしたか?君の応援に行くよう、五条さんに言われまして、別件からの帰る途中でそのまま拾ってもらったんですよ。…まぁ、私が同乗する時には既に君は寝落ちていた様子でしたので、気付かなくても当然と言えば当然ですかね」
「え…あ、そうだったんですね…。す、すみません、ちゃんとお話聞いてなくて……っ」
「お疲れだったんでしょう。気にしないでください。あと、一応誤解が無いように言っておきますと…あまりにも窮屈で辛そうな体勢のまま寝落ちてしまわれていたので、一言声をかけたんですが、全く起きられる素振りも無い程ぐっすりでしたし、無理もないです」


そう七海さんが告げてすぐ後を継ぐように言葉を付け足した伊地知さんがバックミラー越しに此方を見遣りながら仰った。


「目的地に着くまではもう暫く掛かりそうですので、到着するまでの間お休みになられていても構いませんよ。此処のところ、狗尾さんはとてつもなくお忙しそうにしてらっしゃいましたしね。私達の事は気にせず、どうぞお休みになられてください。目的地近くなりましたら、声をかけて起こしますから」
「え…っ、で、でも……、」
「お気付きじゃないのかもしれないので敢えて言いますが…目の下、凄い隈ですよ。その状態のまま任務を遂行されるよりは、少しでも休んで英気を養ってからの方が賢明だと思われますが」


言葉厳しめに聞こえるが、事実を指摘され、諭されているのだと理解した。

お二人共、何だかんだ言いつつ優しいし、何よりこの業界に入ってから長い先輩という身の方々だ。

ここは大人しく二人の言う事に従って休んでおいた方が良いだろう。

先輩も先輩の七海さんを隣にしながら眠るなんて、そんな大それた真似出来ないというか、とてつもない申し訳なさが先立ったが…たぶん、今寝なかったら、逆に無言の圧力という名のお咎めを食らいそうで怖い。

それならば、という事で、私は二人の気遣いを受け入れて少しばかり休ませてもらう事にした。


「……それじゃあ、お言葉に甘えて、少しだけ休ませて頂きますね」
「えぇ、どうぞ気兼ね無くお休みください」
「私の肩で宜しければ、枕代わりに使ってください。また最初みたいな体勢だと休みづらいでしょうから」
「えっ!?や、でも、それだと七海さんに多大な迷惑が掛かりますし…っ、そこまでして頂かなくても大丈夫ですから…!」
「私本人が良いと言っているんですから、貴女は素直に大人しく受け取っておけば良いんですよ」
「え………ア、ハイ…。じゃあ、すみませんが…ちょっとの間だけ、肩お借りしますね…」
「最初からそうしてれば良いんです」


促されるままそっと頭を傾ければ、思いの外しっかりとした肉付きの固い男性の肩に触れた。

いやもう緊張なんて言葉じゃ足りないくらいの感覚だった。

ただただひたすらに「ヒエェ……ッッッ!!」という気持ちでいっぱいである。

しかし、そんなところへ伸びてくる七海さんの大きな手が肩に預けた頭を撫でたりなんかするから…。

緊張よりも休息を求める眠気の方が勝って、気付いた時にはまた私はぐっすりと落ちてしまっていた。

そんな私の様子を見て安堵した七海さんは、一人ぽつりと呟いた。


「全く…しょうがない人ですね」
「狗尾さんはまだまだ新人で、此方の業界に入ってきてから日が浅いですからね…。余程慣れずに気を張り詰め過ぎていたんでしょう。どっちみち、まだ到着まで暫く掛かりますから、寝かせておいてあげましょうか」
「そうですね…。別に今回の案件は其れ程急ぎのものでもありませんし、少しくらい遠回りしたって構わないでしょう。……時間になったら教えてください。私が起こしておきますから。伊地知君はいつも通り運転に集中なさってください」
「分かりました。では、七海さんの指示通りに」


すっかり寝落ちてぐっすりな私を他所に、二人がそんな会話をしていたなんて事は、きっと誰かに告げ口されない限りは知らぬがままなのである。


AFTERWORD

執筆日:2021.03.20

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