かふぇいんと飴玉


何だか、今朝起きた時から鈍く頭が痛かった。

昨日任務から帰った後、疲れたからと言って着替えやら何やらを済ませた後即寝て、今日は休日だからなのもあって昼近くまでずっと寝通していたからだろうか。

たぶん、そのせいだろうな。

あとは…その、アレだ。

気圧変化だとか、たぶんそんな感じの。

地味に時折痛む頭に煩わしくなってきて、かといって薬で抑える程其れ程痛んでいる訳でもないし、我慢出来ないレベルでもない。

だが、ちょっと気になって神経に障る。

こういう時はカフェインに頼ろう。

そう思って、気分転換に寮から出てわざわざ外の自販機コーナーまで繰り出しに行った。

何か、今無性にカフェインが摂りたい気分だ。

少しだけ苦味が強いタイプの物を購入しよう。

財布から必要な分だけの小銭を取り出し、其れを自販機の投入口へと落とし込ませる。

すると、投入した金額に基づくドリンクのランプのみが点滅し、何れかお好きな物を選べと催促してきた。

私は迷わず珈琲で有名所の某メーカーの缶珈琲を選び、ボタンをぽちりと押す。

そして、ガコンッ、と落ちてきた其れを取り出し、すぐ近くに在ったベンチに腰掛け、口を付けた。

じんわりとした苦さが口の中に広がったが、この焙煎した豆の独特の芳醇な薫りが私は好きだ。

少し前までの自分は、この珈琲の苦味が苦手で一切飲めなかったのだが、何時しか突然飲める様になった口なのである。

だから、本当の珈琲の良さとか奥深さなんてものはまだ理解出来ていない。

けれども、薫りだけは昔から不思議と嫌いではなかった。

珈琲の匂いは、とても良い匂いだと思う。

何時か、本格的に飲める様になったら、そういう専門の喫茶店なんかに行って飲んでみたい…っ、なんて淡い夢さえ抱く程には好きになっていた。

脳髄にまで染み渡る感覚に、思わず私は溜め息を吐き出して宙を見上げた。

其処には、特に何があるという訳でもなかったけれども。

ただ何となく一人きりである今この時の何事にも気を遣わなくて良い空間が楽だった。

カフェインを摂取した事で、まだ微妙に靄が掛かった風でぼんやりとしていた頭がスッキリとしてきたし、心なしか鈍く地味に私を苦しめていた頭痛も和らいできた気もする。

うん、やはりこういう時はカフェイン(特に珈琲)に限るな…!

頭痛に対する独自の自論と対処法を掲げながら、内心一人頷きつつ優雅な一時を味わっていると、不意に視界に影が出来て暗くなった。

「おや?」と思って顔を上げ、そのまま後ろを見上げる様に上半身を反らして見れば、頭上に背の高い男の影が落ちていた。

影を作っていた正体は、我が高専一年担任の五条悟である――その人だった。

彼は何時もながらに黒いアイマスクで目隠しをして私の背後に立ち、此方を覗き込んでいた。


「こんな所で何してんの?」
『五条先生っしたかぁ…ちわーっす。今日も土日出勤ですか?』
「うん、コンニチハ。その通りだよ〜。いやぁ、幾ら僕が強くて天才だからってね、出張駆り出されてばっかなのも辛いのよ〜…?僕だって休日くらい休みたいわ。つーか、今すぐ休ませろってね。僕だって人間なんだし、人並みに休日をのんびり楽しんだりしたい訳よ〜っ。でも、上が許してくれなくってさぁ…あ゙ーっ、つっかれるゥ…!」
『何時もお疲れ様っすね、五条先生…。』
「ん…アリガト。今の莎草の慰めで少ぉ〜しだけ元気出たわ。この後まだ残りちょっとあるから、其れ終われば今日の僕の仕事は終わり…っ!其れまでの辛抱だね〜。――ところで、最初の質問に戻るけど…莎草はこんな所で何してんの?」
『別に…?特に何もしてませんけど。強いて言うなら、ちょっと飲み物買いに来て、そんまま此処で飲んでるだけです。』
「ちなみに、何飲んでるか訊いても良い?」
『別に構いませんけど…ただのやっすい缶珈琲っすよ?』
「うわ、何でそんな苦い飲み物飲んでんの!?もっと甘くて美味しい疲れも取れる様なヤツにしなよ…っ!華のJKらしくミルクティーだとかカフェオレだとかさぁ!!しかも、莎草が飲んでんの通常のよりもちょっと苦めなタイプのヤツだし…!何でそんな如何にも苦くて不味そうなヤツ飲んでる訳?というか、莎草って珈琲飲めた口だったっけ…?」
『何で、って…寝過ぎでちょっと頭痛かったから手っ取り早くカフェインでも摂ろうかと思って。あと、何時から珈琲飲める様になったかについては、私も詳しい事分かんないっす。気付いたら飲める口になってたんで…。あ、でも、たぶん高専入ってからくらいだと思いますよ。其れまでは全然だったんで。』
「へぇ〜、そうだったの…。莎草もいつの間にか僕の知らない内に大人の階段を登ってたのねぇ〜。其れはそうと…何で頭痛い時にはカフェイン=珈琲なの?カフェインなら紅茶とかでも良くない…?」
『え、カフェイン=珈琲は何となくですけど…。頭痛い時って何でか珈琲飲みたくなったりしません?』
「ならない。少なくとも、僕はそんな苦い物好き好んで飲もうとは思わない。あ、砂糖とミルクたっぷりなら話は別だよ?甘い物なら大歓迎だから!」


なんて軽々しく話す五条先生は相変わらず読めない表情で笑って言う。

私は其れを苦めの珈琲を啜りながら下から逆さまな景色で眺めていた。

ふと、反応の薄い私に口を閉ざした五条先生が徐に懐のポッケを探ると、その巨大な体躯には似合わず小さく可愛らしい個包装の飴玉が幾つか出てきて、其れを遠慮容赦無く上から降らせてきたのであった。

完全に油断していた私は、其れに「わぷふ…っ!」という変な声を上げながら顔面で受け止める。

突如頭上から降ってきた――否、軽く投げて寄越された飴玉の回収にわたわたしている内に、其れと変わる様に手に持っていた飲みかけの缶を掻っ攫われた。

「あ…っ、」と気付いた時には、無断で奪っていった五条先生が無言で口を付けた後だった。

直後、直ぐ様飲み口から口を離して思い切り顔を顰めてみせた先生がウゲェ…ッ、と舌を出して呟いた。


「にっっっがぁ…!!何コレ、本当に飲み物なの!?クッソ苦いんだけど!よく平気な顔して飲めんねこんなの……ゔえ゙ぇ〜っ、やだ今すぐ甘いの食べてお口直ししよ。」
『人の勝手に飲んどいて言う台詞かよ…まぁ、ほとんど飲み終わりかけだったから良いっすけど。』
「こんなのよりもっと疲れ取れそうなヤツ飲みなよ。次会った時僕が奢ってあげるから。今日は無理だから、その代わりにソレあげるね。莎草も偶にはちゃんとした休息取って躰労ってあげるんだよ〜。…じゃっ、僕もう行くから、ばいばぁ〜い!」
『え?ア、ハイ…お気遣い有難うございましたぁ……っ。』


いきなり現れたかと思えば嵐の様に去って行った五条先生。

ちなみに、掻っ攫われた缶珈琲の中身は、最後五条先生が飲み干したらしくご丁寧にもそのまま去ってく流れのついでに空き缶はゴミ箱へとinしてくださった。

まぁ、去ってく道中普通にポイッて投げ捨てたのが綺麗な放物線を描いてボッシュートされただけだけど。

良い子は真似せずきちんと普通にゴミ箱に入れてあげましょうね。

こんなダメな大人代表みたいな真似しちゃアカンですよ。

なんて脳内コールしてみたが、大して面白味も無くて止めた。

掌には、今しがた五条先生から強制的に渡されたカラフルでコロコロとした飴玉が転がっていた。

其れを無言で見つめた後、試しに一つ摘まみ取って封を開け、中身を取り出してみる。

五条先生が好きでよく舐めている赤色の飴玉だった。

何だか、一昔前の幼き頃を思い出して、懐かしくなって、徐にぱくりっ、と口の中に放り込んでみた。

途端、口の中に広がったのは、苺味の甘い味だった。

一瞬にして、先程の珈琲の苦味ある後味が消え去っていく。

久し振りの甘味に、偶には飴玉を食べるのも良いかもしれないな…だなんて事を何となしに思うのだった。

取り敢えず、暫くの間口寂しくなったら飴玉でも舐めとこうと思う。

個人的には、ミルク味とか抹茶味のが食べたい気分だったので、明日辺りにでもコンビニか近場のスーパーで安く売ってそうなのを見繕ってこよう。

そして、次、彼に会った時、御礼と称して飴玉の詰めた菓子袋でも渡してやろうか。

甘い飴玉なら、珈琲味でもイケるだろうか。

まぁ、仮にダメでも嫌がらせのつもりで入れとくけどね。

今回私が買った缶珈琲を強奪して文句言った仕返しだ。


AFTERWORD

執筆日:2020.11.22

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