とりま服をどうにかしましょうね


さて、一先ずのところ彼のご希望は叶えたのだから、そろそろ本格的に身を休める為の準備に入るとしようか。

虎杖から部屋の鍵を拝借して伏黒の隣部屋――虎杖の自室のドアを開けて、念の為に本人へ一言断りを入れた上でそのままお邪魔させてもらった。

そして、此処に来て漸く腕に抱えていた彼等二人を地に降ろして息を吐く。


「御免なぁ〜…っ、二人一遍に抱えてて重かったっしょ…?腕大丈夫?疲れてない?」
『うん?此れくらい何ともないよ…?幼児二人分抱える程度造作もないし。まだまだ全然余裕だよ〜。』
「え…マジ?」
『おす、マジマジ。私、虎杖に比べたらそりゃひょろっこい見た目してるかもしんないけど、こう見えて結構力持ちなんだよ〜っ。五条先生一人くらいなら普通に抱え切るし、何ならパンダ先輩抱えんのもイケんぜ。』
「きゃあ〜っ、庵原ってばイケメン格好良す〜!そんな庵原の男前さに軽率にも惚れちゃいそうなんだけど、惚れちゃっても良し…?」
『どうぞお好きな様に〜。』
「然して面白くもない茶番だな…。」


某一名から冷めた空気と白けた目を頂いたので、下らない言葉の遣り取りは止めて目下今から遣るべき事を押し進めていく事にした。


『取り敢えず〜……その服装をまずどうにかしなきゃ不味いよね。すんっごいずり落ちてて今にも下脱げそう。』
「ぶっちゃけ今まで必死に何とか抑えてる状況だったけど、ほぼ脱げ掛かっててやばいデス。…流石の女子の目の前でフルチンになるのだけは避けたいので頑張ったよ、誰か褒めて。」
「俺の方も、こうも着物がぞろびいては邪魔ったらしくて敵わん…。帯など既に外れておるし、はだけにはだけてほぼほぼ裸同然だな。まぁ、俺は小僧と違って幾ら露出しようが気にはならんが。」
『いや、少しは気にしなさいよ。』
「そうだよ、其れでもお前呪いの王かよ…。いや、逆に呪いの王だから故の発言なのか?」
『いや、呪い理由に納得しちゃダメだからね?虎杖。人のなりしてる時点でアウトだから。つーか、今の発言だとただの露出狂扱いされちゃう事になりますけど、そこんとこは良いんすか?宿儺様。』
「其れは断る。俺を其処等に転がる頭の腐った変態共と一緒にするな、虫酸が走る…っ。不愉快だ。今すぐに撤回しろ、小娘。」
『じゃあ、最初から言わなきゃ良いじゃんね…。あんま口答えすると其れこそ殺され兼ねないからもう言わないでおくけども。』


衣服云々については五条先生が特急で用意してくれていると信じて、今は応急的にだけどももう少しまともな体裁を繕ってあげるとするか。

そう思ったついでに任務帰りという事もあるので、取り敢えず二人纏めて風呂に突っ込む事にして、その間に二人が着れそうな服を用意しておく事にした。

再び二人を抱えて寮の共同浴場まで来ると、何かと一番に優先しないと文句を言いそうな宿儺様から先に身の丈に合わぬ着物を脱がし、ぱぱっと浴室に押し込んで、次いで肩をずり落としながらも何とか上だけ着ていた虎杖の方もむんずと剥いて同様に風呂場へと放り込み、汗を流しといてもらう。

流石の風呂入るくらいは躰のサイズが縮んだor部分的ケモ化していても自分達で出来るだろうと踏んでの判断である。

服を剥く際に虎杖から思った以上に悲鳴を上げられたのにはちょっと驚いたが(普段何かとリアクション薄いというか、変な時に限ってあんま動揺したりしないで落ち着いている分、意外だった)。

二人が汗を流している間に私は女子寮の自室へと戻って昔着ていて入らなくなった服の幾つかを急遽引っ張り出し、其れを持って再び脱衣所へと戻って二人の脱いだ(正確には私がひん剥いて脱がした)服の置かれた地点へ置き、外から声だけ掛けて待機しておく。


『虎杖達、大丈夫かぁー?逆上せてぶっ倒れたりしてないよねぇー?』
「うわっ!!庵原…!?みみみ、見ちゃダメだかんね!!覗き、ダメ絶対…っ!!」
『覗いとらんよ…。外から声かけてるだけだから安心しなー。あ、あと、虎杖達が着れそうな服持ってきたよーっ。緊急で間に合わせだから、私が昔着てたお古で申し訳ないけどー。』
「おーっ、マジか。アザーッス!いやぁ〜、今の姿じゃ何時も自分が着てるサイズ合わなさ過ぎて参ってたから助かるわ〜。」
『ついでのおまけでウチの兄貴が着てた下着も奇跡的に過去実家から持ってきてた衣類に混ざってたから、上がったら一旦合わせてみようねー?』
「おおっ、パンツ…!!パンツ大事!!マジで色々ありがと〜庵原…っ!!」
「ところで…小娘は一緒に入らんのか?」
『虎杖の意を汲んで流石の今回は丁重にお断りさせて頂いてまーす。』
「何だ…つまらん奴だな。」
「いや、この歳で混浴は不味いから…ッ!!」
「フン…ッ、だから貴様はケツの青い餓鬼だと言うのだ。俺は貴様と違って千年以上生きている身なのでな、貴様が言う歳など端から関係の無い話だ。」
「其れでも俺が断固拒否りますから…ッ!?庵原と一緒に風呂入るとか絶対に許さんからなァ!!」


力いっぱい叫んで否定する虎杖の声が脱衣所まで筒抜けで響き渡るが、此処で突っ込むと彼が可哀想だったので止めて差し上げた。

男故かささっと済ませて出てきた二人を大きめのバスタオルを被せて捕獲し、軽く水気を拭き取って後は各自おのおので自分で躰なり頭なりを拭いてもらった。

そして、くるりと後ろを向いている間に腰にタオルを巻いてもらって、パンツやら何やら持ってきた衣類を合わせてもらう。


『どう…?着れそうなのあった?』
「うん…っ!奇跡的にパンツのサイズも問題無さそうで良かったぁ〜!!」
「……ふむ。まぁ、急ぎの間に合わせならばこの程度か…。」
『私のお古故に当然女物となる点は我慢してね。つって、ちゃんとした服は今五条先生の方が特急で用意してくれてると思うから、其れまでの辛抱だよ。』
「急な事なのにここまでしてもらってんだから、文句なんて言わないって!寧ろめっちゃ感謝してる!!本当有難う〜庵原…っ!!」
「別に女物だのという点に文句は言わん…。そもそもの元々着ている服が女物の着物だったのだからな。……しかし、着るのは良いが…尻尾が邪魔だな。…削ぐか。」
『怖い事言わんでください。てか、全力で止めろくだせぇな。』


お尻の辺りでぴょこぴょこゆらゆらと動く尻尾が早々と邪魔で鬱陶しくなったのか、恐ろしい事を口にした宿儺様。

咄嗟にギュッと自身のケツから伸びる尾を匿う様に掴み、ひっしと私の陰に隠れてきた虎杖の反応は本能的なものだろう。

冗談でもそんなグロくてエグい事せんでくださいよ。

一先ず、二人にはパンツを履かせる事にし、その後各々好きに選んだ服を着させた。

結果、虎杖はお決まりのパーカーにハーフパンツ姿と、あまり普段と変わらぬ格好で落ち着いた。

宿儺様には着物と近い感覚の物をという事で、楽で動きやすいワンピースにトレンカなコーデで納得してもらった。

流石に着物は所持していないから致し方ない。

ちなみに、尻尾を出す用の穴は宿儺様が器用に開けてくださった。

本当に器用だなぁ…。

身丈に合う衣服に着替えた事で色々と落ち着いたのか、彼等の着ていた服を洗濯に回す為片していると、舟を漕ぎ出した虎杖が頭を揺らし始めた。

其れを隣に居た宿儺様が指差しで報告――否、教えてくださった。


「おい…小僧が眠りかけておるぞ。」
『ありゃま、本当だ。躰が縮んだせいで体力も子供の其れと一緒で幼くなったんかね…?』
「だろうな。そのせいか、俺も今至極眠くなってきてしまった…。」
『え。』
「自分で歩くのも面倒だ。貴様が小僧の部屋まで運べ。俺は眠い。」


まさかの宿儺様までもが眠気を訴え、相変わらずの尊大な態度で運べと命令宜しく仰ってきた。

見た目が小さくなろうがけもっと可愛くなろうが、やはり中身は呪いの王であるのは変わりないのである。

仕方がないので、急いで且つ慎重に丁重に扱いながら彼等を部屋まで運び届け、ベッドの上に転がした。

そしたら、各々もぞもぞうごうごとゆっくりとした動きで布団に入り、ぽてりと就寝した。

此処まで何かと怒濤の流れであった気がする…。

彼等と同じくではないにせよ、私も疲れが滲み出てきて、今日はもう早々に身を休めてしまおうと、頭の中で組んでいた諸々のスケジュールは投げて自分も汗を流してこようと一旦自室に戻り、着替えとタオルを持って風呂場へと向かった。

そうして身形を清めたらまた虎杖の部屋へと戻り、彼のベッドだが失礼して借りる事にし、コロコロした二匹を壁側に寄せ、空いたスペースに身を横たえるのであった。

疲れのあまり、寝る前に部屋に鍵を掛けるのを忘れていたが、そのまま私も就寝…。


―その後、諸々の用事を済ませてきた過程で夜となった時分に、真っ暗なこの部屋を訪れた者が一人居た。

その人は、異様に静かな部屋の中を訝しみながら扉をノックし、一言発した。


「心咲〜、悠仁〜、居るぅ〜…?」


シーン…ッ、と静まり返るだけの室内からの応答は無い。

一瞬首を傾げながらも躊躇無くドアノブに手を掛ければ、あろう事か、一切ロックの掛かっていないドアはあっさりと開いた。

思わず、ドアノブに手を掛けた張本人もボソリと感想を漏らした。


「いや、幾ら何でも不用心過ぎでしょ…。こんなん簡単に泥棒侵入出来ちゃうじゃん。油断は禁物だって厳しく躾直しとかなきゃだねぇ〜…っ。」


目隠しをした下でニヤリと笑みを隠さず顔に貼り付けたその男は、部屋の主に断りも入れずそのまま平然と部屋の中へと上がり込んでいく。

そして、腕に幾つもの紙袋を提げた状態でポケットに両手を突っ込む男は、部屋の奥――ベッドの上で仲良く就寝中な塊三つを覗き込んで更にその笑みを深くするのだった。


「あ〜らまぁ…何にもしなくて良いって言ってたのに、ご親切にも世話焼いてくれた挙げ句皆疲れちゃってお寝んねタイムって訳ねぇ〜…。あの宿儺までこんな大人しくなるとか、どんな呪いだよって話だけど。……まっ、今はその可愛らしい寝顔に免じて寝かしといてあげましょうかね…っ!」


大量の紙袋はベッド脇に置き、徐にパシャパシャシャ…ッ、と無音でスマホのカメラを切った男は機嫌良さげに画面を見つめる。


「うん…っ、上出来上出来!なかなかに良い写真が撮れたんじゃない?」


男の独り言が呟かれるも、部屋の主達は誰一人反応を示す事無くぐっすりであった。

その事に男は満足そうにスマホを仕舞い、去り際に私と彼の頭だけを優しく一撫でした。


「毎日色んな事に巻き込まれまくってお疲れ様…っ。今はゆっくりお休み、二人共。良い夢を見なね。」


言葉優しめであったが、ついでの嫌がらせに某呪いの王の眠る頬っぺたを無造作に突っ付いておく男はやはりふざけた神経の持ち主だ。

最後にぽんぽんっ、と軽く布団の上を叩いて保護者らしくスヤスヤ眠る私達を見守りつつ部屋を後にしたその人。

部屋を出た丁度でガチャリと隣の部屋のドアが開き、少しだけ顔を覗かせた住民が口を開いた。


「五条先生、お疲れ様です…。」
「あら、恵起きてたの?」
「…まぁ、ちょっと隣の事が気になってたんで…。虎杖達、どうでした…?随分前から静かになってたんで、たぶん寝たのかなとは思ってましたけど。」
「うん。恵の予想通りぐっすりだったよ〜。よっぽど疲れてたんだろうねぇ〜…っ、僕が来た事にも気付かず三人仲良くベッドで川の字状態で寝てたよ。しかも、不用心にも鍵掛けずのまんまね。」
「マジっすか…。」
「マジだよ。まぁ、取り敢えず暫くはあのまんま戻らないだろうから…お隣さんって事で、恵の方も色々宜しくね!」
「……アンタの事だからそんな事だろうと思いましたよ。」


深々とした溜め息を隠しもせず吐いた彼――伏黒恵は其れだけ言って、最後に「…おやすみなさい。」と小さく告げて自身の部屋へと引っ込んでいく。

其れを穏やかに見送った目隠しの男――我が担任、五条悟は「ハイ、おやすみぃ〜。」と返して自らも寝床に帰っていくのだった。