ねえ、どうか。
「置いていかないで」



―独りぼっちは厭だよ。

そんな思いが眠る口から無意識に零れ落ちて出ていった。

夢魘の狭間で寝言にして呟くにはあまりに悲しい響きを伴っていた其れに、少しだけ寂しそうに顔を歪めた彼は、傍らに付き寄り添ったままこう返した。


「…大丈夫、きっと俺は置いていったりなんてしないよ。寧ろ、そっちが俺の事置いていきそうで怖いって」


そう言った彼の声は、何故か震えているように聞こえた。

泣いてしまいそうな気持ちを必死に堪えているみたいな、そんな風な感情が乗せられて。


「…だから、頼むからどうか命大事にしてよ。もう、目の前で誰かが死ぬとこなんか見たくねぇからさ」


何れだけ自分が傷付こうともお構い無しに敵陣へ突っ込んでいく彼を模倣するように、自らも命を張り、また呪いによって自分は簡単に死なないからと己に宿る一つ以上の命を使って力を振るって戦おうとするから、心配で堪らないのだ。

自己犠牲の元で成り立つ彼女の生き方に、苦しさを抱いた彼は思い縋る。

どうか、そんな簡単に死を選ぼうとしないでくれ、…と。

例え命が二つあろうと三つあろうと、自分を守る為だけに擲つように使わないでくれ、と。

しかし、きっと彼女はそんな願いを聞き届けてやくれないだろう。

自分が知るよりずっとずっと昔からそうやって生きてきた、――そんな悲しい生き方しか知らない彼女だから。

ならば、せめて、自分の目が届く範囲に居る内は、寄り添っていてやろう。

自分の気持ちが少しでも伝わってくれる事を祈りながら。

夢に魘され、眦に浮かぶ涙を拭ってくれる指先は非道く優しく、そして温かかった。


「大丈夫…莎草は独りぼっちなんかじゃないよ。俺が居るし、伏黒も、釘崎も居るし。絶対に独りぼっちなんかにはさせねぇって。だから安心してよ…。独りで抱え込んだりなんかしないでさ、俺達を頼ってよ?じゃないと…せっかく友達になれたのに、寂しいじゃん」


どうか届いてくれ。

悪夢なんかに負けないで。

自分が側に居るよ、と…そう告げるように彼は片時も彼女の側を離れずに居るのであった。

己を庇って傷付き、命を代償に呪いを祓おうとした勇猛な術師の眠る傍らに。