何方を示すかの好奇心


※当作品は、11/04の“良い推しの日”にて他所様企画夢頁へ掲載した同タイトル140字SS作品『何方を示すかの好奇心』をブラッシュアップしたお話となります。


「―私、大千鳥君の事、好きよ」
 何気無い風に零された台詞に、俺はピタリと躰の動きが制止するのを感じた。
 ――今、我が主は、己へ対し何と申したのか。
聞き返す為に首を傾げてもう一度言ってくれと乞えば、彼女は一言一句違わぬ台詞をもう一度口にした。
「私、大千鳥君の事好きよ、って言ったのよ」
「――其れ、は…どういった意味で…」
「言葉通りの意味だけど?」
「言葉通り、だと…?」
「そう。深い意味は無いけれど、今の私から貴方へ思う純粋な気持ちよ。ただ好きだから、“好き”って伝えただけ。其れ以外の意図は無いから、深く考えないで頂戴ね。…っふふ、其れだけよ」
 そう言って彼女はくふくふと笑みを零しながら俺を置いて何処かへと歩き去っていった。

 …我等付喪の者達がそんな事を言われたらすぐに本気にすると分かっている癖して、アンタは俺に対してそんな事を言うのか。
本気で神隠しされようものなら恐れ慄くであろうに。
 試しに、彼女の知らぬ間に隠したらどうなるのだろうか。
拒むのか、はたまた受け入れるのか。
今度、気まぐれに試してみるとしようか。
二人きりだけとなった機会を狙って、彼女が油断し切った隙を突くように。
 その後、言い訳に何と言ってやろうか。
たわむれ言にもそんな危うい事を招き兼ねない事は口にするな、と釘を差す前提で分かりやすく伝える為にした…という事にしておこう。
 何方の反応を見せるかは気になるが、出来れば後者であれば良いと願う。


執筆日:2021.11.24
加筆修正日:2022.01.19