今朝はあんなにも“ピーカン”に晴れていたのに、午後を過ぎた途端、急にどんよりと暗くなっていった空模様。
雲行きが怪しくなったからと慌てて外に出していた洗濯物を取り込めば、最後の一つを屋根の下へと取り込んだところでポツリ、ポツリと雨が降り始めた。
その雨は次第に強くなっていき、数分と経たない内に雨脚を強めてザアザア降りとなっていった。
慌てて洗濯物を取り込み終えた面子は、揃って顔を見合わせ、安堵の息を吐いた。
「危機一髪、というところだったか…?」
「危なかったですねぇ〜っ。もうちょっと取り込むのが遅れていたら、一部濡れちゃうところでした!」
「兄弟が早めに気付いてくれたお陰だな…。」
「こうして皆が手伝ってくれたお陰で全部濡れずに済んだんだよ!手伝ってくれてくれてありがとね、兄弟!秋田君!巴さん!」
「どういたしまして…っ!」
「困った時はお互い様だ。気にするな。」
「俺は、偶々兄弟のすぐ側に居たから手伝ったまでだ…。礼なら、秋田や巴形だけに言ってくれ。」
「何言ってるの、兄弟だって手伝ってくれた事に変わりはないんだから、ちゃんと御礼言わせてよ!」
「ぅ゙…っ、好きにしろ。」
和やかなムードが流れている其処へ、ぱたぱたと慌ただしい様子でやって来た歌仙が声をかけてきた。
「君達…っ、洗濯物を捌くので忙しくしているところ悪いが、主の姿を見なかったかい?」
「主さんですか?いえ、僕の方は見てませんけども…。」
「主君がどうかされたんですか?」
「少し前に万屋へと買い出しに出掛けたんだが…この様子だと、まだ帰ってはいないようだね。」
「そういえば…少し前に出掛けの主の姿を見かけたが、傘を持ってはいなかったな。」
「空の様子が、まだ今朝と変わらず晴れ切っていたからね。この様子なら、傘は必要無いと思って持っていかなかったんだろう。不味かったな…切れた調味料の買い足しなどを頼むついでに、一つ忠告しておけば良かったよ。何時もなら、初期刀である加州や近侍の同田貫辺りが気付いて傘を持っていったりするんだが…生憎、今は二人共遠征へ出掛けているし、他のよく気の付く者達も、皆遠征へ出払ってしまっているからね…困ってしまったな。」
彼女の出掛けに声をかけた者として気になってしまったのだろう。
眉を下げた様子の彼に、取り込み終えた洗濯物の仕分けをしていた秋田が手を挙げて申し出た。
「じゃあ、僕が今からでも走って傘を届けに行くのはどうですか?短刀の僕なら足が速いですし、極の修行も終えてますので、あっという間に駆けて行けますよ!」
「確かに、極めた君なら此処に居る者達の中でもずば抜けて偵察値が高いから、主が何処に居るかもすぐに見付けられると思うが、君は小さいからなぁ…。主と共に傘の中に入る事となった時、どちらかが濡れてしまう事になるだろう。…其れに、今受け持つ仕事から抜け出られる事になるのも考え物だろうし…どうしたものかな。」
「別に、傘の件に関しては、二本持って出れば済む話なんじゃないか…?一緒に入らずとも、別々に差せば其れで済むだろう。其れなら、背の小さな秋田でも行けるんじゃないか?」
「だが、主の手には買い出しで買った筈の荷物があると思うんだ。其れを考えると、例え傘を差し出されても荷物で手が塞がって傘を持てない事になるだろう?そうなると、彼女より小柄な彼が行くよりも、明らかに体格が大きな者が行く方が一緒に荷物も持てて傘も差せて丁度良いという訳さ。」
「何でこんな日に限ってそんな大荷物になる量を頼んだんだ…。」
「僕だって、こんなに急に天気が変わると分かっていたらそんなに頼んじゃいなかったさ…っ!其れに、一々何度も本丸とを往復するよりも、一度に全ての買い出しを済ませてしまった方が効率的じゃないか!厨を任せられる身ではない君には分からない事かもしれないけれどねっ!!」
まんばのボソリと零した指摘に、其れまで冷静的だった歌仙が火が付いたように捲し立て始める。
その様子を側で話を聞いていた堀川が苦笑しながら「どうどう」と収めていた。
彼等の言い分を一通り聞いた巴形は、「ふむ。」と一つ頷いて申し出た。
「ならば、俺が行こう。俺なら、薙刀故に主よりも圧倒的に躰が大きいからな。身の丈も高ければ、荷物も持てる上に傘を差す事も可能だろう。此処の事は、誰か代わりの者を寄越せば万事解決と済む事だ。そうと決まれば、早速代わりの者となる者を呼んでこなければ…、」
「皆集まって何話してるんだ?難しい顔してるけど…何かあったのか?」
そうこう数人で集まり眉を寄せ話し合っていれば、側を通りかかった御手杵が首を傾げて問うてきた。
その声に弾かれるように顔を向けた巴形は、「丁度良い」と喜色を滲ませて口にする。
「御手杵、良いところに来た。丁度、今、俺の代わりとなる者を探しに行こうとしていたのだ。すまんが、此れから俺は主の元へ傘を届けに行かねばならんのでな。悪いが、俺の代わりにこの場の仕事を頼まれてはくれないか…?」
「あ゛ー…主の奴、傘持っていかなかったんだなァ。其れなら、俺が代わりに行ってやろうか?」
「御手杵さんがですか…?」
「嗚呼。わざわざ持ち場の仕事ほっぽり出して抜け出るよか、誰か他の奴が出て行った方が効率的にも良いだろ?其れに、正国にも不在の間を任されてるしな…!“俺が遠征に出てる間、主の事は頼んだ”って。そんな訳で、今近侍を任されてるのも俺だし、傘届けに行くのも俺が行くよ。どうせ俺、今日は非番で暇してたし、丁度手も空いてたからさ。任せてくれ!」
「そりゃあ、誰か手の空いている者が行ってくれれば助かるが…良いのかい?」
「おう。傘届けに行くくらいどうって事ない仕事だしな。其れに、俺は雨平気だから。ちょっと濡れるくらい何ともないぜ?」
「そういう事なら、君に任せようかな。じゃあ、主の事、宜しく頼んだよ?」
「おう…っ!んじゃ、早いとこ行かねぇと主びしょ濡れで帰ってきちまうかもしれないから、行ってくる!」
「いってらっしゃーい!お気を付けてぇーっ!」
「んーっ!行ってきまーす!」
自ら傘を届けに行く任を申し出るなり出掛ける準備をして出て行く御手杵。
その背に秋田や堀川達の賑やかな声がかかれば、裏手の門へと駆けていく最中の後ろ手に手を振って応えた。
本丸から出て万屋街に繋がる一本道を駆けていくと、目的の場所へはすぐだった。
「さて…こっからは主がどの店に居るか、だなァ。取り敢えず、買い出しを頼まれる事の多い処からしらみ潰しに見ていくか。」
彼女へ傘を届けに行くという任の話を聞いてすぐに受けたのは、ただ暇で手が空いていたという事だけが理由ではなかった。
彼はレベルがカンスト――つまりは、上限にまで育ち切ってから暫く経ち、戦場へ出る事が少なくなっていたから、とにかく躰を動かしたくて堪らず、長い四肢を持て余していたのだ。
何でも良いから躰を動かしていたい彼にとって、雨が降っていようがいまいが関係は無かったのである。
生来、彼は一ヶ所に留まり続けるというのを退屈に思う性格だ。
其れも相俟って、申し出た事であったのだった。
彼にとって、雨自体に苦手意識は無い。
何せ、彼には雨と雪には所縁あるものだ。
まだ彼がただの槍であった頃の話だが、参勤交代の行列の先頭・馬印として外へ持ち出されれば忽ち雨が降り、鞘を抜けば雪を降らす…と云われていた。
故に、付喪神として、刀剣男士としてこの世に降ろされた今でも、その逸話は彼が顕現するのに由来し、遠征や出陣へ出ると度々雨や雪を降らせていた。
その所為もあって、彼と一緒に組まされた者達は、口々に漏らしていた。
“彼奴と一緒に行くと、遠征先引いては出陣先までも雨に降られる”…と。
毎度の事ではないけれども、明らかに其れが所以しての頻度で雨に降られていたのも事実で、彼自身も半ば辟易している性質であった。
しかし、己のその持ちし性質は、己が顕現するにあたって必要となった要素である逸話だと理解しているので、他二人の槍と比べて見劣りする逸話だと肩身の狭さを感じはすれど、其れを理由に落ち込む事はなかった。
―そんな話はさておき…今は己の主探しだった。
一先ず、よく行く店々の店先から中を覗いてみるも、目的の彼女の姿は無かった。
ならば、と思い付く限りの場所へ向かってみるも、全てが外れで、期待をかけた分だけに肩を落とした。
あと、彼女が向かいそうな場所は何処だったかと悩んでいる内にも雨脚は更に強まり、傘の先から次々と雨垂れの滴を落としていく。
通りを歩いていた者達の足数も、雨脚が強まるに連れて徐々に減っていった。
その事も彼の不安を煽り、雨の酷くなっていく様も加わって、流石の彼も頭を抱えていると…ふと視界の端に、既に潰れてしまった後の古い店が映り、その軒先に見慣れた姿を認めた気がして、慌てて其方へと急いで駆けていった。
近くの距離まで寄ってみて、初めてその姿が己の探していた者と合致する。
忽ち、安堵の溜め息を吐いた彼は、既に間に合わなかったんだろう雨に濡れてしまったらしい彼女の元へ歩み寄った。
「こんな処に居たのかァ〜…っ、道理で思い付く限りの店に寄ってみても見付からない訳だ…!」
潰れた後の店先に近寄る者など、こんな日でない限りはあまり無いだろう。
故に、全く意識から外れていた場所であった事に、彼はすっかり失念していたと内心反省した。
雨宿りをするには、屋根のある場所は打ってつけの場所だ。
今は潰れてしまっている店跡の軒先だろうと関係は無いのである。
こんなに酷い雨だ。
幾ら軒下で雨宿りをしようとも、風も強まっている事も相俟って、例え濡れていなかった身であったとしても濡れてしまった事であろう。
現に、見付けた彼女の身は、足先から中心にすっかりびしょ濡れ状態となっていた。
唯一濡れるのを防がれたのは、彼女が抱える…自身の上着の羽織で包んで濡れるのを庇ったらしい荷物だけであった。
其れでも、此れだけ雨風強ければ、荷物の為に自分を犠牲にして上着を脱いでしまった彼女の身は冷え切ってしまっている事だろう。
このまま居させてしまえば、人間である彼女は風邪を引いてしまうかもしれない。
そう思った彼は、一度傘を閉じて己も軒下へと入った上で自身の上着を脱ぎ、彼女へと差し出した。
「ほい、此れ。そんままだと寒いだろ…?今までずっと俺が着てたやつだから温いぜ!既に濡れちまった後で意味無いかもしんないけど、何も無いよりかはマシだろ?」
そう言って彼女の方を見遣れば、彼女は無言でその上着の方へと視線を落とした。
その姿が、本丸を出て行く前の何時もの毅然とした彼女の姿とは違って見えた事に、彼は内心でハッとした。
雨に濡れて髪まで濡れてしまった彼女は、少しばかり気落ちしたように物静かで、女の身も相俟って普段には無い艶があるように見えてしまったのだ。
男の身で顕現した御手杵は、その様に無意識にゴクリと生唾を飲み込んでから、意識を逸らしながら上着を彼女の肩へと掛けてやる。
次いで、あまり意識しないようにと視線を逸らして傘を手に取り、素早く差して軒下から抜け出た。
「アンタの分の傘も持ってきてやったから…其れ差して早く帰ろうぜ。荷物なら俺が持つからさ。」
そう口にした後に、もう一本持ってきていた傘の方を差し出した御手杵であったが、肝心の彼女の方が其れを無言で見遣るだけで受け取らなかった。
どうして傘を受け取らない上に、その場から動こうともしないのだろうと疑問に思って再び彼女の方へ視線を遣れば、彼女の頬にきらりと光る何かを認めて目を瞬かせた。
刹那、其れが龍の鱗か何かに見えたからだった。
こんな雨の日だ。
近くを彷徨っていた何かに憑かれたか、と一瞬危惧したのだが、ただの杞憂で、よくよく見遣れば其れは雨の滴の粒が光に反射して鱗のように見えただけであった。
改めて彼女を見遣れば、腕や首元にかけても濡れてしまったのか、龍の鱗のようにきらきらと光って見える滴が付いていた。
その様が、寡黙さも相俟って彼の無愛想で物静かな一匹龍な刀と重なって見え、思わず思ったままを口からポロリと零してしまった。
「…何か、今のアンタ、大倶利伽羅の奴みたいだな。」
『―は…?』
「だって、今めちゃくちゃ静かだし、俺が何話しかけても無言だったろ?おまけに、雨で濡れた滴が龍の鱗みたいにきらきら光って見えたんだ。だから、一瞬、雨に降られた間に何かに憑かれちまったのかと思ったんだぞ〜っ。」
暗に軽く無視されて傷付いたんだぞ、というのを含めて口にすれば、漸く動きを見せた彼女が自身の頬を拭う仕草を見せ、またとなく目を瞬かせた。
「もしかして…アンタ泣いてたのか?」
頬というよりかは、目の近くを拭うような仕草に、彼は傘を彼女の方へと傾けながら問うた。
彼女はその問いに寸分黙り込んでいたが、押し通せないと観念したのか、ぽつりぽつりと小さな声で答え出した。
『……雨の日は、どうしても嫌な事を思い出しちゃうから…其れで、つい…。別に、誰が悪いとか言う話じゃないから…気にしないで。』
「でも…其れって泣く程辛かった思い出なんだろ…?」
『…まぁ、そうだね…。今でもまだ内で片の付いてないごたごただったから…こういう日に限って思い出しやすいんだと思う。……確かあの日も、こんな雨の日だった気がするから…。』
「そっか…。アンタ、雨の日は嫌いか?」
『……どうだろうね。天からの恵みと言えば聞こえは良いけれど、其れ故に起きた天災に苦しめられた事もあるし…何より、雨の日は嫌な事が起こる事の方が多いから、好きか嫌いかで言ったら嫌いかなぁ…。梅雨時期故に雨続きで夢見が悪いのもあるしね…。夢見が悪いばかりってのも、なかなかに堪えるよ。』
そう言って苦く笑った彼女は、口端を歪めて天を仰いだ。
恐らく、話している内にまた感情が昂ったのだろう。
ぶり返すように再び胸の内を占めた感情に、彼女は深く深呼吸をする事で抑え付けようとした。
しかし、堪え切れずに溢れた一滴が、彼女の頬へと伝って筋を作った。
その頬を彩る其れが、また龍の鱗のように見え、場違いにも綺麗と思ってしまった。
泪の痕が、雨の滴と混じってきらきらと踊るのだ。
まさに鱗のように輝いて見え、美しかった。
目蓋の縁を彩る透明な滴も含めて、綺麗だと思えたのだ。
そんな彼女の姿に、彼は寸分見惚れてしまっていた。
…彼女が濡れないようにと傘を傾けていたせいで、己が濡れているという事にも気付かずに。
―暫くそうして彼女の気が落ち着くのを待ってから、再度傘を渡す為に差し出すと、今度はしっかりと受け取る様子が見てとれた。
其れに安堵し、彼女の手から荷物を受け取ろうと手を伸ばしたところで、ふと或る事に気付いた。
「あれ…その荷物、ひょっとして動いてる?」
『え…?』
尋ねた拍子にもぞり、と動いた手の中に、彼女の意識も其方の方へ移動したのか、己の手の内にある荷物の一番上の方を見遣った。
すると、彼女の上着に包まれていた其れがもぞもぞと動き、「みゃあ」と鳴いて顔を覗かせた。
布に包まれていた物の正体は、五虎退の連れている小虎であった。
しかし、其れは自分達の本丸に居る個体のものではない。
自分達の本丸に居る五虎退は、少し前に極の修行を終えて帰ってきた後なので、五匹居た筈の小虎は一匹の大きな虎へと成長した姿である。
なら、この小虎はどうしたのか…?
気になって視線を遣れば、彼女は肩を竦めて答えてくれた。
『雨が降り出したばっかりの時に、慌てて何処か雨宿り出来る軒先は無いかって探してたら、一匹だけ迷子になってたのか、心細そうにみゃあみゃあ鳴いてたんだ…。そのままにしとくのも何か可哀想だったし、雨に濡られて弱られても困ると思ったからさ。自分が着てた上着を脱いで包んで荷物と一緒に抱え込んでたんだ。そしたら、いつの間にか落ち着いたのか寝ちゃってね…。だから、今の今までずっと静かだったんだ。たぶん、私達が話してた話し声とかで目が覚めちゃったんだろうね。…ふふっ、おはよう他所の子の虎君や。気分はどうかね…?』
「みゃあ…っ!」
「どうやら元気そうだなぁ〜。」
『この雨だからねぇ…。このまま此処で本体の五虎退を待つか、この子の主さんを待つよりは…保護という形で一度本丸に連れ帰って、こんちゃんを通して連絡してもらった方が良いでしょ。じゃないと、私も含めてこの子も風邪引いちゃうかもしんないからさ…っ。』
「そうだな。早く俺達の本丸に帰って温まろうぜ…!」
そう言って彼女の手にあった方の荷物を受け取り、彼女の片手を空けさせる。
そして、漸く本来の役目を果たすように開かれた傘を差す彼女を連れて歩き出す。
結局間に合わずにびしょ濡れな姿で本丸へ帰り着くと、出迎えた皆が皆して心配の声を上げ駆け寄ってきた。
玄関先に辿り着く前に真っ先に飛んできた小夜に至っては、半ば押し付けるように手拭い(タオル)を渡してきた程だ。
「おかえり、主。湯殿の用意なら、もう整ってるよ。風邪引かない内に早く温まっておいでよ。」
『有難う、お小夜。相変わらず、皆用意が良いねぇ〜。』
「其れと、遠征に出てた第二部隊と第三部隊が帰ってきてるから…同田貫さんも居るよ。…第四部隊はもう少し掛かると思うけど、もうちょっとしたら無事に帰ってくると思うから、安心して。」
『…!……はは…っ、何から何まで気遣ってくれて有難うね。』
「主を陰から支える為にも、当然の事をしたまでだよ。」
そう答えた小夜は、ふんすと息を吐いてみせた。
初期の頃から居る古株の者だったから気付いたのだろう。
雨に濡れた以外で彼女の頬が濡れていた事に。
濡れた髪が張り付いた事で、顔はよく見えなくなっていると思っていたのだが…長年連れ添ってきた彼には誤魔化し切れなかったようだ。
元より隠す気は無かったが、早々とバレてしまった事に、つい苦笑が漏れ出てしまった。
まぁ、彼は極めた後であったから、隠し通したところでバレていただろうが。
小さな彼とそんな遣り取りをしつつ手拭いを受け取って適当に頭に被り、手の内に抱えていた存在を説明し、他の者に受け渡しながら“政府へ迷子の五虎退の虎を探している者は居ないかの連絡を入れるように”を伝えた。
自分の事は後回しにテキパキと指示を出す主を後ろから眺めながら、「そろそろ誰か一言申してきそうだろうなぁ〜。」と思っているところに、早速やって来た足音に、御手杵は心の内でしてやったりと笑った。
「アンタなぁ…っ、自分がびしょ濡れなの忘れて躰冷やしっ放しにしてたら、御手杵の奴が迎えに行った意味無ェだろうが…!」
『うわっ!?た、たぬさん…ッ!?い、いきなり頭掴まねぇでくだせぇ!吃驚するから…っ!!』
「うるせぇ!!だったらびしょ濡れのまんまの頭放置してねぇーでさっさと拭きやがれっ!!」
わいわいぎゃーぎゃー、本丸へと帰ってきた途端にこの賑やかさである。
さっきまであんなに萎れていたみたいに元気が無かった彼女も、今は自然と笑い声を上げれるくらいには元気になったようだ。
全く、多方面で世話の焼ける主である。
しかし、そんな主の優しさで救われた小さな命を見遣り、彼は密かにほっこりと微笑む。
「良かったなぁ〜お前、主に見付けてもらえて…!この恩はちゃんと返してやれよ?」
「うみゃん…?」
堀川の腕に抱かれた小虎は、彼の言葉に不思議そうな顔をして首を傾げるのだった。
ついでに、その後、傘を届けるだけだった筈の彼も盛大に濡れていた事を指摘され、彼女と同じように風呂場へと連行されるのであった。
ちなみに、風呂は、女湯(離れ)と男湯(母屋)といった風に別々に分かれている為、一緒になるという事は無いので安心である。
執筆日:2020.07.12
【後書き】
テーマが「雨垂れ」という事でしたので、雨に纏わるキャラとかって誰か居たかなぁ〜と考えたところで思い付いたのが、彼…御手杵でした。
今回の企画テーマの総称が、「雨垂れの街を行け」というものでしたので、やんわりとそんな意味も含めた内容構成にしてみました。
私が選んだお題タイトルが「かなしい鱗を持つひと」だったので、其れから得たキーワードをヒントに話を掘り下げていったという感じです。
お話の後半では、泪や雨に濡れた事で付いた滴が、まるで鱗のように見えたら素敵かなって思って思い付いた事をそのまま表現してみた次第です。
今回、今までで一番テーマに沿えたお話を書けた気がして、非常に大満足しております…!
熱量掛けて書いた作品故か、何時も以上に話が長いです(爆)。
でも、後悔は無いぜ…!私は書き切ったぞ、ぎねぇ〜…っ!!
後書きを締め括るにあたりまして、素敵な企画を用意してくださった朝谷様には、大変感謝致します。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。
この度は、素晴らしき企画にて私の稚作な作品を並べてくださり、誠に有難うございました。
※尚、当作品のタイトルは、企画サイト様指定のものをそのまま使用させて頂きました。
テーマが「雨垂れ」という事でしたので、雨に纏わるキャラとかって誰か居たかなぁ〜と考えたところで思い付いたのが、彼…御手杵でした。
今回の企画テーマの総称が、「雨垂れの街を行け」というものでしたので、やんわりとそんな意味も含めた内容構成にしてみました。
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お話の後半では、泪や雨に濡れた事で付いた滴が、まるで鱗のように見えたら素敵かなって思って思い付いた事をそのまま表現してみた次第です。
今回、今までで一番テーマに沿えたお話を書けた気がして、非常に大満足しております…!
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後書きを締め括るにあたりまして、素敵な企画を用意してくださった朝谷様には、大変感謝致します。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。
この度は、素晴らしき企画にて私の稚作な作品を並べてくださり、誠に有難うございました。
※尚、当作品のタイトルは、企画サイト様指定のものをそのまま使用させて頂きました。
