熾烈を極めた歴史修正軍との戦いが終わった。

戦が終われば、必然的に我等審神者達も不要となり、各地各時代から集められた我々ただの人間達は審神者という職を解かれると共に元の時代現世へと返された。

戦の為に顕現せしめられた刀剣達も皆一様にその顕現を解き、戦が終わったから“ハイ、お疲れ様でした”とその本体の刀解を命ぜられた。

しかし、慈悲なのか無慈悲なのかよく分からぬ情けを掛け、御上は“一振りのみならば手元に残して元審神者としての形見守りとしても良い”といった御触れを出した。

“全て刀解せよ”と言うかと思えば、何だ其れは、と思わずにはいられない話であった。

八十を優に超える数の刀剣達を有しておいて、その中の一振りのみを選んで残しておいても良いとは…また人間の愚かな傲慢さというか、勝手な思考が働いたものだと思う。

恐らくは、全てを殲滅せしめたと思った後に残党紛いの者が現れてきても対処に困るから、という意味合いでの保険だろう。

捻くれた思考を持つ私は、どうしてもそう考えてしまって仕方がないのであった。

まぁ、情けにせよ何にせよだ。

大々的にお許しが出るのならば、有効活用させてもらう以外に手は無い。

本丸が解体されるまでの猶予の期間を最大限に利用し、其れ等を含めたこの長く続いた戦の“後片付け”を行った。

本丸中に置いてあった家具等一式を売買したり(量が量だった為に全て捨てても良かったが、まだまだ現役で使える物がほとんどだった為、大半を断捨利で捨て使える物は売り払って後の生活資金とした)と大忙し。

物が一気に無くなった後の本丸内はがらん…っ、としていて何とも寂しげな哀愁を漂わせていた。

まぁ、其れも今の内だけで、人の身を失った彼等を刀解させたら、残るは人一人と武器一振りが住むにはデカ過ぎる建物が残るのみとなる。

其れもすぐに解体されて更地となれば、その地には何か大きな屋敷があったのだなとされる跡が残るだけである。

全てを片付け終わり、皆一人一人に話を訊き、私の元に残るか否かの答えを訊いて回った。

そうして得た答えと一振りの返答から、最終的な判断が下された。

意外な事に、当本丸でその身を顕現させたまま残るのは、三名槍が一本と名高い大槍身の御手杵だった。

意外も意外という相手であった。

しかし、この世に残ると選択した理由も頷ける。

彼の言葉を借りるならば、「せっかく人の身を得られたのに、ただの武器として終わるだけでは勿体無いだろう。」との事。

彼とよく共に戦場を駆け巡り、どちらが多く戦果を取れるかを競っていた、最も武器らしい者だった無用組に名を連ねる同田貫とその性分を同じくする者だっただけに、驚いたと同時に珍しく思った。

でも、何よりもそういう風に思えるようになったのだな、という考えから嬉しくも思った。

何せ、彼は何時も「俺は刺すしか能がない。」と己が武器でしかない事を口癖のように宣っていた。

だから、彼にとっては皮肉かもしれないが、人として成長してくれて嬉しく思ったのだ。

人の身を得た喜びを、そうやって噛み締め、手放すには名残惜しく思える程になったのなら、其れをずっと見守ってきた審神者の身としては喜ばしくも僥倖に思える。

斯くして、一日一日と期限は迫り、とうとう当本丸も解体される日がやって来た。

私と彼は一時的に現世の私の実家に身を寄せ、其れを遠く離れて見守る事とする。

当日、時の政府から派遣された業者の者がやって来て、“今までお疲れ様でした”と頭を下げてきたので、“此方こそ長き間お世話になりました、今まで有難うございました”と会釈を返した。

其れを皮切りに私達は本丸を後にする。

解体工事が済んだ後、改めて本丸跡地となる場所へ様子を見に行ってみる。

すると、其処は、見事何物も無くなって綺麗な更地が広がるのみとなっていた。

所々地面がでこぼこしているのは、本丸という巨大な建物が建っていた跡だ。

神域の一部であったその土地は、建物が無くなったからといっても、現世の其れのように標識や看板を立てたりなどは無い。

本当に何も無い空間が其処には広がっていた。

残されたのは、自然に自生した木々や花々だけ。

其れも、審神者の力で自由に変えられた庭などの景趣とは異なる部分である。

本当の本当に何も残されてはいない更地のみが存在するだけとなっていた。

其れを見て、感慨深そうに溜め息を吐いた彼がぽつり、と呟いた。


「本当の本当に何にも無くなっちまったなぁ〜…っ。」
『本当にねぇ〜。見事という程何も無くなっちゃって、何だか不思議な気分だわ。』
「哀しいとかじゃなくって…?」
『そう、哀しいとかじゃなくって。勿論、其れなりに思い入れはあったよ?初めから築いてずっと共に在った本丸だった訳だからね。…でも、其れだけ。名残惜しい気持ちは確かにあったけど、その程度だけで、後は切り換えて行くよ。』
「そういうもんなのかなぁ〜…?」
『ぎねは、ちょっと違う感じがする?』
「う〜ん…何て言うかさぁ、俺的には、何か色々とあっという間過ぎて付いていけねぇ感じがする…。」
『あははっ、まぁ普通はそんな感じだろうね…!私が普通の感性してないだけさ。気にするな。』
「う〜ん…まぁ、そういうもんなのかなぁ…。」


いまいち現状を受け入れ難い様子の彼を隣にしながら、私自身は何処か清々しい気持ちすら抱きながら跡地を眺めていた。

全ては零に返り、また一から初めから物事が始まるのだ。

此れから始まる、二人の新しい物語開幕の門出を祝おうではないか。

両手を腰に当てた体勢で眺めていたら、ふと頭の上に視線を感じて隣を見上げれば、彼が何か言いたげに此方を見つめていた。

「ん?」と小首を傾げて見遣れば、彼が口を開いて零す。


「其れにしても…本当に良かったのか?」
『何が?』
「今更の事になるけども、残るのが俺相手でさ…アンタからしたら、他の奴のが良かったんじゃないか?」
『いんにゃ?ぎねで良かったんだよ。』
「でも、ほら…もっと良い奴居ただろ?例えば、初期刀の加州とか、初鍛刀だったっていう前田とかさぁ。」
『んー…二人共にも訊いたけど、二人して“自分等は残らない”って答えてたしなぁ。其れを無理矢理引き留めて残すのも何か違う気がしたし。』
「でも…やっぱ寂しいんじゃないか?かなり懇意に親しくしてた奴が側に居なくなるのって。アンタ確か、薬研とか石切丸とか陸奥守とか同田貫とかにも凄く懐いてたろ?凄ぇ頼りにもして、よく近侍にも据えたりしてたし。寂しくねぇの…?」
『そりゃ、寂しくはあるさ。あんなにも沢山居た子達が一様にして一気に居なくなるんだからね。本音を言ったら、そりゃ凄く寂しいよ。でも、其れは其れ…。長きに渡る戦が終わったんだ。彼等も元の在るべき姿へ戻っていっただけさ。ただ其れだけに過ぎないよ。…何より、無理矢理引き留めてまでこの世に居続けさせるつもりは無かったからね。私は彼等の意思を尊重しただけ。』
「…う〜ん。でも、なぁんか納得いかねぇんだよなぁ〜…。」
『残るのがぎねだって事実に?』
「うん。」


未だ納得いかない顔で両腕を組み唸る彼に、私は苦笑を漏らしながら寄り添った。


『私的には、ぎねで良かったんだよ。其処に何の不満も無い。』
「ん゙〜…っ、でもやっぱり何か腑に落ちないんだよぉ…!」
『まぁ、確かに大半の子が既に現存はしてない子達ばかりだったからねぇ。その点が気掛かりになってんじゃないの?』
「そう、其れだよ…!“俺以外にも現存してねぇ奴いっぱい居たじゃん!”って思ってさぁ!!」
『んー…でも、そんな中でも本物は確かに失われてはいるけども、レプリカ――つまりは、似せて作った写しは存在してるって子が幾つも居たからなぁ。メタい話、とうらぶというゲームが始まって以来、刀剣プロジェクトで復活した刀も其れなりに居たし。薬研やぱっぱ、蛍なんかもその内に入る子達だったしな。まぁ、そういう理由もあって皆現世に残るのを止めたって話なんだろうけど…。』
「其れで言ったら、俺、元々既にレプリカ含めた復元品三振りもあるんだけど…っ!?地元の結城のと、前橋のと、あと比企のヤツ!」
『そんだけ私達人に愛されてたって事じゃん。良かったねぇ〜。』
「うえぇ…主がまともに人の話聞いてくれねぇ…しょんぼり。」
『ちゃんと聞いてやってるじゃないか。』
「…でも、何か返しが適当っぽくてやだ…。」
『適当とは心外だな!此れでもちゃんと考えて物言ってるのに…っ!』


何とも失礼且つ心外な言葉を言われて軽く憤ってみせると、彼はすぐに悪びれて謝ってきた。


「いや、御免て…っ、悪気は無かったんだから許してくれよぉ〜…っ。」
『悪気が無いなら、尚悪いわ。』
「本当に御免ってば…!俺がアンタの形見守りに残るにしちゃ、ちょっと意外だったというか、何か不思議な感覚だったから言っただけだよ…っ。」
『私がぎねを選んだ事がそんなに不思議…?』
「おぅ…っ。だって、俺達別に恋仲でも何でもなかっただろ…?俺とアンタは、本丸の主とその刀剣男士なだけで、ただの主従関係でしかなかった訳だし。だからって別にアンタの事嫌ってる訳でもねぇんだけどさ。その辺りが何となく気になって…。」
『…ふふっ、ぎねは本当に素直で良い子だね。』
「揶揄ってるのか…?」
『いや、今のは私の素直な感想さね。嘘偽りは無いよ。』


更地となってしまった地面を踏み締め、その中心点となる地に立ってみる。

成程、此れは確かに両手に余る程巨大な土地が建物が築かれていた事が分かる。

しかし、今やその土地には何も無い。

此処から、また新たな歴史が始まるのだ。

私はその中心点に立ち、くるりと一回転してから彼に向き直る。


『例え恋仲じゃなかったとしても、私は私でお前を大事にしてきたつもりだ。其れは、此れからも変わる事はないと思ってる。私は此れからだって、ずっとずっと変わらずお前の事を、自分の槍として武器として御守りとして大事にしていくよ。元はただの槍だって、愛しく思うもの。今の時代までも人々に愛され続け存在する御手杵よ、どうか此れからも私の手を取って歩んではくれまいか?』


そう告げて、私は新たな一歩を踏み出す為の手を彼に差し出した。

彼が、その言葉を受けて、大きく目を見開き見つめる。

きらきらとした耀きを映したその目に、何か確固たる意思と甘やかな色をした感情が宿り、煌めく。

その煌めきを細めて柔和に微笑むと、ゆっくりと私の手を取るべく己の手を伸ばした。

掴み取ってきた彼の掌は、やはり私の手よりも大きく硬く、其れでいて温かなものだった。


「…嗚呼、勿論さ。俺が自ら選んだ道だ。最後までその責任は負うつもりだぜ?」
『ふふ…っ、そう言ってもらえて安心したよ。』
「あ、変に不安にさせちまってたか…?だったら御免な。」
『いや…大丈夫。きっと、ぎねなら受け入れてくれるって信じてたからさ。』


そう言われてきょとんとした後、妙に照れくさそうに頬を掻いた彼が堪え切れないといった風に笑った。


「何か改まってそう言われるのも、照れるな…。でも、嬉しいよ。主であるアンタに其処まで信頼されてさ。俺も随分と信頼されるまでになったんだなぁ〜。」
『今更何言ってんだか。ウチでは一番槍でやって来といて、本丸出来て半年経つまで他の槍である二槍が来るまでの間ずっと一人で槍の役目を果たして本丸支えてくれてた身でさ。』
「へへ…っ、そういやそうだったな!俺は、アンタにとっちゃあ何時までも一番槍なのは変わらないんだもんな。――改めて、此れからも宜しく頼むな、主。」


さっきの私の言葉に対する返事だろうか。

真面目な色を乗せて返された言葉に、此方こそという意味合いを乗せてぎゅっと強く握られた手を握り返した。

さぁ、この地ともそろそろお別れだ。

何時までも私達が此処に残る理由は無い。

私達が此れから過ごすのは、神域であるこの世ではなく、現世の私が暮らす世界の方でだ。

本丸の終わりを告げる鳥居の建っていた跡地にて今一度振り返り、私達の本丸が在った土地と別れを告げる。


『じゃあな、本丸の皆…!今度こそ、本当の本当にさよならだ!』
「また何時か逢う事は無いかもしれないけど、別の本丸の奴でも逢えた時はその時だ…!もう消えて居なくなっちまっただろうアンタ等に言うにはちょっと可笑しな台詞かもしれないが、元気でな!俺達も達者で居るからさ!」


私達らしいと言えばらしいお別れを告げて、今度こそ本当にその場を去る。

此処からは、私達二人の時代が始まるのだ。

さぁ、新たな歴史を、物語を作ろうか。

二人でしか紡げないお話を紡ぐ為に。


―物が語る故、物語。

此れは、そんな物である彼と人である私が作り出す物語。

そして、其れはまた新たな物語を描き始めるのだ。

その一歩が、今、踏み出されたのであった。


執筆日:2020.08.08

【後書き】
タイトルを見て真っ先に浮かんだネタが、長きに渡って続いた戦が終わりを告げた後についてのお話でした。
完全個人の想像兼創作となるお話になってしまうのですが、其れこそが二次創作または夢小説の醍醐味でもあると思っているので、タイトルから思い付いたものを好きなだけ書きたい分詰め込みました。
そうして出来上がった今回のお話、個人的にも気に入る終わり方をしているので、最後まで書き切る事が出来て良かったです。タイトルに合わせたお話を書くというのも、書き手の楽しみですよね。
素敵なタイトルを集めてくださっている企画様には、本当に有難く思います。
書き終わってから気付きましたが…物語始まりが、別の企画様に提出した作品とほぼ同じ一文だったのは偶然です(汗)。他意は無いです…。
ちなみに、此れは余談ですが…書いている最中、作業BGMは勿論の事ながら彼の近侍曲でした。
気に入った一曲や作品に合う一曲が見付かると、其れを書き終わるまで延々と駄々流しにするのは相変わらずです(笑)。にしても、彼の曲は聴いていて落ち着きますね。
曲調自体はベースは同じ無用のたぬさんの曲なんでしょうけど、彼の曲は彼らしい曲調に合わせてあるので素敵ですよね!無用組揃ってお気に入りの近侍曲です。
勿論、初期刀である清光の曲が一番落ち着きますがね…!(その次が前田君と薬研辺りです。)
後書きを締め括るにあたりまして、素敵な企画を用意してくださった遣り水様には、大変感謝致します。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。
この度は、素晴らしき企画にて私の稚作な作品を並べてくださり、誠に有難うございました。
※尚、当作品のタイトルは、企画サイト様指定のものをそのまま使用させて頂きました。