出れない部屋03−with沖矢



彼女、此瀬梨トの元に、謎の手紙が送り付けられてきた。

その手紙は、送り主の住所や名前も無い、明らかに怪しい物であった。

当然の事に不審に思った梨トは、身近な頼れる人間に相談する事にする。

その人間というのが、彼の大学院生、沖矢昴だ。

彼女が見せた手紙には、こう記されていた。

“ある場所で、貴女にお話したい事がございます。場所は地図にて記しておりますので、約束の時間にお待ちしております。”、と…。

そして、彼の意見より、約束の場所へ約束の時間にやって来た。

手紙に同封されていた地図に記されていた其処は、何の変轍もない、ただの古い建物だった。

周りの建物も、今や誰も使う事の無くなった物ばかりの廃屋で、滅多に人が出入りする事が無さそうな場所であった。

こんな所で、何を話すというのだろうか。

不審に思いつつも、取り敢えず、指定された建物の中へ入ると…。

ガシャンッ!とドアをロックされ、閉じ込められてしまった。


『え…っ!?昴さん…!!』
「落ち着いてください、梨トさん。とにかく、今はどうしたら出られるのかを考えましょう。」


彼がそんな風に彼女を諭していると、何処からか謎の効果音ならぬBGMが流れてきた。


[デッデデーン♪○○しないと出られない部屋シリーズ、第三弾!!標的ターゲットは、謎多き大学院生沖矢さんのペアです!]
「…何なんですかね、これ…。」
『さ、さぁ…。仕掛人の人の音声じゃないでしょうか?その割には、やたらとダサいしショボいですけど…。』
[何か今サラッと辛辣な言葉を言われた気がするけど…まぁ、良いやっ!今、お二人が居られる部屋は、或る条件をクリアしないと出られない仕掛けとなっております!ちなみに、その条件とは、どちらかが相手にキスをしないと出られないというものです!!キスする場所は特に指定しておりませんので、何処にしてもキスさえすればカウントされ、ロックが解除される仕様となっております!]
「ホォー…面白い事をしてくれますね?」
『いやいや、全っ然面白くないですよ昴さん…っ!!』
[補足ですが、その部屋は全方位防弾仕様となっております故、幾ら銃をぶっ放しても壊れません!無駄な抵抗はせず、ちゃっちゃとクリアしちゃってくださいね☆]
『どうでも良いけど、何か腹立つ言い方だな…。』
「条件をクリアしないと出られないとは言いますが、本当なんでしょうかね…?」
[本当ですよー!現在進行形で、部屋の各位置に設置された隠しカメラでリアルタイムに監視しております!!なので、お二人の一挙一動を漏らさず見ておりますよ!]
『コイツ最低だ…っ!!』
「まぁ、こんな事を考える輩ですから。」


話を聞きつつ、ずっと思案しているような様子の昴。

顎に手を当て、俯き加減に辺りを見回す。

そして、隠されてもいない一台の監視カメラを見付けると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


『う〜ん…キス以外に、何とかして出る方法は無いですかねぇ…?(だって、脱出する為とはいえ、一度は昴さんとキスしなきゃいけないとか恥ずかしいし…でも、他に方法が無いとしたら、此処は自分からした方が良いのか…?)』
「梨トさん、ちょっと…。」
『はい…っ!何でしょうか…、』


―チュ…ッ。


『……………へっ?』
「御馳走様でした。」


不意に名前を呼ばれ、彼の方へ振り返った瞬間、思考がフリーズした。

目の前には、此方に影を落とすように立つ、悪戯めいた表情の彼が…。

呆然としていると、口許に彼の人差し指が宛がわれた。


「条件をクリアする為とはいえ、勝手に唇を奪ってしまってすみません…。ですが、これでこの可笑しな部屋から出られますよ。」
『な…、なな……っ!?』


遅れて理解した状況に、彼女は顔を真っ赤に染めた。


[有難うございましたぁーっ!!まさに、不意打ちキス…!御馳走様でーすっ!!それでは、ロックは解除されましたので、爆弾が爆発する前にご退室ください!まもなく部屋が爆発致します♪お気を付けてぇ〜!ではではっ!!]


そう告げた瞬間、ブチリッと切られたスピーカーに辺りは静まり返った。


『爆弾が仕掛けられてるとか聞いてないし…っ!?』
「とにかく此処から早く出るのに越した事はありません。急ぎましょう…っ!」
『そりゃそうですけど…って、うわあっっっ!?』
「僕が抱えた方が速いので、行きますよ!」
『ええ…っ!?』


先程から驚きの連続で、最早頭が付いてこれていない彼女は、彼に抱えられたまま盛大なる爆発音を聞いた。

彼の背後から見える景色に、火の粉が飛んでいるのが分かる。


「ギリギリセーフでしたね…。大丈夫ですか?」
『ははは…っ、お陰様で何ともないですよ……。』


現実逃避したくなった梨トは、ただ乾いた笑みを浮かべるのみになるのであった。


執筆日:2016.10.03
加筆修正日:2020.05.19

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