最近、とある古備前生まれの某刀剣男士と目を合わせづらくて申し訳なく思っている。別段、彼といざこざが起きたとかそういうトラブルなどは一切無いのだ。というか、互いの関係性だけを述べたら、そりゃもう普通に良好で平和な関係を築けており、またその関係が崩れた事は此れまでに一度たりとて無い。寧ろ、つい最近の事ではあるが、ある意味良い方向に好転したと言っても過言では無い関係に落ち着いたくらいである。と言うのも、この本丸の審神者、予てより一方通行な片想いを抱いていた相手と晴れて想いが通じる事が出来、遂には恋仲という仲にまで落ち着いたのだった。
 しかし、暫くして問題が発生してしまったのである。其れは、本人も知らぬところであった本質が表に出て来た事で初めて発覚した事なり。なんと、この審神者……実はピュアッピュア過ぎて、好いた相手の目を直視出来なくなる体質であったのだ。原因は、想いが通じ合った事を変に意識してしまうが故の事であった。仕事モードならば合わせられない事も無いのだが、オフモードとなった途端に意識が切り替わるのか、無駄に意識してしまい、どうしても相手の目を見て話す事が難しくなるらしい。
 まさか、自身が此処までヘタレでピュアな純真無垢なタイプの乙女だったとは露知らず。其れまで恋人居た歴ゼロの恋愛経験値の低さにより、此れまで露見して来なかった事なのだろうと自己分析を下す。
 まぁ、無駄に意識してしまうのは、まだ恋仲となって日が浅い故の事もあるのだろう。日が経てば、その内お互いの距離感や諸々の色んな事に慣れ、次第に何とも思わなくなって行く筈……。一先ずはそう思う事にし、この一件は一旦保留という事で自身の胸の内のみに留め置く事にし、暫くは様子見とした。

 ―仕事以外の事で彼と目を合わせられなくなって幾数日が経過したある日……。
 何となく彼女と目が合わなくなった事に勘付いてしまったのか、仕事を終えた後の休憩時間に「話があるからそのまま部屋で待っていろ」と呼び止められてしまった。審神者は上辺だけでは平然を装って当たり障りの無い程度の返事を返したが、内心では酷く焦っていた。何故ならば、仕事時間外での逢瀬は未だ緊張してしまうわ無駄に意識してしまうわで視線云々以前の問題なのだ。かと言って、一度了承の返事をしておいたところに急に否と断りを入れるのも己の意に反するし、何より恋い慕う彼へ申し訳なさが募る。
 取り敢えずは、なるべく自然体で居る事に努め、羞恥が振り切れて“視線合わせるの無理”となった場合は、何気無さを装って視線を外させてもらおうと変な気合いを入れ、彼が部屋へ訪ねて来るまでの短い間、気を落ち着けた。
 そうして、仕事終了の後の余暇時間に彼はいつも通りの空気を纏ってやって来た。話をする前提だからなのもあるだろうが、仕事終わり直後という事もあるのだろう、二人分のお茶と茶請け用のお菓子を乗せた盆を携えての来訪である。流石は大包平だ、気遣いもナチュラルにこなせて格好良い男だ。審神者の中での彼への株がまた一段と跳ね上がった。
 自身の座る向かいの席の座布団を勧め、其れをすんなり飲んだ彼が言われたままに腰を据える。そして、まずは茶を一服して喉を潤すが良いとばかりに差し出されたので、有難く受け取り口を付けた。仕事終わりのお茶はほっこりとするせいか、つい今しがたまで変な焦りと緊張に身を焦がしていたのに、気付けばホッと息をいてリラックスしていた。その期を逃す彼では無い。同じようにお茶に口を付けていた大包平が、湯呑を茶托へ置くなりこう話を切り出してきた。
「まどろっこしい真似をするのは好かん、故に単刀直入に本題へ入らせてもらう。ここのところ、仕事以外の事となると途端に目が合わなくなる気がするんだが……何故だ? 度々不自然に視線を逸らされているように感じた事から、恐らく意図的に逸らしているのだろう事は読めたが、その意図までは読めなかった。仕事時ではちゃんと目が合っている事も気になる。試しに鶯丸にも訊いてみたんだが、納得の行く回答は得られなかった。だから、最終手段としてお前に直接訊きに来た。お前……何か俺に隠している事があるな? 包み隠さずに話せ」
 彼の言い分はごもっともだと思った。しかし、彼女は内心こうも思っていた。「いや、何もかも素直にぶちまけれたら最初からこうも悩んでないわい!」と……。心中お察しする。
 まぁ、実際には心の叫びをそっくりそのままぶちまける事は、彼女の理性が働いた事で寸でのところで抑えられた。だが、いきなり核心を突く問いを投げ掛けられた事により、審神者のSAN値はピンチだった。控えめに言って、動揺凄まじく、心中大荒れ警報である。よって、あからさまな様子でぎこちない笑みで固まり、盛大な間を作った。
 嫌な沈黙が降りた事で、余計に口を開きづらい空気と化してしまう。そんな空気を作ったのも己自身であるが、さてどうする。
 一、超絶不自然極まりないけど今はその話題話したくないぜという空気を滲ませて無理矢理別の話題へ切り換えさせて頂く。二、素直に白状したのちに平謝りして許してもらっての円満関係を継続する方向で一件落着を図る。
 どう考えても後者が無難だとは分かっているが、心の問題的にまだ気持ちの整理が付いていない事から前者を取りたい気持ちもある。しかし、前者を選択した場合、確実に彼との関係は悪い方向に拗れて行ってしまうだろう。出来る事なら今のまま良好的な関係性を保っていたい。ので、選択肢は二つあるようで一つしか無いようなものだった。彼女は冷や汗をかきながら思案した。どうする、答えは二つに一つだ……!
 つい熟考してしまっていた事で焦れたのか、痺れを切らしたらしい大包平が前のめりの姿勢になって彼女を追い詰めた。
「おい、主どうなんだ……っ! いつまでも無言のまま黙って居られると思ったら大間違いだぞ!! この俺を前にして押し黙るなど許さんぞ! 何でも良いから答えろ……っ!!」
 彼が突然距離を詰めてきたのが悪かった。スーパーイケメン美形な顔面がいきなり至近距離という近さに近付いてきた事により、反射的に顔を赤らめてしまったのだ。ついでのついでで、あからさまな態度で視線を逸らしてしまうし、果てには、照れから思うように言葉を紡げなくなってしまうという弊害まで起きてしまった。なんてこった。完全初心うぶでヘタレな乙女モード全開である。流石のこの反応には予想外だったのか、詰め寄った本刃ほんにんである彼も虚を突かれたような表情でポカンとフリーズした。
 再び、二人の間に沈黙が落ちる。その沈黙を破ったのは、またしても大包平の方であった。
「お前……まさか……、嘘だろう…………?」
「あーもうッ、何とでも言うが良いよクソォッッッ!!」
 完全なる自棄モードである。元よりあまり耐性の無かった審神者は、早くも羞恥が振り切れてしまったようで、些細な事なのにすっかり顔を真っ赤にして恥ずか死にそうになっていた。其れでも、塵の欠片程でも彼の上司たる威厳くらいは保っていようと見栄を張るように何とか言葉を返してみせた。……が、その言葉もヤケクソが働いてほぼほぼ体裁を保てていないが。
 仕事モードでは無い以上、素の態度という事になるのだが、余裕が無くなっている時の彼女はお口がワルワルになってしまう。故に、分かりやすい態度を返してしまったも同然であった。
 一旦は拍子抜けしてしまっていた大包平であるが、冷静さを欠く彼女を前に逆に冷静さを取り戻したらしい。驚きの残る空気はそのままだが、先程とは違い肩の力を抜いた彼は前のめりになっていた体勢から腰を据え直し、ポツリと感想を零した。
「あー、その……何だ、俺も俺で察してやれずに悪かったな……っ。まさか、お前がそのように純心な女子おなごであったとは思わず……というか、普段のお前からしてみれば、全く以て予想の範囲外の反応だったというか……。兎に角、すまん……っ」
「謝らないで……っ、今お前に謝られたら恥ずかしさで軽く死ねるから……!」
「今しがたの事ぐらいで死なれたら困るから死ぬな、生きろ。お前は俺に選ばれし女だぞ、此れくらいで死なれては困るじゃないか。まだ付き合い始めたばかりだぞ?」
「お前に生きろなんて言われたら生きるしか無いじゃないか、コノヤロー……ッ!!」
「そもそもの話なんだが……お前、仕事の時は普通に目を合わせて喋れていただろう? 何で仕事以外の事となった途端に目を合わせなくなっていたんだ?」
「端的に言って、変に意識しちゃって恥ずかしいからだよ馬鹿ァ!!」
「馬鹿と言う奴の方が馬鹿なんだ! というか、お前、実はそんなキャラだったのか……?」
「うるせぇなコンチクショー!! 思ったよりもピュアで悪かったな!? 私も自分で吃驚してるよ!! でも、元より耐性低いせいで慣れないんだよ! しょうがないだろ!?」
「自棄から逆ギレを起こすな。一旦落ち着け餅つけ。ほら、鶯丸から貰ってきた鈴カステラだ。甘味でも口にして一旦心を落ち着けろ。何なら、俺手ずから食べさせてやっても良いが?」
「ア゛ッ、今そういうの本気で駄目なんでもうちょっと間を空けてからでお願いしますすみませんッッッ!!」
「反応が露骨過ぎて逆に愉快になってくるんだが」
 ノンブレスで一気に言葉を捲し立てた審神者。感情の振り切れ方が愉快過ぎる人間である。そんな人間の女を愛しく思っている恋刀の彼は、鋼色の目を甘やかに蕩けさせて恋人にしか見せないであろう柔らかい表情を作った。
「恥ずかしさが先立って直視出来ぬなら、そうならそうと言ってくれれば此処まで気にしなかったものを……変なところでお前は遠慮するんだな? まぁ、この大包平の美しさにてられての反応という事であれば、満更でも無いが……」
「そりゃ、正直に言える訳が無いでしょ……っ。こんなにも立派で美しい、刀剣の横綱と言わしめた美の結晶とも称された刀の恋人になれたんだから……其れに釣り合えるような素敵な女の人になりたいと思うじゃない……っ。実際のところは、そんな余裕も無くて、ただひたすらにテンパりまくってるだけのヘタレですけども」
「そう不貞腐れずとも良いだろう。別に、俺は怒ってなどいないぞ。先程は、ついお前の煮え切らぬ態度に突っ掛かってしまった自覚はあるが、今は怒ってはいない。取り敢えず、今のところはこの鈴カステラで機嫌を直せ」
「私は餓鬼か。菓子一つで釣れると思ったら大間違いだぞ……っ」
「嗚呼、そうだったな。お前は、俺が愛して止まぬ成人した女だ。だから、今日のところは“此れ”で許せ」
「えっ……、」
 徐に顔を上向けられたかと思えば、暗くなった視界に加えての唇に降ってきた柔い感触に、否が応でも口付けされていると気付かざるを得なかった。途端に思考を停止させた彼女はガチガチに固まってしまう。そんな初々しい反応を示す彼女に愉悦を隠し切れない彼は、唇を離し、至近距離で口角を上げてニヤリと笑んで見せた。
「俺を見ろ、主。逸らす事は許さん。慣れぬならば慣らせば良いだけの事。この大包平に選ばれたのだぞ……? 名誉に思えど、恥ずかしがる事は要らん。堂々と胸を張り、誇りに思え!」
「其れが出来たら初めから苦労してないっつーのォ……ッ!!」
「まぁ、何事も慣れだろう? 存外、お前は初心うぶな生娘だったと知れただけで俺にとっては何ら弊害にもなっていない」
「そらお前は何も苦労無いわなァ!! けど、こっちは慣れなさ過ぎの耐久値低過ぎで控えめに言って無理なんだよ!!」
「今すぐに慣れろとは言っていないだろう? だが、仕事の際はちゃんと視線が合わさっている、其れを鑑みれば、単なるお前の意識の仕方次第という話になってくるぞ。要は、気の持ちようとやらだな」
「ッぐぅ……めっちゃそん通り過ぎて何も言えねぇ……っ」
「俺としても、お前と視線が合わないのは寂しいぞ。無理にとは言わん……が、努力してくれると嬉しい」
「う゛ぅ゛ッ……! が、頑張って善処します……!」
「其れでこそ、俺が選びし女だ!」
 俯きがちであり、たったの数秒間程の事であっても、好いた女の視線が真っ直ぐと交わる事に喜びを隠せない彼は、精一杯彼女として頑張ろうとしてくれている審神者の褒美へ口付けの雨を降らすのであった。


 後日、仕事終わり直後にお茶に誘われた審神者は、先日のデジャブを感じた。しかし、この時の彼女は頑張りを見せてか、僅かに恥ずかしがる様子を見せながらも彼と視線を合わせてみせた。ぱちりと繋がった視線の愛しさたるや、互いの胸に温かなものが満ちる。だからだろうか……先日の一件以来、彼と視線が交わる度に、勝ち誇ったかのような目を向けてくるのが悔しい反面、どうしようもなく愛しく思えるのである。
「フッ……今のはちゃんと合ったな?」
「合わないと後でお仕置き・・・・されそうな空気感じたらねぇ〜」
「人聞きの悪い言い方をするな。お前が視線を逸らす時の意味を知ったが故に、逸らされる度にいと感じる反動での事だろう」
「だからって、のちのち二人っきりになった時にキス魔化するのはヤメテ。控えめに言って心臓に悪いし、心臓持たなくなるから」
「俺に愛されるんだ、名誉に思え」
「その清々しさがいっそ羨ましさ通り越して憎たらしく思えてくるわ」
 今日も今日とて、格好良過ぎる彼氏と目を合わせるのが無理過ぎてつい目を逸らしてしまったら、何だか酷く負けた気分に陥るのであった。
 ――今度こそは真っ直ぐに見返してみせるもん……!


執筆日:2022.09.19

【後書き】
『瞳』をテーマにした作品は、以前別の他所様企画の作品でも書いたのですけれど、今回はお題にも沿ってまた違った雰囲気のお話が書けたら良いなと思っての事でした。
『勝利宣言』なんて言うタイトルのお話としたら、もう彼しか居なかろうと大包平を真っ先に思い浮かべて書いた今回のお話……。実は、このお話の審神者さんの性格(?)は書き手である私を元に書きました。
自分でも気付かなかったんですけどね……どうも私、好いた相手限定で目を合わせられなくなる呪いにでも掛かっちまってるみたいなんですわ……。
元々、視線恐怖症の気がある者故、あんま視線合わせるの得意じゃないんですけど、“人と話す時はちゃんと相手の目を見て話をする”という子供の時から口酸っぱく教え込まれてきたのが根強くあるせいか、通常何も意識してない時は普通に目を合わせれる方なんですよね〜。
でも、意識した途端に何か駄目になっちゃうみたいで、自分の意外な点に気付いた事を元ネタに書いてみました……!
つまりは、毎度の事ながらの自己投影色強め系な構成となってしまいましたが、お気に召して頂ければ幸いです〜!
取り敢えず、推しが尊過ぎて直視するのが辛いヲタクの半実録文(?)でした。
今日も推しが尊くてハッピー!!
後書きを締め括るにあたりまして、素敵な企画を用意してくださった遊離様には大変感謝致します。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。
この度は、素晴らしき企画にて私の稚作な作品を並べてくださり、誠に有難うございました。