ネオンテトラ


 ボクはネオンテトラ。真っ暗な夜を泳ぐ、小さなサカナだ。けれど、本物の魚とは違う。正しくは、魚のような姿をした不思議な生き物だ。
 真夜中に星の海を縫うようにして回遊し、時々暗闇の影に混じって人々の暮らす世界の視界を横切ってみたりする、普通の人の目には視えないナニカ。
 でも、怖がらないで。ボクは、人々を襲ったりなんて事はしないから。ただ、時々視界の隅っこにお邪魔するくらいで。視えちゃう人を吃驚させちゃう事はあるかもしれないけれど。
 本当に、ただ其処に偶々通り掛かっただけで、何をするでもなく、視界の隅をよぎって、影に溶けるように消えて行く。よく分からない、不思議で不可解な存在。其れがボク。
 夜の海を漂い、時々人々の視界の隅っこで揺蕩たゆたい泳ぐ。気付いた時には、窓辺から射し込む月明かりや夜のネオンに掻き消えて視えなくなる、魚の姿をしたナニカ。
 今宵も何処かで誰かの視界にお邪魔するかもしれないね。もしかしたら、キミの元かもしれない。その時は、邪険にせず、そっとしておいてくれると嬉しいな。ボクは、ただ気持ち良く夜のとばりに満ちた暗闇を泳いでいるだけだから。大体の人には気付かれもしないし、視えてもいないだろうけどもね。
 もし視えてしまったら、そっと視線を送るだけの挨拶を貰えたら、『今晩ハ、ゴ機嫌如何イカガ?』という言葉の代わりに、ちょっとだけ視界にお邪魔する時間を長くしてみたり、ヒレや尻尾を振ってお返事を返すよ。たぶん、殆どの人が気付かない内に、視界の隅を横切って消えてしまっていると思うけれどね。
 ボクはネオンテトラ。真っ暗な夜を泳ぐ、小さなサカナだ。けれど、本物の魚とは違う。正しくは、魚のような姿をした不思議な生き物だ。
 屹度きっと、今宵も人知れず誰かの視界の隅っこにお邪魔しているだろうね。その時は、どうか宜しくね。


後書き
※原文は此方より。
執筆日:2025.09.22/加筆修正日:2025.10.13
公開日:2025.10.14