なんて悲しき散り際なのだろうか




 別のスクープネタを取材中の合間の休憩時にて、同業者の噂を介して知った話であった。
 嘗て、己の上司を務めた事のある男の先輩記者が、とある事件の一端を同僚の部下と共に追い駆けていた最中、不慮な事故で命を落としたと言うのだ。
 私は、一瞬我が耳を疑った。
 あんなにも、のらりくらりとしつつも生きる道を諦める事無く、どんな危険な目に巻き込まれようと命だけは絶対大事にと、厳しい環境の中、此れまで強くも生き残ってきた男だった筈だ。そんな元・上司の先輩記者が、呆気無く死んでしまったそうな。
 何とも急な話過ぎて、現実の事として受け入れるのに、少し時間を要してしまった。けれど、同僚にも問い合わせてみたところ、彼の部下として同行していた――後輩の新人記者、メリル・ストライフ本人の本部への直接的報告により、どうやら本当の話らしかった。
 あの、飲んだくれてばかりの中年ヘビースモーカー野郎が、死んだ。衝撃の事実であった。
 どんなに碌でなし野郎であっても、確かに彼は自分の先輩であり、憧れの記者そのものの姿であった。そんな男が、私の知らぬところで死んだ。
 聞けば、第三都市・儒來にて、ミリオンズ・ナイブスという人物が起こした巨大で凶悪な事件を暴く為、追っていた途中という話であった。同行者兼新人記者のメリルが言う話では、自身を敵からの攻撃より庇った事で負傷及び腹部への致命的な一撃を受けた事が、彼が息を引き取るに至った要因だと報告している。
 あの人でなし中年オヤジ野郎が、一丁前に人助けをして死ぬとは……俄に信じ難い話であった。いつも酒ばかり飲んでは煙草を吹かしてばかり居ただけの男が。とうとう焼きが回ったか。
 そうは思う裏腹に、胸の奥底では後悔の念が渦を巻いていた。
 何故、死んだりなんてしたんだ。くだらない事で死ぬなんて、もし化けて帰ってきたりしたとても、許してなんかやらないんだから。
 あんの、糞爺め……っ。どうしてくれるんだ。こんなにも、貴方へと募らせた思いを何一つ伝える事無く、事切れてしまうだなんて……っ。あんまり過ぎるだろう。
 どうして死んだりしたんだ。どうして、儒來などという遠く離れた都市で死んだんだ。そんなに遠く離れた地では、弔いの為の迎えにすら行きにくいではないか。
 せめて、死に前に一目でも貴方のベテラン記者として活躍する姿を焼き付けておきたかった。死んでしまった後では、もう叶わない事だけれども。其れでも、願わずには居られないだろう。
 私が、この世で唯一無二として惚れた、人生で最初で最後の初恋の相手……。ロベルト・デニーロ。彼は、もう、この世には居ない。もう二度と逢う事は叶わないのだ。
 なんて、悲しき話だろうか。
 私は、本社のビル屋上から火を付けて燃やした餞の花束を、風に空へ舞わせながら涙と共に慟哭を上げて泣いた。


※アニメ『#10:人間』にて、部下のメリル・ストライフを庇い死したベルナルデリ通信社・記者、ロベルト・デニーロの勇士を称えると共に追悼として捧ぐ。


執筆日:2023.03.14


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