求め愛、触れ愛、奪い愛




 ハッハッ、と息を荒げて、無我夢中で口付ける男女が一組……部屋の隅、壁際の光の当たらぬ影になった場所にて、半ば縺れ合うように佇んでいた。
 何で唇を合わせているのかだなんて、分からない。ただ互いが互いの存在を確かめ合うように、触れたところから感じる熱を求めて、兎に角触れて触れられてを繰り返して。貪り合うみたく、ただ只菅ひたすらに唇を合わせて、呼吸を奪い合う。
 きっと、意味なんてものは無いのだ。そんな陳腐なものを求めずとも、人の器を得た者同士、抱く劣情感から本能で動いただけである。其れが、今の二人の行為に繋がる切っ掛けなのだった。
 時折、合間を置くように浅く息継ぎをし、息を整える間を挟むと、再び息を奪い合うが如く口付けを再開する。熱く火照る熱を分け合うみたく、互いが淫らに乱れるまま求め合った。
 そののち、何方ともなく巻き込み合うように倒れ込んでいく。そうした後も、まだ足りないと囁くように互いの体を重ね合い、密着させてゆく。
 不意に、男の下敷きとなる女側が何処か急いた風に両腕を男へと伸ばし、首裏や背中へ絡ませて口を開いた。
「――お願い、来て…………っ」
 女の性急とも言える切なげな訴えは、果たして受け入れられ、此方もまた余裕など欠片も残していない様子で言葉を返し、求める。
「ッ……、ワイなんか相手で、ほんまにエエんか……っ? 此処まで来てもうたら、どの道後戻りなんぞ出来へんが…………っ」
「ッは、っ……貴方が、……パニッシャーが…………っ、ううん、ウルフウッドだから……良いのよ……っ。貴方が好きだから……貴方相手にしか、こんな事許さないわよっ……」
「はんッ、……最っ高の殺し文句やなァ……っ! ……やったら、本気でその気にした責任取ったるさかい、おどれもワイをこうなるまで煽った責任取りィや……ッ」
 言葉を言い終わらぬ内に己を覆う衣服を乱暴に脱ぎ捨てると、自らが組み敷く女の衣服をも剥ぎ取るようにして、更なる濃密な世界を往こうとする。女もまた其れを望んでいたようで、男の求めを嬉々として受け入れ、そのまま大人な体同士、抱いた欲を一秒でも早く発散させるべく、互いに夜の深い世界へ身を溺れさせて行った。
 二人のその先を知る者は、きっとこの世界では、二人のみぞ知る事なのである。例え、二人の居る世界が、どんなに厳しく、劣等的残酷でしかない世界であろうとも……。互いが互いを求め合い、触れ合える内は、二人を阻むものなど存在しようが無いのだ。何故ならば、二人は元より人道を外れた先に身を置く者同士であったから。分かり合えるのは、たった一人の寂しい者同士なのである。


執筆日:2023.03.14
加筆修正日:2024.03.28


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