花言葉の意味も添えて
刀剣の横綱として知れ渡る、美の結晶たる
お互い、特別接し方が変わった様子を見せる事も無く、至って今まで通り普段通りで居たら、不満の様子を見せた包丁がやって来た。
「何かつまんないんだぞ……っ」
「何がだ?」
「主達二人の関係性だよ〜。何で今までと大して変わってないんだ? 普通、ちょっとは甘い雰囲気になったりするもんじゃないのか?」
「ははっ、相手がこの俺じゃあなぁ〜。お前が思ってるみたくはならんだろうぜ? つーか、好き合ってるからといって、そんな急に変わるもんなの?」
「俺的には、もっと甘々で人妻オーラ出して欲しいかなぁ〜……っ」
「お前は本当に人妻が好きだねぇ〜」
「人妻は最高だぞ! 頭撫で撫でしてくれるし、ふわふわの柔らかい太股で膝枕してくれるし、おまけにお菓子だってくれる……っ!! むふんっ……! あ〜、身近に人妻が現れてくれないかなぁ〜」
「ハイハイ、人妻好きな理由は分かったから……。俺まだお仕事の最中だから、暇潰しに来ただけなら他所へ行きなさい。ほら、この飴ちゃんやるから」
「もっと人妻らしく言ってから渡して欲しいんだぞ!」
「我が儘言うなら飴ちゃんあげないぞ?」
「いる!」
そんなこんな他愛の無い遣り取りを交わしていると、近侍を務めていた毛利が所用から戻ってきた。部屋へ戻るなり、可愛い弟の一振りが居ると見て、テンションが小さい子好きの其れに切り替わる。
「ふぎゃあ〜っ! 飴を貰って喜ぶ包丁可愛い〜!!」
「おっと、こっちはこっちで何か面倒くさい空気になったぞ。雑務お疲れ〜。何か変わり映えあった?」
「いえ、特には。あっ、今しがたやって来たこんのすけより、お便りを受け取りましたので、ご確認を」
「ウッス。ありがとね。今回は何ざんしょ……」
「なぁ、もっとお菓子くれよ〜」
「んふふっ、しょうがない子ですねぇ〜! 可愛い可愛い弟には、僕からお菓子をあげましょう! どうぞ、此方の袋の中から好きな物を好きなだけ持ってっちゃってください!」
「やったぁー! お菓子ー!」
「おーい、其処ォー甘やかし過ぎんなよぉ〜っ」
仕事をする傍らで程々に注意をしつつ、こんのすけより届いたという政府からのお便りを開封して目を通していると。何やらズシズシと其れなりの重量で以て床の板を踏み締める足音が聞こえてきた。主は目を
「主、仕事中にすまないが、ちょっと良いか? 時間は取らせん」
「良いけど……どうかしたん?」
「いや、審神者の仕事とは全く関係無いんだが……お前、花は好きか?」
「えっ? 花……? んー、まぁ、好きっちゃー好きな方ではあるけれど……花がどうかしたんかね?」
「いや。ただちょっと気になったから訊いてみただけだ。用は其れだけだ。邪魔したな」
「はぁ……?」
よく分からぬ内に会話は終了し、彼は去っていってしまった。主は盛大に首を傾げて感想を一人ごちた。
「何じゃったんじゃ、今の……?」
「さぁ……?」
同じくよく分かっていない毛利も首を傾げて彼の去った方を見遣るのだった。
その後、数振りかが万屋への買い出しに出掛けるとの事で、外出許可を申請してきた。その中に、古備前の弟君の名もあったが、特に不思議に思う事も無く申請を通した。レベルがカンストしてから暇を持て余しているであろう非番組の息抜きくらいは、別にそれぞれの自由だという感じで緩く受け入れている。ので、今回も特に何も言う事無く申請を許可し、仕事の合間で出掛けていく者達の声かけに応じて手を振った。
其れから数刻経って、帰ってきた買い出し組の賑やかな声を耳にしながら、仕事に区切りを付け、気伸びをした。今日のノルマは此れくらいにして、あとは明日に回して片してしまおう。近侍を務める毛利に対し、「お疲れ様でした」と労いの言葉をかけ、机上に広げた資料やファイルなんかを元あった場所へと仕舞う。作り上げた書類は一束に纏めてホチキスで留め、提出用の茶封筒に入れておけば良いだろう。残りの細かい雑務は自分一人でこなす事にし、ずっと付きっきりで居た毛利を解放するべく口を開いた。
「お手伝い有難う。あとの細かい作業は、俺一人でも出来るから、毛利君は先に休憩入ったり遊びに行っても良いよ」
「お気遣い有難うございます、主様。ですが、僕はもう少しだけ主様と一緒に居たいので、もう暫し此処に居させてください」
「あら、そう? なら、好きなだけ居なさいな」
「有難うございます! 僕、主様のお話が聞きたいです……!」
「俺の話……? 例えば、どういった話を聞きたいの?」
「そうですねぇ〜。せっかくですから、大包平様に惚れた切っ掛けでも……!」
「ははっ……誰かしら突っ込んでくるだろうなとは思ってたけども、君がか〜……っ」
「まぁ、この手の話題は、乱兄さんの専売特許みたいなものですがね。あの方がお相手という事でしたら、僕だって気にならなくもないですよ……!」
「同じ主さんの元に居たんだもんねぇ……そういう意味では、感慨深いもんだよね、この本丸という場所は」
しみじみとそう呟き、束にした書類をパチパチと留めていると、再び此方へ近付いてくる例の足音。もしや、買い出し先で得た収穫の報告にでも来たかなと思い、一瞬手を止めて出入口の方を見遣った。すると、予想通りの相手が姿を現し、数刻前見た時と同じように此方を見てきた。
「只今帰った。買い出しは、予定通りに終え、必要な物は全て買い揃える事が出来たぞ」
「おかえり、大包平。其れは良かったじゃん。万屋街の様子はどうだった?」
「いつも通り賑わっていたな。そろそろ梅雨の季節となる時分だからだろう、雨具やら何やらが大々的に売りに出されていたぞ」
「今の時代、雨一つ取っても大災害に成り得るからねぇ〜。大雨による天災は、俺も審神者になる前に経験したから、身を以て怖さを知ってるよ。もう、アレはマジで恐ろしかったぞ……家の前が川になってるだけじゃなく、家の裏の山が滝みたいになってて、線路がやばい事なっててな……。水が引いて土砂とか片付いた後の翌日で見た駅前通りとか悲惨だったもん……っ。災害が起ころうが仕事は休めんくて、出勤するのに駅使うので家から駅までの通りを歩いてたんだけどさ……アレは酷かった……。まさか自分が被災するなんて思ってもみなかったから、自分の住んでる町が悲惨な光景になってるの見て、かなりショック受けたもんなぁ……。アレは今でも忘れられんわ……今から五年くらい前の話だけど」
「という事は、今のは、主様が審神者になられる前の一年前の話、という事ですか?」
「まぁ、そうなるね」
「余程ショックだったんですね……。何か、今の話されてる時の主様、凄く暗い顔なされてましたし、言葉にも凄い感情が滲み出てましたし……」
「あはっ、何か御免ねぇ〜! 急に暗い話しちゃって! いやぁ〜、当時は仕事の方も上手く行かなくて色々しんどくてさ、おまけにお母やんが大病で倒れて退院してから数ヶ月しか経ってない頃で、家庭の事でも板挟みになって色々大変だったからさ」
「今の“色々”の部分に滅茶苦茶込もってる気がするんだが……」
「あはっ。事実、当時の俺滅茶苦茶しんどくて精神病みかかってたから……。まぁ、病み度悪化したのはその仕事辞めてからだったけど」
「何か気軽に話聞いちゃって御免なさい……っ」
「いや、何でじゃ! 謝らんといてよ! 別に君達何も悪くないんやから……! 言っとくけど、俺は君達刀剣男士が居たから救われたようなもんなのよ!? 俺が今こうして笑って生きてるのは君達のお陰なんだから、申し訳なく思う必要なんて無いんだからね!!」
そう言葉を締め括ってぷんすこ息巻いていたらば、小さく吹き出すように笑った大包平が穏やかな笑みを浮かべて歩み寄ってきた。
「そうだな……そんなお前に顕現されたからには誇りを持たねばな。此れはお前への土産だ、受け取れ」
「へっ……? お土産……?」
「万屋街の近くで咲いているのを摘んできた。花が好きかを訊いたら、好きだと答えただろう……? 四季の花を見るのが好きなお前なら、喜んでくれるかと思ったんだ」
「ひょえっ……!? ま、マジっすか……? えっ、純粋に嬉しいんだが……! えぇー……っ、イベント関係無く誰かにお花貰うとか久し振りだからめっちゃ嬉しい〜」
なんと、お土産と称してくれた物は、花であった。其れも、万屋街の近くで自生していたという生花である。季節を感じる青い花に、彼女はパッと顔を輝かせて喜びを露わにした。其れを見て、彼も満足そうに笑む。
「此れ、たぶんだけど、ネモフィラの花だよね……!」
「嗚呼。共に買い出しに出ていた歌仙兼定がそう言っていたな」
「ふわぁ〜っ! 俺、テレビでは見てたんだけど、実物見るのは初めてかも……! うわ嬉しい〜っ! ねぇねぇ、此れ、万屋街の近くに咲いてるんだよね?」
「嗚呼、群生していたから、今暫くの間なら見る事が出来るだろう」
「本当!? じゃあ、明日時間を空けて見に行こ! ネモフィラが綺麗に咲いてるとこ、俺も見てみたい!」
「ならば、明日の午後の空き時間に、気分転換がてら出掛けるのはどうだ……? お前とて、いつも引き籠ってばかりでは息が詰まるだろう?」
「良いね! そんじゃあ、明日の午後、空き時間作ってお出掛けしよう! そうしよぉ〜うっ!」
「まさか、花一つだけで其処まではしゃぐとは思わなかったが……」
「だって、ネモフィラの花好きなんだもん! 色合いとか形とか綺麗じゃない? 其れに、こう見えて俺も歴としたおにゃの子ですので……! お花貰ったりしたらそりゃ喜びますとも! まぁ、お花を貰う事に性別とか関係無く嬉しい事だけどもね」
「そうか……。其れならば、贈った甲斐があったものだ」
花一つで大層喜ぶ彼女の様子を見つめる彼の表情に、何かを察した毛利は静かに空気を読んで然り気無く機を見て退室した。此れは、お邪魔してはいけない空気とやらである。離れから母屋へと向かう道中、御八ツを届けに向かっていたのだろう、差し入れのお茶セットを携えて来ていた燭台切を呼び止め、今は行ってはいけないとユルく首を振って伝えた。すると、察しの良い燭台切はすぐに頷いてみせ、踵を返す事にした。御八ツはまた後の機会にでも持っていく事にしよう。
男っ気の無かった彼女に初めて来た春である。本丸の皆一丸となって二人の恋模様を見守る事にしたようだ。若干数名、主のモンペたる過激派が目を光らせてはいるが、基本的にはユルく見守るようである。
「大包平様、粋な贈り物をしてましたよ……」
「へぇ、お付き合い始めて早速かい? やるねぇ……!」
「今回、主様へ贈られたのは、ネモフィラの花です」
「確か、ネモフィラには、“可憐”とかって意味の花言葉があったような……」
「其れ、もしかして、ご兄弟からの情報です?」
「うんっ、ふっ君から教えてもらったんだ! 其れにしても……早速お花の贈り物とは、彼、ガチだね」
「えぇ……あの方の事ですから……恐らく、花言葉の意味も込みでの事かと」
「彼女を落とす気満々って事かな」
「まぁ、アレで居て、主様は意外とチョロい方ですので、完全に落ちるのも時間の問題かと」
「流石は大包平さん……主の事分かってるね!」
「あの方も古い生まれですから、確信犯で間違い無いかと」
「うーん……出だしは
とある見守り隊による密かな会話であった。
翌日、彼女は予定通り執務を早めに切り上げ、大包平をお伴に万屋街方面へ出掛けに行った。端からどう見ても完全なる逢瀬……デートであったのだった。しかし、彼女自身にその自覚は無かったのか、ナチュラルに出掛けて行き、普段と変わらぬ様子で帰ってきた。然程時間を空けずに帰ってきたところを見るに、本当に花を見に行くだけ程度で終えてきたらしい。せっかくの初デートだ、もう少しゆっくりしてくれば良いものだろうに……。しかし、本人に自覚が無い故に、何とも言い難い。
上機嫌で帰ってきた様子の主の元へ、鶯丸が声をかけた。
「やぁ、主。久し振りの外出はどうだった?」
「楽しかった!」
「其れは良かったな。話によると、花を見に行ったんだったか?」
「そう! 昨日、大包平にネモフィラの花が咲いてるっていうのを聞いてね! せっかくなら見に行こうってなって、今日早速見に行ったのよ! テレビで見るみたいにめっちゃ綺麗だったから写真も撮ったんだよ〜! ほら、見てみて! めっちゃ綺麗……っ!!」
「うん、此れはなかなかに美しいなぁ。おや、大包平とも写真を撮ったのか?」
「うんっ、せっかくだったから一緒に写ったのも撮ってみたんよ〜! こうして見ると、やっぱり大包平って美しい刀だなって思っちゃうよね……! 美の結晶と言われて納得のビジュアルの良さよ! ので、隣の俺がマジ霞んで見えちゃうよね〜」
「そんな事は無いだろう? 似合いのカップルというやつだぞ」
「ふふっ、お世辞どうも。でも、大包平背がおっきいから、俺が撮ろうとすると画角に入り切らんくてね……っ。結局大包平に任せる形で撮る事になったんだけど、上手い事良いのが一枚撮れて良かった! 此れも本丸での思い出の一つになるね……! んふふっ……あとでむっちゃんに現像頼んどこっと」
「印刷して、記録として手元に置いておくという事か」
「記念にね! ただのデータという形だけでなく、写真という形で残しておけば、今後
ルンタッタ、と節を刻みそうなくらい上機嫌で去っていく彼女の背を見送って、伴として同伴していた恋仲の刀を振り返り見る。
「良かったじゃないか、彼女とデートするという念願が叶って。其れも、大成功というくらいに終わって何よりだ」
「ふふんっ……まぁな」
「せっかくの機会だったんだ、もう少しのんびりゆっくり過ごしてくれば良かったろうに……」
「一応、花を見るだけではあまりにもアレだろうと思って、少しだけだがお茶もしてきたんだ。主は甘い物が好きだからな、丁度近くに和菓子を扱う茶屋があったんで一緒に入ってみたんだ。そしたら当たりだったようでな、主は大層気に入ったようで、また後日行きたいと口にしていた」
「ほぉ、其れは良かったじゃないか。初めてのデートとやらで次の約束まで取り付けれたのなら、お前にしては上出来だな」
「まぁ、彼奴にとっては、気分転換も兼ねて自分の刀と一緒に出掛けただけ〜ぐらいにしか思っていないだろうがな……」
「ははっ、違いない」
彼女と居る手前は控えていたのだろう、感情に合わせてちらほらと舞う花弁と滲み出るオーラに、鶯丸は自分の事のように嬉しそうに微笑みを浮かべた。順調そうな関係を築けているようで何よりである。
そのまた翌日の事である。
本日の近侍である前田と共に執務を片付けていると、またもや例の足音が審神者部屋へ向かってくるのを耳にした。例に漏れず、主は首を傾げて、今度は何やら……と仕事の手を止めて出入口を見遣った。
「主は居るか?」
「はいはい、居りますけんども……どしたの?」
「此れを、お前にやる」
「へあっ……?? またもやお花くれるんです? えっ、俺特に何もしてないと思うんですけども……」
「例え何も無くとも、俺がお前に贈りたいと思ったから渡しているだけだ」
「え、あ、どうも有難うございます……っ。えっ、めっちゃ良い匂いなんだが、此れ……!」
「ヘリオトロープ、という花らしく、石鹸や香水などの原料に使われたりもする花だそうだ。今時分に咲く花だそうでな、偶々寄った花屋で買った物だ。……気に入ってくれたか?」
「いや、勿論ですわ……! えーっ、こんな素敵な贈り物もらっちゃって何か申し訳ないなぁ……っ」
「良かったですね、主君……!」
「此れはただ枯らすの勿体無いわ……っ。ちょっと、みっさん辺りにドライフラワーの作り方訊いてみてくる……!」
「確か、福島さんなら、庭先の花壇の手入れをされていたかと思いますよ」
「有難う、前田君……! まだ仕事途中だけど、ちょっち抜けてきます!」
そう言ってパタパタと部屋を出て行った彼女の背を見送り、前田は
「花束とは、素敵な贈り物ですね!」
「主は四季折々に咲く花を見るのを好むと聞いた。だから、彼奴が好みそう且つ今時分に咲く花を選んでみたのだ」
「とっても嬉しそうでしたよ、主君!」
「喜んでいたのなら何よりだ。また後日、別の花を贈ろうと思う」
「ヘリオトロープと言えば……確か、“献身的な愛”や“夢中”、“熱望”といった意味があったと思いますが……花言葉の意味も添えられて、という事だったのでしょうか?」
「流石は主の懐刀、察しが良いな」
「ふふっ……先日、毛利が植物についての図鑑を真剣に見ていたので、其れで」
「成程。そういえば、先日初めて花を贈った日に近侍を務めていたのは、毛利だったな……」
何やら思案顔を浮かべる彼へ、前田は訊ねた。
「主君へは、直接お教えになられないのですか……?」
「今のところは敢えて何も言うまい。彼奴が自分で気付くまでを密かに待つさ」
「おや、意外です。でも、何となくお気持ちは分かります……っ。我が主君は愛らしい方ですから」
「この事は内密に頼む」
「はい、分かりました! 主君が気付かれるまでは内緒に……ですね!」
大包平との関係に協力的な前田は、そう言ってこっそり彼との秘密を共有する事に頷いてみせた。
さて、彼女がこの秘密事に気付くのは
そのまた更に数日後、彼はまた花束を携えて彼女の元へ訪れた。この日の近侍は、平野である。
「主、今良いか?」
「へい、ちょいとお待ちになってくだせぇ。今計算中なんで……っ」
「分かった、待とう」
「ん゛〜……っ、此れで合ってる……よな? うん、たぶん合ってる。駄目だったらチェック入った時に訂正入るから、とりま此れで行こう。よし……っ。…………で、御免なさいね、大包平。何の用だったんかな?」
「此れを、お前に」
「Oh……ッ、これまた見事な花束です事……っ。綺麗だけど、何の花かな此れ?」
「其れは、
「平野が言った方は和名の方で、洋名ではピラカンサと言うんだ。山伏国広に付いて行った先の裏山で自生していたものを摘んできた」
「わぉ、自然界って凄い。意外と身近な場所でこんな綺麗な花咲いてたのね。と言って、流石の山登りはしねぇがな……! 体力皆無な俺がいきなり山登りなんてした暁には、翌日酷い筋肉痛で悲惨な有り様になる事間違いねぇからな! ところで、お前……伏兄と山登りなんかしてたんだな?」
「非番だと、暇過ぎて鍛練する以外何もする事が無いからな……其れで」
「あ゛ー……なる」
仕事の手を止めて話を聞いてみれば、なんとまたもや花の贈り物を頂いた。主は驚きに目をぱちくりさせて、取り敢えず受け取った花の匂いをふんふん嗅いでみた。すると、先日とはまた違う、その花独特の香りがして、また目を
「何かその内、この部屋お花畑になりそう……!」
「確かに、既に頂いた花で、床の間に飾られた花瓶は色鮮やかになってますもんね」
「一応、歌仙がお花とお花が喧嘩しないように生けてくれてんだけど……また増えちったな。俺はまぁ嬉しいんだけど、今ある花瓶じゃちょっと限界そう……?」
「僕、今手が空いてますから、歌仙さんに別の花瓶が無いか訊いてきましょうか?」
「有難う、ひらのん! あっ、ついでにこの花束も生けてもらえるよう頼んでもろてもえいかな?」
「分かりました! では、暫し席を外しますね」
「うん、お願いね〜っ」
席を立った平野を緩やかに見送って手を振った彼女は、そのまま居座る様子の彼を一瞥しながら途中だった仕事を再開する。
「大包平は、まだこの部屋に居んの?」
「近侍の平野が席を外したのなら、奴が戻ってくるまでは此処に居るつもりだ」
「はははっ……そんな心配しなくとも、別に何も起こりゃしないって〜!」
「いや、単純に俺がもう少しお前と一緒に居たかったから言った事だったんだが……」
「え……っ、あ、そういう……ね……っ」
「どうせ夜も逢うのだから、仕事中にわざわざ逢いに来なくとも……と思うかもしれんがな。俺とて一人の男だ……恋しい相手が手の届く範囲に居れば側に居たいし、見つめたくもなるし触れたくもなる」
「ん゛ん゛ッ……! きゅ、急にそういう雰囲気醸し出すのヤメロ」
「何故だ」
「いや……俺が恥ずかしくなってくるっつーか、むず痒くなってくるからさァ……ッ」
急な恋人モードの空気に、
「素朴な疑問一個思い付いたんすけど、訊いてもヨロシ?」
「構わん。何だ?」
「何かこの間から連続して花束贈られてきてますが……此れって何か意味あっての事です?」
「……お前的にはどう思う?」
「ヒェ……ッ。まさかの逆に訊いてくるパターン……! ん゛ーっ、う゛ーん……っ、何っとなくだけど……もしや花言葉の意味とか含んでの事だったりするのかなぁ〜、とか思わなくも無かったりィ……」
「フッ……鈍いお前にしては、鋭い勘だったな」
「え゛っ……まさかのマジな話だったりします、コレ??」
「“そうだ”と言ったら、どうする……?」
「ヴぁっっっ」
自ら墓穴を掘って自滅した彼女は、顔を覆い隠して畳に伏せた。手で隠し切れていない部分から見える頬や耳は、すっかり真っ赤に染まり切っている。全く以て初心らしい反応を見せてくれる。そんな彼女の反応を半ば愉しんでいる彼は、予想通りの反応に愛しげな者でも見つめる様子で目を細め笑みを浮かべていた。
程無くして平野が戻ってくると、宣言通り彼は退席する様子を見せ、素直に部屋を出て行った。その時の彼の様子がやけに上機嫌だった事に平野は一瞬内心で小首を傾げ、彼女から言付かった用件の結果を報告する。
「主様より頼まれました花瓶と花の件は、歌仙さんが快く受け入れてくださいました! 後程、床の間に飾っている物も含めて生け直してくださるそうで、所用が済み次第此方に来るとの事なんですが……僕が不在中、何かございましたか?」
「いや……特には何も……。其れよか、平野君や……後で君達のお部屋へ失礼しても良いかね?」
「え……? 構いません、けど……どうかなされたんですか?」
「いやね、確か植物系の図鑑持ってたのは粟田口の子だったよなぁ〜と思って……少しの間だけ貸してもらえないかと……」
「もしかして、大包平様から頂いた花の事をお調べになるんですか?」
「うん……ちょっと、気になる事が出来たので」
「そういう事でしたら、喜んでお貸し致しますよ! 主様のお役に立てるのでしたら、好きなだけお使いください……っ!」
今の会話だけで諸々を察した平野は、内心で頷いた。此れは、気付いたパターンだと。粟田口包囲網は伊達では無い、彼等は密かに速やかに情報を共有し、二人の進展を見守った。
その日の仕事を片付けた後、主は粟田口派の者より拝借した図鑑を手に、部屋で一人黙々と彼から貰った花についての花言葉を調べた。そして、沈没した。花言葉の意味を知ったからである。
ちなみに、この日貰ったピラカンサという花には、“燃ゆる想い”や“美しさはあなたの魅力”という意味があった。いやもう何か色々と深読みしてしまって自滅する。
(“燃ゆる想い”ってのについては、まぁ何となく分かるけども……“美しさはあなたの魅力”については、俺に対してではなくどっちかっつーとお前の方だろう……! 何なのもう! 平安刀怖い! 言うて、彼奴打たれたの鎌倉って説もなくはないけども……っ)
机上に伏せた状態で思う。
「現状
明日が不安でしかない心中。
どうか明日は何事もありませんように……! と祈った矢先で、その願いは見事打ち砕かれるのであった。
そのまた翌日の事である。
またも彼は、彼女の為にと用意した花を携えて彼女の元を訪れたのだった。手渡されたのは、彼女が一人離れの間の自室へ向かおうとしている時である。
「主……! 今、少しだけ良いか?」
「おぅっふ……ッ。その様子だと、また何か持ってきた感じです……?」
「嗚呼、よく分かったな!」
「分からいでか……っ! どうせまたお花渡しに来たんでしょ!」
「正解だ」
「もうっ、此処のとこ連日でお花貰うから、ガチで
「まぁ、まずは受け取れ」
「ヴぁっっっ!? ……おんっま……薔薇とかって…………ッ!!」
渡されたミニバラの花束に度肝を抜かれて打ち震えていたら、更なる爆弾を落とされてしまった。
「今の季節に咲く花の一つだ。この時季故に、薔薇でも小さい種類の物だが……この小さく可憐で愛らしい様がお前のように思えてな」
「待って、待って、超待って……ッ。え……コレ、俺口説かれてます? 現在進行形で口説かれてる流れです?? えっ、嘘でしょ? 頼むから嘘だと言ってよバーニー……!」
「バーニーとは誰だ? というか、疑問系でなく断定なんだが……お前、まさかこんなのでも無理とか言い出すのか?」
「あばばばばばっ……待って待って俺のキャパが間に合わん誰か助けて!」
「俺が居るだろう? 俺を見ろ」
「無理!! 全力で無理ィッッッ!! つーか、んな良い声で口説くな囁くな俺の耳が死ぬ……!! 控えめに言って心臓無いなる!! 呼吸困難起こすわ!!」
「少しは慣れる努力をしろ」
「無理無理の無理だってぇ!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ、は、長谷部ェーーー!!!!」
最終的、羞恥度MAXどころか振り切れてしまい、衝動的にセコムを召喚してしまうのだった。悪気は無いのだ、許せ。取り敢えず、即召喚の叫び声に応じてみせた長谷部は、鬼の速さで駆け付け、瞬時に状況判断したらしく、現れるなり大包平を羽交い締めにすると問答無用で母屋の刀剣部屋の方へと引き摺って行った。すまぬな、大包平よ……此れも審神者の平穏を守る為なのだ。とか何とか内心で言い訳しつつ、近時だった歌仙へ貰ったミニバラを生けてくれるよう預ける。そう間を空けずに贈られた花の贈り物に、流石の歌仙も苦笑を滲ませて笑った。
「季節の花を贈るというのは、風流で良い事だと思うけれどね……っ。こうも連日贈られてしまっては、ちょっと困り物だねぇ」
「限度を知らんのか、阿奴は……ッ」
「でも、何だかんだと言いつつも、嬉しいから断る事もせず全て受け取っているのだろう……?」
「う゛っ……まぁ、そうなんですけど……。だって、断りづらいでしょ? 本気の本気で迷惑に思ってる訳じゃないんだから……っ。おまけに、彼奴の真面目に見つめてくる視線を受けて断れるか? 否、俺は無理です」
「ふふふっ……まぁ、流石の度が過ぎるのも如何なものかと思うしね。一応、僕から其れとなく贈り物も程々にするよう伝えておくよ。君の為を想って贈るのに、君の迷惑になっては本末転倒だからね」
「有難う、助かる……っ」
「何、礼には及ばないさ。僕も古参の刀だからね。君が幸せなら、其れだけで僕も幸せで居られるんだよ」
そう言って柔和に微笑んだ歌仙は、最後に一つごちた。
「嗚呼、そういえば……今日贈られたミニバラには、確か“果てしなき愛”という意味があったんだったかな。なんと情熱的なんだろうねぇ……此れを贈った御仁は、大層君の事に惚れ込んでいるようだ。ふふっ……ちょっぴり妬けてしまうね、君の保護者勢として見守ってきた僕としては」
その一言に、彼女は陥落したようにその場に
※花言葉の意味※
ネモフィラ……『どこでも成功』『可憐』『あなたを許す』。
ヘリオトロープ……『献身的な愛』『夢中』『熱望』。
ピラカンサ……『燃ゆる想い』『美しさはあなたの魅力』『防衛』。
ミニバラ……『特別の功績』『果てしなき愛』。
再掲載日:2023.04.15