怪異捕物帖と後日談
※所謂“とうらぶホラー”ネタとなっております。
※以上を踏まえた上で、どうぞ。
夢の中の彼女は、気付けばまた
薄暗く狭い埃っぽい空気の漂う通路を抜け、昔ながらの急な作りらしき階段を上がり、姿見の置いてある店前へと辿り着く。鬼が出るか蛇が出るか、一先ずドアノブに手を掛け、入口の扉を引いた。
店内には相変わらず所狭しと服が列べられており、どれも季節外れで冬物らしき厚手の物ばかりが陳列していた。おまけに、店員と思しき姿は誰一人として居ない。店と言うにはあまりに閑散とした空間に、改めて意識を向けて異常さに気付く。もしや、このよく分からぬ服屋のような場所その物も対象の領域とかなのだろうか……?
疑問を抱きながらも、幾つかの陳列品を通り過ぎて行った先に、
すると、不意に両肩へ覚えのある温もりを感じ、振り返る。振り返った先には、いつの間にか寝る直前にも見た戦装束姿の大包平が立っていた。彼と視線が合わさると、彼は鏡の方を指差して、「アレか……?」と口パクで問うてきた。彼女は其れに静かに頷いて、再び正面へと向き直る。
彼が一緒ならば、きっとどうにかなるだろう。不思議とそんな風に思えて、一度目配せをしたのちに意を決して姿見を覗き込む事にした。怖じ気付く気持ちを叱咤して足を前に踏み出し、鏡の前へと立つ。そうして、初めの夢の時にやったように、自分の顔をよく見ようと覗き込んだ。鏡には、固い表情を浮かべた自分の姿が映り込んでいた。
暫くじっ……と待つように見つめ続けていたらば、不意にゾクリと肌が粟立つような嫌な気配を背後に感じて息を詰める。尚も耐えるようにして見つめ続けていれば、何も変わる筈が無い鏡の中の自分に変化が生じた。最初に見た夢の時と同様に、両頬の辺りに横縞の線が伸びたように歪んだのだ。まるで、誰かに後ろから触れられたみたく肌が引き攣ったように。瞬間、彼女は心の中で彼の名を叫んだ。
途端、背後に控えていた大包平が動く。
「――俺の女へ手を出すとは良い度胸だ。汝、姿を現せ、不埒者め……ッ!」
素早く動いた大包平が、彼女の背中に向かって勢い良く手に持つ札を貼り付けた。瞬間、彼女の意識はグラリと傾き、暗転するような感覚を覚えた。直後、すぐ側で己の名を呼ぶ彼の声が耳朶を打つ。
「起きろ、逢花――!」
突如、頭の奥がクリアになって、ハッと意識を揺り起こした。ぱちりと目を見開くと、視界にはいつも寝起きしている寝室の天井が映り込む。意識が覚醒したと同時に、辺り一面がピン…ッと張り詰めたような空気が漂っている事に気付く。
直ぐ様彼女は起き上がって隣を見遣ると、既に臨戦体勢に入っていた彼の姿があった。閨の間は、寝る為に常夜灯以外の明かりを落としていた為に薄暗い。しかも、場所が室内だ。このままでは、立ち回り上、太刀である彼には圧倒的不利であろう。寝起き且つ緊急時とは言え、冷静にそう頭を回転させた彼女は、枕元の間接照明を
「無事か、主……!」
「えっ、あ、おうっ。お陰様で何とか無事みたいッス……!」
「なら良い! お前はそのまま俺の後ろで大人しくしていろ! 後の事は、全てこの大包平に任せておけば良い!」
ピリリと張り詰めた空気に戦場で見る時と同じ空気を感じて、彼女は息を飲み、素早く間接照明を点ける以外は大人しく身を
その時、ふと眠る前の時と比べて随分と頭が軽い事に気付いた。どうやら、ただの頭痛と思っていた原因の一つは、例の憑き物にあったらしい。まさしく、憑き物が取れたみたいに軽くなった体に、確信を抱く。成程、其れが判っただけでも気持ち的余裕は戻ってくるというものだ。
押し黙って様子を見守っていたらば、刀を構えた大包平が堂々とした立ち居振舞いで声高らかに口を開いた。
「此奴は俺の女だ。人のものに手を出すとは、余程強欲と見える。その欲深き性根を俺が叩き直してやる! この大包平が相手となるんだ、名誉に思え……っ!!」
後ろ背にしか見れないが、恐らく彼は例の獰猛な笑みを浮かべているのだろう。聞こえてくる声音にそんな気がした。
彼が勢い良く前へと踏み込む。
「俺の女に手を出したんだ!! 当然、相応の報いを受ける覚悟は出来ているんだろうなァ!?」
宵闇を切り裂くような大声を発しながら彼が本体を
たったの一撃、然れど渾身の一撃を繰り出していただけに、その一撃では伸せなかった事に悔しげに舌打ちをした大包平が、追撃の為に数回刀を揮うも、相手も手強いのか、閉め切っていた筈の襖をぶち破って外へ逃げる算段を付けたらしい。凄まじい音を立てて破壊された襖戸に、ひたすら驚愕していると、「待て!!」と吼えた大包平が続いて駆け出していった。
其れを追うように部屋の外へ飛び出て行けば、篝火に照らされた庭先の様子が目に入った。次いで、物々しく武装した部隊の者達が駆け寄ってくる。
「ご無事ですか、主君……っ!」
「ま、前田君に、平野君も……っ。あの、俺は無事だから、とっ、取り敢えず、状況の説明だけしてもろてもえいっすかね……っ? どうも聞いてた話と違うっつーか、ほぼほぼ全員起きとるみたいやんな??」
「その件につきましては、すみません。主様に余計な心配をお掛けしたり不用意に怖がらせたくは無かったからなんです……っ。例の一件については、大包平様から皆に伝わっておりますのでご安心を! 主様の事は、僕達が必ず守って差し上げますから……!!」
「ですので、どうか主君は僕達に守られてくださいませ……!!」
「えっ……そんな超絶可愛い笑顔でんな格好良い事言われたら、素直に言う通りにする他無くない??」
「ふふふっ、私の弟達ですから当然の事ですな! もし、言う事を聞かずに出て行くつもりでしたら、私の方から直接制裁を加える算段でした故、命拾いしましたな」
「まさかの死刑宣告受けるとこだっただと……ッ。踏み留まった俺、ナイスだ、偉いぞ俺」
そんなこんな、場にそぐわずボケをかましていれば、知らぬ間に事は片付いたのか、袖内で刀身を拭いながら側へと戻ってきた彼が口を開いた。
「終わったぞ……っ」
「おぉっ、お疲れ様大包平……! で、結局俺を苦しめてた奴の正体って一体何だったの?」
「怪異の類だ。恐らく、己の夢に引き寄せられた奴の精力を徐々に徐々に吸い取って力を蓄えるつもりだったんだろう。奴がおもに活動出来る場は夢の中だと当たりを付けたのが功を奏したな……。些か苦戦はしたが、無事打ち倒す事が出来たぞ。今、源氏の奴等と霊刀の連中が揃って残骸を調査中だ。一先ず、この件は片が付いたという事だ……。報告云々については、夜が明けてからの明日にしてしまえ。今日はもう遅い、後の事は全て部下に任せて、お前は寝に戻れ」
「えっ……でも、わざわざ皆起きて待機してくれてたんなら、せめて労いの言葉くらいは一言かけておきたいと思ったのだけど……っ」
「ただでさえ今日一日体調が優れずに居た奴が何を抜かしとるんだか……っ。そもそも、寝る直前ギリギリまでもずっと頭が痛いと唸っていたのを忘れたのか? 今はそのおもな原因が解決して楽なのかもしれんが、無理は禁物だ。労いならば、その気持ちだけで十分だ。というか、何で部屋で大人しくしていなかったんだ……? 何も羽織らずの薄着のまま出て来おってからに……っ、全くお前は世話の焼ける奴よ」
「え……あ…はい……すんまっせんでした……っ」
「ほら、体を冷やさぬ内に早く戻れ。禊は明日起きてすれば良いから、今日のところは早に寝てしまえ。俺も一度汗を流したらすぐに着替えて戻る、お前は先に寝ていろ」
「うぇ? お、おぅ……?」
側に戻ってくるなりくるりと体を方向転換させられた主は、些か脳内の処理が追い付かなかったものの、大人しく背を押されて促されるまま寝室へと引っ込んだ。
その一部始終を見ていた者達は、微笑ましげに呟きながら後片付けへ参加していった。
「いやはや、若いってのは良いねぇ〜っ!」
「おや、鶴が何を言うかと思いきや」
「でも、お前さんだって思ってる事は一緒だろう?」
「はははっ……まぁな!」
「ほほほっ……子等の
「まぁ、多少鈍いくらいが愛らしくもある……」
「にしても、あの大包平も思い切った事を考えたものだな。まさか、“夢に入って直接奴を誘き出し、出て来たところを此方側に引き摺り出す”などと言う作戦を練るとは……っ! 鶴丸ではないが、驚いたな」
「だが、その突飛な作戦のお陰様で、小鳥の身は助かったのだ。あのまま状況を放置していたらば、下手をすれば小鳥の身が危ぶまれたかもしれん……。大事な主君を救ってくれた彼に感謝せねばなるまい」
「取り敢えず、あの子が無事で良かったよねぇ〜!」
「兄者、話に混ざるのは構わないが、残骸を片す手を止めないでくれ」
ガヤガヤと各自それぞれに呟きを零すが、しかし、寝に戻った彼女を気遣ってか、その話し声はヒソヒソ声である。大包平の手により打ち倒された怪異の残骸を処理する処理班の一部は、綺麗なご尊顔を歪めながらポツリと零す。
「こんな物が我が主を襲っていたかと思うとゾッとするな……っ」
「端的に言って気色悪ィ、にゃ……ッ」
「嗚呼……おぞましいよ。主の目に触れなくて良かったよ、本当に……っ」
「ねぇ、清麿……コレ、政府の怪異調査課に持ってくんでしょ……?」
「そうだよ。どういった性質を持っているか、詳しく調査しなきゃならないからね」
「大変貴重なサンプルになりそうだから、研究材料に一部採取しても構わないだろうか……?」
「そういう事は調査課の仕事だろ、先生……。余計な真似して上から叱られても面倒だから、下手な事すんなよ先生」
「ふむ。其れは残念だ」
若干一名のみ嬉々として処理班へと回り、処された怪異の残骸をつぶさに観察していたが、余計な事をし兼ねない空気を察した
――翌日、いつもよりかは遅くに目覚めたが、怪異騒動で気を張り遅くまで起きていたであろう大包平はまだぐっすりと眠っていた。いつもは自身よりも先に起きて此方が目覚めるまでを観察しているらしい大包平なのだが、今日ばかりはお疲れの身なのだろう。彼女は小さく笑って、彼を起こさぬようにそっと床を抜け、簡易的な禊をしに浴室へと向かった。
禊を済まして寝室へと戻ってきても、彼は相変わらずぐっすりで、規則正しい寝息を立てていた。その様子に珍しく思った彼女は、興味本意で眠る彼へと近寄った。そして、眠っていても常と変わらず整った顔を曝している恋人の寝顔を見つめて思う。
(睫毛なっが…………っ。女の俺より長いてどゆ事? おまけに鼻筋綺麗に通ってるし、イケメンは寝ててもイケメンとか何か腹立ってくるな……)
寸分黙って見つめていても一切起きる様子の無い恋刀に、何だかんだ思いつつも最終的には全て愛しく思えてしまった彼女は、一人微笑ましげな笑みを湛えてそっと囁いた。
「ふふっ……いつも俺の為に頑張ってくれて有難う、大包平。今日は一日ゆっくり休んでて良いからね?」
一言二言囁いた程度では起きぬくらいぐっすりなようだ。ますます珍しく思った彼女は、好奇心を擽られて、眠る彼の頬を人差し指で
そんな愛しき反応を返してくれる彼に、段々と楽しくなってきてしまった彼女は、些か大胆な行動に出る。眠る彼の耳元へ唇を寄せると、小さくこう囁いた。
「大好きだよ、大包平……っ。いつもありがとね」
普段では恥ずかしくて素直に言えない言葉だが、眠っている状態ならばするりと出て来た感情であった。
もしかすると、今ので起こしてしまったかもしれないとフラグ建築士故に彼が起きる事を危惧したものの……。一瞬ピクリと眉毛が動いただけで、その後も変わらずぐっすりな様子である。
やはり、お疲れなのだろう。此れ以上悪戯をしてせっかくの安眠を邪魔するのも忍びない。そう思って彼女は身を起こして静かに部屋を抜け出ようとしたのだが……いつの間に掴まれていたのだろうか、服の裾の一部を掴まれていて、動くに動けない状況となっていた。このままそっと優しく指を
服の裾を掴む彼の手はそのままにもそもそ布団の中へと入り、彼の頭を胸に抱く形で寝転ぶ。どうせ風呂上がりと変わらずノーブラの状態であった為、ぎゅっとしても違和感を訴えられる事は無かろう。昨夜はお疲れ様でしたと労う体で抱き締めた頭をポンポンしてやっていれば、何やらもぞもぞと身動ぎし始めた彼に腕を回されて、互いに抱き締め合うような図となった。思わず、彼女は「ふはっ、」と小さく吐息を零して笑った。けれど、肩を小刻みに揺らす程度に抑え、すぐに笑いを引っ込める。せっかくぐっすり眠りながら甘えてきた彼の邪魔をしたくない。
眠る彼を観察している内に睡魔に意識を溶かされたか、結局彼女もそのまま二度寝コースへと落ちるのだった。
其れから一時間程経った後、漸くお目覚めとなったのか、目を覚ました大包平は薄ぼんやり目蓋を開いて、普段と異なる状況にフリーズした。どうして自分は彼女に頭を抱かれているのか。確か、昨夜の騒動の後、既に寝に就いた彼女を己が抱き締めて眠った筈……。なのに、何故今は逆の立場のようになっているのか。取り敢えず、一旦落ち着こうと深呼吸をして、石鹸の香りを纏う彼女の匂いを吸い込んでハタリと気付く。
よく見れば、自分が抱き締める彼女の衣服が寝間着ではなく、ラフな内番着のような物となっている。という事は、彼女は一度眠る自分を起こさないようにこっそりと布団から抜け出て、禊をしてきたという事だろう。その後、どうしてこうなったのかは不明だが、まぁ悪い気はしない。柔らかな肢体を今一度抱き締め直して、甘やかな匂いのする胸元へ顔を
この女、男の頭を抱いときながら、その胸元を覆う女にとって最も大事で肝心な下着を身に付けていないではないか――!
いや、自分から擦り寄って行っておいてアレだが、成人してだいぶ経つような
もしや、目覚めたのか……? 静かに様子を窺っていると、もぞりと動いた彼女が胸に抱く自身の頭をむぎゅりと抱き締め、寝惚けているのか、スリリ、と頬擦りまでされた。流石の此れには堪え兼ねた大包平は、ぎこちなく声を発して起きている事を告げた。
「おっ、おい……! 俺はもう起きてるんだが……っ!?」
「んにゃ…………っ? あいやぁ、起きてたのか……御免ね。おはよう、俺の大包平。昨日はお疲れ様でした」
「あ、嗚呼……っ、おはよう……。その、体の調子の程はどうだ……?」
「ん……お陰様ですっかり元気なのですよ〜。まぁ、ちょっと倦怠感はあるかもだけど、仕事出来ない程動けない訳ではないし、全然へっちゃらっすかね。大包平の方は……? 随分ぐっすりと眠ってたご様子でしたけんども、しっかり眠れましたかいね?」
「嗚呼、其れは無論だが……っ」
「昨日の夜の事があるから、今日は皆ゆっくり過ごせるようにスケジュール組む予定だけど、お前もお疲れなようならまだ寝とくかい……?」
「あ、や、その心配は無用だからこのまま起きて飯を食うつもりだが……っ、あの、俺の言いたい事はそういう話で無くてだな……!」
「うん……? 何でしょう?」
「あのだな……! まず、俺が聞きたいのは、何故一度は起きた筈であろうお前がこうなっているかについてでな……っ!」
「あー……。其れにつきましては、簡単な話ですん。ぐっすり気持ち良さげに寝とるお前をじーっと見てたら、その内眠くなっちゃったみたいでね、いつの間にかコテーンと寝落ちってた訳ですね〜」
「では、俺が目覚めたらお前に頭を抱かれていたのは……」
「あー、うん……そいつぁ、寝落ちる前に俺自らがぎゅーしてたせいですな。いやぁ〜、最初は起こすのも忍びないから、起こさないようにってこっそり部屋を抜け出てくつもりだったんだよ……? けど、気付いた時にはお前に服の裾掴まれてて動くに動けなくなっちゃってたから、“もうこの際俺も一緒に寝ちゃうか〜!”ってなってごろんしたの。二度寝する気は無かったんだけど、お前があんまりにも気持ち良さそうに寝てたからさ、結果釣られちゃったみたいだねぇ〜っ」
そう言って何とも幸せそうに笑う彼女に、何も言えなくなった大包平は無言で彼女の胸へ
「……お前は馬鹿なのか…………ッ」
「はい……? 御免、今何てったの? すまんけど、もっかい言ってくれる?」
「ッ……! お前は、馬鹿なのかと言っている……!!」
「えっ……何で?」
「だっ……もっ……此れだからお前という奴は困るんだァ……ッ!!」
何やら胸元でもごもごと不明瞭な声で喋り出したかと思えば、いきなり大声を発してきた事に驚いた彼女はビクリと肩を跳ねさせた。次いで、彼よりガシリと体の側面を掴まれ、更にビクつく。何だ何だと狼狽えていれば、胸元から顔を上げた大包平が顔を真っ赤にさせながら引き攣った笑みを浮かべて口を開いた。
「良いか? 貴様は歴とした大人の
「え…………や……別に、俺はそんなつもりとか一切無く……ただ、お前の事労えたらなぁーって思ってただけで……。あと、ブラ着けてないのは風呂上がりだったのと、寝っ転がるのに邪魔で苦しかったからだけども……? つか、ぶっちゃけいつも寝る時はノーブラで寝てたんだけど……もしかして気付いてなかったのか?」
「………………」
「あ、うん。知らなかったって事だね? 御免。俺も特に何にも言わなかったし、どうせ俺胸と言える程の胸すら無ェから、別にわざわざナイトブラ買わなくても良いよね〜とかって思って、これまでと同じくノーブラで夜過ごしてました……。えっと……もし気にするとかなら、配慮の為に買うけども……?」
「……一応訊くが、これまで夜寝る時だけ着けていなかったのは何故だ?」
「ぶっちゃけ、俺ブラすると締め付けられて苦しくなるし、ワイヤー入りとかだと鳩尾辺りに金具食い込んで痛かったりすんのよ……。まぁ、その原因は、ちゃんと専門のとことかでサイズ測った事とか無くて、恐らくこのサイズだろって自分の胸に合ってるっぽいサイズ適当に着けてるからだろうなぁ〜……ハハハッ。まぁ〜そんなこんなでして、最近はブラ着けるよりカップ付きの下着着る方が増えたんだよね〜。和装の時は、専用の和装用ブラあるから其れ着けてるけど」
「取り敢えず、お前の下着事情は把握した……」
呆れた様子で「はあぁー……っ」と長い溜め息を吐き出して顔を覆った大包平に、よく分からないが何やら自分がやらかしてしまったらしいと察した彼女は、しゅんとしてこう告げた。
「えっと……気に障ったのなら御免ね……? 仮にブラ着けた状態で頭ぎゅってしたりしたら、モコモコした感覚が邪魔になって逆に起こしちゃうかなぁー? と思っての配慮のつもりだったのですが……どうやらミスったみたいですね、すみません……っ」
「いや、別に咎めている訳では無かったのだが……っ」
「でも、大包平は嫌な気持ちになったんじゃないの……? ただでさえ俺の胸ちっさくて断崖絶壁のまな板みたいにボリューム死んでるからさぁ、理想と現実の差に打ちのめされてショック受けたりとかしてない? 大丈夫? 胸は無いからお胸サンドは無理だけど、太股サンドならイケるから、代わりに太股サンドしようか……??」
「ッ〜〜〜……!! そう、じゃない……ッッッ!! 俺は、ただ、お前の貞操観念の緩さに物申したかっただけだ!! 別に嫌では無いし、お前がその方が過ごしやすく眠りやすいと言うのならば好きにしろ!! 但し、日中皆の前に出る時や外出時は必ず絶対着けておけ!! あと、そういう事は不用意に言うもんじゃないと何度言えば分かるんだ!? 貴様は馬鹿なのか!? おつむ弱いからなのか!? 俺からは以上だッ!!」
そう言って、再び彼女の胸元へと顔を埋めた彼の此れは照れ隠しである。可愛らしい照れ隠しにクスクス笑って口許を押さえていると、不意に腰辺りから服の下に侵入した熱い掌にギクリ、と体を硬くした。ぎこちなく胸元を見遣れば、不機嫌そうにぶすくれた面を向けた彼がギラリと欲に溢れた視線を向ける。
「あまり余裕をかまして油断し切っていたらば、百夜迎える前にお前を喰らうからな……? まぁ、お前にその覚悟が出来ているのならば、だが」
「ヒエ…………ッッッ、ご、御免なさいもう変に笑ったりしません御免なさい、だから許して……!」
「ふんっ……なら、少しだけお前を寄越せ。俺を労う気持ちがあるならな。普段欲を抑えて我慢している、その分の対価を寄越せ」
「えっ……対価を寄越せ言われましても、具体的にどうすれば……っ」
「お前は特に何もせんで良い。ただ、俺が触れる事に感じ、悶えていろ」
「……はっ?? や、え? なんっ、はぁ……っ!?」
突然言い渡された事に混乱してまごついている内にガッチリ拘束され逃げ場を失い、服の下で這う掌に腰元を撫ぜられ、ゾクリと腰が浮く。尚ジタバタ藻掻いていると、首筋へ強く吸い付かれて身動き取れなくなってしまう。
その内、陥落したように彼の腕の中で一人息を乱して涙目になっていれば、鼻息を零した彼にTシャツの襟口に隠れるか否かの部分に痕を付けられた。
「昨晩も言ったが……お前は既に俺の女だ。この俺の女でありながら、他の奴にみすみすその身を許す事など、信じられんくらいの貞操の緩さのようだな。その件についての躾と制裁は、今後毎夜の逢瀬で教えていくが……。金輪際、同じ事が無きよう、此処に誓え……っ」
「はひっ……! ち、誓います誓います!! だから、こ、此れ以上エッチな事はキャパオーバーだから……ッ!!」
「……分かれば良い。ったく……あの怪異も怪異だ……っ。俺のものであるのに関わらず手を出そうとするとは、何たる忌々しい事か……!
昨晩の事を思い出したのか、苛立ったように愚痴を零し始めた彼に、彼女はおずおずと口を開いて言う。
「あのっ……昨日は迷惑掛けて本当に御免ね? 大包平が居てくれたから、俺、夢の中でも怖くなかったよ。姿見を前にして尻込みしかけた時、大包平、励ましてくれたよね……っ? アレ、俺すっごく嬉しかったよ。改めて有難う、大包平」
「……お前が無事に済んで良かった……ッ」
「うん、本当に色々有難うね。……ところで、その怪異の事なのだけど、一体何の怪異だったの? 昨日はもう時間も遅かったからってあんま詳しく聞けなかったから、気になっちゃって……」
「分析班の奴等が言うには、夢を介して対象の生命力を奪うモノだったらしい……。似たような怪異や妖の類は他にも居るそうでな、ネットの掲示板やら何やらで情報を収集してきた奴等が言っていた。其れ等の対象はおもに審神者を狙って行動を起こしているそうだから、お前も十二分に気を付けておけ。まぁ、お前自身、今回の事でより警戒を高めた事だろうから余計な一言かもしれんがな。元より、こういった事には無知でなく知識を有するタイプのお前だったからこそ、俺達も早くに動けて連携が取れたのは幸いだったな……」
「本当に有難い限りでしたよ、マジで……! 今回の一件を踏まえて、今後も怪異関連の情報収集一層力を入れて続けとくね!」
「嗚呼、此方も可能な限りは対応出来るように控えていよう。あと、今の話に補足なんだが……お前が怪異に襲われた理由に、雨季の時季に入った事が所以しているのかもしれんと石切丸が言っていた。これまでのお前を見ていて、よく夢見の悪さを訴えていたのは、長雨の時季となる梅雨や神無月となる十月の辺りが多かったように思えるからな……強ち間違ってはいないのだろう。長雨となる時季、人の子は鬱々とした気持ちに陥りやすい。其れに乗じた悪しき輩が、より人の心の弱味に付け入り襲ってくるのだろうな……。全く厄介この上無い事だが」
「そうだったのかぁ……。でも、そうね……よくよく考えてみたらそうかもしんないわ。教えてくれて有難う、大包平。ちょっと対策考えとくわ……っ」
一先ずは、時間も時間という事で二人共起きる事にした。お疲れの彼の事を思うなら、もう少しのんびりしていても良かったかもしれないが、あまり時間が下がり過ぎても昨晩の一件で心配しているであろう皆が様子を見に来てしまうだろう。そうなっては何だか申し訳なかった為、彼女は乱れた衣服を手早く整えて、ぐしゃぐしゃになっていた髪も手櫛で適当に梳き緩くクリップ型の髪留めで纏め上げた。仕上げに眼鏡を掛ければ身支度は完璧である。
さて、彼に声をかけて大広間へ顔を出しに行こうと振り向いたところで、突如眼鏡を上にずらされたかと思うと視界が暗くなって訳ワカメな状態に陥った。思考が停止するままフリーズしていたらば、視界が暗くなった原因と思しき大包平が至近距離で平然とした顔で眼鏡を元の位置に戻しながら宣った。
「今日はまだ一度も口付けはしていなかったからな……。俺のものであると分かりやすく示すには、口付けが最も効率的だ。おまけに、容易に神気を移しやすい上に有効性も高い。他の者への示しの為にも、今後は定期的に俺の神気を移しておくか……? その方が下手に手を出そうとする輩も減って一石二鳥だろう」
真面目なトーンで何を言い出すかと思えば、トンデモ発言である。
直後、わなわなと唇を
再掲載日:2023.04.15