真名を知ル
その日、主の元へ一通の手紙が届いた。現世の住所での宛先を書かれた其れは、本来ならば本丸の方には届かぬ筈の物であった。こんのすけより手渡された其れを受け取った主は、驚きの声を発した。
「主様、お手紙が届いておりましたよ……!」
「えっ、私宛に? 誰からだろ……って、あら。■■ちゃんからじゃない。年賀状送ってたから、そのお返事か何かかな……? 返ってこなかったって事は、無事届いてたって事だったんだろうけど…何の音沙汰も無かったから、たぶん忙しかったんだろうなぁーって思って、そのままこっちからはも何も連絡せずに居たのよね。■■ちゃん、医療従事者だから……このご時世故に大変苦労なされてる筈だと思うのよねぇ。元気だと良いのだけど……」
久しく逢っていない友人からのお便りとあって舞い上がったのも束の間、彼女はふと或る事に気が付き、其れを口にする。
「ねぇ、こんちゃん……此れって、そもそも現世の実家の方に届く筈の物だと思うんだけど……何で
「恐らく、霊力が込められていた為に、管理課の者が本丸宛に送ってしまったのでしょう……っ。完全個人名入りです故、本来ならば此方へは届く筈が無い代物なのですが……何たる不手際でしょう……! 刀剣男士の方々の目に触れては大変だと思い、私めが直接受取箱から持って参った次第ですぅ……っ!」
「ナイスアシストだぜ、こんちゃん! ……けど、間違ってこっちに送られて来ちゃった理由、分からなくもないかなぁ? 何せ、彼女も私と同じく審神者やってる身だし、うっかり霊力込もっちゃったとしても不思議は無いんじゃない……? だって、言葉や文字には力が込もるって言うし」
「誠に申し訳ございません……っ! 後程、この件については、私めの方から管理課にご報告しておきますので!」
「うん、是非ともそうして。本名書かれた郵便物ってのが一番リスキーな代物だから。管理には十分気を付けるよう言っといて。じゃないと、巷で噂されてる神隠しの原因にされちゃうよ。事実、審神者や政府役人のそういうちょっとしたミスから刀剣男士達に本名バレして、神隠しの材料にされたとかザラにあるんだから」
「はい! 仰る通りで……っ! この度は、本当にすみませんでした!! では、私めは此れにて……!」
「うん、いつもお疲れこんちゃん。次、来た時は油揚げ用意しとくね」
「油揚げ……! もうその一言だけで、私めはもう一仕事頑張れまするー!!」
「ふふふっ、この後もお仕事頑張ってね、こんちゃん! いつも色々有難うね!」
「はいっ! こんのすけ、本日も頑張って勤めを果たして参りますぅ……っ!」
時の政府より、本部施設が大侵寇にて甚大なる被害を受けたとの報告があったのは記憶に新しい事だ。故に、クダ屋さん等こんのすけも含め、政府職員達は皆一様に後片付けに追われているのだろう。つい今しがた本丸へやって来たかと思えば、慌ただしくも蜻蛉帰りしていった管狐の姿を見送って思う。
「さて……此れ、どうしましょう? ちゃんと仕舞える場所考えないと不味いよなァ……っ。俺のだけでなく、送り主の本名までガッツリ書かれてる物な訳だから……皆に見付かったら、万が一の事があるかもしれん。えーっと……審神者専用の重要書類入れるファイル何処だったっけな? 確か、この引き出しの中に……あ、あったあった! 良かったぁ〜……此れに仕舞っとけば、俺以外の人は見ないし、失くさなくて済むよね!」
そう言って、彼女は手紙を仕舞う前に、誰も来ぬ内にと封を開けて中身を読もうと鋏を手に取った。其処へ、彼女の存在を呼ぶ声がかけられる。
「おーい、主〜! 今日の遠征の件で蜂須賀の奴が相談があるってさー!」
「っふぉわ!? びびっ、吃驚したぁ〜……ッ!」
「え……そんなビビる事だった? 今の」
「あいやぁ〜っ、ずっと静かな空間で考え事してたもんだから、ついビビっちゃいました……っ! すまん! あはははっ……! 気にしないで! 其れで〜……えと、はっちーが呼んでるって事だったんだよね? 分かった! 今すぐ行くよ!」
「何か御免ね、考え事してるとこ邪魔しちゃって……っ」
「そんな大した事考えてた訳じゃないから気にしなぁいで……! ほら、早く行こ!」
「何か悩み事あるんなら、言ってよね。話せる事なら、の話だけど。無理なら、無理して話す必要は無いから。主が話せる時に話して」
「うん、いつも有難う清光…! はっちーが待ってるとこって何処?」
「長船組の部屋に集まってるよ。今日の遠征、長船組の半分が編成に組まれてたから。蜂須賀や南泉も其処だよ」
「って事は、
自身を呼びに来た清光の声に一瞬ビビるも、直ぐ様気を取り直して訪ねてきた理由について軌道修正する。次いで、半ば誤魔化すように慌てて手に持っていた物を置き、立ち上がるなり急かすように彼の背を押して部屋から遠ざけた。訳の分からない清光は、其れを不思議に思いつつも追及してくる事は無く、彼女に押されるまま母屋の方角を目指した。
其れから数十分後の事である。
彼女が不在中と知らず、入れ違いのように大包平が訪ねにやって来た。
「おい、主、内番についての苦情なんだが……って、居ないのか。戸は開けっ放しだし、部屋も散らかしたままではないか……っ。全く、こんな状態の部屋を放置して何処をほっつき歩いてんだか…………、うん? 何だ、この妙な匂いは……?」
部屋へやって来るなり、机の上が散らかったままになっている事に呆れの溜め息を
「主宛の手紙か何かか……? 妙な気配の正体は、此れが原因か? 変な匂いも此れからするようだな……。見たところ、まだ封は開けられていないようだが……何か起こってからでは遅い。主が戻ってきたら警告しておくか」
そう呟いて、大して厚みの無い四角い封筒の表面へと視線を落とす。其処には、宛先と思われる住所の文字が書かれていた。そして、宛先の人物である主の名前も、其処には書かれていたのだった。凝視するようにその部分を見つめたのちに、彼は内心で手紙に書かれた名前と主とを照らし合わせる。戦績報告書に書かれている審神者名や、先日鶯丸より預かった仮の名とは違い、違和感無くピタリと嵌まる感覚に、大包平は直ぐ様此れが彼女の本名だと気付いた。同時に、己が知ってはならなかった立場であるとも気付き、一瞬にして顔を青くした。
(あの馬鹿……っ!! こんな大事な物を何で仕舞わず机の上に出しっ放しにしてたんだ!! 悪用されたらどうするつもりなんだ、馬鹿……っ!!)
そう内心で一人毒付きながら、手にしていた手紙を急いで置かれていたファイルの下へと隠した。次いで、鋏が出しっ放しで置かれていた事にも気付き、手紙がそのままに放置されていた理由を察する。
(大方、誰かに呼ばれて慌てて部屋を飛び出して行ったんだろうが……本名の書かれた物程危険が付き纏う事は理解しているだろうに……っ! 何年審神者やっとるんだ彼奴は……!! 戻ってきたら説教してやる!)
程無くして、パタパタと慌ただしく部屋へと戻ってくる足音が聞こえてきた。そして、部屋が開けっ放しになっている事に気付いたのか、ヒエッと心臓を縮めさせ、顔色を青くさせながら部屋へ入ってくる。
「ぎゃあっ!! 俺、部屋開けっぱしてた!? ヒエッ……!! しかも、机の上片付けないまんまだったよ!! やっべ……!?」
「その件で一言物申したいんだがなぁ……、」
「御免ね、大包平!! 何か用があって訪ねに来てたんだよね!? 部屋散らかしっ放しの開けっ放しで御免ね!! 机の上に置いてた書類とか諸々何も見てないよね!?」
「あ゛、い゛や゛っ……其れは、その、だな…………っ」
「えっ…………まさか、見ちゃったの? 友達から送られてきた手紙とか、見ちゃったんです……?」
「ッ〜〜すまん!! 不可抗力だ!! 俺は、部屋に来たら妙な気配と匂いがするから、其れを確かめる為に机の上を確認したんだ……っ! そしたら、お前宛だろう手紙の存在に行き当たって……其れで…………っ」
「あ゛ー……っ、そいつぁ俺が悪かったわ……。実は、その手紙、本来なら現世の実家宛に扱われる筈の物だったんだが……何かトラブったらしくて、間違って
「いや……俺も、主が居ないと知りながら不用意に部屋へ入ったのが悪かったんだ。主だけの責では無い……っ」
「けど、本っ当にすまん……!! 主謝る!!」
「お、おいっ、頭を上げてくれ……! 主たる奴が、そんな簡単に部下へ頭を下げるな! 示しが付かんだろう!!」
「いや、でも申し訳ないんは事実やし…大包平気にしとるみたいやったから、誠心誠意謝っといた方がええかなって……。ところで、中身の方までは見たりしてないよね?」
「当たり前だ!! 幾ら気になろうと、其れくらいの分別くらいはある!」
「其れ聞いて安心したわ……っ。最悪、手紙どっかに隠されたり燃やされたりとかするんやないかってヒヤヒヤしとったから……!」
「だったら何故仕舞わずに部屋を出て行ったんだ!! この馬鹿……っ!!」
「ハイ! 仰る通りです! 悪いのは自分です!! 大変申し訳ありませんでしたァ!!」
ひたすら平謝りする主に対し、毒気を抜かれた大包平は、肩に入っていた力を抜くと、改めて口を開いた。
「もう良い……っ。其れよりも、その手紙とやらから妙な気配というか、嗅ぎ慣れない変な匂いがしたんだが……お前は気付いていたか?」
「え……? 変な匂い……? そんなんしたっけかなぁ……。あっ……もしかして、こんちゃん曰く手紙から発してるらしいって話の霊力の事かいな? 其れなら心配無いよ! この手紙送ってきた送り主の友人も、現役の審神者さんだから! たぶん、そのせいでうっかり霊力込もっちゃって、管理課がミスっちゃったんでしょうね〜。大包平が言う、妙な気配とか変な匂いとかって、たぶんソレの事じゃない?」
「成程な……そういう事ならば、妙な感覚がしたのも、嗅ぎ慣れない匂いがしたのも頷ける」
「お前の嗅覚凄ェな」
「例え俺じゃなくとも、嗅ぎ慣れない別の人間や審神者の匂いなんかがしたら反応する筈だぞ?」
「マジか。今度、会議とか演練場行ったら試してみようかな……」
「言っておくが、妙な真似はせん方が身の為だぞ……?」
「あ、うん。その辺は弁えてるからご心配には及ばんよ。ちょっと知り合いの審神者さんと話したりした後、俺に別の審神者さんの匂いがするかチェックする程度のレベルやから」
「その程度の事ならば、まぁ……」
主の突拍子も無い思い付き発言に呆れを隠せぬ様子で見つめていたらば、ふと彼女がしみじみと呟いた。
「其れにしても……やっぱ霊力だけでその人の匂いとか気配って、分かるもんなんやねぇ。自分の霊力から匂いするとか自覚無いから、全く気にしてこなかったんだけど……」
「お前達審神者とて、自分の本丸の刀とそうでない刀を見分けているだろう?」
「いや、まぁ、そりゃそうですけんども……その件に関しましては、完全感覚的なもので見分けてるから何とも言えんなぁ〜……。いざ口で説明しようとしたら、ちょっと難しい」
「別にわざわざ説明しろとまでは言っていないが……」
「あっ、そう? でも、変な事言っちゃうようでアレだけど……手紙から漏れてる霊力で俺の物じゃないとか察知してくれたの、何か嬉しいなぁ……っ。だって、お前はちゃんと俺の事分かってくれてるって事だもんね!」
「当然の事をそんな風に言われてもな……。何なら、お前の霊力は俺から見てどう感じるか、教えてやろうか?」
「おっ? 其れは是非とも気になるところですねぇ! おせーておせーて……っ!」
「なら、少し良いか……?」
「えっ? 何が……、」
自身の霊力について知りたいと言った直後、彼はそう口にして彼女の肩を掴んだ。次いで、身を屈め、顔を彼女の近くへと近付けてきた。急な展開に驚いた主は、咄嗟に首を竦めて目を瞑る。しかし、大包平はただ少しの合間だけ首元近くへ顔を寄せただけで、すぐに離れていった。
「そうだな……お前の霊力は、例えるなら…澄んだ水や風のような、真っ直ぐな匂いがする。其処に、偶に熱く滾るような紅蓮の焔のような感覚を覚えるな。手っ取り早く言って、お前の霊力は澄んだ風その物のようだ。其れが、俺達へも顕現する源として循環している。だから、主の変化は、何となく俺達へも伝わる。主が嬉しければ俺達も嬉しくなり、主が悲しければ俺達も悲しくなる……俺達との繋がりは、そういうものだ。故に、お前に危機が訪れればすぐに気付く」
「お、おぅ……っ。そう、だったんすね……! よーく分かりました……! 教えてくれて有難うな!!」
「礼には及ばん。乞われたが故に応えたまでだ」
「うん……そういうとこだぞ、お前ェ……っ」
「何がだ?」
「いや、何でも無い……っ」
不意打ちのように顔を近付けられた事が恥ずかしかったのか、少しだけ顔を赤らめてから彼に背を向け、文机の前へ腰掛け、ファイルの下敷きにされるように隠されていた手紙の封を開けた。そうして、改めて封筒の表面へと視線を落とし、徐に口を開く。
「偶々見ちゃったもんは仕方ないけども……宛先に書かれた名前見て、何か思ったりとかした?」
「直感的に、此れは主の本名だろうな、という事は思ったな……。審神者名とも仮の名とも違って、お前という存在にピタリと当て嵌まる名前だったからな。同時に、此れは俺が知ってはならなかったものだとも……っ」
「あー……うん。まぁ、知っちまったもんはしょうがねぇし、忘れろとは言わねぇよ。悪用とかしなけりゃあそんままで構わん」
「する訳無いだろう……っ!!」
「うん、知ってるし、分かってるから、そんなデカイ声出さんとも結構よ。端的に言って、騒がんでくれ……っ。ただでさえ本丸で見るにゃやべぇーもん持ってんだからよぅ……っ」
「す、すまん……っ」
「まっ、一応は信頼を置いてる自分の刀相手だ。仮に真名知られようとも、変な事企てたりとかしない限りはそんなに気にしないかな……。本気で預ける場合においての相手くらいは選ばせて欲しいけどな!」
そう言って笑った彼女に、ふと底知れぬ言い知れぬ感情が湧いてしまった大包平は、不意に今しがた知ってしまった名をボソリ、他人に聞こえるか聞こえないかの声量で呟いた。
「――宇奈月逢花、」
「ッ――……!?」
しかし、力を持つ彼等の言葉は言霊となり、
「おんっま……! 今ッ、なんっ…………!!?」
「やはり、名前というのは個を表す上で最も重要な役割を果たすらしいな。俺も、実際に口に出して呼ぶまでは半信半疑だったんだが……成程、確かに俺達のような者が容易に知ってはならん代物だったようだ。今のだけでこの状態か……此れでは、隠すなんて事も容易に可能だろう。鶯丸の言っていた事は本当だったんだな……」
「なっ……は、おまっ……!? ……ッ〜〜〜、っの馬鹿ァ!!」
「なっ!! 馬鹿とは何だ、馬鹿とは!?」
「何でいきなり前振りも無しに、んな確かめるような事すんだよぅ……っ!! 俺、今思いっ切り露骨に反応しちゃったじゃんか、どうしてくれる!!」
「そうなるよう仕向けたのだから、何も問題は無いだろう!?」
「大有りだ馬鹿!! やっぱり大包平は馬鹿だ!! 例え試し行為でも、不用意に俺の真名を許可無く口にするんじゃねーよ、ド阿呆ッ!!」
「元はと言えばお前が悪いんだろうが……っ!!」
「ヒッドイ!! 俺に責任転嫁してくる訳ェ!? うわ、サイッテー!!」
「ぁ゛あ゛!? ならば、お前の好きなように呼んでやろうかァ!?」
「えっ……!? た、例えば、どんな感じにです……っ?」
「あっ、や、其れはだな……! その……アレだ、アレ……っ!!」
「いや、アレじゃ分からんですよ……。もっと具体的に言ってくんないと……」
「だぁーもうっ!! だったら実際にやって見た方が早い!!」
「えっ。や、其れはちょっとッ……!」
身構えた瞬間、彼とは異なり座り込んでいる状態の彼女は大いに狼狽えた。けれど、気にせず彼女の耳元へ口を寄せると、真面目な声音で囁くように告げた。
「――逢花、」
「ひっ…………!!?」
「どうだ……? 此れで分かっただろう? 己の名前が持つ力の意味が。此れに懲りたなら、金輪際今回のようなヘマはせぬ事だな……!」
「あ、のっ……分かったから……っ、其れ以上……耳元で喋んないでッ……!」
やけに必死な訴えに、怪訝に思うも身を引いた大包平は、目の前で縮こまる主の姿を見下ろす。そして、さっきまでとは異なり、やけに顔や耳といった場所まで赤らめて微かに震えてすらいる様子に不可解に思い、あろう事か、彼女の顎を掬って顔を上向けたのである。そうして露わになる、彼女の真っ赤に染まった表情。おまけに、半分くらい蕩けた風に涙目であった。そんな彼女の表情に驚いたと同時に、言い知れぬ感情が再び湧き上がってきた事に焦り、大包平は慌ててその手を離した。
「すっ、すまんッ……!! 今のは、流石に出過ぎた真似だった……!!」
「……や、まぁ……理解してくれたんなら、良いよ……っ。俺も、ちょっと吃驚し過ぎたとこあっただろうし……。けど、次、俺の名前呼ぶ時は……緊急時を除いて、前以て言ってくれ……。じゃないと、俺……心の準備とかあるし……っ。あと、いきなり耳元で喋るのは控えてもらえると助かる……っ。俺、どうも首回りの付近弱いみたいだから……いきなり耳元とかで話しかけられちゃったりすると、変に吃驚しちゃうんだよね……。だから、出来れば、普通に話してもらえると助かるっす…………ッ」
「あ、嗚呼っ……善処しよう……ッ。その……、本当にすまなかった……!」
「うん……分かってくれたんなら、良いって」
そう言って、彼女は恥ずかしそうに視線を逸らし、彼の吐息が掛かったと思しき箇所を
「あっ……ま、待って! お前、用があって私の元へ訪ねに来てたんだろう!? その用は、良かったのか……?」
「ッ……! い、今言う程の事でも無い! ……から、また別の機会に言いに来る……っ」
「えっ……? でも……っ、」
「俺の事には構うな! 其れよりも……っ、お前は他の奴が来るまでにその顔を何とかしておけよ……っ!」
去り際にそう言って出て行った大包平の後を、呆然と不思議そうに見つめた彼女は首を傾げる。
「えぇ……俺、今どんな顔してんの……?」
ぺたり、自身の両頬を包むように触れて困惑顔を浮かべた主の顔は、実に真っ赤で、まるで茹でた蟹や海老のような色に染まっていたのだった。
再掲載日:2023.04.12