無自覚告白
その日、主は、端末を通して姉審神者と定期の連絡を行っていた。所謂、姉妹水入らずの時間というやつであろう。この時ばかりは、彼女も気の抜けた口調になり、纏う雰囲気も身内ならではのものとなっていた。
せっかくの主のまったりとした時間だ、邪魔をするのは忍びなかろうと気を遣った近侍は部屋を退室した。別に、聞かれては不味い話をする訳ではないから気にしないのに。出来る男だからこその気遣いだろう。彼女はその事を、彼が退室した後に姉に向かって話した。自分の刀の良いところは積極的に自慢していくのが、彼女の刀達に好かれるところなのだろう。姉もその流れに乗ってウチの子自慢をした。審神者同士で会話をすると、度々ウチの子自慢が始まるのは最早テンプレという程の流れである。
彼女は小一時間程姉妹水入らずの会話を楽しみ、定期の情報交換の連絡を終えた。其処へ、タイミングを見計らってやって来た鶯丸が、淹れたばかりのお茶を差し出す。
「通話の相手は姉君か。随分と楽しそうに笑っている声が聞こえてきていたが、今回は何の話をしていたんだ?」
「大包平の話だよ」
「大包平の話か……っ、其れは是非とも気になる話だな! 良ければ、俺にも聞かせてくれないか?」
「良いよー! いや、実はね……大包平の事話し始めた切っ掛けは、お姉やんと姉妹水入らずの時間を過ごすのに俺が居て水を差すのも悪いだろうって、話し中の間はわざわざ別室で待機してるって近侍だった大包平が気を利かせた事が始まりだったのよ。その後、俺が“ウチの子出来る子でしょ! 大包平は出来る男だから良いぞ〜!”って自慢したのね? そしたら、お姉やんもノリに乗って近侍自慢始めちゃって……!」
大包平の話と聞いて食い気味に訊ねてきた鶯丸へ、主は姉と話した事を楽しげに話して聞かせた。其れを聞く鶯丸も大層嬉しそうである。
「その内、お姉やんが大包平に対して“グレート・プリンス・カネヒラ”なんて言い出すから、俺笑っちゃって……っ!! “いや、何でプリンス!?”って聞いたら、“いや、何となく。あんたがグレートカネヒラなんて言うから、その響きに王子様的響きをプラスしてみただけ”とか返ってきて……っ! 更には其れを略して“グレプリカネヒラ”とか言い出すもんだから、某アイドルグループみたく略すなよ!! って突っ込んだんだよね!! いや〜、あいつ偶の急に変な事っつーか、ぶっ飛んだ事言い出すから笑うわぁ〜っ! まぁ、其れは俺も
「大包平がアイドルでプリンスか……っ! ふっ、くふふふっ……! やばい、腹が捩れる……ッ!」
「でもさ、大包平と言えば、今ミュの方にも出てるから、強ち間違ってもないんだよね〜……“アイドル”って表現は。何せ、ミュの本丸の男士は皆アイドルと同じ活動してるからね。でも、俺個人的に思うんだけど、大包平は
「ほぅ……? では、仮にどんな風に思うんだ?」
「お姉やんが言うには、プリンスじゃないならキング……つまりは、王様か? だって。確かに俺もそっちのがまだ響き的には似合うかな〜って思ったのよ。でも、どっちかって言うと、エンペラー……意味は皇帝の事を指すんだけど、そっちのが何か響き的にはしっくり来るかなって」
「ふむ……
「話は終わったのか?」
「あっ、大包平……! お帰り〜っ」
そうこう鶯と話していたらば、
「何の話をしていたんだ?」
「えっとねぇ、お姉やんとの遣り取りで大包平の事話してたんだよーって、うぐと話してたとこだよ!」
「俺の事を……?」
「そっ! 最初は、わざわざ気ぃ利かせて退室までしてくれるとか出来た男やね〜って話してたんだけど……その内、何か可笑しな方向に飛んじゃってね……! というのも、彼奴が急に“グレート・プリンス・カネヒラ”とか言い出して、おまけに略しで“グレプリカネヒラ”とか言うから、俺爆笑よ! んで、大包平なら二階席までマイク無しで余裕で声届くだろうな! って話になってさぁ……っ!!」
「大包平の声はデカイからな。納得の話だ」
「でね、姉曰く、ファンサじゃないけども、二階席の人達へデカデカとした声でドヤりながらこう言うんだってさ……! “俺を見ろ!!”って……っ!! いや、其れマジで言いそうだし、ファンサ必要無く言うだろと思って笑ったわ〜!」
「まさしく大包平だな! うんうん、君の姉君も大包平の事をよく分かってるじゃないか……!」
「俺
「“グレプリ”だぞ、大包平……っ!」
「ちょっ、おまっ……其れやめいて……! ●ンプリみたいに言うなて、笑うから……っ!!」
「ひ、ひぃっ……! 可笑しくて、腹がねじ……ッブフ……ッ!!」
「なぁ、俺はこの現状をどういう感情で受け入れたら良いんだ……?」
「え……っ? そりゃ……笑えば良いと思うよ?」
「ブフッ!! その台詞を今此処で使うのか……っ! くくっ、やば……腹が痛いっ……!」
「オイ、幾ら何でも笑い過ぎだぞお前達……! いい加減、俺本刃を置いて笑いまくるのをヤメロ!!」
「ふはっ……やっべ、腹筋崩壊する……ッ!!」
主が某アニメの代名詞的有名台詞を引用して言った途端、鶯丸の笑いが天元突破したらしく、ツボに入ってひたすら腹を抱えて笑い転げ出す。斯く言う彼女も、自分で言っておきながら可笑しかったのか、畳へうつ伏せて丸まり、ピクピクと体を痙攣させていた。其れを、呆れた目で見つめていた大包平が吠える。
そうして、笑いから逸早く復活したらしき主が、体を起こしてお茶を啜る。向かいで床に身を伏せる鶯丸はまだ波が引かぬのだろう、変わらず畳に突っ伏したまま死んでいた。
「まぁ、そう怒んなって……! 今や、あの大包平もミュに出演が決まって、アイドルデビューを果たしてるんだから! 俺のはただ、お姉やんの例えが面白くて笑っちゃっただけ! つって、俺はミュの方は詳しく知らないけどな。俺が知ってんの、ステの方だけだし。まぁ、ステの方も、見てる話限定になるんだけどさ!」
「そういえば、主は、舞台版の俺達の話も
「うん! つっても、円盤持ってんのは、虚伝の蔵出し映像集の方と、ジョ伝本編と蔵出し映像集セットに〜……あと慈伝の方の本編と蔵出し映像集セットだけだがな!」
「何故、最初の虚伝の方は本編を持っていないんだ?」
「いや、本編も見たくて買おうと思ったんだけどお金無かったのと、他にも欲しい物あったからそっち優先して……。あとは、円盤ばっか買うと高く付くから親がうるさくってね〜。まだ見たい話あるんだけど」
「ネットの配信を見れば良いんじゃないのか?」
「ただでさえ弱小回線で運営してる我が本丸で出来ると思うてか……?」
「あぁ、其れで円盤か……。というか、主も物好きな奴だな。実物は本丸に居るのだから、見たければ好きに見れば良いだろうに」
「いや、刀本刃も大事なんだけど、俺が求めてるのは
「しかし、他所の本丸の奴等ばかりにうつつを抜かしていたら、その内嫉妬に駆られてやらかす奴等が出て来るかもしれんぞ?」
「まぁ、其れは言えてるけども……」
「ふふっ……大包平は端的に、自分も嫉妬し兼ねないぞ、と忠告しているんだろう。まさに、さっきのアレだ。“俺を見ろ!”という具合でな」
「えっ、何ソレ可愛いかよ!」
「可愛いなどと言うな! 俺は断じて可愛くなどはない!! そういうのは、主みたいなのに対して言う言葉だろう!?」
「うん、確かに俺おにゃの子だし、そういう意味合いで言えば合ってなくもないけども……。“可愛い”という言葉は、乱ちゃんや清光達の為にあるようなものだから、俺に対しては柄じゃないよ」
「何を言う、お前も俺から見たら十分可愛いの部類に入っているぞ! お前は自分に自信が無いからそう言うんだろうが、お前だって十分に可愛いんだ! 俺が保証してやる! お前は可愛い!!」
「おまっ、そういうとこやぞ、お前ェ……ッ」
唐突な可愛いコールに、僅かに顔を赤らめた彼女が呆れのコメントを返す。其れに対し、彼は「ふんすっ」と息を荒く
「アイドル云々の話のインパクトで忘れかけていたが……主は、他にもお前について姉君と語らっていたらしいぞ」
「そうだったのか……?」
「え、あ、うん。さっき言ったプリンスネタに続く話だったんだけどね。大包平は、王子様キャラとかって柄ではないでしょ〜って言ったら、“じゃあ
「俺が“皇帝”だと……?」
「うん。あ、言うて、お前が発してる威厳とかそんなんから俺が勝手にイメージした感想よ? 何となくなんだけど、大包平はキングって枠に収まってる気がしなかっただけって話で」
「其れ故の、“皇帝”か……」
「そうそう。だって、大包平って言ったら、世界に誇る美しさを持つ日本の宝な訳だからね……! “エンペラー”って響きのが似合わない?」
「俺を帝だなんて称号に例えるのは、お前くらいなんじゃないか?」
「えぇ? そうかなぁ〜……。でも、大包平の迫力とか威厳諸々考えたら、“キング”とかって薄っぺらい響きよりも“エンペラー”のが重厚感ある事無い?」
「ふふふっ……つまるところ、主は大包平の事が好きなんだな、という話だな。でなければ、そうも嬉しそうに語ったりはせんだろう」
「そりゃ好きに決まってるでしょ! だって、日本が誇る宝なんだから……! あの米国にだって渡った事のあるくらいの刀よ!? そんな世界が欲しがるくらいの美しさを持つ刀が本丸に居て、惚れない訳無いでしょ……っ!! 俺の自慢の刀よ!! 其処は断言して言えるわ!!」
そう自信満々に言い放った彼女に、鶯丸は隣に居る彼へ生温かい目を向けて言った。
「――だ、そうだぞ、大包平? 主は正真正銘、お前の事が好きだったんだそうだ。良かったな。此れでお前達は、晴れて両想いというやつだ。おめでとう、大包平。今宵は祝杯でも上げようか」
「……まぁ、俺が美しいのは事実故に満更でもないが……そう、手放しに誉められるのも何というか……むず痒いな。いや、嬉しくないと言ったら嘘になるんだが……っ。というか、お前は本当に俺の事が好きだったんだな……? まさか其処まで惚れられていようとは思っていなかったぞ……っ。てっきり、俺の方ばかり一方的に想っていたのかと………」
「えっ……ちょ、何でそんな嬉しそうなんお前……? めっちゃ桜吹雪舞っとるやん」
彼女が指摘した通り、大包平は
「今、主が盛大な告白をしたからだが……もしかして、自覚無しだったのか?」
「え、嘘、待っ……俺、別に、告白とかしたつもり無かっ…………ッ、」
「おや、どうやら主は無自覚に告白してしまっていたらしいな。其れは其れで面白いから良いが。前言撤回は無しにしてくれよ、主? じゃないとつまらんからな」
「えっ、や、あの、本当違くて……っ! いや、好きなのは事実だけども、其れは刀として好きって話で……!」
「赤くなりながら今更必死に言い募っても駄目だぞ、主。大包平は今の、俺と一緒にバッチリ聞いていたんだからな。俺が保証人となってやろう。主は今、
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、だから違うってばァ〜……っ!!」
まさかの無自覚で愛の告白をぶちまけていたとは思うまい。盛大に焦った彼女は、すっかり顔を真っ赤にして、必死に取り繕おうと墓穴を掘っていた。何とも愛らしい
一先ず、今日は祝いの日だ、後で厨当番の者達へ祝杯用の酒を用意しておくように伝えておこう……っ。一人そんな事を思う鶯丸であった。
再掲載日:2023.04.12