八十八夜を越えた先
其れは、春と夏のほんの僅かな間の事。
審神者の生きる現世の暦上で言うところの皐月――時季的にGW直前と言っても過言ではない頃の、五月一日。この日を境に、季節はまた一つ巡ろうと準備を進めていた。
“八十八夜”――文字通り、八十八日の夜が過ぎた意味を示す言葉である。また、この“八十八夜”とは、二十四節気の立春から数えて八十八日目に当たる日の事を指す言葉でもある。“八十八夜”は、季節の移り変わりを表す雑節の一つだ。まぁ、現代を生きる若者達にとってはあまり馴染みのない言葉かもしれない。だが、“八十八夜”という言葉は、古来より茶摘みや農業を生業とする人にとっては馴染み深く、とても大切な日とされてきた。其れは今も尚変わる事はなく、現代にも文化の一つとして受け継がれてきている。
有名な話題の一つとしては、“八十八夜”の日以降は晩霜が起こらないとされ、“八十八夜の別れ霜”などと言い伝えられ、現代でも此れを基準に農家が稲の種蒔きを行ったり茶摘みを盛んに行うようになったりする。報道番組などをよく見る人ならば、この時季になると見聞きする話題の一つだったりするかもしれない。それくらいには、季節の変わり目を表す一つの季語とも言えよう。
何度も繰り返し言うようだが、“八十八夜”を平穏無事に迎えられた事は日常を送る上で目出度い事であるのだ。何せ、また一つ季節が巡りゆこうとしているのだから。『人間生きている中で、一つとして同じ季節を過ごす事はない』――とは、よく言ったものだ。だからこそ、この日は、一年を過ごす内の目出度い出来事として祝し、新茶を飲んだり、米を食べたり、部屋を夏仕様に模様替えしてみたりなど、初夏の訪れを楽しむ。人は、そうして現代にも絶えず営みを継いできたのだ。某本丸でも、其れは同じ事が言えた。
「やぁ、主。精が出るな。茶を淹れてきたから、八丁と一緒に休憩がてら飲むと良い」
「おー、うぐかぁ。アザーッス。空いてる其処の端っこ辺りのスペースにでも置いといて〜……」
「御免ね、鶯の兄さん……っ。雇い主、今ぶっ通しで事務作業し続けてる関係でちょっと疲れ気味みたいで……。対応が雑でも悪気は一切無いと思うんで、あまり気に病まないでね……!」
「あぁ、うん……顕現してから五年以上も経っているんだ。この光景も受け答えにも慣れたものだよ。また徹夜作業をしているのか……夜更かしのし過ぎは体に毒だから程々に留めて休めよ」
「ご忠告痛み入るが、特命調査期間中だから大目に見とくれや……。通常業務と並行してこなさなきゃならん事があって、報告書作成やら何やらに追われてんのよ、絶賛な。俺、同時に複数のタスクこなすの苦手なんだけど……仕事上愚痴垂れててもしゃーないから、一つずつ地道にこなしてんのよぉ。……っはぁ〜、目は疲れるし肩は凝るし腰も痛むし、誰か褒めて……」
「思った以上に修羅場だったか……。見たところ限界に近そうだが、大丈夫か? お邪魔だったなら俺は出直すが……」
「えーっとぉ……一応、まだ大丈夫だと、思……う?」
「はぁ……見てられんな」
茶と言えば、鶯丸。切っても切り離せないくらいに何故か茶と縁深い刀が深夜帯にも関わらず顔を見せに来たかと思えば、やはり目的は茶だった。一休みの為に差し入れられた茶は、淹れ立てなのか、熱々の湯気を立ち上らせている。湯呑みと合わせて急須も用意されているところを見るに、茶でも一服しながら休憩を取れとのお達しであろう。半ば強制的に作成途中だった書類の紙面から遠ざけられ、湯呑みを目の前に差し出される。今すぐにでも飲んで休めとの事らしい。審神者は執務机から強引に引き剥がされたのを不満に思ったのか、子供みたいに不貞腐れ面を作って湯呑みの中身を見つめた。
「気持ちは有難いんだけどさぁ……俺猫舌なの知ってるよね? 湯呑みからモワモワとめっちゃ湯気出てるくらい熱々なんですけど」
「今日は八十八夜にちなんで、摘んできたばかりの新鮮な新茶を用意したんだ。この時季にしか飲めん取って置きの美味い茶だぞ。まぁ、此れでも飲んで少しは休憩したらどうだ? どうせ、眠気防止に珈琲とかばかりしか飲んでなかったんだろう? 眠気覚まし目的にカフェインを摂取するのは構わんが、あまり飲み過ぎて胃に負荷を掛けてやるなよ。ただでさえ君は胃に強い方じゃないんだ。牛乳やカフェオレなる物と混ぜて気持ち胃に優しく作ったところで、珈琲である事に変わりはないんだからな。そんな物よりも茶を飲め、茶を。お茶は良いぞ」
「茶の押し売りをすな。別に良いじゃん、珈琲飲んだかて。眠気覚ましにカフェイン摂取するには、珈琲が一番効くんだよぉ」
「カフェインなら緑茶にも入っているぞ」
「緑茶はカテキン効果もプラスの相乗効果で利尿作用増すから、ちょっとなぁ……」
「利尿作用で言うなら、珈琲でも同じ事が言えるが?」
「だからこそ、隠れ脱水症状が増えるこの時季の水分補給には、緑茶や珈琲ではなく、白湯か麦茶とかを推奨するって医者から言われたべ」
「あっ、だからここ最近ずっとお茶は麦茶ばっかり飲んでたんだ。その他だと、ココアとかミルクティーとか飲んでたよね?」
「温めた牛乳とかカフェオレとかもな。少し前までは冷たいのそんまま飲んでも平気だったんだけど、胃腸弱らせてからは温めた方が良さげっぽくてね。まぁ、平均体温低め人間からしてみれば、日常的にあったかい飲み物飲んで体温を上げる事は良い事なんだけどさ」
「嗚呼……そういえば、大体一年程前だったか、主が重度の脱水症状で救急搬送されたのは」
「その節は大変お世話になりました……」
「包平の兄さんが大層肝を冷やした、あの一件かぁ……」
しみじみと呟かれ、審神者の記憶にも
一先ず、差し入れてもらった茶とやらは有難く頂く事にし、湯呑みに口を付ける。すると、新茶独特の甘やかな香りが鼻に抜けたのを感じて、思わずほわりと気持ちが和らぎ、感嘆の溜め息が零れ出ていった。八丁に倣って猫舌と言いつつもズズリと一啜りした審神者も、ぱちりと瞬きを一つ落として表情を明るくする。
「あ、此れは美味い茶だわ」
「そうだろうそうだろう」
「まだ熱ィからチビッと一啜りしただけなんだけどさ、其れでも美味いって分かるくらいにははっきりと違うわ」
「味覚って面白いね! そんで、新茶ってこんなに味わい深いもんなんだねっ!」
「ふふふっ、分かってもらえたなら其れで十分だ。大包平もさぞ喜ぶ事だろう」
何故か得意げな顔をして言う鶯丸に、すかさず審神者は突っ込んだ。
「何で其処で大包平が出て来んの?」
「今二人が飲んでいる茶葉を摘んだのは大包平だからだ。偶にはとびきり美味い茶を飲ませてやりたいと、俺が畑の一角に茶畑を作り始めたら、いつの日だったか、大包平が世話を買って出てくれてな。其れ以降、茶畑の世話は大包平に一任している。勿論、俺も定期的にちゃんと世話しているぞ。まぁ、桑名には負けるがな」
「桑君、畑に関わる事になったら彼以外に右に出る者居ないから……流石やで。にしても、いつの間に茶畑開拓してたんだか」
「俺がこの本丸に顕現して少し経ったくらいには、もう手を出していたかな」
「マジか……。どんだけ茶に対して執念持っとるんよ」
今更お出しされた事実に、今まで知らなかった審神者は驚きを見せた。すると、その横で静かに挙手の姿勢を見せた八丁が問う。
「素朴な疑問なんですけど、来月で審神者就任六年目を迎えるくらい経ってるのに、本丸内に茶畑あるの知らなかったの……?」
「ウチの本丸の畑、今どんだけの規模あるか知ってるか……? 百振り以上の大飯食らい共を養う為に拡張していって、最早農家と大差無いくらいの規模になっとるんやで。本業の傍ら農家かよってくらい広ぇぞ絶対ェ。毎日日課業務と並行してイベント業務回したりしてる中、日々拡張されていく畑の様子逐一確認出来る余裕あると思うてか?」
「そりゃ無理ありますよね〜! ハイッ、生半可な理解度で無茶言ってすみませんでしたぁーっ!」
返しに正論をぶっちゃけると、素直に平謝りした八丁は深々と頭を下げた土下座をぶちかましてきた。そんな気安く土下座なんかするもんじゃありません。言外にそう言うようにジェスチャーのみで頭を上げさせた審神者は言葉を続ける。
「まぁ、どっかで畑チェックする余裕を挟むくらいのスケジュール調整はせんとなぁ〜、とは前々から思ってはいたんだけどねぇ〜」
「桑名を通じて長谷部達事務担当に伝えておくか?」
「そうねぇ……一旦保留にして考えとくわ。近日中には解答出すって事で」
「了解した。そのように俺から桑名へと伝えておこう」
「伝言役なら、近侍である俺がやるのに」
「これくらいの些細な雑務なら近侍役が担う程でもないだろう。お前は、その分主が無理をしないよう見張っていてやれ」
「其れはそうだっ」
「うわ。ちゃっかり釘刺して行きよるわ、うぐの奴め」
抜け目なく刺された釘に対してボソリと小言を呟くと、にんまり意味深な微笑みを浮かべた鶯丸が此れに対抗するように口を開いた。
「目を離すとす〜ぐに無茶をしようとする君の元で過ごしていれば、其れくらいの補佐は板に付くさ。悔しいなら、日頃の行いを見返す事だな。君の社畜精神は、長谷部とどっこいどっこいだぞ。仕事は休み休みするものだと、少しは覚える努力をしてくれ」
「同時に複数のタスクをこなすのが苦手だからこそ、“今この時に仕事を片付けてしまうんだ!”って決めた時にガガッと纏めて片しておきたい性分なんだよ……。其れで寝食疎かにしがちなのは悪い癖だと分かってるけどぉ……!」
「また君に倒れられては堪ったもんじゃないと、遠回しに言っているのが分からない頭ではあるまい?」
「珍しく鶯の兄さんが語気強めの強気で引かないね……っ」
「其れだけ俺達古参勢が腹に据えかねているのだという事を理解してもらう為に、皆を代表する形で今言っているんだ。別に、茶の一杯飲むくらいの休憩を挟んだところで誰も叱り飛ばしたりなどしないぞ。寧ろ、主には積極的に休んで欲しいくらいに思っている程さ。八丁だって、主には少しのんびりゆったり構えている方がお似合いだと思うだろう?」
「えっ。……まぁ、本音を零せば……そう、なるのかなっ? 何か御免ね、雇い主……!」
「ほら、八丁だって物申したげだぞ。観念して、休む事を優先して動くよう考え改めてくれ。こうまで言っても尚態度を変えないようなら、俺達にも考えがある……。斯くなる上は、強硬手段としてスケジュール管理を握る長谷部達に主の近日中の予定を全て白紙に戻させた上で休暇を取らせるぞ。良いのか?」
「待って!! 今、休まされたら普通に業務に支障出るから……っ!! せめて特命調査の周回だけは続行させて!! 何度も復刻してるイベントだし、俺は初期から参加してる勢だから此処で中途半端に引き下がりたくないの!! だから、“てんえど”特命調査の周回だけはイベント最終日まで続行させて頼む……っ!! その分、日時業務分控えるからぁ〜!! 其れで何とか譲歩してくれ……!!」
「ふむ……。まぁ、今言った条件範囲に留めてくれるのなら、譲歩を認めよう。但し、今でも無理をして徹夜しているのに、少しでも日常業務を同時進行などしようとした暁は……分かっているな?」
「鶯の兄さんが此処まで強く出るの本当珍しいよ……。此れはガチですわ。譲る気一切無いっぽいよ」
「ひぃんッ、お前は
「さぁてなぁ。まぁ、成るように成った、とだけ言っておこうか。何事も日頃の行いが物を言うんだ。再三言い含めてきたが、命は大事にしろよ主」
「ヘイ……すいやせんっした……反省します……」
此れは勝てる気がしないと理解した審神者は、早々に折れた。鶯丸の珍しく強気な圧に負けたのだ。一部始終を傍観していた八丁は、勝利した己の兄貴分へ賞賛の拍手を送った。送られた鶯丸は満更でもなさげに自分の分の湯呑みに口を付ける。というか、お前も此処で茶ァしばくんかい。なんて突っ込みが喉から飛び出そうになったが、今しがた口で負けたところに言うのは憚られ、思うに留めるのであった。
打って変わって、茶へと話の軸を戻した鶯丸は言う。
「あぁ……そういえば言っていなかったが、“八十八夜”に飲む茶には、不老不死の願いが込められているらしい。まぁ、所謂験担ぎというやつだな。人間は俺達と違って儚く脆い。故に、不老不死にあやかって長寿を願い、この先も元気に長生き出来ますようにと祈るんだろう。この茶も、そんな願いを込めたものだ。じっくり味わって飲んでくれると嬉しい」
「“八十八夜”って言うと、真っ先に思い浮かぶのはあのフレーズだな」
そう言った直後、アカペラで「“夏が近付く八十八夜〜♪”」と節を歌い出したかと思うと、その一節の音の後にパンパンッと二回拍子手を打った審神者は続け様に、「……って、某茶摘み唄のワンフレーズだなぁ。本当はもうちょい長いんだけど、俺がリズム込みで歌詞はっきり覚えてんのがこのワンフレーズだけなんだよね」と言った。其れを黙って聞いていた鶯丸は頷いて、次のように言葉を返す。
「あぁ、お茶処では馴染み深い唄だろうな。確か、元は茶摘みをしながら歌う労働歌だったんだったか」
「そうそう。今じゃ、新茶が出始める時季だとか、茶摘みの時季になるとよく聞くフレーズってイメージかな」
「へぇ〜。つくづく思ってたけど、雇い主って雑学的知識多くない……?」
「何でかね。覚えなくても何ら問題は無いようなどうでも良いような事ばかり覚えてたりすんだよね、俺。まぁ、知ってて損な事はないし、実際役立つ事もあるから寧ろ覚えてる方がプラスに働いて良いんだろうけど」
そう、差し入れの茶を啜りながら返す。行儀は悪いかもしれないが、今更小さな事に目くじらを立てるような刀は此処には居ない為、審神者も堂々としている。そもが、彼女から言わせてみれば、猫舌相手に熱々の茶を出したのが悪いとの言い分を返す事だろう。よって、ズズリと行儀悪く音を立てて啜ったとて許されるのである。本丸では審神者が将を兼ねる。故に、一番の発言権を持つのは審神者であるのだ。此れには誰も意を唱える者など居まい。
そうこう近侍の彼の兄貴分である刀が来てからそれなりの時間が経過した頃。審神者部屋のある離れへと近付く足音が聞こえてきた。聞き覚えのある足音に、くぴりと口に含んだ茶を飲み下した審神者がいの一番に反応を示して部屋の出入口付近へ視線を向ける。こんな夜更けの時間にどうしたのだろうか。夜分遅い時分となると女人の部屋には滅多な事がない限り近寄らない太刀が、わざと足音高く立ててやって来るとは珍しい。大方、今現在部屋に居座って茶をしばいている刀を回収しに来た……と言ったところだろうか。
程無くして、一言断りを挟んだ上で顔を覗かせる第三者が盛大に顔を顰めさせて口を開く。
「おい、鶯丸!
「おぉ。足音からして大包平だろうなと思ったら、やっぱり大包平だったか。うぐの事回収しに来てくれたんは嬉しいが、この時分だともう早寝勢は寝てるから、配慮の為にも声のトーンを落とそうな。控えめに言ってうるせぇぞ」
「ゔッ。す、すまん……っ、配慮に欠けた事は詫びよう。だが、鶯丸が迷惑をかけたのは事実だろうから、早々に引き上げさせる。ほら、鶯丸よ立て。部屋へ戻るぞ」
「俺は主に少しでも休んでもらおうと思って気遣ってだな……、」
「良いから部屋へ戻るぞ」
「はぁ……仕方ないな」
部屋へやって来るなり有無を言わせぬ迫力で兄弟刀を引き摺るように連れ出そうとする大包平に、鶯丸は渋々体の力を抜いてされるがままの姿勢を取った。しかし、すぐに大包平より小気味良く頭を
大包平の登場に、つい今しがた話題に上がっていたのを思い出して、改めて口を開いた審神者は言う。
「あぁ……、大包平や」
「ん? 何だ」
「うぐから聞いたんだが、今飲んでる新茶の茶葉は大包平が摘んでくれたんだってな。美味い茶を作る為に今日まで世話をしてくれて有難うね。お陰様で美味い茶が飲める事に感謝するよ」
「フッ……当然だ。主の為を思えば、茶摘み作業など容易いもの。程々に休憩を挟んで休まったら、作業を再開させるのだろう? 審神者にしか出来ん仕事があるのは事実であるし、イベント時期故に仕事量が増えているのは理解しているが、無茶を通すのも程々にしておけよ。お前は本丸の大将として指揮を執る大事な役目を頂く身だ。そんな主が倒れては元も子もないからな。出来る事なら今すぐ床に入って休んで欲しいところだが、今は仕事の為という名分の下で夜更かしを見逃す事にする……。が、主の体は今やお前一人だけのものではない事を肝に銘じて大事にする努力をしてくれると嬉しい」
「お、おう……っ。何や心配かけてしもうてスマンね。今やってる書類捌き切れたら寝るから、堪忍やで」
「あぁ。仔細承知の上だ。よって、俺は此奴を速やかに回収したのちに退散させて頂くとする。行くぞ、鶯丸」
「分かった分かった、そう急かすな。全くせっかちな奴め……っ」
大包平より真摯な態度で
だが、たった今出て行こうとしていた筈の足を止めて柱へ手を付きながら首だけを振り向かせた鶯丸が、まだ言い足りなかったのか、言葉を付け足すように補足した。
「最後に言い忘れていたが……今宵は“八十八夜”。八丁繋がりで末広がりの数にあやかって、盃の代わりに茶を飲み交わすのも乙なものだと思うぞ?」
「鶯の兄さんってば……八丁念仏の“八”にあやかっての年はもう過ぎたんだよ?」
「其れでも、主の好きな八丁にちなんだ日であるならば祝わぬ理由など無かろう? お前も遠慮なんてせずに存分に祝われてやれ。その方が主も喜ぶ」
「去り際に的確に俺を刺すような事言うのはわざとなのか?? え゙ぇ゙ん??」
「ふふっ、随分な照れ隠しな事だ。取り敢えず、俺は言いたい事は伝え切ったから、後はお二人さんだけで仲良くすると良い。邪魔したな」
「鳥太刀はさっさと寝やがれッ」
飄々と何を言い出すかと思えば、なんて事を言い置いて行きやがるのか。この後、お察しの通り二人きりでの作業時間が戻ってくるから変に気まずくなってしまうじゃないか、おのれ鶯丸め許さん。腹いせに、明日の内番当番に必ず捩じ込んでやろうと密かに胸に誓ったのは此処だけの内緒である。
“八”の名を頂く置き土産な差し入れの茶を飲み直しながら、不貞腐れた顔を浮かべていれば、隣合わせに座っていた八丁が流し目で微笑みをくれた。
「もう、鶯の兄さんったら余計な事言ってくれちゃってさ! 余計なお節介だよ、って感じだよねぇ?」
「ソッスネ……」
「あれ……まさか今ので照れちゃったの? 雇い主ってば、今更そんな事で照れちゃうなんて可愛いねっ」
恋人と二人きりの時にしか見せないふにゃりと崩れた笑みを向けられた審神者は、以降
加筆修正日:2024.05.28
公開日:2024.06.26