はにぃとらっぷ☆



―アーサーが店を後にしたのち、残っていた開店準備を済ませ、いつも通りの時間に店を開店させたエミル達。

そして、今日も沢山の客が訪れ、店は大繁盛に終わった。

店を閉め、後片付けも終わり、皆それぞれゆっくりと過ごしていた晩の事である。

彼女は、七つの大罪団長、メリオダスに呼ばれ、彼の部屋へと訪れていた。


『団長…?何か用かな?』
「ん…?いや、ちょっとお前と話してぇな、って思ってさ!大丈夫だったか?」
『うん。今、特にやる事ないから、大丈夫だよ。』
「そっか、なら良かった♪」


彼は、自分の眠るベッドの上に腰かけ、寛いでいた。

彼女の姿を見とめると、自身の傍らをポンポンッ、と叩き、「ま、座れよ。」と言わんばかりに示す。

エミルは、特に断わる理由も無いので、素直に従い、示された場所へと座る。


「今日の昼間、俺が留守にしていた間に、アーサーが店に来たんだってな!」
『うん、偶々近くまで寄ったから、ついでに来てくれたんだって。近くに来た時は、いつも寄ってくれるから、嬉しいよねぇ…!』
「(お前目当てで来てるって事に気付いてねぇな、こりゃ…。)まっ、知り合いだから、尚更だよなっ!」
『うんうん!ありがたい事ですっ!!』
「また今度来てくれた時は、俺も顔出してやんなきゃなぁ…。」


彼女は腕を組んで、うんうんと頷き、嬉しそうにしている。

その横で、メリオダスは、「早くコイツに気付かせねぇと、アイツが可哀想だ…。」と、内心密かに企んでいたのだった。


「はは…っ!なんかお前、やけに嬉しそうだな?」
『へ…?私、そんなに嬉しそうな顔してた?』
「うん、してたしてた。」
『う〜ん…。アーサーって、知り合いの中で一番歳が近いし、人懐っこいし。よく店に来てくれるから、じゃないかな…?』
「ほうほう、なるほどなるほど…っ。」


そう答えると、彼女の返事を聞いた彼は、意味深な頷きと共に怪しげな笑みを浮かべた。

そんな彼を見つめ、不思議そうに首を傾げるエミル。


「なぁ、エミル。お前さ、ちょっとそこに立ってみ…?」
『え…?』
「良いから、立ってみ?」
『…はぁ。』


メリオダスの考える意図がよく分からぬまま、言われた通り、彼の目の前へと立ったエミル。

すると、彼はおもむろに立ち上がり、あらゆる角度から彼女を眺め始めたのだった。

訳が分からず、メリオダスの舐め回すような視線に、眉間に皺を寄せる彼女。

暫く眺めると、何をするでもなく、どこか満足気に頷き、「もう良いぞ。」と言って、元の場所へ腰かけるメリオダス。

何も無かったのに安心し、変に入っていた肩の力を抜き、ふっと小さく息を吐いた。


『…何だったの?』
「うんにゃ、特に理由は無い。」
『そうっすか…。』


「では何故、立たせた上に眺め回したんだ…?」という疑問は、飲み込み、敢えて口にしないでおく事にした彼女。 

彼はたまに、こんな風に気まぐれでよく分からない行動を取る事があるので、気にした方が負けである。

そんな感じで、ふと油断していた時であった。


「よ…っ!」
『ふぇ?ちょっ、ぅわ…ッ!?』


突然、ぐらりと傾いだ視界と身体。

視界が反転した理由を探らずとも、その原因である相手…メリオダスが、己の身体を押し倒している状態である光景が目に映る。

あまりにも唐突で油断していたために、反応が遅れたエミルは、重力に伴って、そのまま床へとぶっ倒れた。


『ゔ…っっっ!!』


ついでに、痛めていた腰を強かに打ち付け、盛大な呻き声を上げる。

咄嗟に受け身を取ったものの、ただでさえ痛めていた腰のせいで上手く動けず。

今しがた強く打ち付けたせいで、余計に痛みの増した腰部。

おかげで、テンションは激下がりの上、機嫌を悪くした彼女は、自身の上に跨る当人を睨み付けた。


『…痛いんですけど。』
「手加減はしたつもりだぞ…?油断してるお前が悪い。」
『いやいや、何の冗談ですか。何がしたいの?つか私、昨日ので腰痛めてるって言ったよね…!?余計に悪くなったんですけど…っ!!』
「あ、忘れてた。そりゃ、スマン。」
『責任取れや…!』
「お前なぁ…。女なのに、その乱暴な口調、どうにかなんねぇのか…?」
『人を用もなく押し倒しときながら言う台詞か…!?つぅーか、いつまで組み敷いてるんだよ!!?退けよ、邪魔くさい…っ!!』
「お前さぁ、押し倒すとか組み敷くとか、よく恥ずかしげもなく言えるなぁ〜っ。普通なら、恥ずかしがるところだろ…?もうちょい女らしく恥ずかしがったりしたらどうだ?」
『どうでも良いから、早よ退け…っっっ!!』


イライラとした口調で言い放った彼女は、素を露わにしていた。

怒らせるつもりのなかったメリオダスは、素直に謝り、彼女の身体を起こすのを手伝う。

しかしその際、腰が悲鳴を上げ、女らしくもない呻き声を上げたエミルであった。

―結果、数日後、メリオダスの訳の分からん行為のせいで悪化した腰の痛みに苦しみながら、店の運営をする彼女の姿があった…。

そこへ、再び訪れるアーサー。

彼女に逢える喜びを笑顔全開にして、尻尾が付いていたなら勢いよくブンブンと振っていただろう、そんな様子で入口のドアを開いた。