面白い人
「お前、確か迅といつもいる……」
「天喰波折です」
「確かそんな名前だったな。天喰も強いんだろ?俺と勝負してくれよ」

悠一くんが昨日拗ねていた理由はこれか。
久しぶりに負けたとかなんとか言って、少し機嫌が悪かった。

「私は悠一くんよりも弱いですから」
「迅がお前は強いって言ってた!」
「未来視のサイドエフェクトを持っている悠一くんより強いわけないじゃないですか」
「でも、お前もサイドエフェクト持ってるんだろ?」
「……持ってますけど」
「ふーん。な、1回だけだから!」

結局押し切られる形で勝負することになった。
勝負は1度きり。
それ以上は無理だ。

「もらった!」
「……っ残念です」

考えてることが丸わかりだ。
この人はとても素直な人なんだろう。
考えてることを読んでいるだけで、何となくこの人の性格が分かる。

「(右、いや左か)」
「どちらでもありませんよ」

『戦闘体活動限界、緊急脱出(ベイルアウト)』

最上さんがトリガーになった後、緊急脱出(ベイルアウト)というシステムができた。
簡単に言うと、もし敵にやられても死なない機能だ。
トリオン供給器官や脳がやられた時、トリオン漏れでトリオン体が活動限界の場合に本部に本体が転送される。

「ま、負けた……」
「負けたことを恥じないでください。私のサイドエフェクトはいわゆるズルですから。むしろ、サイドエフェクト使ったのにここまで手こずらせた貴方の技量を褒めたいです」
「そういえば、お前のサイドエフェクトが何か聞いてなかったな」
「人の心が読めます。だから、考えが丸わかりでしたよ」
「うわ、マジか。確かにチートみたいなサイドエフェクトだな。迅のやつも反則だと思ったけど、お前のも反則級だな」
「褒めていただきありがとうございます」
「あ、名前言ってなかったな。俺は太刀川慶。忍田さんの弟子だ」
「あー、お噂は聞いてます」
「噂?」
「学校の成績が破滅的で忍田さんが頭を悩ませているとか」
「うっ」
「多少なら高校の勉強も分かりますし、教えましょうか?」
「マジ?」
「ただし、私はスパルタですよ」
「げぇ……」

とりあえず、期日の迫っている課題を先に片付けるためにラウンジで集合することになった。
ウン年前のことだけど、ちゃんと覚えてるかな。
解き方とか見たら大体は分かると思うけど……うん。やるしかない。

「太刀川さん、三単現って知ってます?」
「さん?」
「英語は三人称、単数、現在形の時に動詞が変化するんですよ」
「へえ」
「ちなみにこれは中学1年生で習います」
「……マジ?」
「本当です」

太刀川さんは思った以上にヤバかった。
これなら、鋼の方が断然頭がいい。
というか、比べるのは鋼に悪い気がする。

「stealの過去形はstoleですよ」
「つづりが分からん」
「s、t、o、l、eです」
「おおっ」
「ちなみにstealの意味は盗むです」
「盗む……分かった!」

太刀川さんはとても表情豊かな人だ。
問題が分からければ顔を顰め、分かった時は喜ぶ。

「自分より小さい子供を捕まえて何やってるんだ、太刀川」
「あ、風間さん」

と太刀川が呼ぶ人は初めて見る顔だ。

「こんにちは……えっと、風間さん?」
「ああ、風間蒼也だ。よろしく」

と丁寧に自己紹介してもらったので

「天喰波折です。よろしくお願いします」

と自己紹介を返した。

「で、太刀川。なんで中学生に自分の課題を手伝わせてるんだ」
「私が手伝うって言ったんです。太刀川さんが噂通りの人なのか気になって」
「ひでえ!!」
「それに、忍田さんが最近胃薬を飲んでいたので、それとなく理由を聞いてみたら『弟子の勉強を疎かにしないためにはどうしたらいいか考えている』とおっしゃっていたので」
「マジか」
「反省しろ、太刀川。というか、天喰は大丈夫なのか?」
「何がです?」
「コイツがいくら馬鹿でも問題は高校生のだぞ」
「風間さん酷い!!」
「予習してるので、大体は解けますよ」

本当は1度習ったことがあるからだが。

「……コイツに爪の垢を煎じて飲ませたいな」
「爪の垢って汚くない?」
「太刀川さん、爪の垢を煎じて飲むっていうことわざです。本当には飲みません」
「なるほど……」
「少しは恥ずかしいと思え」
「痛い!!」

太刀川さんの座る椅子に蹴りをかます風間さん。
見た目の割に過激な人だ。

「天喰はもう進学先は決めてるのか」
「えっと、まだ、です」
「六頴館高校は知っているか?」
「名前くらいは……」
「迷ったらそこに来い」

と言って風間さんは去っていった。

「お前、風間さんに気に入られてんぞ」
「えっ」
「あの人見た目の割に怖いだろ」
「……太刀川さんにだけじゃないですか?」
「マジか」

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