寄り添う
「最上さん!!」
「波折、悠一のこと頼んだぞ」
「嫌だ、最上さん……!」
「泣くなよ。波折」
「泣きたくも、なります……!!」
「悠一、俺が庇ったこと気にするだろうなぁ……悠一はああ見えて寂しがり屋だから」
「待って、行かないで」

いつもみたいに『大丈夫だ』って言って笑ってよ、最上さん。

「はっ、は……ゆ、め?」

そう、夢だ。
最上さんは悠一くんの目の前で亡くなった。
死ぬ間際に自らのトリオンを武器にして亡骸もなく、いなくなった。

「波折、魘されてたけど大丈夫?」
「悠一くんこそ大丈夫なの……?」
「俺は大丈夫」
「嘘だ。悠一くん目の下に隈出来てるよ」
「本当に?」
「鏡見てきなよ。かなりくっきり付いてるから」
「……目を閉じても眠れないんだ。目を閉じたら最上さんが俺を庇ったときばっかり思い出す。どうせなら、楽しかった時のこと思い出したいのに」

眉を下げながら笑う悠一くん。

「じゃあ、悠一くんが眠れるまで私が話しかけるよ」

こんな状態の悠一くんを放っておけない。
夢の中の最上さんも言っていた。
悠一くんを頼んだ、と。

「悠一くんが魘されないように私がそばにいる」
「波折、恥ずかしい事言ってるって自覚ある?」
「勿論。考えて発言してるつもりだよ」
「恥ずかしい奴……」
「趣味は暗躍とか言ってる恥ずかしい人には言われたくないね」
「それ言っちゃう?」
「だって、最近言い始めたから厨二病を発病したのかなって」

こんな状況だからか、悠一くんは誰よりも大人であろうとする。
まだ、中学生なのに。
私の前で泣いてほしいとは言わない。
せめて、悠一くんが泣ける場所が作れたらいいのに。

「じゃあ、早速昼寝の続きだな」
「悠一くんも寝るんだよ」
「俺も?」
「当たり前でしょ」

と私が言うと、悠一くんは渋々横になった。
眠れば、嫌なことが全てなくなるわけじゃない。
それでも私たちは生きていかないといけない。
目を閉じてから少しして、隣から規則正しい呼吸の音が聞こえた。
悠一くんの体は既に限界だったらしい。

「もし、最上さんが悠一くんを庇ってなかったら……」

死んだのは悠一くんかもしれない。
そう考えると、ゾッとする。
どちらも救える道はなかったのか。
今となって分からないが、私たちの力不足で最上さんが亡くなったのは事実。

「最上さんの代わりに今度は私が悠一くんを守る」

私の独り言は誰の耳にも入らず消えていった。



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