世界一怖い夢
『なんで死んじゃったの、波折』
『たくさん話したいこともあったのに』
『どうして……っ!!』

前の世界の友達が泣いている。
目の前の棺桶に向かって言葉をかけている。
多分あの棺桶の中には前の“わたし”がいるのだろう。

『親よりも先に死んじゃうなんて』
『親不孝』
『育ててくれた恩も返さずに』
『まだ若いのに』
『可哀想』

みんなたくさんの言葉を投げかけている。
私はそこにはいないのに。

『痛かったよね、苦しかったよね』
『もう苦しまなくていいんだよ』

私は今、悠一くんたちの隣に居ていいのかな。
仲良かった子を泣かせて、親も泣かせて。
自分だけ笑ってるって許されるはずがない。
忘れてた。
私は交通事故で死んだ。
考えたくなかったから頭の中で記憶に蓋をした。
違う世界で生きていたからいいものの、私は人を不幸にしていたんだ。
誰かが許してくれても、私が自分を許せない。

「……い……じょ、ぶ」
「ゆ、ういち……くん?」
「ソファで寝てると思ったら魘されてたから。怖い夢でも見た?」
「……世界一怖い夢」
「どんな?」
「……私がみんなを不幸にしていく夢」
「俺は波折に幸せにしてもらったけどな」

ギュッと私の手を自分の両手で包み込む悠一くん。

「悲しいことも波折がいたから乗り越えられたし、波折がいたから今も笑えてると思う」
「悠一くんは強いから、そんなことないよ」

私が隣にいたってだけ。
別に私がいなくても悠一くんは、上手に立ち回っただろう。
そう、私がいなくても。

「離れるなんて言わないで。波折まで遠くに行くなんて俺はどうしたらいいの」
「……大丈夫だよ、私はどこにも行かない」

どこにも行けないのだから。

「泣かないで」
「泣いてる悠一くんに言われても説得力ないかな」
「波折の代わりに泣いてんの」
「それ、私が昔言った言葉だね」

と笑うと

「覚えてるよ」

と悠一くんも笑う。
悠一くんに必要とされてる限り、私の居場所はここなんだと思う。
……じゃあ、悠一くんが私を必要としなくなったら?



その時は潔く、彼の隣から姿を消す。
それだけだ。

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