辞退
「最上さんの黒トリガー争奪戦?」
「そうだ」

争奪戦って言い方がなんか嫌だ。

「トリガーを起動できる人がたくさんいたんですね」
「……心を読んだのか」
「すみません」
「気にするな。天喰も起動できたのだろう」
「……はい」
「参加しないのか?」

聞くところによると、悠一くんも最上さんの黒トリガーを起動できたのだという。
当たり前と言えば当たり前だ。

「私は悠一くんが持っているのが一番相応しいと思うので、辞退します」

同情で譲ったんじゃない。
悠一くんならきっと最上さんの黒トリガーを大切にしてくれるし、使いこなせると信じているから。

「よっ、珍しいな。最近玉狛に篭ってただろ?」
「太刀川さんお久しぶりです。別に篭ってたわけじゃないです。受験勉強してるだけですよ」
「そういや受験生か。お前雰囲気大人みたいだからたまに年齢忘れるんだよな」
「それ私が老けて見えるってことですか?」
「別にそうは言ってねーよ」
「良かった。そんな事言われたら風間さんに言うところでした」
「なんでそこで風間さんの名前が出てくるんだ……」

心做しか、太刀川さんの体が震えている。

「週に何回か風間さんに勉強を教えていただいてるんです」
「え、お前そんなに勉強してどこ行くの……?」
「一応、六頴館高校が第一志望です」
「やっぱりそっちか!」
「ボーダー提携校だし、何かと都合がいいので」
「お前が俺のとこ来たら楽しそうだと思ったのになー」
「ダメですよ、ちゃんと課題やらないと」
「……バレたか。話変わるけど、お前アレ起動できたのか」
「最上さんの黒トリガーですか?」
「そうそれ」
「できましたけど……私、辞退したんです」
「はあっ!?」
「だって、あれは悠一くんが持つのが相応しいから」
「お前だって最上さんの弟子だったんだろ」
「そうですけど、やっぱり悠一くんには敵いませんよ」
「……なんだよ。俺は欲しくても手を伸ばす資格さえもないのに」
「……えっ」
「お前のそうやってゴタゴタ理由つけて諦めるところ大嫌いだ」
「……そうですか」

大嫌いと言われたことも悲しかったけど、私が諦め癖がついていることを太刀川さんに言われて気づいたことの方がもっと悲しかった。
でも、このことに関しては誰になんと言われようと、曲げられないんだ。
悠一くんには最上さんが必要だと思うから。

「波折、ちょっといい?」
「いいよ」
「単刀直入に言うわね。私とレイジさんと波折で隊を組まない?」
「なんで私?」
「迅がね、『もし隊を組むことになったら波折を入れてくれ』って」

私も悠一くんもバカだ。
相手のことを思って行動してるつもりが、相手を突き放している。

「それに、迅に言われたからだけじゃないの。私も波折と隊を組めたらいいな、って思ったから」
「ありがとう、小南ちゃん」
「返事はいつでもいいからね。でも、いい返事待ってる」

悠一くんと話し合わなくちゃいけない。
話さないと何も分からないから。


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