離れる
お父さんの仕事の都合で転校することが決まった。
三門市というところらしい。
全く聞いたことのない地名だ。
転校ということは、鋼とは簡単に会えなくなる。
鋼が1人で悩まないか、心配だ。
あの子は優しいから。
鋼は自分の長所を人と違うからという理由で、あまり良く思っていない。
それが私は悲しい。

「今日、鋼くんのお家に挨拶に行きましょうか」
「……分かった」
「ごめんね。本当は転校なんてしたくないでしょう?」
「お母さん大丈夫だよ。私、ちゃんとお友達作れるから」
「本当?」
「うん。任せといて」

ニッコリと笑ってみせると、お母さんは安心したように笑い返してくれる。

「ああ、もうこんな時間だわ。村上さんとの約束の時間に遅れちゃう」
「私の用意はバッチリだよ」
「じゃあ出発!」

鋼たちとの待ち合わせは、お母さん同士が集まるときによく利用する喫茶店。
ここのホットケーキが美味しかったんだよね。
私のお気に入りだった。

「遅れちゃってごめんなさい。すごく待たせちゃったかしら」
「私も今来たところよ。それよりもやっぱり引越しちゃうのね……寂しいわ」
「私もよ。でも、たまに会いに来てもいいかしら……?」
「もちろんよ。私からも会いに行くわ」

お母さんと鋼のお母さんは本当に仲がいい。

「鋼泣いた?」
「……来週から波折がいなくなるって思ったら涙が止まらなかった」

目尻のところを擦ったのか、少し赤くなっていた。

「波折は優しいから、あっちでもすぐに友達できるよ」
「でも今の時期だからね。少し心配」
「俺の方が大変だよ。波折がいなかったら何もできない」
「絶対にそんなことない。鋼はやればできる子だもの。大丈夫。自分に自信持って」
「でも」
「どんな事があっても私は鋼の味方だから。やりたいことやりなよ」
「……うん。波折、ありがとう」
「どういたしまして」
「あ、俺もたまに母さんと一緒にそっちに行くから」
「じゃあ、私が案内してあげるね」
「楽しみだな」
「ふふ、そうだね」
「そうだ。俺、波折に渡すものがあったんだ」
「私に?」

鋼はゴソゴソとカバンを探ると、プレゼント用らしき包装紙でラッピングされたものを出した。

「見てもいい?」
「いいよ」
「ありがとう」

中には可愛いシュシュが入っていた。

「最近、波折の髪が伸びてきたから。使ってくれると嬉しい」
「うん。大切に使うね」

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