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三門市に引っ越してきて、一週間が経った。
心配していた友達作りも難なく乗り越えられた。

「なんでそんなところに1人でいるの?」

公園の端っこで体育座りして蹲っている男の子がいたから思わず声をかけてしまった。

「お前に関係ないだろ」

と、ぶっきらぼうに言う男の子。
確かに私が声をかけたのはお節介かもしれないけど、目を合わせようとしないことに少し腹がたった。

「女の子に負けたから悔しい、ね。なるほど」

だから悪いこととは思いつつ、目の前の男の子の心を読んでしまった。

「なんで……」
「私、人の心が読めるんだ。って言っても普通の人は信じてくれないんだけど」
「……ついて来て」
「ちょ、いきなり引っ張らないで」

腕を掴まれたまま、走り出す男の子。
私、何処に連れていかれるんだろう。

「最上さん、こいつサイドエフェクト持ってる!」
「迅。まずは、ただいまだろ?」
「最上さんただいま!」
「はい、おかえり。で、そっちのお嬢さんか?」
「うん。人の心が読めるって」
「お嬢さん、それは本当か?」
「意識したら、ですけど……」
「自分で制御出来てるのか。すごいな」

と、目の前の男性は言いながら少し粗めに私の頭を撫でる。

「その、サイドエフェクトってなんですか?」
「ちょっと長くなるけどいいか?」
「大丈夫です」
「サイドエフェクトってのはトリオンってのが多い奴に稀に出る“副作用”みたいなもんだ」
「“副作用”……」
「トリオンってのは心臓の隣にあるトリオン器官に蓄えられている一種のエネルギーみたいなもんだな」

男の子が最上さんと呼んだ男の人が丁寧に説明してくれたが、少しピンとこない。

「サイドエフェクトにも色々あって、強化五感みたいに人よりも五感の感覚が優れていたりっていうのもあるんだ」
「強化五感ってことは目が良かったり、耳が良かったり?」
「強化五感は常人の何倍も良いんだけど、簡単に言うならそうだな。あと、迅は未来視のサイドエフェクトを持ってる」
「つまり未来が見えるってことですか?」
「目の前の人の少し先の未来なら」

と男の子が答えてくれる。

「す、凄いですね。あ、それって貴方には未来が一本筋で見えてるってこと?」
「不確定要素も含めて全部見える」

少しでも可能性のある未来は全て見えるってことか。
便利な能力なんだろうが、未来視が見せる情報量の多さに吐いてしまうかもしれない。

「つらくない?」
「は?」
「たくさん未来が見えるってことはそれだけ視覚での情報量が多いってことだよ。頭こんがらがったりしない?」
「するわけないだろ」
「そっか。使いこなせてるんだね、すごい」

私と年も変わらない男の子なのに。
たくさん人の未来が見えて、その中にはきっと見ているだけでつらい未来があったかもしれないのに、この子は強く生きている。
それだけで凄いことだと私は思える。

「悠一はなんでこの子連れてきたんだ?」
「この子はきっと最上さんの役に立つよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」
「だからって言ってこの件に関わらせるのは駄目だろう。生死に関わるかもしれないのに」
「でも、サイドエフェクト持ちでトリオン量が多いってことはこの子はトリオン兵に狙われやすいってことだよ。最上さんはこのまま放っておくの?」
「ぐっ……悠一、お前嫌な言い方するな」
「誰の弟子だと思ってんの」
「分かった。その代わり、関わるかどうかを決めるのはこの子自身だ」
「別にいいよ」

それから、最上さんは近界民といういわゆる侵略者がこの地球に侵攻してくることを教えてくれた。

「トリオン量が多い人はあっちで兵隊にされて、少ない人間はトリオン器官だけ抜き取られる」
「要するに全ての人間に利用価値があるってことですね」
「そうだな」
「最上さんたちはそれを阻止するために戦っているんですか?」
「本当は近界民との架け橋になるために組織を設立したんだけどな」
「でも、何もしないままだったら大切な人が攫われたり、殺されてしまいます。勿論、最上さんたちの言う良い近界民というのもいるんでしょうけど、まずは自衛が大事です」
「そう、だな……」
「それに、最上さんの考えを分かってくれる近界民もあちらにはきっといますよ」
「そうそう!お前いいこと言うじゃん」
「お前って呼ばれるとキョリ感じるから、名前で呼んでほしい。私、天喰波折。貴方は?」
「迅悠一。よろしくな、波折。それと、俺の方が波折より年上だから」
「えっ」
「まあ、気軽に話しかけてよ」
「そうだな。波折の特訓は俺がするから悠一が兄弟子になるんだから」
「マジ?」
「本当だ」
「えっと、よろしくお願いします。最上さん、悠一くん」


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