近づく
「弱い!」
「この前から特訓始めたばかりなので弱いのは当たり前ですよ」

目の前には悠一くんが負かされたという女の子。
自分より年下の女の子に負けたらすごく悔しいと思う。
でもそれはこの子が努力してきた結果だろう。

「年下にあんなこと言われて腹が立たないのか?」

と悠一くんに聞かれた。

「弱いのは事実だし、ここに年功序列なんて関係たいでしょう?」
「……波折の言う通りだけどさあ」

いくら私のが彼女より年上だからって、ここでは彼女の方が先輩。
むしろ、私はあの子を見習わなければならない。

「でも波折も確実に強くなってるよ。初めて弧月握ったのが2週間前だなんて信じられないくらい」
「そう?でも、私の運動神経じゃ悠一くんやあの子には勝てないかもしれないなぁ」
「でも、やれるだけやってみよう。波折はスジがいいって最上さんも褒めてた」
「本当に?嬉しい」

あれから週に何日か、悠一くんと一緒に最上さんに特訓してもらっている。
お母さんには習い事と言っている。
嘘をつくのは大変心苦しいが、一応機密事項なので致し方ない。

「でも、やっぱり小南ちゃんとは数少ない秘密を共有する同世代だから仲良くなりたいんだけどなあ」

なにもかも自分の思い通りにはならない。
特に対人関係はそうだ。

「波折は小南の心読んだりしないの?」
「友達になりたいのに心を読むって、私が小南ちゃんを信頼してないみたいじゃない?私が小南ちゃんの立場なら嫌だから小南ちゃんにもしたくない」
「そっか。じゃあ大丈夫だ。小南もきっと波折と仲良くしたいと思ってるよ」
「本当?」
「ああ、俺のサイドエフェクトがそう言ってる」

あ、悠一くんに励まされてるな私。

「女のくせに調子乗ってんじゃねーぞ」
「そうだそうだ」
「何よ、女なのは関係ないでしょ!」

と小南ちゃんが言い返す。

「うるせえ!」

自分より小さい子に寄ってたかって、最悪。

「それに悪いことしてるやつに悪いって言って何が悪いの」
「このっ!」

小南ちゃんの言うことがド正論過ぎて何も言えなくなったからか、小南ちゃんに殴りかかろうとする。

「った……止めな。自分より小さい子に正論言われたからって逆ギレするのはかっこ悪いよ」

小南ちゃんとソイツの間に入ったのはいいけど、私の顔にその子の拳が顔面にクリーンヒットした。

「な、なんだよ……!」
「アンタらがしてるのはただの弱いものいじめだっつってんの」
「なんだと!!」
「女だからって甘く見てる?残念。もう時間切れだ」
「こらアンタたち!!」
「か、母ちゃん!?」
「こんな小さい女の子に何してるの!!」
「そ、それは……」
「貴女たちもごめんね。おばさん何て謝ったらいいか……」
「もういいです」
「でも、今から親御さんに謝りに……」
「子供同士の喧嘩みたいなものですから。親が謝る必要はありませんよ。その子たちが心から反省してくれれば、充分です。小南ちゃんもそれでいいですか?」
「……ねこ」
「ん?」
「そいつら、猫をいじめてた」

小南ちゃんはそれを助けるために、どう見ても年上の男の子たちに立ち向かっていったのか。

「猫がいじめられてるのを見て男の子たちを注意したんですか?」
「……うん」
「生き物は大切にしなくちゃいけないもんね……ごめんね、怖かったでしょう?」

と、男の子のお母さんが聞くと

「別に怖くなんかなかった。私には謝らなくていい。でも……猫と波折には謝ってほしい」

波折の頬が腫れてるから、と言う小南ちゃん。

「私のことはいいです。でも、動物にも命があります。動物の命を大切にできない人が他の人を大切にすることなんてできないですから」

女性は何度も何度も私たちに頭を下げて謝りながら去っていった。
男の子も不貞腐れてはいたが、自分のしたことの愚かさが身に染みているだろう。

「……助けてくれてありがとう」
「私は何もしてないですよ」
「でも」
「ああ、でも名前で呼んでくれて嬉しかったです」
「!!」
「これからも名前で呼んでください」
「……じゃあ、波折も敬語やめて。キョリ感じて嫌だ」
「うん。分かったよ、小南ちゃん」

私こういう子をのことをなんて言うか知ってる。
小南ちゃんはいわゆる“ツンデレ”ってやつだ。



1/24
prev  next
ALICE+