日曜の与太話



 日曜日。朝。空は快晴。
 暖かな気温。学校はもちろんおやすみ。絶好のお昼寝日和。

 ……絶好のお昼寝日和、なのに、

「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「うるさいぞ、口より手を動かせ」
「アー!!」

 手に持った雑巾を講堂の椅子に叩きつける。それを見た綺礼が「おい」と怒ったように言ったので、私は渋々雑巾がけの続きに戻った。

「なんでこんなに天気のいい日に教会のお掃除なんて手伝わなきゃいけないの〜〜!」
「天気がいいからこそだろう」

 それはそうなのかもしれないけれど。

 とにかく私は不服だった。日曜はできるなら昼過ぎまで眠って、午後からはお出かけしたりなんかして、もし、もしも奇跡が起きるなら、綺礼と一緒に、なーんて……とワクワクした気持ちで学校から帰った金曜、放課後。
 彼に日曜の予定を聞いた私ににべもなく与えられたのはこの掃除という重労働だった。

「綺礼のばか……なにが「ちょうどよかった、私もお前に用があったのだ」だよう、期待したあの一瞬を返して……」

 ぶつぶつと独り言を呟きながら椅子の背をゴシゴシ拭いていく、少し離れたところから笑いを押し殺せていない彼の声がしたが今は何か言う気力もない。畜生、性悪神父め。

「どうせ寝ているだけだろう」
「そんなことないもん、色々することあるもん、趣味の時間とかもっと欲しいもん、綺礼は掃除も趣味の一環みたいなとこあるから楽しいかもしれないけど」
「お前も掃除を趣味にしてはどうかね」
「むりむり、たのしくないもん」

 そんな風に話しながら隅から隅まで綺麗に掃除をしていく。ここが終われば庭もだ、花壇のお花のお世話もしなければならない、雑草抜きとか。

「ふむ、楽しくない、か」

 ふと、立ち上がった彼が何か思案するように手を口元に当てる。どうしたのだろう、と屈んだまま彼を見上げると楽しそうに笑う彼と目があった。

「……私と一緒にいるのにか?」
「………………は」

 ぽとり、手に持っていた雑巾を床に落とす、な、なんだってんだこのおとこは、

「それは……いや……だって……私は綺礼と二人で遊びに行きたかったわけであって……」
「街に出れば確かに遊ぶことはできるが、厳密には二人だけではなくなってしまうな? ここで共に掃除をしている方が二人きりと言えるのではないかな」
「そ、そんなの屁理屈だ」
「共同作業ともいう」
「へ、へりくつ……」

 その言葉は全て私をからかうためのものだとわかっているのに、いちいち翻弄されてしまう、悔しい、ほんの少しだけこれもありかもしれないと思ってしまった。

「ばか……」

 赤く染まった頬を見られないよう彼に背を向けて掃除を再開する。けれど多分バレてはいるのだろう、本当に嫌だ。

「さぁ、早く終わらせるぞ、次の掃除はお前の部屋にしよう」
「へぁっ? ……いやいやいや、思春期の女の子の部屋だよ!? 自分でやるからいいよ!?」
「そう言っていつまでもやらないだろう、私もそろそろ我慢の限界だ。お前の部屋は掃き溜めのそれだぞ」
「そ、そこまで汚くないもん!」
「本当に嫌なら私より早くその作業を終わらせて自分で自室の掃除を始めることだな」

 突然タイムアタックが始まってしまった。これは急いで終わらせなければならないかもしれない。

「うー……報酬もなく従事するなんて苦行だよ……」 

 もちろん褒美などなくてもしなればならないことだとわかってはいるものの、教会の敷地は広過ぎる。見返りがなければやってられない。

「報酬か……涼、」

 名前を呼ばれ振り返る、と、思いのほか至近距離に彼の顔があり変な声が出そうになった。

「な、なに……」

 そこから更に少しずつ彼の顔が近づく、もう、あと少しで唇が触れてしまう。

「……っ!」

 だが、そのすんでのところで止まり、彼が意地悪そうに微笑みながら人差し指をその隙間に差し入れた。

「……良い子に手伝いができたなら、この続きをしてやろう。できるな?」
「は……はい……」

 素直に返事をすると彼がその身体を離す、畜生、私のばか、そんなんだからずっと弄ばれ続けるんだ。

「……綺礼」
「ん?」

 なんとなく、やられっぱなしは気にくわないので、私も少しやり返すことにする。

「……続き、ってどこまでしてくれるの? 私、綺礼となら最後まで……」

 その時だった。

「邪魔するぞ言峰ー、掃除するって言ってたけど俺はどこを…………」

 ――いつのまにか教会の扉が開かれており、そこには一人の少年が立っていた。

「え、衛宮……先輩……!?」
「おや、そういえば少年にも手伝いをお願いしていたのだった、忘れていたよ」
「……あー、いや、すまん、続けてくれ」

 バタン、音を立てて扉が閉められる。最悪だ、見られた。確実に見られた。私が綺礼に迫っている姿を絶対に見られた。

「……終わった……」

 綺礼はなにやら楽しそうにくつくつと笑っているが、思春期真っ盛りの私には笑い事ではないのだ。
 あぁ、最悪の日曜だ。そう思いながら私は先輩に申し開きをしようと彼の背を追うのであった――。




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