残暑お見舞い申し上げます 冬木市に未曾有の猛暑日が訪れた、夏。清貧を良しとする冬木教会にはもちろん、エアコンなどというものは今年も導入されず……自室の茹だるような暑さに耐えられなくなった少女は、目の前の男にベッタリと身体をくっつけながら、苛立たしげに声を張り上げる。
「あ〜つ〜い〜! ……ランサー、体温高すぎ! 熱源じゃん!」
「文句言うならくっついてくるんじゃねえよ」
ランサーと呼ばれた青年は、背中に少女の体温を感じながら身動きも取れずにため息を吐いた。本来であればこの女に頼まれている雑用をこなす時間のはずだったのだが、そのためにこの腕を振り払えば余計に彼女の機嫌を損ねることになるだろう。そんなことは、この男は嫌というほど理解していた。
「外気温より人間の体温のほうが低いんだから、くっついてた方が涼しくてもおかしくないのにさぁ……」
それについて、ランサーも聖杯から得た知識を使えば科学的に説明ができるのだが、この場において彼女が求めているのはそのようなものではないだろう。なにより、彼自身も小難しい話は好まない。ただ、「そーだな」と興味もなさげに返すだけにとどまった。
「そもそも……なんで私より体温高いの? エーテル体のくせに生意気だ……」
「どういう罵倒だそれは」
寝台に腰掛けたままの彼の背に、全体重を預けるかのように彼女が脱力する。重い、というのも、邪魔だ、と言うのもこの場では不味いと判断し、槍兵は黙ってそれを受け入れていた。
「あのさぁ、あれ、ランサーのルーン魔術とかで涼しくできないの〜……」
「……まぁ、できなくはねぇな」
「えっ! できるの!? どうやって!?」
少女が勢いよく身体を起こす。ランサーは半身で振り返りながら、気だるげに「水でも被りゃ涼しくなるだろ」と言葉を溢した。
「なんだ……脳筋……あ、でも水風呂はありかも……? 暑過ぎて浴室まで行くのも面倒だけど」
「……ほ〜う?」
にやり、と笑うその表情に少女が気づいたか否か。次の瞬間、彼は彼女を軽々と担ぎ上げていた。彼女が悲鳴や拒絶の言葉を口にするより先に、ランサーは部屋の扉を乱暴に開け放ち、浴室へと早足で向かい始める。
「マスターのご希望とあれば、連れて行ってやらねえとなあ?」
「は……はぁっ!? ま、待って、ランサー、邪なこと考えてるでしょ!? おーろーしーてー!」
「さてどうかねえ? はっはっはっ」
そうして二人分の喧騒と一人分の足音が廊下を過ぎ去っていく。その後、果たして二人が狙い通り
涼むことができたかどうかは——まさしく、神のみぞ知る、というところである。
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