01



 気の強い女がいい、凛とした、揺るがねぇやつ。……そういう好みはあるものの、まぁ、英雄色を好む、というやつだ。そりゃ、可愛い子を見かけたら声をかけなきゃ失礼ってもんで。
 此度の現界中に声をかけた数々の女の子たちを思いながら、俺はそんなことを考える。自慢じゃないが生前はそれなりにモテた俺は例に漏れず色々とあった。もちろんそれで痛い目を見たこともあるが、まぁそれでも綺麗な姉ちゃんは好きだった。

 それが、

「……んぁ……ぐ〜……、すぴ……」
「…………きったねぇ顔」
 
 ——どうしてこんなちんちくりんに、情を寄せてしまっているのか。
 
 朝、起床時間を過ぎても布団から出ることなく、口の端によだれの跡を残すこの女……神崎涼は、一応、俺のマスターだ。
 本来こいつはカルデアにおけるマスター候補などではなく、ただの一介の技術職員だったらしい。だがそれが非常事態でマスター適性があると判明したが故に、最後のマスター藤丸立香と並び立つ第二のマスターとして従事することになったのだ――と、以前彼女本人から聞いた。

「おい起きろ、朝ミーティングがあるだか何だか言ってなかったか?」
「ん〜……? んん……あとごふん……」
「そう言って後から、何で起こさなかったんだ! つってキレんじゃねぇぞ、阿呆」

 それ以上は声をかけることはせず、だからといってこの場を離れる気にもなれなかった俺は、幾度目かのため息を吐きながら壁にもたれかかる。どうせ少しすればいつもの通り「寝坊だ」などと騒ぎながら目を覚まし、泣き言と恨み言を口にしながら身支度を整え始めることになるのだろう。だからそれまでは、こうしてじっと待っていようかと。

 ……冷静に考えれば、それを待ってどうなるのかと、俺に何の得があるのかと。そう思わないこともないが、すでに俺の身体は壁に体重を預けきりもうしばらくは動かないぞと不動を決め込んでしまっている。

(放っておきゃいいだろこんなやつ)

 そのように考えているはずだ。そのはずだ。
 ——だというのに。

「寝坊だー!?」
「っと、あぶねーな。おはようさん」

 彼女が飛び起きた拍子でベッドサイドの時計が落ちる。それを受け止めて彼女に手渡すと、お礼もそこそこに「なんで起こしてくれないの」と涙目で俺に訴えかけてきた。

「起こしたっつーの、てめぇが起きなかったんだろ」
「起きてないなら起こしたうちには入らないの!! あ〜やばいやばいみんなに怒られる〜……!」

 髪を梳かしながら顔を洗う器用な様を横目に、「先に行くぞ」と声を掛ける。どうせぎりぎり滑り込みで間に合わせては来るだろうが、それはそれとして奴の同僚には遅れる旨でも伝えておこうと俺は重たい身体を動かした。

「あ……待って待ってランサー!」
「あ? 待ったところでお前の支度は早くはなんねぇだろ」
「そうじゃなくて——起こしてくれて、ありがとね」

 じゃあとっとと出てって! 着替えるから! と彼女は笑顔で俺を追い出した。

「……起きてないなら起こしたうちに入らないんじゃねぇのかよ」

 ――そういうところを憎からず思ってしまうあたり、これは重症だ、と思わざるを得ないのだ。






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