5章 指輪「さすがに疲れたー!!」
式も披露宴も一通り終わらせて、私とランサーは二人マイルームへと戻ってきた。ドレス姿もそのままにベッドに倒れ込む私に、彼は「それでいいのか」というような眼を向ける。
「ううっ、脱ぐ、脱ぐようちゃんと……でもちょっと休ませて」
「ま、準備から当日まで色々動きっぱなしだったしな……お前さんにしちゃ頑張った方じゃねぇか」
「そう思うならもう少し労って……」
「へーへー」
ごろり、寝返りを打つ私の横に彼が腰掛け、その大きな手が私の頭を撫でる。その温かさと心地よさに目を伏せると、自身の左手と、その薬指にはめられた指輪が目に入った。……同じものが、彼の左手の薬指にも輝いている。
「……よくできてるだろ?」
「んー……」
これも、式の途中で行ったリボンを巻く行為と同じく、ケルトをはじめとしたアイルランドに伝わる伝統工芸品だそうだ。もちろん、発祥は彼の時代よりずっと後だと聞いているが。
指輪には三つのモチーフが施してあり、それぞれ——
ハートは「愛」
両手は「友情」
そして——王冠は「忠誠」を表していると言われている。らしい。
「なんだ、気に入らねぇのか」
「まさか! ……嬉しいよ、すっごく」
デザインよりも何よりも、ランサーが私のために作ってくれたということが、特に。
ありがとう、と小さく呟きながら、彼の服の裾を掴み、瞼を下ろす。彼は微笑み深く息を吐いた後に、私の隣へと倒れ込んだ。
「嬢ちゃんたちも満足そうだったな」
「うん、『うまくいったね』ってさ」
「うまくいった、ね……」
「……うん、あのさぁ、やっぱり、わざとだったみたい、あの三人」
なにが? と囁く彼の声は思っていたよりもずっと近い。あーあ、そんなにゴロゴロしたらせっかくのタキシードがシワになっちゃうのに。
「何がって、全部。……結婚式見てみたいなーってとこから全部」
「ほう? そいつはしてやられたな」
「そうだね、やられちゃった」
言葉とは裏腹に、やけに甘い声色で彼が言う。それに返す私の声も甘ったるくて、それがおかしくて、私は思わず笑みをこぼした。
——私が、彼《好きな人》との間に何か残せないだろうか、なんてぼんやりと考えていたことに、どうやら彼ら彼女らは気づいていたらしい。
(それで、結婚式、か)
純粋で可愛らしい発想だ。そして、それで満足させられてしまった私のなんと単純なことか。
今日の幸せな記憶は、彼の言葉は、きっと彼がいなくなった後も私を支え続けてくれることだろう。
「つーか、本当にあんなので良かったのかよ」
「あんな?」
「誓いの言葉」
現界が続く限り、忠義を尽くすこと——彼は神前で、みんなの前で、それを私に誓ってくれた。
「うん、充分……だけど、」
永遠の愛なんて望んではいないし、そんなことで彼を縛り付けるのだって本意ではない。だから、その言葉だけで充分だ。
だけどもし、私のために誓約《ゲッシュ》を増やしてくれるというなら、
「ね、ランサー」
「ん?」
「……負けないでね、ランサーが、私のランサーである間は、絶対、誰にも」
隣に寝転ぶ彼の前に、おずおずと左手の小指を差し出す。彼はそれをみて数度瞬きをし、「そんな事でいいのか?」と困ったように微笑んだ。
「いいの! ……ね、約束してくれる? ランサー」
「おう、誓うまでもねぇがな」
彼の左手の小指が私の小指と絡み合う。額と額がくっつきそうなくらい顔を寄せ合って、やくそく、ともう一度繰り返すと、今度は返事の代わりに彼の唇が私のそれに重なった。
「……ふふ」
小指だけでなく他の指も絡めあい、手を繋ぎながら至近距離で彼の瞳を覗き込む。今、目の前の彼が、私だけを見つめてくれているのが、こんなにも嬉しい。
……もし、もしも、座に還った彼が、私のことなんて忘れてしまったとしても——
「忘れねぇよ、
俺は」
「! ……うん、あのね、ランサー——」
——この言葉だけで、この思い出だけで、きっと私は生きていける。
今度は私の方から彼に口付けて、本当に小さな声で、彼に「だいすき」と呟いた。
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