暗闇だけが私の未来を指している* 今日は人生で 度目の十二月二十八日。懲りもせず、飽きもせず、私は今年も年に一回のご馳走を用意します。
——誰が食べるわけでもないのに。
「うーん、完璧」
何度も繰り返したルーティーンのような、三百六十五分の一日という特別の日のような、そのどちらでもあるような……もう一人で食べるにはキツくなった小さなホールケーキにたった一本のロウソクを刺して、暗い部屋の中で一人それに火を灯した。
「——ハッピバースデイトゥーユー……」
ソロ、アカペラ。伴奏も自分以外の手拍子もない。ましてや観客すらいない中で義務のようにその歌を歌い上げ、自分でつけた火を、自分自身の生ぬるい息で吹き消した。
「ハッピーバースデイ、綺礼……——」
無記名のチョコプレートを指でなぞる、——今日は、人生で 度目の、本人不在《言峰綺礼》の誕生日。
正確な数字は、知らない、数えたくない。少なくとも、彼の年齢分のロウソクを用意していたのは六年目までだったから——少なく見積もっても、十回以上はこんな寂しいパーティを開催しているに違いない。
「……もうすっかり、大人になってしまった……」
もう、すっかり——彼と過ごした年月より彼を失ってからの方が長くなってしまっていた。
あの日彼と一緒に死んでしまうはずの私は、惨めにも生き延びて、
こんなところまで来てしまった。
自ら望んで来たわけではなかった、と、思う。けれど、今さら、全て放棄するには肩に乗った責任や役目は重たすぎて——
「綺礼、私ね、ここでやることができたの……」
虚空はもちろん、返事をしない。たった一つの明かりであったロウソクすら消えたこの部屋で、手元にあるはずの白いケーキの輪郭すらあやふやだ。
「人理を守るんだって……
そんなことは本当はどうでもいいんだけど、でも、そう言って真っ直ぐ立っている、彼女たちを放っておくなんて、きっと綺礼もしないでしょう」
死人に口無し。きっと彼なら、良いことと悪いことの区別がつく彼なら、格別の理由がなければ、良き隣人であれと努めた彼なら、きっとそうする……そう思うのは、傲慢だろうか。まぁ、そんな問いにも答えはない、どれだけそれらしく考えたって、死んだ人間が返事をしてくれるわけではないし、そんなものが聞こえたような気がしたって結局、彼ではなく自分の中にある空想の彼の言葉でしかないのだから。
でも。
きっと彼なら、私が「そうする」と決めたなら、「そうか」とだけ言って、道行を見守ってくれるような気がするのだ。
「……全部、私の願望かもしれないけど……」
独り言は闇に吸い込まれ、閉じているかどうかも定かではない瞼の裏に、彼の背を思い描く。嗚呼、彼と過ごしたたった十年の間に受けた、ほんの少しの言葉たち、それらを全て理解するまでに、私はあとどれくらいかかるだろうか。人理修復は——きっとその一助になるのだろう。そう信じて、私は、彼女たちのために、自分のために、今やれることを続けるしかないのだ。
だって。
例え彼のいない世界の全てが、私にとって無価値だったとしても。——その全てに意味はある。世界は無意味ではないと、彼は言ったから。
その言葉の真の意味を、理解するために私は明日も息をする。
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