多分、恋の前哨戦



「あんたってやっぱ、姉ちゃんのこと好きなの?」

 後部座席でセタンタがそういうのを聴いて、助手席のマンドリカルドは酷く取り乱した。危なく、口に含んだコーヒーを吹き出す直前まで行き……この車は誰のものか、ということを思い出して踏み止まれたのは、彼の生真面目さからくるものだろう。

「い、いきなりなんすか……! 藪から棒に」
「そうか? 割とずっと気になってたぜ俺は」

 彼らの会話が理解できているかのように、セタンタの隣では白い子犬が「きゃん」と鳴く。まるでそうだそうだと言わんばかりのタイミングに、運転手の太公望も少し笑いをこぼした。

「ふふ、そうですね、たしかに。本人ではなく弟くんが心配だからというだけで、見ず知らずの僕とのドライブについてくるくらいですから」
「いやそれは……あいつが、『弟がお隣さんに誘われてお出かけするらしいんだけど、心配だからついて行ってあげて欲しい』って……」
「まあ、確かに太公望って怪しいもんなー」
「ははは、傷つくなァ」

 だがそれでもそれに了承し、面識のない人間の車に乗り込んだのは事実。友達の頼みだから、という想いだけでここまでついてきたマンドリカルドも、うっすらと流石にこれは友達の域を越えているのかもしれないと思い始めていた。しかしそんなことはどうでも良く、彼にとって今何より大切なのは、この話の流れをどうやって自分以外に持っていくかということだった。

「このままじゃ、俺と同じような扱いにされちまうぞ」
「同じって……」
「弟みたいな〜、ってことだよ!」

 都合良く言うこと聞いてくれる分、舎弟みたいな? とセタンタが言う。マンドリカルドは恐る恐ると言った感じで、「家ではセタンタのことそういう扱いしてるってことっすか?」と尋ねてみる。

「いや? すげえ優しい」
「なんだ……ビビらせないでくださいよ」
「ふふ」

 また笑い声を漏らす太公望に、マンドリカルドは唇を尖らせた。

「……なんすか」
「いやすいません、なんだか可笑しくて」
「何が?」
「敬語、……僕が言うことでもないですが、マンドリカルド君はセタンタ君に敬語なんですね」

 何故です? と、太公望はちらと隣の様子を窺う。話している雰囲気からして、知らぬ仲というわけでもなさそうなのに……と、続けるも、当人は答えにくそうに「それは」「いや」と言葉を濁し続けていた。

「ああ! 好きな人の弟だから、ですかね」
「なっ……ちがっ、なん、なんであんたら二人して、そう言うことにしたがるんすか!!」

 顔を赤くして声を荒げる様子は、まさにアオハルとでも呼べるだろうと太公望は口角を上げる。微笑ましいことこの上ない、と、そう思っている時に、ふと。また面白いことを考えついたぞとこう言った。

「じゃあ、僕が立候補しちゃうおうかな」
「えっ」

 太公望の狙い通り、真っ先にマンドリカルドが驚きの声を上げる。運転中の彼はその表情を凝視することはできないが、きっと青くなったり赤くなったり忙しいのだろうと思うと、太公望の中の悪い大人の部分が、くつくつという笑いを溢れさせるのだった。

「どうですか、セタンタ君。僕はお姉さんに相応しいですか?」
「太公望はダメだ、怪しすぎる」
「相変わらず歯に絹着せぬ言い方をしますね……」

 ははは、と一笑。本気だったわけではないのだろう、まるで気にしていないような態度で、「では、マンドリガルド君はどうですか」とセタンタに尋ねた。

「ん? うーん……まだダメだな!」
「えっ……」

 自分を置いて進んでいく話に追いつけず、しかしセタンタの言葉には敏感にショックを受け、か細い声を出す。そういうのではないと否定はするものの、さすがに「ダメ」とまで言われれば「自分の何が」と思ってしまうのは仕方のないことだった。

「ちゃんとまっすぐ姉ちゃんのこと好きだって言える男じゃないと、俺は認めねえ」
「あはは! これはこれは、大変なナイトがついていますね」

 頑張ってください? とウインクを一つ。これは何を言っても意味がないのだろうと察したマンドリカルドは、「うす……」と小さく呟き、赤くなった頬を隠すように顔をただ覆った。




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